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紅の救世主  作者: メアー
6章.世界の謎に迫れ
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48.湯治と忠告




遺跡調査を終えた豊達は、その後レフらと合流を果たした。



「おう、遺跡内では随分と大冒険だったみたいだな、ライ。」



出迎えて早々、日頃から冒険への浪漫を語り、長者への夢を見ているライに対し、レフは皮肉を交えて言った。



「そう言ってくれるなよレフ……。こちとら初めて見る巨大生物に、死ぬ思いだったんだからよぉ……。オレが手に入れたのはこの大盾くらいさ。」


驚いた事に、あれだけの激戦を潜り抜けた大盾は、少しの傷程度で現存している。熱や衝撃に強く、合体技の手段まで幅広く活躍する事だろう。



「おー、ノーブルウインド。綺麗に手入れしてもらって良かったなぁ。どこに出ても立派なお嬢さんだぞ〜。」


『ブルルッ!フンッ!フンッ!』


ノーブルウインドも豊達を待っている間、レフの念入りな手入れによって、またひとつ美しくなっており、ご機嫌であった。



陣営を撤収し、帰路へとつく一行。馬車の中では、草臥くたびれたふたりが疲労困憊ひろうこんぱいとなっていた。



「すまんなユタカ、オレもまだ冒険に付き合いたかったんだが、あの激戦もあって、この調子だ。しばらくは実家で身体を労って、それから仕事に復帰しようと思う。」



ライはあの戦いの中で、両脚を負傷していた。度重なる合体跳躍によって、過度な負担が掛かっていたのだろう。軽い捻挫をしてしまったのだ。



「こちらこそすまない。サンドワーム相手に無理な戦法だったが、あそこは押し込むしか無かった。」



豊も現在、グルカニンブルの武装を解除し、休息を余儀なくされていた。



「なんだライ、怪我してるなら先に言えよ。ノーブルウインドちゃん!行先変更!このままユーバーグまで行くぞ!」



『ブルルッ!!』




「ユーバーグかぁ。確かに、折角温泉街の近くまで来てるんだから、湯治でもして、ゆっくり身体を休めるのも手だね。」


豊は温泉と聞いて気分を良くしているが、やはり身体が追い付かず、未だ呼吸が浅い現状であった。


『救世主、手を見せてみろ……。やはり、無理をしていた様だな。度重なる連戦に、【超振動武器】の初始動。拳にかなりガタがきている。』



「……冥王の力で治せないか?」



『我は小娘の様に、他人を治療する事に特化していない。それにブンブン女の時の様に無理な治療を行えば、折角手に入れたエネルギーが無くなってしまう。本来、他者の治療には莫大な費用が掛かるのだ。』



「やっぱり、自分で治せる分は自分でやらないとな……。レフ、引き継ぎ、ユーバーグまで馭者を頼む。僕は座禅を組んで、力を溜めるよ。」



「了解、日が上り切るまでには着くだろうから、みんなゆっくり待機しててくれ。」



「お言葉に甘えて……。ふぅ……。」



豊はその場で胡座あぐらをかき、精神を集中させる。前の世界では、星の力を大自然から得る事で、体内に蓄積していた。それの応用が出来ないかと豊は考えたのだ。



「(イメージするのは常に最高の自分……。周囲から発生する力の流れを感じるんだ……。)」


すると、豊の体内に、外部から流れ込む力を感じ取った。


「!?ゲホッ!!ゲホッ!!」


大気中に存在するエネルギーを体内に変換する過程において、豊の身体に拒絶反応が出た。肺に煙が混入した時の様な息苦しさが訪れ、思わず咳き込み、集中力が途切れた。



「おいおい大丈夫かよ、ユタカ。大人しく休んでた方がいいんじゃないか?連戦の後なんだしよ……。」




「だ、大丈夫だよ。……しかし、どういう事だ……。大気中のエネルギーが取り込めない……。方法が間違っているのか……?」



冥王はしばし、訝しむ。



『……いや、救世主の行なっている方法は間違っていない。貴様は我と同じ【崩】の視点で、生命における【スピリチュアルパワー】を見ていた。力の流れを掴む事は可能な筈だ。なのに体内にエネルギーを取り込めないとなれば、【エネルギー自体か、貴様の身体に問題がある】と考えるべきだろう。』



「……星の力にも特性があるのだろうか。」



『星の力には、その起源が大きく関わっている。この星の始まりは、巨大な竜という存在から出来上がっているという話だったな。』



「少なくとも、この国における創世神話はそう記されていたよ。」



『薄々感じていたのだが、この星は他の星とは異なる性質を持っている。我の推測では、宇宙における大規模な物質の反応によって生まれたものではなく、この星の核が【巨大な生命体】ではないか……と。』



