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紅の救世主  作者: メアー
6章.世界の謎に迫れ
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43.温泉歓楽街




全ての準備を整えた豊は、新たな仲間と共に次なる目的地、火山地帯へと向かっていた。


カイマンの話では、その辺りは地熱の関係で温泉が湧き出し、大規模な歓楽街が形成されているという。



「まさか、エクウスさんが馬車を丸ごとひとつ貸してくれるとは思わなかったな……。」



「たしかに、三人での移動を加味すれば、馬を三頭連れて行くよりも遥かに経済的だ。やっぱレフの親父さんは賢いな。」



「我が親父ながら天晴れ、と言いたいところだが、この馬車に書かれた大きな宣伝広告は目立ち過ぎるだろ……。」



レフの指摘する通り、馬車の本体と天井を覆う布部分には大きく【農耕馬から軍馬まで!育成と貸し出しのジュベナイル牧場】という文字と、宛先もしっかりと記されている。


これに乗って火山地帯へ向かう場合、多くの村々を通過する為、宣伝効果は大きく望めるだろう。



『貴様ら気を抜くなよ。我らは狙われる立場にあるのだからな……。』



冥王カイパーに関しては豊から説明があり、二人は戸惑いながらも、その実力と能力には信頼を寄せていた。



その中でもライは、特筆して冥王の収納技能に目を付け、皮算用に想いを馳せている。


「しかし、驚きだな。本来遠出の場合、馬車の中には物資を山程積むもんだが、こうして広々と座って居られる。輸送の概念がひっくり返るぞ……。」



そして、自ら馭者を名乗り出たレフは、ノーブルウインドの後ろ姿を眺めることに喜びを見出していた。


「ノーブルウインドちゃんが、馬車を引く姿……なんて気高く美しいんだ……。後で、蹄鉄の調整させてね!」



『コイツらに纏りはないのか……。』




王都から出発していくつか村を通過し、小さな渓谷を通過する辺りで、一行は山賊による待ち伏せを受けてしまう。


火山地帯への道は交通量が少なく、時折、山賊目撃情報が報告されていた。




「お前達!時間の無駄だ!やめておけ!」


豊は馬車の上から警告を放つが、山賊達は、正気とは思えぬ程の闘争心で、襲い掛かる。




「うぉりぁぁぁぁっ!!!」


気合いと共に放たれた、名無しでの薙ぎ払いは、山賊五人を纏めて叩きのめし、その一撃のもとに、再起不能へと追いやったのである。


即座に縛り上げられた山賊達は、終始「話が違う」と喚き散らした。中には唐突に全身を痙攣させ、白目を剥く者も現れ、その場は一時騒然となった。


『おい、救世主!此奴らの体内に何か潜んでいる!!』



「そういうタイプかぁ!」



即座に反応を示した豊は、後ろに大きく飛び退く事で、山賊との距離を取る。その瞬間、先程まで居た場所まで、黒い飛沫が飛び交い、付着部をである地面を一部蒸発させた。


山賊達の穴という穴から、黒色の粘液が滴り、溢れ出す。その現象には激痛を伴うのか、溢れる穴を塞ごうと踠き、更なる苦しみが重くのし掛かる。



やがて限界を迎えた負荷によって、山賊達は内部から弾け飛び、その亡骸を啜り上げる様に、黒色の粘液は一点に集中。形成完了と同時に、けたたましい産声が上がった。




『あ゛んにゃぁぁぁぁぁっっ!!』



『此奴……!恐るべき質量の闇の力を孕んでおる……。気を抜くでないぞ!!』



「粘液状の不形態生物……!ライ!火炎瓶を出してくれ!!レフはノーブルウインドを守りながら下がって!!」


「「任せろ!」」


二人の呼吸は、一糸乱れず作戦行動を開始した。これらは冥王と豊によって予測されていた出来事であり、戦場と場数を踏んでいた二人は、即座に対応可能だった。



迫り来る黒色の触手鞭。変幻自在の攻撃は予想が付け難く、回避や防御において後手に回ってしまうのは必然であった。


豊はそれを、培った戦いのセンスで補うも、触手の数は段々と増え続け、回避を行う隙間を少しずつ狭めてゆく。



「速度が段々と上がっている……!長期戦は不利だ……!」



名無しによる反撃は、攻撃を逸らす事は出来ても、効果までは望めなかった。不定形である相手に対し、殴打は全く意味を成さない。


