せや京都に行きまっせ⑨
『そんな職業病ないし』
『ゆーぼう先輩いつも塩対応じゃん』
沙音と歌織は驚きのあまり、言葉につまって、声には出ない。
メデューサのように2人を石に変えた裕華が、イケメンを再びロックオンする。
「あのぉ、アニメとか見たりします?」
グラビア仕様の井ノ瀬裕華と、伊達メガネに帽子の佐崎歌織と浜倉沙音が、イケメンに完全スルーされたので、自分から積極的にアピールを始める裕華だった。
「アニメですか、 あれ、 スタジオジフロを夏休みによくテレビで見ました」
イケメンらしい答えをもってくる。
「あたしも見てました~、すごくいいですよね。全作品見ました~」
『ジフロかよ』と内心ガッカリする裕華。
思惑が外れる。しかし、微塵もそんな素振りは見せない。
「すごいアニメですよね。世界に誇る巨匠ですよね」
ウッスイ、コメントでイケメンがカッコつける。
「他にはどんなアニメを見たことありますか?」
「うぅ~ん、ワンパークとか中学生までアニメで見てました。今はコミック派ですけど」
「惜しーい!ワンパークはあたし出てないです。」
「そうなんですか?何に出てたんですか?」
「ワンパークじゃなくて、ARUTOのアニオリで出てます」
裕華の完璧な誘導が決まる。
勝ちパターンに入って心の中で"しゃーんなろ"と勝どきをあげる。
だが、イケメンの反応は鈍く、いつものようにはいかなかった。
「へーそうなんですか、すごいですね」
食いつかない。話しが広がらない。
「あの、ARUTOは見てないですか?」
無反応なイケメンについつい裕華が質問してしまう。
「スミマセン。見てませんね。知ってはいますよ、忍者のやつでしょ」
「はい」
MCとして、見てない?という質問は失着だ!広がらない、と後から後悔する。
それでも鉄板ネタに対する意外な反応に、少し不満が顔に表れてしまった。
微妙な空気な中、新幹線から音楽が流れる。
その後、まもなく京都に着く日本語のアナウンスが始まった。
歌織と沙音がそそくさと、自分たちの席に戻っていった。
イケメンが立ち上がって、小さなボストンバッグを棚から膝に移す。
裕華も小さなキャリーを降ろそうとすると、イケメンが変わりに降ろしてくれる。
意味のない、社交辞令を交わす。
音楽が鳴ってからカップ麺ができるくらいの時間がたった気がするが、まだ京都には着かない。
気まずい空気が流れる。
英語のアナウンスが終わり、ようやく京都駅のホームに到着する。
裕華はもう着いちゃった、イケメンはやっと着いた、という小さいリアクションをして、2人がお辞儀を交わす。
裕華が意を決してスマホを取り出そうとすると、イケメンが"すいません"と言って窓際から脱出し、歌織と沙音のいる反対側にわざわざ向かう。
イケメンの背中を裕華は追いかけようと思った。
けれども、イケメンの歩く速度が成人男子の平均速度より圧倒的に早く、敗戦を悟った。
京都駅を降りてから階段を疾風するイケメンを尻目に、エレベーターでホームに降りる。
京都駅の人混みの中、周りを見渡しても推しはいなかった。
「フラれましたね」
「告白してないし、フラれてないし」
「絶対彼女いますよ、これで良かっんですよ」
「いないかもしれないし」
「彼女いなくても、相手にされないんだったら、あれですよ」
「はぁ?何よ?」
「ご縁がなかったんですよ」
キャリーバックを引きながら3人がゆっくりホテルへ向かう。
京都駅に直結したホテルで駅から5分かからない。
ホテルの大きなドアの前でドアマンに荷物を預けて、豪華なシャンデリアの下を通ってフロントに向かうと。
フロントには見覚えのあるボストンバッグが置かれていた。
見覚えのある背中のイケメンが荷物を預けている。
手続きを済まし、振り返って、裕華達の方にイケメンが歩いてきた。
「すごい!運命ですね!」
髪をしっぽのようにパタパタ振りながら、裕華がイケメンに駆け寄った。




