47.また一歩
サンドワームに辛くも勝利した一行は、怪我の手当と並行して、この巨大生物の生態を調べていた。
「なぁ、ユタカ。もうお暇しようぜ。こんな奴調べて何するってんだ。」
初めて巨大生物と対峙し、見事に戦い切ったライは、明らかに疲弊し切っていた。震える身体を叩き起こし、恐怖を克服する事は並大抵の精神力では、成し得ない事なのだ。
「いやね、コイツを冥王に取り込んでもらうつもりなんだけど、僕達も相当草臥れてるだろ?ここいらで体力回復に努めたいなって……。」
「まさかお前、それを食うつもりなのか……!?確かに、仕留めた獲物を食うのは自然界での決まりだが……。って!もう準備してる!」
『成分分析は完了した。毒は無い。が、脂身は止めておけ。お前達には消化出来ん。』
「じゃあ、ワックスか蝋か……。かなりのエネルギーが期待出来るな。脂をなるべく落とす調理法か……。」
豊は少し思案した後、その場で竈門を形成し、持ち込んだ炭に着火した。
「しょうがねぇなぁ……。オレはこの辺を見回ってくる。アレがもう一匹居ないことを祈っててくれ……。」
ライが一通りの見回りを終えた頃、料理の準備は整っていた。辺りからは芳ばしい香りが漂い、嗅覚が刺激され、食欲が掻き立てられる。
「あのサンドワームが、ここまで変わるとは……恐れ入ったぜ。すげぇ美味そうだ。」
「【サンドワームの蒲焼き】だ。そのまま齧り付いて食べてくれ。」
甘辛い醤油タレと、柔らかい白身が、遠赤外線効果によって丁寧に炙られ、アミドカルボニル反応によって旨みが増す。
表面のざっくりした歯応えと、中身のふわっとした食感が口の中で差異を生み出し、それをタレがまとめあげる。上質な仕上がりだ。
「あの砂蟲がこうも美味くなるとはな。驚きだ。心なしか、体も調子が良いぜ。」
「あれだけの激戦だ。腹が減っていたんだろう。さぁ、冥王もどんどん食べてくれ」
豊に促され、冥王もサンドワームの蒲焼きに齧り付く。すると、猫型冥王の身体が急激な闘気に包まれ、新たな力を取り戻した。
【バリバリッ!!ビビビ……!!】
冥王は全身に電気を纏い、それは大気中に可視化される程、強いエネルギーを秘めていた。
『細胞適合した……。この感覚は恐らく、ふたつめの要素、【尽】だ。冥王醤油と、食材の適合。そして、捕食。力を取り戻すにはやはり、命を喰らうことが鍵の様だな。』
これで冥王は【崩】【撃】【尽】のみっつを取り戻した事になる。
「【尽】の効果はどういったものなんだ?」
『【尽】は主に、体内エネルギーの増幅と効率上昇を目的としている。更には、防御膜としての効果も期待出来るぞ。』
「それじゃあ、エネルギー問題は解決したのか?」
『いや、これはあくまで【元となるエネルギーを増幅、安定させる】ものだ。0から生み出すわけでは無い。それに宇宙に出るには、纏まった量がかなり必要となる。』
「そうか……。人助けや何やらで、冥王のエネルギーは消費してしまっているから……。」
『気長にやるしかあるまい。それに片割れが居なくては力は絶対に足りぬ。小娘を救いだし、【余】の方と合体しなければならん。』
「先は長そうだな……。それに、まずはこの地下空間から脱出しないと……。」
「それなんだが、さっき探索している途中で、地表まで届きそうな巨大円柱を見つけたぞ。最悪、アレを登れば地上には出られると思うぜ。」
『それは朗報だ。良くやったぞ小僧。』
その後、サンドワームの残り半分を次元城へと保管し、もう半分は冥王が捕食。
それによって、かなりの電力を補充し、更にはサンドワームが所持していた帯電組織を体内に構築する事が可能となった。
「さぁ、着いたぞ。この円柱を登るとなると骨が折れそうだが、他にそれらしい脱出口は見つからなかった。やるしか無さそうだな。」
ライは円柱の凹凸に手を掛け、耐久度を確認している。
その最中、豊は神界文字で書かれた案内を発見した。
「待ってくれライ、どうやらこれは昇降機の様だ。」
「現在地……。地下領域【帯電巨大生物育成場】一階地上【地熱発電観測所】か……。」
タッチパネルを操作し、一行は昇降機で観測所へと到着した。
内部構造は、先の発電所と然程変わりはない様子であり、
またしても液晶画面と記録媒体を発見した。
「再生してみよう。」
映像を再生すると、風力発電所で見た同じ人物が、記録を残していた。
『この研究施設では、主に地熱発電と、遺伝子改良によって作られた蓄電生物の育成、実験などを目的としている。かの計画には大量の電力が必要になる為、各地に指示を出し、建設を行ってきた……。』
記録を録った時間軸的には、まだ、建築の前段階と言った様子で、
映像には忙しなく働く人々の様子が映し出されていた。
時折、顔が不鮮明ではあるが、一人の人物がこちら目線で口を開く。