そうこう時間稼ぎを行なっている間に、ライが投擲武器を携えて戦線に加わった。




「ユタカ!火炎瓶だ!」


「おうよ!見せてやる!我が豪速球!!」


手渡された火炎瓶を、鍛え抜いた投擲によって命中させる。如何なる生物も、有機体である以上、炎には勝てない。


それは粘液体も例外ではなかった。

燃え盛る火炎の渦に巻き込まれ、黒色の粘液体は、悲鳴をあげて焼失してゆく。



『おんぎゃぁあぁぁぁっ!!おんぎゃぁあぁぁぁっ!!……おんぎゃぁあぁぁぁっ!……おんぎゃぁあぁぁぁっ……。』



形成された歯を剥き出しにしながら、断末魔の叫びが辺りに響き渡る。

それは徐々に弱々しくなってゆくが、聞くに堪えない程に悲痛で、人の心を抉るには十分過ぎた。赤子が必死に助けを求めた様にも聴こえたのだ。


『あ……つ……い…………ま……ま……。』

黒色の年液体は、最後の言葉を放つと、灰となって消えた。



「なんでこんな想いをしなきゃならないんだ。……冥王。こいつらは一体なんなんだ。」


今までは冥王の力に適応した【覚醒体】が相手だったが、今回は様子が異なる。以前戦った【それら】と同じ気配と重圧を放っては居たが、粘液体は、より【冥王に近しい存在】であった。



『恐らくは、冥王細胞に生物としての要素を全て喰われた存在だ。何故人間の体内に寄生していたのかは定かではないが、【人間自体に適応していた訳ではない】。宿主を殺してまで外に出て来る利点など、存在しないからな。』



「ユタカ達はこんなのと戦っているのか……。よもやこの様な怪物が巷に跋扈していたなどとは、考えたこともなかった。これは、未知への大冒険などと、甘い事は言ってられないな……。」



「おーい!お前達!無事か!?」






馬車を引いて避難を行ったレフと合流を果たすと、一行は残った灰について言及した。


『燃え残った成分を分析した結果、やはり【冥王因子】に酷似したものだった。』



「冥王、【冥王細胞】ではなく、【冥王因子】のなのか……。」


「なぁ、ユタカ。これらに対し、因子と細胞だとなにが違うんだ?」



『それは我が話そう。掻い摘んで言えば、【冥王因子】は生物と適合する前段階で、【冥王細胞】は生物との適応が一時完了している状態だ。』



「つまり、それらの状態は異なる訳だよな?山賊の体内に寄生していたのに【細胞】じゃないってのはどういう事なんだ。」



『あの産声と開かぬ眼……。闇とは、力の根源であり。その中のひとつに過ぎない。お前達の中にも、それに準ずる力は存在している。』



「あんな恐ろしい見た目の力が、オレ達の中にもあるのか!?」



「ライ、俺には分かったぜ……。人間が持ち、時には危険すら生み出す、力の根源ってのが。……そりゃあやっぱり……純粋な【愛】だろうよ!」



「何を言い出すかと思えば……。お前の馬に対する愛が、力の根源だって言うのかよ……。」



自信に満ち溢れたレフの出した答えに、若干呆れ顔を見せるライではあったが、その考えは、あながち間違いとは言えなかった。



『言ってみれば【感情】だ。他者と自身の差異によって生まれる【負の感情】それが闇。力の根源のひとつだ。』



「オレ達のそんな浅ましい感情が、力の根源とか言われたら、めちゃくちゃ惨めな気持ちになってくるな。」



「ライ、実はそうでもないんだ。人間の持つ大まかな感情6つのうち、5つは負の感情だと言われている。どれもが、生物上、危険を察知し生きていく為に必要な感情なんだ。」



豊の示すこれらは、ポール・エクマンによる、【生物学的な感情の基盤】であり、幸福感、驚き、恐れ、悲しみ、怒り、嫌悪を示している。


現在では更に細分化されているが、この場において、豊は感情の分類を6つと定めて話を行なっている。



「闇……つまりは負の感情が可視化された存在が、あの黒い粘液体って事なのか?」



「あれが、負の感情であると言う確証は持てないけれど、僕の経験談としては、それらは【呪い】という形で可視化し、顕現した事はあるよ。」



豊は、前の世界で戦った、【邪神オディオアフティ】について話をした。人々の怨念を一心に背負い、人身御供となった聖人が、概念を纏って破壊の限りを尽くす巨神へと姿を変えたのである。



