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紅の救世主  作者: メアー
6章.世界の謎に迫れ
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42.高貴なる風

42.高貴なる風




『ははは、これまた随分とやられたな。』


冥王の第一声は嘲笑であった。宇宙を股に掛ける救世主が、馬一頭に振り回されて傷だらけになるなど、冥王にとっては笑い話でしかなかったからだ。



「まぁね、でも仲良しになったよ。」


誇らしげに戻ってきた豊の側には、栗毛の馬が居た。ピッタリと寄り添い、服を唇で食むなどして、ちょっかいを掛けている。



『随分と上等な生き物だ。構造や配分も申し分ない。これだけ強い個体なら、適性もありそうだ。』


「なるべく、冥王の世話にはならない様に気をつけるよ。」


『ぶるるっ……!ふんっ……!ふんっ!』


『なんだ此奴……案ずるな。お前の主人は取らぬ。』



「冥王は意思疎通出来るんだな。この子はなんて言ってる?」



『……ははは、此奴、早く自分の走りを見せたくて堪らんらしいな。救世主、馬具を付けてやれ。』



「了解。」



あらかじめ用意しておいた馬具を、栗毛の馬に装着すると、豊は颯爽と飛び乗った。本来野生馬は、馬具を付けたところですぐには慣れないのだが、この馬は別格だった。



「それじゃあよろしく頼むよ……ぉわぁっ!!」


ドン、と大地を蹴り上げる音と共に、ものすごい加速で草原を駆け出していた。


風を切り、情景を全て置き去りにする様な逞しい出走に、思わず声が漏れる。


諸説あるが、馬の最高速度は、サラブレッドで時速60から80キロ前後、クォーターホースなら最大時速90キロ前後とされているが、この馬はそれを遥かに超えてきた。


鐙を踏み抜かなければ、身体が吹き飛ばされてしまう程の瞬発力と、圧倒的な持久力を兼ね備えた最高の馬である事を、この数十秒の内に体感した。


「見た目の気高さもさることながら、風を切る恐るべき速度……!最早、見事と言う他ない!!【高貴なる風】……!!君の名は、【ノーブルウインド】だ!」



『ぶるるっ!!』


ノーブルウインドは、豊の声に呼応する様に、草原を駆けた。その名に偽りなく、まごう事なき高貴なる風は、大陸中に轟く名馬となるだろう。



「おわぁぁぁぁっっ!!」


名付けられたノーブルウインドは、その勢いで前脚を高く上げ、自らの主人を振り落とすのであった。





「僕じゃなかったら死んでたと思うんですけど……。」


『見事な三回転だったな。残念ながら、着地が疎かだったが……。』


豊を振り落とした張本人は、小川で水を飲んでいる。悪びれた様子はなく、【このくらい乗りこなして見せよ】とばかりに優雅であった。


「ふふっ……。さっきまで怖くて震えてたくせになぁ……あだだだだだだ!!」


水を飲み終えたその口で、ノーブルウインドは豊の頭を噛む。手加減が下手なのが窺える。



『愉快な仲間が増えたではないか。ここ最近は暗い話題しか無かったが、随分と改善した。【高貴なる風】よ。貴様の活躍、期待しておるぞ。』


『ぶるるっ!ふんっ!ふんっ!』



『ふははは!牝馬でありながらこの気迫!救世主よ、よくぞ此奴を選んだ!』



「えっ!?女の子なの!?あっ!ホントだ!ちんちんがな……いだだだだだだっ!!」



『やれやれだ……。』



ミドリオー草原に、救世主の悲痛な声が響き渡った。





一行は、その足で王都へと戻り、カイマンの手筈で愛馬登録を行った。あらかじめ手数料や書類を用意させていた為、すぐに手続きは終了し、そのまま屋敷へと戻る途中、懐かしい顔ぶれと再開した。


