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紅の救世主  作者: メアー
6章.世界の謎に迫れ
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44.オルニカの流儀




温泉歓楽街ユーバーグ、その郊外に存在する巨大な城に、数多くの馬車が詰めかけていた。


この城へと集まる目的は、歓楽街での湯治や観光、息抜きなどの名目があるが、一番の目的は、この場に裏の権力者と生贄を寄せ集め、楽しむ為である。


この会は定期的に開催されているものであり、あらかじめ大物達が、各々の目的でユーバーグへと集まっていた。更に、今回は紅の騎士捕縛作戦と日程が合わさり、急遽開催となったのだ。


有識者、権力者、貴族崩れ、大商人、聖職者、裏社会に通ずる様々な人物が、次々と城へと到着する。


その中でも機能美を追求した最高級馬車から、ひとりの男が降り立った。


「ボーリョックのおかしらッ!お待ちしておりました!!」


そう呼ばれた、短髪で顔に大きな傷のある男は、高揚を押し殺す様に声を発した。




「ふーっ……。……ついに奴を捕らえたんだな?」


「はい、仲間が数人かやられましたが、人数で押さえ付け、なんとか……!今は拘束して数名で見張っています。」


「ふふふ……!お前らにしては上出来だ。幹部連中も多く駆け付けている。力を見せつけ、全員の前で公開処刑しなければ、オルニカのメンツは保てない。当初の手筈通りなんだな?」



「はい!ただ、俺たちは全員で殴り掛かったので、顔は潰れていますが、早めに対応してくださると助かります!」



「任せておけ……お前達の働き分に見合った報酬は用意してある……。ククク……。直属の部下が奴を捕らえたとなれば、俺の株は上がり、大幹部への出世も間違いない……。」



城の内部へと入った傷の男は、大広間へと通され、椅子に拘束されている人物の下へと向かい、背丈などを確認すると、鋭い拳で殴りつけた。


「思い知ったかぁ!!このクソカスがぁ!!よくも!セントジアスで親父をやりやがったなぁ!!絶対に許さねぇぞ!これから幹部らの前で地獄を見せてやる!!まだまだ終わらねぇからなぁ!!」


拳の3発目が当たった頃、背後から老人の声が発せられる。


「待たれよ、ボーリョックの坊や。折角の獲物なんじゃ、お主だけで楽しむのはずるいぞい。」


声を掛けたのは痩せた老人であった、年老いてはいるが、年季の入った風格と、鋭い眼光を持ち、かなりの実力者である事が分かる。



「なんだ、ザウナの爺さんじゃねぇか。到着が早いな。……また痩せたか?」



「最近食が細くてのぅ……。それよりも、坊。ワシのシマで好き勝手は許さんからな。」


声の主である老人は、片目を見開き、ボーリョックを威圧した。それによって、この場にいる全員が竦み上がってしまい、静寂と恐怖が支配する。


ザウナはユーバーグを裏で支配する重鎮であり、オルニカの大幹部。更に、カーリアムに最も近い男として、大幹部の信頼を集める実力者でもあった。


「ケッ……!元ニカヤの腰巾着が……。ここは大人しくしておいてやる。……幹部連中が揃ったら処刑の開始だ。」


ボーリョックの指示で、処刑をする舞台が着々と整えられてゆき、集められた他の生贄も舞台裏の檻に放り込まれてゆく。




「……チッ!中央の奴等は、俺が直々にぶっ殺してやる手筈だったのによぉ……!親父だってこの手で……!殺したかったぁ……!爺ちゃんの言いつけを破ったあの野郎をよぉぉぉ……!!」


ボーリョックの怒りの矛先は、組織の壊滅に関わることではく、個人的な怨恨によるものだった。



会場の設営後、オルニカに属する裏社会の面々が、続々と大広間へと集まり、処刑会合が始まった。


「これより、我がオルニカ中央本部を壊滅へと追いやった、紅の騎士処刑会を開催する!!」


「うぉぉぉぉぉっっ!!」


大歓声と共に、集まった人物たちはそれぞれ、どの様な処刑が望ましいのか検討し合った。拷問、リンチ、毒物、解体、強姦、生きたまま犬に喰わせるなど、肉体と精神を全て崩壊させるつもりで、様々な案が練られていた。