「もう何も驚かないが……やはりユタカは異世界の勇者なんだな……。昔、婆様から聞いた御伽噺を思い出すぜ……。」



「あぁ……。巨大竜、大巨人に並ぶ、【光の使者】だな。俺も子供の頃に聞かされた。人々の争いを収める為、リバレスティオの外周を山脈で囲い、外海へと閉じ込めた存在……。」



『お前達の間で語り継がれた伝説が如何なるものか、些か気になるところだが、そろそろ目的地付近に到着する様だな。』


遠目には数多くの湯煙が立ち上り、大規模な集落が形成されているのが確認出来た。



「ここが、温泉歓楽街、ユーバーグか……。」



「いよぉし!一旦宿に向かおうぜ!外周沿いになら馬宿があるはずだ。今日は休んで明日から遺跡探索だ!」



一向は馬宿で部屋を借り、ノーブルウィンドを預けてから歓楽街を見て回ることにした。


レフは事前に宣言していた通り、ノーブルウィンドの世話を行い、蹄鉄の整備とブラッシングに力を注いだ。


その間、ライが物資、豊と冥王は食材を調達しに街へと繰り出した。



何故わざわざ単独行動をしたのか、それは刺客の存在を確認する為であるが、相手側も早々に手を出して来る事はしない。


あえて何も行わない事で重圧を掛け、精神的に疲弊させる手法も、刺客側の策略と言えるだろう。


『生体反応は……15か。まずまずと言った所だろう。』


街中を歩き、着かず離れずの距離を保って、豊を観測する人物は絞られた。

向かってこないのであれば誘い出せば良い。


人混みを避けて路地を通り、裏路地へと入った瞬間、大人数によって、その場は包囲された。


その中には刺客らしき風体のものはおらず、全て金で雇われたゴロツキであると判別できる。帯刀も武装もしていない豊を甘く見たのだろう。


彼等は武器を片手に一斉に襲い掛かる。



「冥王、名無しを頼む。」


『わかった。』



刹那。突如現れた名無しの一振りで、七人の意識は刈り取られ、五人が足を重症化。三人は転倒した。



「あの野郎!話が違うぞ!こんな化け物相手だなんて!」


その場から一目散に逃げ出そうとしたゴロツキは、即座に襟首を掴まれ、逃亡を阻止された。


「誰に雇われたか言いなさい。」



「た、助けてくれ!知ってる事は全部話すから!俺らは下っ端に過ぎない!アンタはとんでもない奴を敵に回した!」



「いいから早く言え!」



「……奴は怒っている。オルニカの大幹部、イトスギ会の会長、【静かなるニカヤ】。アンタはこの国の悪党全員を相手にしている……!絶対に逃れられないぞ……!」



「そりゃあ面白そうだ。そっちから来てくれるなら楽で良い。出来るなら早く呼べ。」


ゴロツキには理解出来た。

目の前の男がハッタリや強がりでそう言ったのではなく、【本当に手間が省ける】という意味合いでそう言ったのだと。


「馬鹿な……!この国に構成員が何人いると思ってるんだ!俺たちはただの末端に過ぎない!幹部連中が本気を出したら……!」



「ついでに、この街の汚れも綺麗に洗い流そうか。この街における、お前らのボスは誰だ。」



「オルニカ、ユーバーグ支部幹部……【ザウナ・トトノーウ】……。」



「よし、根性で倒れなかった君達三人。ちょっと耳を貸しなさい!」


豊は三人に作戦を伝え、張り手を何発か与えると、自分の立場を存分に解らせた。


「わ、わかりました……。やります……。」


顔を痣だらけにしながら、ゴロツキ達は新たな主人の命に従う事となる。

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