「お、ユタカじゃないか。随分立派な馬を連れているな。」


「ライ、久しぶり。村での一件以来か。今は中央勤務なのか?」


大掛かりな背嚢を背負っている彼は、以前、ヤットコ村での賊騒ぎにて、力を貸してくれた警備兵のライである。



「今は休暇期間中でな。ついでに実家の方にも顔を出して来たところだ。レフもそろそろ買い物を終えて合流するだろう。積もる話もあるし、何処かで飯でも食わないか?」


「そうだね。近況も話しておきたいし、情報もほしい。行こう。」



目的が定まり、あとはレフと合流するだけ、と言ったところで、遠くから全速力で駆けてくる人物がいた。


「な、なんだその立派な馬は!?ユ、ユタカ!これは君の馬なのか!?」


買い物を終え、身支度を整えたレフは、息を切らしながらも豊へと詰め寄った。

その様子は尋常ではなく興奮を見せている。




「あの距離からでも馬の良し悪しを判別して走ってきたのか……。お前は本当に馬に目がないんだな……。」


「ライ、いつも言ってるだろ。馬は人類の仲間であり、動物界の宝だ。」


興奮しながらも、静かに馬を語る彼からは深い執念すら感じる。


「あぁ……。この栗毛の艶……!逞しい足腰……!気品溢れる顔立ちと長い睫毛!ユタカ……!さ、触っても良いだろうか……?」



「ノーブルウインド、どうかな?」


『ぶるるっ……!』


豊は彼女にお伺いを立て、了承を得た。

『仕方ないわねぇ……』といった様子だ。


「レフ、お前さんの馬好きは仕方ないとしてもだ。此処では邪魔になる。さっさと移動しよう。」



「な、なら我が家に行こう!厩舎も土地も広い!な?ノーブルウインドちゃんも必ず気に入る。」


ここはレフのゴリ押しによって、一同は王都西の壁外にある村へとやってきた。




王都の周辺には東西南北、農業、畜産などが集中しており、経済の一部を支えている。


「ようこそ、我がジュベナイル家自慢の牧場へ!あっちが厩舎で、柵の向こう側が牧草地。主に軍馬や農耕馬を繁殖、飼育している。」



「のどかで良いところだな。ノーブルウインド。ミドリオー平原みたいだ。」


「って事は、ノーブルウインドちゃんはミドリオー出身か。ここ最近は厄介な暴れ馬の情報が出回っていたんだが、ユタカはよく無事だったな。」




「そう言えば、そんな話を聞いていたけど、特に問題はなかったな。ノーブルウインドを無理矢理捕獲しようとしてた連中は居たけど。」



「はぁ〜……。居るんだよなぁ、馬の扱いも知らないくせに、野生馬を捕獲して高値で貴族に売り飛ばしたり、牧場とグルになって競売に掛けたりする輩が……。わかっちゃいねぇよ。」


ふたりが話し込む中、ノーブルウインドは独特なステップを踏んでおり、終始落ち着かない様子だった。


「どうしたの、ノーブルウインド。」



「この様子は……きっと腹が減ってるんだな。よし、うちの牧草を食べさせてやろう。」


レフは貯蔵庫へと走っていき、木桶いっぱいの牧草を運んで来た。



「いままで見た事がない程に、レフが浮き足立ってやがるな……。全く……。親父さんのカミナリが落ちてもねぇぞ……。」



レフがノーブルウインドに対し、かなりの情熱を燃やす中、騒ぎを聞き付けた人物が屋敷の方から馬に乗ってやって来た。


「コラァー!レフィリオール!!蓄えた牧草を勝手に振る舞いおって!!こんのバカ息子がぁーーーッッ!!」


レフは父親であるエクウスによって、こっ酷くカミナリを落とされ、その後、豊達は歓迎を受けて、食卓を囲む事となった。





「いやはや、お恥ずかしい限りで……。レフィリオールは昔から馬好きが過ぎて、金勘定が下手でしてね……。こんなんだからお前にはこの牧場を継がせられないんだぞ……。ライの方はしっかりしているというのに……。」