「まてまて、我々はこの日の為に、拷問の計画を練ってきたんだ!死なない手段から順番に実行して、全て行うのが得策と言えよう!」


「精神を壊してしまっては楽しめぬ!まずは肉体だ!」


様々な意見が交わされる中、待ち切れず、持参した生贄を痛ぶる輩も現れた。会場は悲鳴と歓喜に包まれ、悪党どもの気分は最高潮に達している。



「相変わらずの悪趣味だぜ……。これだからこの集まりは嫌なんだ……。爺ちゃんの頃は良かったなぁ……。」


ボーリョックは、彼らの趣味嗜好に対して嫌悪感を抱いており、否定的だった。


「さぁ!皆の衆、盃を取れ!このワシ、ザウナが用意した最高級の酒である!思う存分飲み交わし、楽しんでくれぃ!乾杯!!」


更に、ボーリョックはザウナに対し、好感を持っていなかった。彼が従ったのは亡くなった先々代のカーリアムである祖父のみであり、その亡き後、権力を握った父親と、その右腕だったニカヤと、側近のザウナを恨んですらいた。


ザウナの酒は床へと消え、ボーリョックは並べられた食事に手を付けた。


「ケッ……。あいつの酒なんか飲めるかよ……。おっ……これ、美味いな……上等な醤油を使っているのか……。」



参加していた者達が、盃を傾け、酒を飲み干した。そして、生贄による楽しみは再開され、日がすっかり落ちた頃、いよいよもって処刑が行われた。


人間が一番痛みを感じる方法は、炎と言われている。際限なく上がる温度を前に、人間はなす術なく焼かれていくのだ。


【焼き万力】と呼ばれた、鉄板と万力を合わせた様な処刑道具が、会場に運ばれ、来客は一気に盛り上がりを見せた。殺せ!殺せ!と大合唱を始め、椅子に拘束された男は、そのまま鉄板で焼き潰されてゆく。


