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紅の救世主  作者: メアー
6章.世界の謎に迫れ
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40/51

40.原初





カイマンの屋敷へと戻った豊は、早々に傷の手入れを行うと、カムセーヌから受け取った剣の解析に努めた。



「鞘を含む全体の長さはおよそ2メートル弱、刀剣と見ればかなり長い得物となる……。名前をつけておきたいが、性能が分かるまで【名無し】としておこう。」


鞘に記された青の線と、柄に備え付けられた引鉄、剣という所属に相応しくないその存在は豊に大きな印象を与えた。


「この武器がオーパーツである事は間違いないんだ……。形状に用途や特性の答えがある筈……。」


しかし、鞘から一向に抜けない刀身を前に、豊は考えを改めた。


「条件が揃わないと起動しないタイプか……。或いは、純粋に動力が不足している可能性もある……。カムセーヌ氏も相当調べた筈だが、扱えなかったと言っていた。そうなればこの文明水準では実現出来ない動力と考えるのは必然的……。今手元には……。」




グルカニンブルの紅玉エネルギーは主に魔力であり、装着者の余剰生命力、または運動エネルギーを変換したものだ。


「しかし、この世界には魔力の【概念】が存在していない。根本的に魔力がエネルギーとなる事は無いだろう。だとすれば、熱、電気辺りが候補だな……。」


ここで豊は、この世界の出来上がりに着目した。神の手の干渉下にない世界は、独自の発展と生態系を持っている。


しかし、人類が形成されている事から

自転、環境、気候、重力、構成物質には地球との差異は見られない。


「よし、歴史と神話を調べよう。」


星の起源や文化的な側面が判明すれば、この世界における力の本質を理解出来るのではないか、と豊は考えた。




思い立ったが吉日、豊はカイマンの許しを経て、屋敷の書庫へと入り、執事に歴史と神話の話を聞き出した。



屋敷には歴史書が少なく、過去100年以上を遡る事は出来なかった。


およそ100年前、ジアス王国が出土されたオーパーツによる武力と食料、技術提供を以って、西の隣国と各小国を統合し、大陸の約半分を領土とした事。


巨大山脈を挟んだ、隣国デュルクニアとの戦争が未だ続いており、一年の停戦を経て、両国砦の設立。後はこれに付属した細かな事変が年代毎に記されている。



そして、神話。


手元にある一般向けの書籍には、子供でも判る様、物語性を含めた御伽噺として、改変されている箇所が多々ある。


正確な神話は神光教会が管理している【原書】という書物に詳細が記されていると執事は言った。


「天地創造、神の降臨、光の子供達……。約束の大地リバレスティオ……。」



豊は、数ある御伽噺の中で、この大陸の起源とも言える【約束の大地】を手に取った。



全ての命が誕生する以前、この地はたった一頭の竜によって支配されていた。

竜は自らの命を分け与え、他の生き物を生み出し、平和に暮らしていたという。


ある日突然、天空より出し巨人によって天変地異が巻き起こり、あらゆる生き物が絶滅の危機に瀕した。


竜は他の命を守る為に巨人と戦うが、本来の力を発揮する事叶わず、瀕死に追い込まれてしまう。


竜より命を分けられた者たちは、自らを贄とし、命を竜に返す事で復活を試み、その甲斐あって竜は巨人を打ち倒した。


だが、巨人を倒すためとは言え、竜が長く育んだ命は、再び自分の中へと還ってしまう。


それを嘆いた竜は、巨人の亡骸と共に己の命を以ってして、贄となった他の者達を蘇らせようと試みたのである。


そして、竜と巨人の力は混ざり合い、底知れぬ大いなる力となって大地を創り、復活した約束の地、【リバレスティオ】が誕生したとされている。


リバレスティオは外周を険しい山々によって、守られており、それは巨人ですら通す事は無いだろう。




この御伽噺を読み終わった後、豊の中には多少の疑問が芽生えた。


「そもそも御伽噺なんだから、色々突っ込むところはあるんだろうけど……。」



他の物語を読み進めてゆくと、約束の地から産まれた最初の人達を【ジアス】と呼び、偉大なる巨大王国が築かれ、文明が大きく発達したとされる。



やがて王国は、愚かな争いによって二分化され、今度は人同士で滅びの道を辿ろうとした。


それを嘆いた竜の魂が争いを鎮めるべく、人々の心に呼びかけたが、聞き入れられなかった。約束の地は欲望に塗れ、人が溢れかえり、取り返しのつかないところまで来てしまった。


