荒野④
「違います」歌織は即、否定し、逃走準備にはいる。
「はい、そうです」井ノ瀬裕華は乙女チックな声で肯定し、逃げようとする歌織を捕まえる。
「ちょと、ゆーぼう先輩、早く行かないと、混んじゃいますよ」
歌織は突然、壁から現れた金持ちイケメンを詐欺師のごとく警戒する。
「今、それどころじゃないでしょ!運命の出会いよ、正直この後の花火とか、もうどうでもいいの」
井ノ瀬裕華は完全にイケメン商社マンから謎の壁からイケメンに乗り換える。
「ゆーぼう先輩は今、吊り橋効果なんです。壁からいきなり人が出てきたからビックリしてるんです」
「ビックリしたけど、ウソついて逃げなくてもいでしょ」
「いやいや、逃げるでしょ、壁からイケメンですよ。怪しすぎますよ」
「新宿だったら逃げるけど、パーク内だから話しくらい聞こうよ、イケメンだし」
2人はイケメンから背を向けてコソコソ話す。
目の前でアイドル声優らしからぬ醜態をさらす2人を壁から出てきたイケメンはだまって見守る。
とても律儀な紳士だった。
「なるほど、パークだし、新しいアトラクションですかね?」
「いや違うね!パークのアトラクションなら、あの時計はおかしい」
「あの時計は私の昨日の蛇と同じブランド!300万円以上する高級時計!パークの関係者がパークでそんな時計つけるはずない」
歌織は振り向いて、イケメンの全身を確認する。
見ても何が高いのかはわからないがパークのスタッフではない事は理解できた。
「じゃあ、詐欺師ですね」
歌織はイケメンに名前を呼ばれただけで、犯罪者扱いをする。
「あの、スミマセン、ただの2人のフアンですよ」
イケメンはスマホの画面を2人に見せる。
歌織のアカウントに上げられた写真が表示されている。
「そうなんですか?じゃあどうして壁から出てきたんですか?」
裕華が根本的な確認をする。
イケメンは少し躊躇しながら、説明する。
「レストランで食事中だったんですけど、SNS見てあわててお店を出たらピッタリ会えたんです!」
「え?あの、噂の会員制レストランですか?」
歌織が素直に驚く。
「会員制レストラン?」
初耳の裕華にはピンとこない。
「招待券を持っているセレブしか入れない、会員制レストランですよ」
「いえ別に、セレブじゃなくても入れますよ」
イケメンはまったく嫌味な感じを出さない、対応もイケメンだった。