焼け焦げる人間の臭いは、言い尽くせるものではない。それでも暴力と破壊に魅せられ、飲み込まれた者達は、喜んで炎に燃料をくべてゆく。


全員で薪をくべ、復讐を果たす。


これらはオルニカにとっての葬式であり、鎮魂の儀式なのだ。



「しかし、今回の料理は美味いな……!一体誰が作ったんだ……?おい、そこの給仕、料理長を呼べ。俺直々に褒美を取らせる」


「これは、ボーリョック様!畏まりました!料理長〜!……うわぁ!」


「チッ……!あんなマヌケまで組にいれる様になったとは、情けない話だぜ……。」


給仕は慌てるあまり、盆を踏み抜いて転倒し、その後、太った長い帽子の料理長が現れ、ボーリョックは直々に料理を賛美し、特別報酬を手渡した。


料理を口へと運ぶ幹部達は、口々にその出来栄えと味を褒め称え、代わりを要求した。






「いやぁ、生贄をいたぶった後の料理と酒は格別ですなぁ!」



「確かに、振るう鞭にも力が入るというものです。あっ、そちらの料理も絶品ですぞ。」



「んまぁい!これ程の料理、食べたのは初めてですゾォ!」



「わたくしは何度か、メタボック公爵の会食にも参加しましたが……。それに引けを取らない出来栄えです……。素晴らしい。」



「ほっほっほ♥この後は、メスブタを交えてのお楽しみが有りますからなぁ。体力を付けておかねば♥」



「全く、スケベントン殿はお盛んですなぁ♥羨ましい限りです。ワッハッハ!!」



「ロスギール殿こそ!もうすっかりその気ではないですか!噂の剛直運動、見せてもらいますぞ♥ガハハハッッ!!」




そして、彼らは喜びと陶酔の中、酒を再び浴びる様に飲み、やがて次々と苦しみながら倒れ、この場に存在する悪党は死に絶えた。


生き残ったザウナとボーリョックのふたりは、半ばパニックへと陥り、冷静さを著しく欠いている。



「な、何が起こっておるのだボーリョック!ワシら以外、全員死んでおるぞ!!」



「何故だ……!まさか酒や料理に毒物が……。ならば、何故俺は死んでいない……!!くっ……そういう事か!!」


ボーリョックは今起こっている異変と、これまでの経緯、違和感を照らし合わせて状況をいち早く察し、逃げ出す事を決めた。


「ぐぅ……!ボーリョック!どうなっておるのだ!!これは貴様の仕業か!?」



逃げようとした矢先、肩を掴まれ、足が止まる。疑われるのは当然であり、この場で無事だったのは、ボーリョックとザウナのみだったからだ。


「やかましいぞ!クソジジイ!!俺は知らねぇ!!そう言うテメェが仕組んだんだろうが!!」



「なにを言うか!これだけの幹部を殺せば損害しか出ぬわ!それよりも、幹部が死んで一番利益が出るのは貴様ではないか!白状しろ!!」




「お取り込み中、申し訳ありません。」


「なんだ!!……?お前は料理長……?さてはテメェが料理に何か仕込みやがったなぁ!?」



「いえいえ、そうであれば、よくお召し上がりになっていた、ボーリョック様が一番に死ぬはずですぞ。」



「そ、それもそうだな……。しかし、この状況はどうした事だ……!」


「とにかく、この場を一刻も早く脱しましょう。馬車の用意が整っております。」


この場からの脱出を推奨する料理長を尻目に、ザウナはメンツを重視した。


「幹部連中がこんな目に遭わされて、黙っていられんわい!ボーリョック!生き残りを探して兵隊をあつめるんじゃ!!早うせい!」



逃げ出す事を第一に考えていたボーリョックであったが、この場での状況を判断し、考えを改めた。


「なぁ、ザウナのジジイよ。これでお前まで死んだらユーバーグのシマはどうなるんだろうなぁ……。」



「き、貴様!この期に及んで、ワシの椅子まで取ろうというのか!?馬鹿め!この場でワシまで死ねば、組織は瓦解するぞ!オルニカは終わりじゃ!」



「なぁに、大幹部の大体が死んだんだ。今更死体が一つ増えたところで問題ない……。ゆっくり立て直せば良いだけのことよ……。」



「や、やめろ!こら、お主ら!黙って見てないでワシを助けぬか!金なら望むだけ出してやる!早くしろ!!」



「いいえ、結構です。先程たんまり頂きましたから……。それよりもボーリョック様、ザウナ様を殺すよりも、先に、情報を聴き出すべきではありませんか?」



「……どういう事だ料理長!」



「いえね。他の幹部様の間で噂になっていたのですが、どうやらザウナ様が紅の騎士を手引きしていたというのですよ。」



「そんな訳あるかぁ!ボーリョック!誤解だ!ワシは手引きなどして居らぬ!本当だ!」



「しかし、本部壊滅からザウナ様へ各種指示権や配当が流れたとの話も出ておりました。中央本部が溜め込んでいた裏金も、忽然と姿を消したという話も……。」



「ザウナぁぁぁッッ!!」


「ち、違うぅ!!確かに中央部の指揮権は一部、大幹部に移されたが、ワシだけが得をした訳ではない!!」



「この場に集まった大幹部が全員死んでるだろうがぁ!まさかテメェ、今回の責任を押し付ける為に、俺を生かしやがったなぁ……!汚ねえ手を使うテメェらしいやり方じゃねぇか!このクソジジイがぁぁぁ!!!」


「やめ……っぷぎぃっ!!」


ボーリョックの放った拳は、ザウナの頭を完全に吹き飛ばした。


「チッ……!被害はデカいが、紅の騎士は処刑した!すぐにズラかるぞ!」


「私はザウナ様を処理しておきます。ボーリョック様は、馬車へお急ぎください、生き残っていた部下達も待機させてあります。」



「そうか、料理長。お前には世話になった。帰ったら礼をさせてくれ。」



「はい。」



ボーリョックは部下を引き連れ、馬車でその場を後にした。






「……これで、時間稼ぎが出来たかな……。」



太った長い帽子の料理長は、変装した豊であった。生かしておいた三人を使って、情報を操作し、この大惨事を後世に伝える役も見繕ったのだ。



『こっちも処理が片付いたぞ。大分エネルギーが摂取出来た。これで、武器の修復が可能だ。それと、金品は残さず回収した。』



「お疲れ〜!ユタカ、カイパー。いつバレるかヒヤヒヤしてたぜ……。」


忙しなく会場で給仕をやっていたのは、変装を施したライだった。



「会場に連れてこられていた人達はどうする?生贄とか言われてたけど、みんな生きてるぜ。」



「とりあえず、飯を食わせてやろう。問題がなければ金を渡して口止め。行くところがないなら、ヤットコ村で匿ってもらう。手紙は僕が書くよ。」


「了解。その手筈で行こう。俺は全員分の飯を運ぶ。」


「冥王、外にある死体も処理しておこう。」


『それは構わぬが、救世主よ。生かした奴等は野放しで良いのか?』


「いずれ決着は付けるさ。今は時間稼ぎが出来れば良い。」



一行はその後、雑務をこなし、何気ない顔で宿へと帰還した。




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