荒野⑤
裕華が下から上まで、セクハラ気味にジロジロ見て口走る。
「その時計とか、靴とか、服とか、どう見てもセレブなんですけど」
「時計は祖父からの借り物ですよ。普通の地方公務員なんで全然セレブとかじゃないですよ」
「嘘だ!ただの20代、地方公務員が300万円以上の時計に合う100万円以上しそうな、フォーマルスタイルで1人5万円以上する入店困難な会員制レストランから出てくるはずがない!」
「絶対に詐欺師ですよ、先輩、早く行きましょう」
歌織は全国の20代、地方公務員を敵に回しながら、井ノ瀬裕華の手をとってこの場を去ろうとする。
イケメンは慌てて財布から2枚のカードを取り出し、井ノ瀬裕華に提示する。
「待って下さい、これ、保険証と免許証です。本当に地方公務員なんです」
そこにはどうみても本物に見えるカードに、地方公務員共済組合と記載されていた。
井ノ瀬裕華はニュータイプ的に刹那で感じとる。
井ノ瀬裕華が歌織の手を振りほどき、態度を豹変させる。
「すみませんでした~」裕華の声がウツボカズラの樹液のような甘いあま~い、声に激変する。
「ほら、歌織もあやまって」歌織の頭に手をやり、一緒に最敬礼する。
2人は頭を下げた状態で左右に15度首をひねり、目と目が合う。
それだけで、お互いを理解できた裕華と歌織は小さくうなずき、顔を上げる。
『 さぁ、 狩りを始めよう 』とでも言いそうな2人であった。
しかし、自分達でも気が付かない程、自然に意識が180度切り替わる。
詐欺師から逃げる!!から、セレブをゲットする!!行動にうつる。
「本当に、うちの歌織が失礼な事を言ってすみませんでした~、でも公務員でお若いのに時計以外も高級品ばかりですごいですよね、公務員はお若い時は大変とよく聞いていたんですけど…」
「えっと、お恥ずかしいんですけど、実家暮らしなんです。家からも20代の公務員は安月給だから、食費も何も払わなくていいと言われて、払ってないんで、結構好きにやらせてもらってます」
「車とかも家の車しか乗ってませんし…」
「わ~すごいですね可処分所得400万円って、都内年収2000万円のお受験の子供がいる、4人家族より多いかもしれませんよ」
井ノ瀬裕華はお受験などした事ないのに、変なところで詳しい情報があった。
年収2000万円に歌織は敏感に反応する。
「すごぃですね、でもここの会員制レストランは年収5000万円でも入れないんですよ。コネとか権力とか何かないと絶対入れないですよ」
「このは壁から入れる、幻のレストランとかって、ネット掲示板じゃ都市伝説ですよ」
イケメンは恐縮したようすで、頭をかいて再度、保険証を見せる。
歌織と裕華は保険証を見るが地方公共団体と書かれているだけで、他は特に変わったところはない。
「私の高祖父、祖父の祖父が関西の一部上場企業の創業者なんです」
「今日は祖父に招待券をもらって来ただけなんです」
「ああ!あのパークオフィシャルスポンサーの一族と同じ名字ですね」
経済にうとい歌織だが、パークにまつわる事には詳しかった。
「すっっっごいセレブじゃないですか!!!」
井ノ瀬裕華が抱きつきそうな勢いで、イケメンに物理的に急接近する。
イケメンは心理的に急反発する。
「祖父の代くらいまでは、そうかもしれませんけど私なんて普通のサラリーマンですよ」
「直系でも長男でもないですしね、ははは」
「えぇ?それでも、相続とかになったら遺留分だけで10億円越えですよね?」
井ノ瀬裕華は持ち前の明るさと、人懐っこさで、ズバズバ調査する。
常人ならば戸惑うところだが、イケメンはファンと言うだけあって、裕華の質問に紳士に答える。
「考えた事なかったですけど、まぁそのくらいはあると思います。でも半分税金で持ってかれるでしょうけどね」
イケメンは爽やかな笑顔でさらっと言った。
佐崎歌織と井ノ瀬裕華は雷にうたれたような衝撃をうける。
自分達なら、5億円も税金取られたら、怒り狂う。
それをこのイケメンはさらっと払う素振りである。
まったく理解できない。
格の違いをまざまざと見せつけられたようだった。
歌織が息を飲む。
その隙にすかさず、裕華がひと狩りはじめる。
「ファンなのに歌織がひどいことばっかり言ってスミマセンでした」
歌織は驚いて、口が開いたまま裕華を見ながら固まる。
裕華は歌織の視線を無視して狩る気マンマンである。
「あたしのSNSもフォローしてくれてるんですか?」
声のトーンがイチオクターブさらに上がる。地声から妖艶な声にかわる。
声優として、演じるなら、男をたぶらかす悪いお妃役のような声を無意識に発する。
「はい、もちろん」
イケメンがスマホを操作して、下を向いたその瞬間。
裕華がイケメンのスマホを持つ手にピッタリくっつく。
「ほら、ちゃんとフォローしてますよ」
イケメンが隣の裕華に画面を見せながら微笑む。
正面にいる佐崎歌織はイケメンの視界に映らない。
「やだぁー、本当にフォローしてくれてる~ありかと~ございま~す」
井ノ瀬裕華はイケメンの手に自然と触れながら、しっかり目を見てグラビアの時以上の笑みを浮かべる。
無垢な歌織は何もできない。
人気アイドル声優の歌織は言い寄られる事はあっても、言い寄った経験など一切ない。
この場で戦闘力を計測したら、たったの5か…ゴミめ…と言われるレベルである。
本気を出した、スーパー裕華についていけず、カバンからマグカップを取り出し飲茶を飲む。
「ヤムチャおいしい」
歌織は見てるだけだった。
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