46.遺跡内部調査2
「あががががが!!!」
「うわぁぁぁぁっ!!」
【ギャリリリッッ!!】
【ガリッ!!ガリガリッッ!!】
摩擦によって火花を散らす大盾。
落とし穴の発動後、一行は、ライの手にした大盾をソリとして、滑り台の様に作られた落とし穴を延々と滑り落ち、地下深くへと到達した。
地面は砂地であり、広さ故か、奥行きは見えない。声の反響具合から、巨大な地下空間である事が察せられる。
誰にも怪我はなかったが、相当な深さまで落とされたのが、皆は感覚で分かった。
天井は遥か遠くにあり、外に通じている様で、光と共に砂が流れ落ちて来る。
砂や石に混ざって、生物の骨などもあり、この空間で多くの命が失われたのが、容易に想像出来る。
「【……と、いう経緯で、私達が腰掛けた場所は罠の真上だったのだ……。重量を感知するものらしく、少しでも動かせば発動するだろう。もし、この先誰かが探索に訪れた時は、参考にしてもらいたい。探検家、モーグル・サグルール】」
「……。」
「……。」
『……。』
「大事な事は!!先に!!書けよぉ!!」
「落ちてしまったのは仕方ない。さっきの滑り台で、ライが拾った大盾と、僕らの装備以外は、殆どが砂に埋もれてしまった。人間、欲はかけないな。」
「ちくしょう……!すまねぇ……!」
『悔やんでも仕方あるまい、それにな、どうやら我々の歓迎会が始まる様だぞ。』
「「えっ?」」
【ズドドドドドドド!!】
砂を巻き上げ、巨大な何かが、恐るべき速度でこちらへと向かってくる。それは一行の目の前まで到達すると、勢いよく砂から飛び出したのだった。
「うぎゃぁぁぁぁぁ!!何だありゃァぁ!!!」
砂の地中から現れたのは、巨大で細長い生物であった。目は退化しているが、口は大きく、ヤツメウナギの様な円口類で、何層もの鋭い歯を所持している。
「サンドワームみたいだな。なんかやたらとデカイけど。」
「呑気かよ!!逃げないと喰われちまうぞ!」
巨大生物は、長い体で砂を巻き込み、流砂を作って豊達を捕食しようと歯をガチガチ鳴らしている。
『全長は20メートルを越え、太さは直径3メートルはある様に見える。』
「それに鋭い歯を何層にも備えている……。アレに飲まれたら終わりだな。」
「冷静にしてる場合か!あんなのに武器が通るとは思えねぇ、そうだ!火炎瓶……!わ、割れてる!!さっきの罠のせいか!?」
『案ずるな小僧。生き物であるなら殺せる。救世主、準備は良いな。』
「おうよ!」
冥王はグルカニンブルと名無しを取り出し、紅玉へと収納され、豊は合体バンクを経て、戦闘態勢を整えた。
「しかし、打撃しか使えない名無しで、どうやって倒したら良いんだ……。」
『武器の修復に回している分、エネルギーが足りんのだ。つべこべ言ってないでゆけ。』
「嘘だろ!?あんなデカい生物に立ち向かって、人が勝てる訳ない!!逃げようぜ!!」
「まぁ、なんとかなるでしょ。【エクストラ・フォーゼ】!!」
豊は、身体強化術で能力を三倍にし、相手の攻撃に備えた。
サンドワームは痺れを切らしたのか、砂の上を這い回り、大きな口で捕食しようと向かってくる。
「どうやら、話して分かる相手じゃない様だ!」
豊は、名無しを豪快に振り回し、遠心力と速度による攻撃を繰り出す。しかし、分厚い皮膚に覆われた存在に対し、打撃は効果が薄く、ましてや体の大きさにかなりの差がある。
それに加えて、地面は砂地。強く踏み込んでも力が分散してしまい、思う様に跳躍が出来ないでいた。
「(……やっぱり、ロシィの様には行かないか。まさか半分も飛べないなんて……。)」
身軽な彼女とは異なり、豊の装備重量は重い。風の様に舞うなどという芸当は、文字通り荷が重かったのだ。
【バヨォォォンンッッ!!】
「(おまけに、皮下脂肪が厚過ぎる……!接触面と摩擦範囲が広い打撃では攻撃効果は薄い……!)」
「ユタカ!危ないっ!!」
「ぐうっ……!!」
サンドワームの体を使った攻撃は、その大きさにあるまじき速度で撃ち込まれた。鞭の様にしなやかでありながら、鉄の様に重い攻撃が豊を襲う。
既に三倍の力を出している豊に、これ以上の出力を望むとなると、大きな賭けになってしまう。瞬間的な出力は望めるが、それで相手が倒せなかった場合、詰んでしまうからだ。
「打撃でも速度で補えば、切断出来るはず……!何とかして、高さを……!」
豊の苦戦を、少し離れていた所で見ていたライは、戦況を分析し、少しでも戦いの役に立とうと考えていた。
「……!オレの得物じゃあ奴に傷は付けられない……。かと言って頼みの火炎瓶は割れた……。手元にあるのはこの大盾のみ……。何かないか……!何か……オレに出来る事……!……そうだ!」
豊が砂に足を取られながら攻撃を回避し、必死に好機を探っている間、ライが攻撃範囲のギリギリに移動し、大盾を上に構えた。
「ユタカーー!オレを、足場に使えーー!」
「なるほど!わかった!」
豊はライの意図を汲み取り、彼が構える大盾の上から、強化跳躍を繰り出した。反動によってライには恐るべき負荷がのしかかる。
「(ぐぅぅ……!!ここで弱音が吐けるかよぉぉ!!)」
ライの身長分の高さと、安定した足場からの跳躍も相まって、攻撃にはかなりの速度が乗った。その速度を以てすれば、武器の性質不利を超えられるのか、跳躍を乗せた名無しでの一振りが、サンドワームの表面に深い傷を作った。