「だってよぉ親父……。見てみろよ、ノーブルウインドちゃんの素晴らしさを。彼女の為なら牧草のひと束なんて惜しくない、そうだろ!?」


会話を続けながらもレフは、ノーブルウインドに対してにんじんを与え続け、もう一度カミナリが落ちた。



「それに関しては否定出来ぬが……。この馬はユタカ殿の愛馬なのですな?」



「えぇ、ミドリオー草原で、賊に襲われていたのを助けた……というか、色々ありまして……。」



「確かに、これ程の馬であれば賊が欲するのも頷けます。それでいて牝馬……。大事になされるのと同時に、盗難にもご注意下さいませ。」


それを聞いたライにも心当たりがあるようで、王都における近況を少し語った。


「そうだな、ここ最近は貴族連中が、ならず者を使い、馬をかき集めていたりする。きっと強王復活杯が迫ってきているからだろう。」



「えっ、レース間近なのに、今から馬を揃えるのは遅過ぎるのでは?」



「うむ、本来であれば、ユタカ殿のいう通りだ。しかし、貴族馬主達は降って湧いたこの好機をものにしたくて仕方ないのだろうよ。例え、調教が間に合わずともな……。」



「ユタカ、強王復活杯が開催されるのは、およそ20年ぶりの事なんだ。大掛かりな催しであり、近年では開催を見合わせていたんだが、現国王である【ガイゼリック・ジ・アース15世】が昨年、開催を決定したという話だ。」



「えっ?そうなのか……。」


豊はイゾルデの情報網により、現国王の事情を知っていた。ミセリコルデによって一命は取り留めたものの、最近まで命の危機に瀕していた国王が、催し物を計画していたと考えるのは疑問だった。



「巷では、放浪癖のある【ルナディア・ファルク・シルヴァネール】殿下の入れ知恵という話もあるらしいぜ。金の匂いがするな……。」



「あ、あの方か……そうか。」


豊の首からは大宝石、【一粒の栄光】が下がっている。ルナディアから賜った装飾品であり、これがあったからこそ、イゾルデとの繋がりが出来たが、ここで名前が出て来るとは予想していなかった。




その後、一同は近況を語り合い、豊は目的を終え、カイマン邸へと戻ろうとすると、レフによって呼び止められた。


「ユタカ!火山地帯へ遠征に行くと行っていたな!俺にノーブルウインドちゃんの世話をさせてくれ!!」


レフは、遠征同行に名乗りを上げた。彼の考えでは遠征におけるノウハウや、馬の世話方法などを伝授する目的もあると言う。


「確かに、長期における馬の世話はやった事がない……。それならば専門家であるレフに教えを乞うものひとつの手だろうな。……頼めるかい?」



「勿論だ!任せてくれ!!」


「おいおい、お二人さん。そういう話なら俺も混ぜてくれよ。火山地帯に眠る前人未到の大遺跡、ワクワクする話じゃあないか。冒険家の血が騒ぐってもんだ。」



「そうだな……。僕としても人数が居れば心強い。二人とも、遺跡探索の遠征に参加してくれ。」


ライとレフは頷き、この日はレフの家に泊まり、朝方カイマン邸へと赴く手筈となった。辺りは暗くなり、豊はノーブルウインドの休んでいる厩舎へとやって来ていた。



初めてのお泊まりで緊張する彼女を慰めるのと共に、冥王との打ち合わせを行う為だ。


「ライとレフには、冥王の存在を明かすとして、遠征に向けて準備を進めなければならない。ノーブルウインドが加わった事で機動力が確保出来たのは喜ばしい事だが、大所帯となれば、また話が変わって来る。」



『救世主よ。貴様が案じておるのは物資運搬の件であろう。それなら我に策がある。』


冥王は三つの武器と、グルカニンブルの取り込み、解析を行なった際に、力の一部を取り戻していた。


それに伴い、本来の力である【次元城】の一部が解放され、武具の出し入れとは別に、ストレージを設ける事が可能となったのだ。


『これにより、食料や物資などを持ち歩くが可能となった。勿論有限ではあるが、倉庫ひとつ分位の容量はあるはずだ。それと、【もう一方に連絡が取れないか】考えている。』


「さすがは冥王だ。感謝する。」




「あっ!ユタカ、お前もノーブルウインドちゃんと寝るつもりだったのか……。まぁ、これから旅をする仲だからな……。信頼関係を築いていくのは、馬に対しての礼儀であって……。はうぅん!!」


自ら大義名分を語り、ノーブルウインドの側に寄り添うレフは、見事に頭を噛まれたのだった。



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