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俺たちの戦いはこれからだ①

「こんにちは、すごい偶然ですね、じゃあ」

イケメンは軽くあいさつして、足早に3人とすれ違う。


引き留められないように、すれ違いざまに御辞儀で視線をはずす。


3人の入ってきた玄関ドアから競歩選手並みの速度で去っていった。


近づいてくるイケメンに油断し、取り逃がした裕華。

一瞬の出来事に、立ち尽くすが我れに返る。

「追いかけよう!」


「待ってください、荷物を預ける手続きをしないと!」

歌織が裕華の手を引っ張って引き留める。


「やっといて、あたしだけ追いかけるから」


「ゆー先輩それはストーカーです。いっちゃダメです」


「ストーカーじゃないし、新幹線が一緒で、ホテルが一緒で、バッタリ会うとか、天命(てんめい)よ」

「神の巡り合わせ、天意(てんい)なの、だから私はイケメンを追わなくちゃいけない!」

ディスティニーよ(運命)


「ゆーぼう先輩、ストーカーはみんなそう言います!」

歌織は裕華の手をいっそう強く握った。


「運命の相手なら、あんな露骨に逃げませんよ」

沙音が皮肉たっぷりに、悪役ボイスを使用する。


するとつられて、裕華も芸人気質を披露してしまう。

「違うんだ、彼は鬼に記憶を……」

「だからあたしが彼の元に急がなきゃいけないんだ!」

「   だから離してくれ!!  」


「歌織!しっかり押さえてて!」

歌織が裕華の背中に周り、両肩をホールドする。


「はぃ、デコピン!」


「あぅ」


浜倉沙音が狐型で爪がおでこに当たるデコピンを先輩にお見舞いする。


「いいかげんにしないと、水原先輩に言いつけますよ」


「ひどーい、それは脅しだ、ヒドイひどい!」

裕華の両肩のロックが解放されたが、水原奈央の名前を聞いて大人しくなる。


「もう、とりあえず迷惑ですから、荷物の手続きを済ませて観光に行きますよ」


「はい」


裕華が返事だけして、なにもしない。

一番年下がフロントでしっかり手続きをする。


手続きを済ませ、ロビーでくつろぐ2人に最年少が気を遣って尋ねる。

「今からどうします?とりあえず、駅でお昼にするか、移動してからお昼にします?」


「安井金毘羅宮!安井金毘羅宮に行くわよ!!」


「「安井金毘羅宮??」」

初耳の歌織と沙音が不思議そうに聞き返す。

旅行計画にはなかった初めて聞く名前だった。


けれども2人は裕華の顔を見て深く考えるのをやめる。

長年の付き合いで阿吽の呼吸が成り立っている。


今のアホ100%顔の裕華の意見を変更する(すべ)はない。


ほっといたら1人でも必ず行くやつだ。


1人にしてろくなことがない!と思った2人は黙って付いていく。


裕華は常にキョロキョロ周りを捜索しながら安井金毘羅宮を目指す。

1人旅行のように黙々とイケメンを探す。


『かえでは賢いな~来るんじゃなかった』

沙音は初日の昼から、声には出さず後悔しだした。


「先輩の運命も大したことないですね!イケメン見つからないですね!」

歌織も一方的に観光地を変更されて、ザマアと言わんばかりに敵役のようにトゲトゲしくする。


「見とけよ!絶対にイケメンとバッタリ会うから!運命だから!!」


しかし安井金毘羅宮に着いて1時間30分、イケメンは現れない。

裕華の指定で人通りの見える二階の窓際でランチする。


歌織と沙音は京都のラーメンとか、京風中華とか、京町家ランチを希望したが裕華に一蹴された。


文句ブーブーの2人を無視して必死に窓からイケメンを探すが見つからない。


「ゆー先輩、安井金毘羅宮てどんなご利益があるか知ってますか?」

退屈した沙音がスマホで京都を検索している。


「知らない!」

裕華は沙音に返事をするが、窓から視線を外さない。


「縁切り神社らしいですよ、本当にイケメン来るつもりだったんですかね?」


「…………………。」

裕華は無言で地面を見つめる。

裕華にこの世の終わりが訪れ、無言でレジに向かった。


「ゆー先輩、これからどうしますか?」


「……………。」

裕華の返事はない。


「ゆーぼう先輩、元気だして」


「……………。」

裕華のメイクがにじんでしまう。


「ホテルに帰りますか?」


「いい、予定通り清水寺に行く」


清水の舞台で裕華は絶叫した。


アホーアホーアホー


彼氏ほしー!!


結婚したーい!


働きたくなーーい!!



声優の全力は半径1キロの観光客をドン引きさせた。




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