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紅の救世主  作者: メアー
2章.流れ着いた先
9/51

9.暗黒と崩壊




順調と思えた狩猟だったが、山に入って数時間経てども

未だに警備兵の安否は確認出来ていない。


「滑落などしてなければ良いが……。」


『獲物たちの中にも強靭な個体はいくらか存在する。喰われてない事を祈れ。』


「それもありうるな……。山の中には猪だけでなく、熊や大型の蛇、蜥蜴なども生息している。見つかれば良いが……。」





そんな考えの中、悲報は訪れた。

山に入った警備兵、人数分の血痕と装備が散らばった状態で発見されたのだ。


辺りには戦った形跡が残されていており、【戦闘の激しさ】というよりも

生き延びる為に足掻いた跡の様に見える。


「……熊かな?」


木々には鋭い何かで抉った跡が残され

周囲には【食べ残し】が擦り付けられており、更には虫が湧いている。


『……いや、ここにある足跡は猪だ。それも特大のな。』


足の大きさから推測するに体長凡そ3メートル以上、体重は数トンに及ぶ大物と分かった。


「仇は取ってやらないと……。」


豊は残骸から警備隊の認識表を回収していたその時である。

突如として樹木の奥から轟音が響き、徐々にそれが大きくなってゆく。


「……近づいている!」


『ほう、それは都合が良い。』


木々を薙ぎ倒し現れたのは巨大な猪であった。

自然の中でこれだけの大きさを実現させるには

かなりの年月と獲物が必要だろう。


「体長5メートルってところか……体高は2メートル超えてるなこりゃあ……。」


豊の身長175センチを悠々と凌駕する圧倒的な質量。

それでいて筋肉量はその体重を支えるだけに留まらず

見た目以上に、驚異の瞬発力と破壊力を秘めている。


「山の主……ってとこかな?」


『さあな。ただ、この猪少なからず【冥王の因子】を持っている。並の獣ではないぞ。』


ふたりの会話を遮る様に、巨大猪は突進してくる。

直線上の攻撃など大した事ないと勘違いされがちだが

猪はその突進力に加えて【曲がる】力も備えている。


前脚の力で大地を踏み抜き、力を伝えて蹴り上げる。

力に質量と速度を載せた純粋な攻撃力の完成体である。


その図体故に、対する者の回避行動は大きくなり、必然的に回数が募れば体力は削がれる。

反対に巨大猪の方は人を食っているせいか、有り余る体力を存分に振るう。



「あんな交通事故みたいな衝撃、食らうのは御免だ。冥王。取り込めないか?」


『ある程度傷を負わせろ。それでなければ話にならぬ。』


冥王の【吸収】は相手の血肉などを啜り上げ、自らの力へと変換するものである。

生きているうちでは【抵抗】があり、吸収に至るまで様々な誓約と時間を要するのだ。



「あんなの避けるので手一杯だ!」

戦車が猛スピードで突撃してくる様な化物だ。しかも曲がって追尾してくる。


つまり、【回避して攻撃に移る】という一連の動作を

【回避しか出来ない】にまで制限してくるという事だ。


地に足がつかない状況での攻撃には重みがない。

そして、攻撃動作に入れなければジリ貧となる。


更には走り抜ける事によって距離を取り

こちらからの追撃を避けている。まさに攻防一体。


「横にダメなら縦に回避するしかない。」


猪による突進攻撃を跳躍によって回避した。

視界から突然消えた様に見える垂直の動き

これによって回避と攻撃の動作が同時に成立する。


「おりあぁぁぁぁぁっ!!」


重量を乗せた壊による跳躍攻撃は、獲物が突如として消え

混乱している猪の背中に直撃した。


しかし、攻撃箇所が悪かった。

背中は筋肉と肉、毛皮で覆われた防御力の高い場所であった為

【壊単体による破壊】では打ち破る事が出来なかったのだ。


「やはり【破】が無いと【壊】本来の力が発揮出来ない……!」



更に、跳躍攻撃の欠点は、【空中で体勢を変えられない事】にある。

そうなれば攻撃箇所を選択する幅が減り、自身で弱点を突くという行動が不可能となる。




『救世主よ。やはり、以前の様には戦えぬか。』


「あぁ、無理だ。今の武器では奴の装甲を打ち砕く事は叶わん。」


『ならば、手を貸そう。我が【くずれ】の力を。』


具現化した冥王は豊の右腕に纏わり付いた。

