カナンへ
井ノ瀬裕華はスマホでサクサク調べて行先を決め、ネット予約する。
「新規2名で予約したから」
「年収1000万円以上のエグゼクティブ多数、アイドル・モデル・タレント・無料、秘密厳守の結婚相談所が近くにあるみたいだから行ってみよう」
裕華が好奇心旺盛な子供のように目を輝かせる。
歌織は呆れ声で返す。
「昨日振られて、今朝泣いて、10時に結婚相談所行くんですか?」
「Yes!泣いてスッキリしたから次よ、つぎ!」
「いや、イケメン若手商社マンに謝った方がいいんじゃないですか?」
「こっちから謝るなんてダメよ、調子に乗せちゃうじゃない、それに…」
井ノ瀬裕華は一呼吸して頭の中でしっかり考え、整理する。
「今までのパターンからして、あたしが振られて謝ったところで、上手く行ったことないし」
すでに吹っ切れたすがすがしい顔の井ノ瀬裕華。
対象的に困惑顔の佐崎歌織。
「でも、今回は謝ったらうまく行くかもしれないじゃないですか?」
「それに別れて次の日に婚活なんて出来ませんよ」
死亡フラグの主人公風に井ノ瀬裕華は哀愁を漂わせた。
「私は不可能を可能にする女だから、できるの」
「じゃあ、復縁して見せてくださいよ」
歌織がイヤミったらしい顔で言う。
「え?なんか言った?」
キレ気味の早口が返ってくる。
「何も言ってません」
歌織がめずらしく裕華に反抗する。
「私も仕事、あぁ?…あのライブのフリ覚えないとなんで、帰りますね」
伝票を持って席を立とうとする歌織の腕を裕華が掴んで離さない。
「ちょっと待て、映画【ポップガールビバップ 2nd film】のライブは4月だぞ、私も出ってんだから、今日ないのバレてるぞ」
「そっちじゃなくて3月3日のあたしの単独ライブです」
歌織はまっすぐ裕華の目を見て嘘をつく。
「だまっらっしゃい、こちとら昨日オフなの確認済みだから」
図星をつかれて歌織は何も言い返せない。
「めんどくさい、そんなんだから」
「だから?」
下を向いて愚痴を言おうとしたところで言わせてもらえなかった。
「何でもないです」
歌織は抵抗むなしく連行され、デジャブを体験する。
来た事あるな~と頭で考えるが口には出さない。
緊張して背中から汗が出るのを歌織は感じた。
来た事あるな~じゃなくて、来た事あるわ、と頭の中で思い出す。
ヤバイヤバイヤバイ、声を出さずに叫んでいるうちに、井ノ瀬裕華はドンドン進む。
扉を開けると
「はじめましてと2人を見てコンシェルジュが挨拶してくれた」
佐崎歌織は裕華に手をとられて入店した。




