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紅の救世主  作者: メアー
7章.見えない戦略
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50.再開と出会いと




強王復活杯までの期間、豊とノーブルウインドは乗馬訓練を繰り返す事で、親睦と連携を深めてゆくことになった。



競技用の鞍を特注し、振り落とされない為の仕掛けも施した。現在は強王復活杯に向けて、道順を身体に憶えさせている。



如何にノーブルウインドが速くとも、落馬してしまえば失格となってしまう。それだけは避けなければならなかった。



「王都の外周がそのままコースになっているのか……。道理で舗装された道が多かった訳だ……」



『この様に大規模な改修ならば時も掛かるであろう。随分と気長な計画だ』



「それ程まで流通を重要視していたんだろう。長い戦争をしていただけの事はある」



王都の外壁にある村々には、各部を通過している整備された道路が存在している。道路と言ってもアスファルトなどではなく、地形に合わせて穴を掘り、路床と路盤を砂利や土などで固めてゆく方式である。



「道の舗装は流通の要になる存在だ。水害を未然に防ぐ役割も担っている。やはり、この国の文明水準は高いな……」



ローマを彷彿させる文明の高さに、知識欲と好奇心が疼く場面ではあるが、豊の中には様々な想いがあった。




『小娘の事なら心配するな。【余】の方がしっかりと見ている。次元城を通じて意思が流れるまで、あと少しと言った所だろう』



「しかし、ミセリには戦う術が無い。非常にもどかしい気分だ」



『今頃は【余】が小娘を鍛えているに違いない。再開した時にはおそらく、別人と見間違う程成長している筈だ』




「そうだな。僕も信じてみるよ。もちろん、働き掛けはするけどね……」





豊は迷いを一時的に拭い、訓練に努めた。

この状況下では、それが一番の選択と言えるだろう。例え、優れた商才があろうとも、大金貨百枚を一ヶ月で工面するのは物理的に困難である。



現代知識による商品開発、及び展開は、他の需要を奪い、商業組合との溝を生み出してしまう可能性が極めて高く、この場では適切とは呼べない。



豊にはジアス国における、商人達との繋がりが薄く、組合から顰蹙ひんしゅくを買うのは極力避けたい所であった。





『ブルルッ!』


ノーブルウインドがいち早く、この場の異変に気が付き、それに伴って豊も緊張を高めた。


『木と鉄の臭い……!弩弓だ!警戒せよ!』


次の瞬間、先程までふたりが居た空間に、複数の太矢が深々と突き刺さる。



「馬鹿な!此処は天下の街道だぞ!」



降り注ぐ太矢の雨を手甲と外套で打ち払い、冥王も【崩】の刃で太矢を切り払った。


襲撃が失敗したと知るや否や、弩弓を抱えた一味は、三手に分かれてこの場を離脱。

見事に行方を眩ませたのであった。



「この手際と引き際の良さ……。新たな刺客か……!」



『奴等、明らかに我らが競技者である事を見越し、襲撃を行っていた。情報が漏洩していると考えるべきだろう』



「あぁ、しかも賊による襲撃と分別が付かない上、漏洩を運営に申し出れば競技開催そのものが危うくなる。考えられているな」




正体の掴めぬ襲撃者の影、それは豊達の心にひとつの懸念を生む事となった。




その翌日。

再び競技コースを巡っている最中、王都南側の小村付近にて、立ち往生をしている小型の二輪馬車と、その場に屈んでいる人物を発見した。



「大丈夫ですか?お手伝いしますよ」



「おぉ。すまない、助かる……」



立ち上がった人物は、ノーブルウインドの顔の高さと同じ身長をした大男だった。赤茶色の短髪に立派な髭を蓄えた、豪傑である。



「なにやら車輪が外れてしまった様で、困っていたのだ。修理道具は積んであるのだが、この手の作業は不得意でな……」



「僕が見てみましょう」


豊は培った知識と技術で、車輪の連結部分に応急処置を施した。



「よし、これでしばらくは大丈夫だと思います。一応、すぐに専門家に見てもらってください」



「肝が冷えたが、これで約束に間に合う。ありがとう少年。これは礼だ。受け取ってくれ」



そう言うと、大男は豊にリンゴをいくつか手渡し、馬車に乗り込むと、轟音を立てて颯爽と駆けていった。




『二頭連結の小型馬車なんて珍しいな』



「あの巨体だからね……。引く馬も大変だと思うよ」



リンゴの匂いに釣られてか、ノーブルウインドが仕切りに豊へとリンゴを要求する。


『もふ……もふ……!』



「今あげるから……髪の毛を食べないでね……」



受け取ったリンゴをノーブルウインドへと与え、その後コースの確認を再開する。



如何に優秀であろうとも、ノーブルウインドは元々、野生馬であり、なにをするにしても長期間の調教を行わなければならない。



そこで、間に冥王が入る事で意思疎通が円滑となり、目的を明確にして訓練を行う事が可能だった。



「やってみて思うけど、やっぱり騎手ってのは大変なんだな……」



『馬の負担を軽減する為には、特殊な騎乗法を継続しなければならない。ましてや、走るとなれば体力の管理、速度の配分を考慮せねばならぬ。思っている以上に厳しい戦いになるだろうな』