『ぷぎりゃぁぁぁぁぁぁっ!!!』
痛みによる反応によって、サンドワームは暴れ出した。その時行った回転運動によって、小規模な竜巻が周囲に発生し、巻き上げた砂と、サンドワームの巨躯が激しく接触する事で静電気が発生した。
日常では小規模との印象が強い静電気だが、図体が大きくなった分だけ、その規模を増してゆき、高電圧が発生、溢れたプラズマ放電が可視化される程に蓄積されてゆく。
更には竜巻を盾とし、自らはその中央で完璧な防御を確立させる。このままではこちらの攻撃は全て防がれ、竜巻によって全滅する。
「馬鹿な!いくら竜巻が起こったからと言っても、その規模に達するにはまだ小さい筈だ。」
『奴の体内を熱源視界で見てみよう。』
「ユタカ!一体何が起こっているんだ!いてっ!砂がっ……!カミソリみてぇに!」
ライの頬に血が滴る。竜巻によって加速した砂と石によって、皮膚が切れたのだ。
『救世主!見たところ、あやつ、体内に蓄電器官を備えている!かなりの容量だ!!』
「まさか、竜巻に電流を流し、帯電させているの言うのか……!!なんて賢い……!!」
「感心してる場合じゃないだろ!!このままじゃオレ達は、電撃を浴びながら、砂と石で粉々にされちまう!!ユタカ!飛べるか!?」
「任せとけ!!このまま黙ってやられてやる程、僕は諦めが良くない!!」
豊は、名無しを大上段に構え、勢い良く振り下ろすと、その風圧によって竜巻に亀裂が起こる。
「やった!勢いが弱まったぞ!ユタカ!もう一度だ!」
「……!ダメだ。腕が上がらん……!今の振り下ろしで、また傷が開いた……。」
「ちゃんと治しとけよ……!治しておけよぉ……!!」
「いや、こればっかりはどうもね……。」
身体能力が強化される場合、攻撃よりも、身体が破壊されない様、防御面にエネルギーを消費する割合の方が大きい。
剣撃による風圧が使えないのであれば、名無しの持つ武器としての頑丈さに頼る他ない。豊は帯電している竜巻目掛けて、名無しを振り下ろした。
「ぐわぁっ!!」
竜巻との衝突によって、豊は後方へと吹き飛ばされ、ライが駆け寄って上体を起こす。
『くそっ……!あやつ、電撃を操って磁場を作り出し、竜巻を維持しておる……!厄介な相手だ!!』
サンドワームの作り出す電磁竜巻は、時間をかけてその規模を拡大してゆく。
「なにか……手は無いのか……!」
「おい、ユタカ……!なんだかお前の武器、さっきよりも光ってないか?」
「えっ!?」
ライに指摘され、名無しを確認すると、鞘にある蒼い目盛が点滅しながら蓄積していた。
『……そうか!電気か!救世主!』
「よっしゃあ!!ライ、跳躍の準備をしておいてくれ!!」
「わかった!!」
「うおりぁぁぁぁっ!!!!」
先程とは異なり、水平に斬る様、電磁竜巻へと名無しを斬り入れていく。すると、竜巻が纏っている、【プラズマ放電】を次々と名無しが吸収し始めた。
接触している間に、発生している摩擦熱までもが、エネルギーへと変換され、名無しの鞘へと蓄積してゆく。そして目盛は限界値に到達し、更に強く光り輝いた。
「名無し!お前が持つ真の力!見せてくれ!」
豊が引き金を引くと、鞘だと思われていた部位が開いて変形し、内部の刀身があらわとなった。
そのまま引き金を固定すると、刀身が小刻みに震え出し、僅かな駆動音を放った。
『グオオオォオォンン!!!!』
サンドワームはその場でのたうち回り、大暴れすることで、自ら形成した電磁竜巻を破壊した。砂の上を飛び回り、巨大な地響きを何度も発生させている。
「なんだ!?デカブツが怯んでいるぞ!?どうなってんだよ!?」
「冥王!……これはまさか!?高周波ブレードでは!?」
『うむ。発しているのはまさしく【超振動】だ。特殊な超音波によって振動が発生し、それが奴を苦しめているに違いない。振動している物体は摩擦を多く生み出す為、切削する効果が望める。これなら、奴の体を切断出来るやもしれん。』
「今が好機ッ!!ライ!!」
「よし!来い!!」
豊は強化した膂力で大盾を蹴り上げ、サンドワームの頭上へと飛んだ。それに対し、相手は大きな口を開けて、豊を待ち構える。
「ユタカ!危ない!」
「ファッ!?わ!わ!わわわわわっ!!」
喰らい付いてきたサンドワームの歯を更に蹴り上げ、跳躍の軌道を変更した豊は、そのまま頭から刃を突き入れ、滑る様に体へと走った。
ほぼ垂直の状態で起立している体を、刃を突き入れた状態で駆け下りると、傷口から大量の体液が噴出してゆく。
「どおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
叫びを上げながら尻尾まで走り切ると、傷口が一斉に開ききり、サンドワームは真っ二つに割れ、前方に倒れ込んだ。
「うおぉい!!まてまて!!待ってくれ!!頼む!!こっちに倒れるなぁぁぁ!!!うぎゃああああ!!!」
【ズズゥゥゥゥン……!!!!】
ふたつに裂けたサンドワームは、前方斜め前へと別れて倒れ込み、その隙間に丁度、ライは収まっていた。
「……はぁ……はぁ……!死ぬかと思った……。」
サンドワームは叫び声をあげながら、体液を撒き散らし、最後は絶命した。