「……規模が大きい話だが……。この宇宙において【証明】は難しい……。単純に、他の星とは構造が異なるから、以前の世界で憶えた方法が使えないと考えるのが妥当じゃないか?」




『我は前冥王を倒した際に、記憶の一部を引き継いでいる。次元構成に関する亜空間の法則と、宇宙物質の有限範囲論だ。これによれば……この宇宙における惑星誕生にも幾つかの法則があって…………。』




「がぁぁぁぁっ!!もううるっっっっっさいわっっ!!眠れないだろ!お前らも早く身体を休ませとけ!!」


横になっていたライが、痺れを切らせて怒鳴り声を上げた。狭い馬車の中で雨中議論をするのは流石に耳障りであったのだろう。



「ごめん、つい夢中で……。」



未知に対する探究心が抑えられないのは豊の悪い癖であった。激闘の後でさえ、疑問があれば思考してしまう。


更には冥王もかなりの知識を持ち合わせている様で、豊にはそれが嬉しかったのだった。



休息からしばらく、激戦の緊張も解かれて、ようやくウトウトしだした頃、一行はユーバーグへと到着した。



湯治目当てに温泉が近い宿をとり、準備を整えた後、男達は温泉へと繰り出した。

かなり広い作りの温泉には、昼にも関わらず、利用客が疎らに存在していた。



砂を払い、長旅の汚れを落とすと、温かいお湯の中に身を委ねる。じんわりと少しずつ熱が体の中へと染み込んでゆく感覚が訪れ、筋肉の緊張がほぐれてゆくのを感じる。



「効能は、擦り傷、打身、打撲、むちうち、神経痛、冷え性、肩こり……なんでも効くみたいだ。」



「ぐぅぅ……!サンドワームに付けられた傷が沁みるぅぅ……!!」



ライは身体に受けた傷の箇所を強く押さえながら、下半身だけ温泉に浸かる。



「しかし、遺跡内部の話を聞く限りでは、そんな化け物相手に、よく生きて帰ってこれたな。」



「あぁ……。あの状況下で、ユタカの武器が無ければ、オレ達は確実に死んでいただろう。冒険には危険が付き物とは言うが、それにしてもだ。あんな初めて見る様な化け物の相手はごめんだぜ……。」




「化け物ねぇ……その場にいなかったからイマイチ想像が付かないが……ライ、同じ化け物なら【バオウ】とどっちが怖かった?」



「そりゃあ……【バオウ】だろ。先にアイツと出会っていたからこそ、オレはあの土壇場で動くことが出来たんだ。今思えば感謝しているぜ。」



「ふたりが言ってる【バオウ】ってのはどんな怪物なんだ?」



「ユタカは知らないか?支配王とよばれ、全ての動物を統べる男、それが【バオウ】だ。身の丈はオレらの二倍近くあって、物凄い怪力。農耕馬十六頭と綱引きをして勝つ男だ。」


「俺は軍馬三十二頭を引き倒したって聞いたな。」



「なにそれこわい。」




「バオウはその無類の力を使って、国や組合の荒事を請け負っている、謂わば【傭兵】だ。昔は野生の動物を家畜として捕まえるのを生業としていたらしいが……。俺が親父から聞かされていたのはその辺の話だな。」



「傭兵としての腕は勿論だが、奴が【支配王】と呼ばれる所以は動物を従える力だ。その威圧に恐れ慄き、動物は平伏か、死の二択を選ばなければならないって、吟遊詩人の歌にも残されている。」



「詩人は話を盛るからなぁ。」



そんな三人の話を聞いていたのか、湯に浸かっている見知らぬ老人が会話に差し込んだ。



「若いの、バオウは実在する怪物じゃよ。ワシはこの目で、平伏する動物達を見た事がある。吟遊詩人の誇張なんかじゃありゃせんよ。奴とであったら、機嫌を損ねん様に気をつける事じゃな。」



老人はひとしきり忠告をした後、湯船から去って行った。湯船から上がり、布で体を拭きあげる姿。それには一筋の澱みもなく、洗礼された動きであった。





「おい、レフ……。あの風体、まさか……!」



「あぁ……間違いない……!あれは数年に一度現れるという!忠告のおきなでは!?」



「えっ!?なにそれ!?!?」



予期せず、伝説とも語り継がれた人物と遭遇した事で、ライとレフのふたりは高揚に包まれた。


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