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紅の救世主  作者: メアー
2章.流れ着いた先
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8.キュージ村

渓谷を越え、キュージ村へと到着した一行は

警備隊を滞在しているという宿へと向かった。

酒場を兼ねている宿は、昼間でありながら人で混み合っていた。


カウンターでグラスを磨いている男に話を聴くと、現在警備隊は山を散策している最中だという。


「何か注文しないのか?」

バーテンは待ち侘びて尋ねる。


「じゃあ食事を頼む。肉、野菜、麦、芋、豆、牛乳。なんでも構わないから体力が尽きそうなものを山盛りで頼む。」


「あいよ。」


味は大した事はなかったが、これらは全てエネルギーに変換される為、とにかく今はカロリーが必要だった。


「望めるなら牛や豚を丸ごと食べたい位だ。」


そう溢すとバーテンは言う

「それは都合が良い。今畑を晴らしまわってるのは巨大な猪たちだ。狩ってきたら丸焼きにして出してやるぜ。」


「本当か?じゃあ張り切って狩猟に勤しむかな。」



「へへっ、警備隊でもどうにもならなかった相手だ。誰であろうと狩ってくれたら万々歳よぉ……。」


「ここに居る昼間から酒をあおっている連中は全員、畑を根こそぎやられた奴等さ。今年の収入は望めねぇ。掘り返されたおかげで整備からやり直さなけりゃならねぇとか悪夢だ。」


「猪の数は多いのか?」


「多いな。今年は特にそうだ。5年前に人を襲うかも知れねぇって、国の兵隊さん方が大規模な狼狩りをしたんだ。その所為かも知れねぇってもっぱらの噂よ。」


先程まで酒を飲んでクダを巻いていた老人が、エールグラスを片手に会話に混ざる。


「狼の毛皮は需要があるんじゃ。奴等都合のいい事抜かして村に押し寄せて狼狩りをしやがったんだ。その癖、安全の為だとか言ってやりたい放題。ホントこの国の軍隊は腐りきってやがる!!」


「じいさん飲み過ぎだよ。その辺にしとけ。」


バーテンに出された水を一気に飲み干す老人。

酔っ払って現実から目を背けるのも無理はないと感じられる。


現に、宿屋に入るまでの道のりで目撃した畑の被害は大きく

仕掛けられた柵はへし折られ、無慈悲に農作物は食い荒らされていた。


「これは大規模な狩りが必要かもな。」



「そうしてくれ。あのくそ猪どもを皆殺しにしてくれ!!」


「爺さん、早く家に帰りな。」

バーテンに肩を借りて起き上がる老人は

静かに涙しながら帰路に着いた。


「やっぱ荒れてんなぁヨスミの爺さん……。」


「そりゃあそうだろ。ヨスミ爺さんは代々王族に献上する特別な野菜を作ってきた一族だ。よっぽど良い出来だったか、根こそぎ全部だとよ……。可哀想に……。」



結局その日は警備隊と出会う事はなかった。

いつもなら帰ってくる筈の警備兵が山から帰らなかったのだ。


遭難の可能性があり、救助しようという意見もあったが、例え山道に詳しくても、野生の猪と戦うだけの力と装備を持ち合わせていなかったのだ。


そうなると必然的に山に登るのは豊となる。

案内人は戦いの邪魔になるので断った。

人が通る事で出来た山道を渡り、猪の目撃情報のあった地点を目指す。



そこは水が渾々と湧き出る水場であり、野生動物の多くがここを利用していると分かる。


「村長に事情を通して山に入ったは良いけど、漠然と探すのは愚策だよな。」


『誘き出し、戦うほかあるまい。罠を仕掛けるだけの材料もない。』



「能力さえ封じられてなければなぁ……。」


野生動物は元々臆病な生き物と思われているがその実。

命の危険を察し、戦うと決めたら本気で殺しにくる生き物である。


『倒した矢先から取り込んでゆけばいい。我が殺気を山に巡らせる。出てきた奴を狩れば良いだろう。』


「悠長な事言ってられないからね……。冥王、攻撃に関しての力はまだ戻らないか?」


『まさか、【暗黒無限刀】の事か?』


「あっ、あの刀【暗黒無限刀】って言うのか……。」


『我に頼るな。つべこべ言ってないでいくぞ。』


「あ、はい。いつでもどうぞ」




冥王の殺気が放たれた。

【ズシン】と重たい空気が張り詰め

水場を中心とした周囲に生き物の息遣いと気配を多数感じることとなる。


「来いやぁぁぁぁっ!!!」


豊の雄叫びと共に複数の猪や熊が一斉に飛び出して向かってくる。


「頂きます!!」


手を合わせ命に対しての礼儀を示すと

戦斧を片手に大立ち振舞いが始まった。


踏み込み一閃、返して一閃。

一撃一撃が慈悲をもってして命を刈り取り

次々と紅玉にエネルギーが蓄えられる。


『村の畑を荒らしていた分、肥えているな。まろやかな脂の風味が楽しい。』


「手伝って……。」



『もう少し補給出来れば我の身体を【物体化】可能だ。そうすれば【刀】の一部も戻る。』



「早くしてね!!」



猪の突進を盾で斜めに受けて回避し、即座に戦斧を振り下ろす。

頭を一撃で落とすと、恐怖からか続々と獣が襲い掛かる。


縦横無尽に駆け回り、木を使った立体殺法を駆使しながらも戦い続ける事しばらく

討伐数が5頭を超えたあたりで、それは具現化した。闇よりも深い黒に紫の瞳がふたつ、完全とは程遠いがカイパーは生命体として顕現したのだった。


『やはり自分の思い通りに身体が動かないというものは不便極まりないな……。』


そこから先は冥王による【食事】の始まりである。仕留めた獲物を身体の中に取り込みエネルギー化する事で体積を徐々に増やし、握り拳2つ分ほどの大きさを取り戻した。



「カイパー、今ので10体目だが具合いはどうだ?」


『順調だ。これらの生物から頂ける生体エネルギーを考えればそれこそ無限に入るが、いつまでも同じものを狩る訳には行くまい。力の度合いに合わせて対象を更新してゆく必要があるな。』


「必要経験値とレベルアップの関係みたいだな。」


『そうだな。今後はそう表現しよう。』


「いいのか……。」


『今ので丁度【刀】のひとつを取り戻した。』


「【暗黒無限刀】か?」


『馬鹿言え、あの刀は7つの要素を合わせた時に初めて顕現する。今はそのうちのひとつが戻ったに過ぎぬ。』



【暗黒刃・くずれ

7つある要素の5番目、対象を構成する体組織を打ち崩し、再生の阻害を行う状態異常を付与する刃。無限ではないが視界内であれば射程内となる。伸ばせばその分体力が下がるという欠点がある為、容易には使えない。



「デバフ要素の刀か。これで、単独で動けたりするのか?」


『まだだな、しばらくはお前の肩か、紅玉の中で待機になるだろう。』


「そうこうしているうちにお代わりが来たぞ。」



『丁度良い。暗黒刃の力を見せてやる。』


複数の黒い鋭い刃が、的確に獣の弱点わ切り裂き、動きを奪う。

裂傷部分から自身の分身を流し込み

神経系を乗っ取り、内側から食い破る。


そして、エネルギーを吸収した分身体を再吸収して構成すれば完了だ。


「これを最初にやられていたら負けてたかもな……。」


『こんなのは戦いとは呼べぬ。我にとっては食事も同然だ。』


「運が良かった……。」


この後も続々とやってくる獣達を喰らい続けた。

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