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荒野⑥

井ノ瀬裕華はボディタッチを混ぜながら楽しそうにイケメンと話す。


ファンとはいえ、初対面のイケメンと見事に盛り上げる。

声優というより初回殺しのNo1キャバクラ嬢みたいだ。


『ゆーぼう先輩はMCができるアイドル声優でしょ。ラジオだとあんなに見事に回すのに、さっきから2人だけでずっと話しっぱなし… 私にもふってよ 』と歌織は内心思いながら、だまって2人を注視する。


井ノ瀬裕華は歌織の視線を無視して積極的に迫る。


「握手会とか参加した事ないですよね?」


「はい、当たった事ないです。スミマセン、いつも1枚しか買わないんで、やっぱり複数買いとかじゃないとダメなんでしょうね」


「わぁ~いつも買ってくれてるんですか?ありがぁとうございます。1枚買ってくれるだけで十分です」

井ノ瀬裕華はイケメンの左手を両手で握って、目と目を合わせて、本日ナンバーワンの笑顔を作る。


『芝居くさ!音響監督から絶対NGの作られた声だな。これはさすっがにやり過ぎでしょ』と歌織は内心思いながら眺めていた。


が、イケメンの顔が赤く火照る。


『今のにデレルの?ひくところでしょ!あんなバレバレの演技に引っかかるなよ』歌織は初対面イケメンのだらしなさに、勝手に怒りで赤くなる。


井ノ瀬裕華はイケメンの心の動きを敏感に感知する。


「やっぱり~、握手会に来てくれてたら、絶対に覚えてますよ」


「えぇ?何百人もいる握手会で覚えるとかありえないですよ」


「全員は覚えられないけど、あなただけ覚えれると思います。」

井ノ瀬裕華はしおらしい声でさりげなくよりかかる。


イケメンに指摘させた瞬間、罠を用意しひっかける。見事な手口だった。


「ライブは参加された事あるんですかぁ~?」

裕華は矢継ぎ早に質問する。


「いえ、参戦してるんですが、なかなチケットとれなくて。今度の4月にあるライブも落選しました」


「えぇ~そうだったんですか、残念です。絶対に見て欲しかったのに!」

「あっ、じゃあ~今日、歌織が散々“詐欺師”よばわりしたお詫びに、関係者席に招待させてください」

上機嫌で提案した裕華は流れるようにスマホを取り出し口元まで持ち上げる。


裕華の目は微笑み(ほほえみ)を含んでいるが、口角の片方だけが上がっている。


人を殺すことの出来るノートを手に入れた主人公と同じ表情をしている。


「そんなお気になさらないでください。今日、お話させて頂いただけで結構です」

イケメンは丁重に裕華の提案をお断りする。


「そんなご遠慮なさらずに、関係者席よりチケットの方がよろしいですか?」

チッと舌打ちしそうになるのを抑えて裕華は追撃する。イケメン御曹司は流石のガードだと感心しつつ絶対に落とすつもりである。


「いえ、そんなチケットとか悪いですし、自分でがんばって当選した時に行くんで大丈夫です」


「そうですかぁ~」

裕華のライブ招待からの連絡先交換の道が防がれてしまう。

しかし、これ以上強引にライブを進めると印象が悪くなりそうなので引き下がる。


でも、せめて連絡先をゲットしたい裕華がスマホを顔の手前で待機させ、イケメンを誘導する。


『連絡先を教えてもらえませんか?』とイケメンが言うのを待つ。


………?………

………??………

………???………


裕華の『そうですかぁ~』から、数秒の空白が生まれる。


イケメンは連絡先を聞いてこない。


裕華はアイドル声優の(さが)なのか、自分から連絡先を聞くことができない。



・・・・・・・・・・・


数秒の沈黙が続く中、パークに幻想的な音楽とアナウンスが流れだす。


パークにお越しの皆様にお知らせします。まもなくウィザーディング・クリスマスが始まります。

ミー君とミーちゃんが繰り広げる、魔法とファンタジーの華麗な世界。

まもなく始まります。どうぞお楽しみください。


「じゃあ、ありがとうございました。お呼び止めしてスミマセンでした」

イケメンが壁のレストランに戻ろうとするところを裕華が手を握って引き留める。


「あの、こちらこそ、 その、ありがとうございました…」


「あの…」


「おーい、花火が始まるとレストランに戻れないらしいよ」壁から清楚系超美女が出現する。


「あ!ありがとう」イケメンは裕華の手を振りほどき、お辞儀をして超美女の元に帰って行く。

超美女も裕華と歌織にお辞儀をして、2人で壁に消えて行った。


「今日はクリスマスですもんね。クリスマスに高級レストランとくればデートですよね」

歌織が愚痴(ぐち)る。


井ノ瀬裕華が固まる。


遠回りでエントランスに向かう裏道だけあって、人通りが少ない。

立ち尽くしていてもそれほど目立たなかった。


井ノ瀬裕華はループコースターを見る子供のように、無限に空を見上げていた。


「ゆーぼう先輩、もうすぐショーが始まるからよく見える前の表の道に行きましょう」


「いい、ここで見る」

井ノ瀬裕華は仏頂面(ぶっちょうづら)をして黙り込んだ。


2人が呆然と立ったままでいると、しばらくして、花火が始まった。


バーン、バーンと色とりどりの花火が夜空に舞い上がる。


ワ~、キャー、とカップルのカラフルな歓声が聞こえてくる。


佐崎歌織と井ノ瀬裕華は無音で花火を眺める。


裕華には花火がにじんで見えた。


歌織は花火を凝視しているが、歓声は出ない。



「彼氏ほしーーーい」

井ノ瀬裕華は叫びながら、(こぶし)の手甲部を上にして、正面に突き出す。


「結婚したーーーい」

佐崎歌織も井ノ瀬裕華と同じように、腰を回転させながら、(こぶし)を右左と交互に突き出す。


(らく)したーい、遊びたーい、のんびりしたーい、何もしたくなーい、寝たーい、」


花火があがる度に2人がきたない欲望の花火をうちあげる。


2人の歴史に残るクリスマスになった。




読んでいただきありがとうございます。


明日もアップします。←自分に言い聞かせてます。何時か言えずにスミマセン。出来次第あげます。


是非よんでください。

よろしくお願いいたします。

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[一言] イケメンは詐欺師ではなかったが……残念!
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