竜は、これらの人々が自分から産まれた存在である事に涙を流し、それが大雨となってリバレスティオ全土を飲み込んでしまう。


大雨に流された多くの命は、またしても大地へ還る事になったが、竜の涙が人々の心を洗ったのか、その後生まれた人々は、以前よりも争い事を好まなくなった。


こうして現在まで、平和な日常が保たれているという話であった。



豊は自室へと戻り、物思いに耽る。


「これらの話で大分世界観が掴めて来たな……。エネルギーの形は、言ってみれば生命力に準ずる何かなんだろう。魔力とは性質が異なるが根本は同じ筈……。」


豊の考えでは、魔力、闘気、星力など、現象や物体に作用する異世界の力は、熱量と捉えている。何故なら、それらを使うと体内のカロリーが消費されるからだ。


「詳細に言えば違うのかもしれないが、おそらくこの世界でも、力を使えば腹が減る事から察するに、仕組みは変わらない。試してみよう。」



これが、普通の剣であるならば、武器全体が闘気を帯びて硬質化する筈である。

豊は剣を手に取った状態で、自らの闘気を剣へと送り込んだ。


すると、鞘の青い線が薄らと光りを帯びる。だが、それは全体的ではなく、線の端が弱々しく点滅する様子であった。


「なんかこの光り具合、見た事ある気がする……。……何処だったか……あっ!!」


頭には、全然電力が溜まっていないバッテリーの目盛が過ぎる。


「嘘だろ!?結構な量の闘気を流したぞ!?変換効率が悪いのか!?」



続けて、体内に残る星力を流すと、目盛は一割程になり、魔力は認識すらされなかった。


「だ、ダメだ……。変換効率が悪過ぎる……。その癖、鞘から刀身は抜けない……。一体この武器はなんなんだ……。」





ロマンを求めた結果使えないのであれば、武器としては本末転倒である。試行錯誤を繰り返す中、豊はふと、己に忍び寄る殺気に気が付いた。


「いいえやぁぁぁっっ!!!」


豊は気合いと共に、殺気のあった方向へ武器を振るうも、それは空を切った。


音もなく現れ、天井へと張り付いたのは、黒装束身で身を包んだ小柄な人物であった。

その手には刃渡り10センチ程の短刀が握られている。


「誰の差し金だ!!」



その風体からは小柄な事以外、情報が全く得られない程完璧な隠匿である。


「逃さんっ!!」


長物による豊の素早い猛攻は、刺客の意表を突き、物体及び、心理的に追い詰めた。


「でぇぇぇいっ!!」


早くて重い連続攻撃に防戦一方の刺客。その際、防御に使用した短刀は、豊の剣撃に絡め取られ、壁へと深く突き刺さる。


「…………ッッ」


僅かな舌打ちの後、天井と壁を蹴り上げ、刺客は窓を破壊して逃走を図った。


「部屋に侵入するまで殺気に気が付けないなんて……。集中し過ぎていたな……。」




「ユタカ!何事だ!」

騒ぎを聞きつけてやって来たのはカイマンと執事だった。


豊は事情を話し、手掛かりがないかと現場検証の末、壁に突き刺さった短刀を手に入れる。それを見たカイマンは青褪めた。



「こ、これは!イトスギの印!……まずい事になった。」



「カイマン、この短剣には一体どんな意味があるというのだ。」



「オルニカだ、あの組織はまだ生きている。カーリアムの名を誰かが引き継いだのだろう。この短刀は、組織が重要人物を暗殺する際に使う得物で、見せしめの意味がある。中央本部を壊滅しても尚、やつらの手足は意志を持っているというのか……。」



「つまりは連中等に居場所と人相を知られているという事だな。」



「迂闊だった……。ユタカ、キミの身は我がウェンリー家が守ろう。故に、火山地帯への遠征を撤回し、しばらくはここに留まってくれ。」



「準備が出来次第、ここを出て行く。奴等が僕の命を付け狙うのであれば、それを尽く返り討ちにする。」



「敵の数は未知数だ、ジアスの中央拠点を壊滅させた事は確かだが、こんなにも早く組織を建て直し、地方から増援が来るのは想定外、守る為には手の届く範囲に居てもらわねば……!」



「いや、どうやら組織にも矜持というものがあるらしい。直接、僕を血祭りにあげなければ、奴等の面子が保てないのだろう。だからこそ、人質や見せしめの殺戮、放火などを行わず、ここまで来たのだろう。」



「まさか、キミ一人で、襲いくるオルニカの刺客を全て倒すつもりか……?」



「いや、一人じゃないさ。」


豊はカイマンの後ろで控えていた黒猫カイパーに視線を送る。


『そうだ。我もいる。刺客如きで救世主を殺させたりなどせん。』


「と、いう訳だカイマン。許可申請が降りるまでは世話になるよ。」




「う、うむ。ふたりがそう言うのであれば、わたしからは何も言うまい……。」



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