『この記録を後世に残す。ワタシが考案した、脳を操作し、感情を抑える人類の誕生だが、一通りの成功を収めた。起動実験から生態繁殖、環境への適合。細菌や毒物への耐性。連帯性の強化など、かなりの効果が望めるだろう。人格を形成し、社会を構築して、立派な知的生命体へと昇華してくれる事を望む。犠牲になった者達の想いを背負い、強く生きてくれ。』
以前、別の発電所で発見した映像の内容に良く似た点がある事で
豊はこれが、前回の地続きな記録であるという認識をした。
『ワタシが遺伝子操作学を志したのは、この世から差別、強いては種族による優劣の差を無くしたかったからだ。持つ者、持たざる者、という存在は、社会を形成していく上で、必ず存在する。何故差は生まれるのか、それはこの世に資源が限られているからだ。一度天に恵まれた者は、好機を掴み、成功、失敗、挑戦を憶えた存在となります。それらは先に進む事が出来るが、好機を掴めなかった者は、何も成し遂げる事なく、その生を終えてしまう。』
『何故成し遂げる事が出来ないのか、それはやる気などと言う曖昧な問題ではありません。【現状における自身の安全】が保証できなければ、その日を生きるのに力を全てを使い果たし、新たな挑戦を行う事が出来ないのです。未来の希望よりも、目の前の手頃な快楽。それが、生物としての限界。というのがワタシの見解です。ならば、全ての人類に生まれてすぐ、平等な環境と教育を用意出来るのか?それは、限りある資源の関係上、どうやっても不可能です。ならば、これから生まれてくる存在に、多くの潜在能力を与え、どの様な環境でも強く生きられる個別の力と、挑戦に値する【好機】を与えるのはどうだろうか?ワタシはそう考えたのです。更には、脳の制御による感情の抑制によって思考能力を向上させ、より論理的で理性的な生き方が望めるでしょう。』
「ここで、ふたつ目の記録に切り替わってる。なんで、上書きみたいな事をしたんだろう。これだけの技術力があれば、たくさん記録を残して然るべきだと思うんだけど……。」
『我々は……滅びの道へと歩みを進めている。この文明は一度、アイツによって白紙に戻される事だろう。その時の対策はしてある。ワタシが、この素晴らしい、理想の人類を守ってみせる。敵の正体は未だ掴めずじまいだが、必ず悪を滅ぼしてやる!』
映像には遠目に、人々が何かと戦っている様子が映されている。
激しい戦火とそれに伴う絶叫や嘆き。それらが記録媒体を通して
鮮明に心へと焼き付いてゆく。
しかし、解像度が低い為か、それの正体が判別出来ない。
「次の映像は……。これで最後かな。」
『勝った!力を合わせて戦った!ワタシ達の!勝利だ!これで人々は救われる!平和な世の中になるんだ……!!この記録を見ている同士よ!超越者の諸君よ!ワタシは完璧な生命体の構築を成し得た!遺伝子操作の権威として、我が名を後世に残してくれ!我が名は【バニス】!!【バニス・リバレスティオ・ドミニショニス】である!!』
そこで映像はぶつりと切れた。
「ここでいよいよ、この世界の要となりそうな人物の名前が出てきたな。」
『あぁ、大体の予測を立てられる段階にまで近づいて来た。しかし、まだだ。』
「ふたりが真剣に魅入ってる所、悪くて言えなかったんだけどよ……。」
ふたりが新しい情報に進展を見出す中、ライが心底申し訳なさそうに発言をした。
「で、この人は何を喋っているんだ?」
ライには、映像に映る人物が話している言葉が理解できていない様子であった。それに関して、豊が一つの答えを導く。
「……そうか、僕には神界における加護が備わっているから翻訳されて聴こえるけど、ライには聞き取れないのか。」
「言語を話しているのは何となく分かるんだが、内容はさっぱりだ。ふたりにはしっかりと聞こえるんだな。」
『そうだな。我は救世主の紅玉から知識を得ている。故に超越者の加護なしでも、言葉が理解出来るのだろう。』
豊はその場で、情報を噛み砕いてライにも伝えた。
それによって新たな発見があると踏んだからだ。
「憶測は含まず、説明した通りだ。古代人ははるか昔に、何かと戦って勝った。それらが何を示しているのかは不明だが、こうして映像記録が残されている事を鑑みると、かなりリバレスティオに関係する事柄なのだろう。」
「少なくとも、この【バニス・リバレスティオ・ドミニショニス】という人物の名前に聴き覚えは無いぜ。なんでこの人は名前の中に世界を含んでいるのか、そこもわからねぇ。」
『……仮説を立てればキリが無いからな。今はとにかく、発電機を作動させ、電力を補充し、先に進むこととしよう。』
「そうだな。今推理するには情報が錯綜し過ぎている。ライも、一旦それでいいかな?」
「あぁ、正直言って、体の方はボロボロだ。早い所用事を済ませて休みたいぜ。」
その後、地熱発電により蓄積した電気を回収し、一行は遺跡を脱出した。