黒色の体液が手甲と武器を巻き込み変化。


【超重厚戦斧・壊】は【暗黒刃・崩】と融合を果たし

【暗黒戦斧・崩壊】と姿を変えたのである。


禍々しい黒い光沢、脈動する刃。

呼吸する煮えた鉄と濃い重圧。

対象に生命を諦めよ。と本能に訴える恐怖。


『救世主よ、我々は中々に相性が良い。【特殊融合変化】など滅多には起こらぬぞ。ふはははは!!』


「こりゃあまるでヴェノムか寄生獣だな。グロい。」


『見た目の醜悪さなど、勝てば良いのだ!』


「うおっ!?」



カイパーと融合を果たした豊は暗黒戦斧・崩壊の力に引き寄せられ、体勢を乱した。


「おぉっ!こりゃあすごい!」


救世主と冥王の力は全体的に低下はしているが

組み合わせれば以前の豊における、5割強の力が発揮可能となる。


ズドン!!


当たりはしなかったが、一度の攻撃で大地を抉り、

クレーターが生まれた。余りの威力に身体が振り回される。




「うぉぉぉぉっ!!」


『【融合】による反作用だ。救世主よ!今一度意識を集中し、この力を乗りこなせ!』


「はいよっ!とぉ!」



暗黒戦斧・崩壊に両手を添え、腰を落としてゆっくりと構える。


「重たい……。5割増しってとこかな。」



暴れるエネルギーには【流れ】というものが存在する。

それをしっかりと受け止め、手綱を握った豊は、改めて巨大猪へと向き合う。



変わらずの体重と速度を乗せた突進が繰り出されるが、今度は跳躍ではない。



「【崩壊】の力、見せてもらうぞ!!」


面と向かって真剣勝負ガチンコバトル

硬い皮膚に覆われ、鉄の強度と肉の柔軟性を誇る猪の顔面に、一線。



交通事故の様な大衝突が発生し、衝撃波が辺りに発生した。

かち合ったふたつの力は行き場を求めて弾け飛ぶ。


勝負は巨大猪へ軍配が上がる。

豊は吹き飛ばされ、膝をつく。


互いの負傷は軽いものではないが、重量と体力、

防御力という点で豊の攻撃は圧倒的に不利だった。


「……あれぇ?」


『馬鹿者!質量差を考えろ!そう簡単に【特殊融合変化】が扱えてたまるか!』


「そういう【勝ち】のフラグかと思って……。」



『【くずれ】の力は繊細なのだ。相手の体液の流れを読み取り、流れに沿って【崩】を流し、管を爆発させよ。』


「【秘孔】とか【点穴】みたいなイメージだな……。」


豊は攻撃の感覚を再認識し、伝承者や武術家の心持ちで技に集中した。


大地を蹴り上げ再び向かってきた巨大猪

しかし、先程の痛み分けの所為なのか

突進の勢いは半減している。


『集中しろ。お前に【崩】の世界を見せてやる!!』



カイパーがそう言い放った矢先、豊の視界が冴え渡った。

視神経に直接涼やかな風が届いたかの様で、更なる視覚情報が開けた。


「見える……。全身に張り巡らされた、青い炎で出来た様な管!これが【流れ】か!」


『そこを目掛けて武器を振るえ!!』





「ウォリァぁあぁぁあ!!!!」


横薙ぎ払いでの一閃。


爆発の様な激しい衝突を身構えていた豊とは異なり

【崩壊】の刃は水の中に手を入れるかの如く、抵抗なく体内に侵入した。


「ここだ!!」


刃は1番太くて大きい【流れ】の中心部、つまり心臓に到達し、そこで止まった。



『今だ!!!』


「【崩壊】!!」


放った合図に作用して、暗黒戦斧の真の力が発揮された。

心臓に直接無数の暗黒刃を流し込んで圧力を掛け、【流れ】を【崩壊】させたのだ。


エネルギーが体内の管以外に流出すれば制御が出来ず、内部から機能は死んでゆく。

これが【くずれ】の力なのだ。


戦斧一閃。

体内から抜き出した暗黒戦斧は【崩壊】の発動とともに

武器の【融合】が解除され、元の姿へと戻っていた。


「あれが【くずれ】の世界か……。」


時間にするとコンマ数秒であったが、豊はまた新しい戦いの世界を見たのだった。


『初めてにしては良くやった。我を倒したのだ、これくらいはやってもらわねばな。』


「厳しいなぁ、冥王は……。」


『ふははは!当然である!!』


ふたりとも激しい連戦によってボロボロであったが

心なしか冥王カイパーも少し機嫌が良さそうだと、豊の目には映ったのだった。





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