「かと言って、一ヶ月で大金貨百枚はいくらなんでも、現実的じゃないからね。なんとしても、勝たないと……」




数日の訓練で、速くも互いの呼吸は揃ってきた。人馬が一体となる日も、そう遠くはないと希望を持ち、外周を走る訓練を重ねてゆく。



そんな中、豊達以外にも外周での訓練を行う者達も現れた。強王復活杯の超長距離には、二十年のブランクがある為、調教などの手間が非常に掛かる。



気軽に挨拶でも交わそうと試みたが、その様子を見る限り、各々にも金銭的な事情がある所為か、調教師の様子は明るくなかった。



それでも馬を心配させない様、懸命に世話をするのだが、馬は共感性が高く賢い。この伝令競馬で負けたら、彼らはどうなってしまうのだろうか。




豊は現場に立ち、危機に直面する事で、事態の大きさを実感しつつある。


己が行いにより、一時的に悪は滅びたが、それに伴って、世に混沌をもたらした事は明白であり、彼は迷っていた。



「選択と行動には責任が伴う。それは頭では分かっているんだ。だけど……」



『……悩み続けろ。それが、救世主が背負うべき定めだ』




「冥王……」



『だがな、その生き方はおいそれと出来る事ではない。矜持ある生き方だ。自らを高め、己を信じよ』




「……あぁ」





『ほむ……ほむ……ブルルッ……!』


ノーブルウインドは、豊へと擦り寄り

体温を分け与えた。



その後、ジュベナイル牧場へと戻り、馬房での世話を終えると、勤務を終えたライとレフが帰宅した。ふたりも休暇を終え、警備兵としての仕事に戻っていたのだ。



その日も皆で食卓を囲み、強王復活杯に向けての話し合いが行われていた。



「強王復活杯の日程が決まった事で、オレ達警備兵も外周警護に充てられる様になった。跡取りのレフは、当日に牧場の作業を手伝えるみたいだが、今回オレの出番は無さそうだな」



「ユタカ、案の定だが、今回の強王復活杯は民衆の目を逸らし、経済危機を回復する為の呼び水だ。この国の第一王女様から勅命が俺らにも下された。今回の首謀核はあの方だ」



「そうか、殿下の……」



「強王復活杯の出場者だが、投票が始まる直前まで、明かされないと決まったそうだ。妨害工作を考慮しての事だろう」



「競技期間内で万一に妨害が行われた場合、投票を無効として、掛け金は出資者へと返却される。祭りを盛り上げたいはずの運営側が押収などすれば、一斉に顰蹙ひんしゅくを買い、信用を失う。采配としては及第点といったところか」




国民からの支持を受けねばならない第一王女として、出資した上での掛け金押収は【避けねばならない結果】である。


王女の信頼を失墜させる事よりも、賭けを成立させて儲けた方が遥かに利益が上がる為、どの組織であろうと故意に工作をする旨味がない。これが、予防策であり、各方々への牽制になるのだ。




「今回の状況を加味すれば、当然と言える配慮だろうよ。どうやら殿下も相当気合いが入ってるみたいだな。オレもユタカに賭けとくぜ」



「あぁ、俺の金もライの賭け金に上乗せする。関係者は八百長の可能性を考慮し、賭けには参加出来ない仕組みなんだ」




『そう言う事ならば、我も一枚噛ませてもらおう。救世主よ、今ある物資や資産を換金しに行くぞ!』



「あぁ、わかった。王都の中央部まで出よう」



豊と冥王は、ノーブルウインドの世話をレフに任せて街中へと向かい、これまでの冒険で回収しておいた、武具や道具類を換金し、賭け金の調達は完了した。



「金貨十枚か、結構あったように思ったんだが……。武具の状態が悪かったからなぁ」



『仕方あるまい、【我】の方は物質に対しての適性が薄い。金属では下手に修繕しても、破損する可能性の方が高いだろう』


冥王は猫形態で豊の肩に乗り、雑多な環境を事前に回避している。



「いやぁ、それにしても王都はいつになく賑わっているな。復活杯の影響かな」



『息苦しい。これでは人混みに流されしまう』



「うおっ!?」


そう思った矢先、豊の下腹部辺りに何かがぶつかって来た。10歳にも満たない、小さな女の子であった。


彼女の首からは、紐の付いた年代物の財布が掛けられており、手には粗末な繊維で編まれた買い物袋があった。



「ご、ごめんなさい……」



彼女は平均的な大人よりも、背丈が足りず、明らかに人混みに紛れてしまった様子であり、豊は思わず声を掛けた。



「ひとりでどうしたの?親御さんとはぐれたのかい?」



「ちがうの。おかいもの、しにきたんだけど、きょうはひとがおおくて……!こほん、こほん」



「むむっ……。咳してるじゃないか、これは大変だ。お祭りの準備等で雑多になっているからね。僕がお買い物手伝ってあげるよ」




「おねがいしていいの?」



「いいよ。これでも人助けが趣味なんだ。僕はユタカ。君の名前は?」




「ロアはね、ロア・ケルガーっていうの。よろしくね、おにいちゃん。と、ネコさん」




『にゃー』




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