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紅の救世主  作者: メアー
6章.世界の謎に迫れ
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38.金床斬りのカムセーヌ





先人の古代遺跡には、数多くの謎と秘宝が隠されている。


これらは国で管理されており、無法を禁じられている為、探索には許可が必要とされ


豊は申請書が受諾されるまでの三日間、カイマン邸宅に世話となり、遠出の準備を整えるべく、朝早くから市場へと繰り出していた。



『超重厚戦斧、戦鉈の修理が完全で無い現状、新しい武器を探さなくてはならない。』


「なんか、毎回新しい武器探してんな……。扱うなら、定番の剣が望ましいけど……。」



僅かな期待を胸に、豊達は王都に存在する武器店を総当たりする事になった。



「勘弁してくれ旦那。アンタのその鎧に見合う様な業物、ウチには置いてないよ。」


「ご期待には応えられませんね。この店は量産品を請け負っているが、一点物の在庫は置いてないんだ。他を当たってくれ。」


「もう試し振りはやめてくれ!店の武器が全部壊れちまう!アンタが壊さずに扱える品は無いよ!」






名工による業物、などと言う存在は、そう簡単に見つかるものではなく、王都に店を構える武器屋を隈なく探索したが、成果は現れなかった。


問題として一番大きなのは、豊が全力を出して振るうと、生半可な武器では二振り程で壊れてしまうのだ。


隣国との睨み合いや、ちょっとした小競り合いが続く昨今、扱い易い量産品以外の代物を作る鍛冶屋などは滅多に居ない。


己の作る武器が、この世で一番優れているのだと信じ、それを証明せんと鎚を振るう意識は、長きに渡る戦の中で薄れていった。


当然と言えよう。人生には生活がある。

自分の夢を追い求め、意志を貫くだけでは飯は食えない、生きてゆく事は叶わないのだ。


豊は、優れた武器達に想いを馳せながら、表立って看板を掲げている店を全て回り終え、その頃には既に昼を過ぎていた。





「業物ってのは案外無いもんだなぁ……。」


『救世主が今まで武器に恵まれ過ぎていただけだ。本来、超重厚戦斧の様な代物は、そう易々と手に入るものではない。我の体内で現在、二本の武器を本格的に修復している。故に我は、それ以外の行動に制限が掛かっている。これではいざと言う時、戦えない。』


「確かに……。それでは、冥王はカイマンの屋敷で修理を急いでくれないか?行動が制限され、修理が長引くのは得策ではないだろう。」


『そうするとしよう。救世主は引き継ぎ、武器探しを、我は一足先に戻っている。』


そう言い残すと、カイパーは猫へと変化して

屋敷へと戻っていった。




「よし、今度は看板が無い裏路地まで調べてみよう。そうと決まれば腹拵えだ!!」


自分に扱える武器が見つからず、露頭に迷う最中、豊は空腹を解消する事で心機一転を図る。そんな決意も束の間、王都の中央広場にて、民衆を掻き分け、大きな声が響き渡る。


「紅の騎士よ!!イゾルデ様に近づく不届き者め!!我が剣の錆にしてくれる!!!」


豊の目の前に現れたのは、銀色の甲冑を着込んだ、金髪の男性であった。体格と身長に恵まれ、品性な顔立ちと、身に付けた優良な装備から察するに、良いところの貴族出身であると見当が付くだろう。




「いや、人違いですね。」


「すぐバレる嘘をつくな!!この鮮血の紅!!胸部に眩い程立派な宝玉をあしらった全身鎧がそうそうあってたまるか!!」




やがて人々は足を止め、辺りは少しずつ騒々しくなっていった。


「おい、あれ……、カムセーヌ・ライブラル卿ではないか……?」


「ひと月前、国境砦での任務に出立していたはずだが……。」


「まぁ、なんて素敵な立ち姿なのでしょう……。流石は名高い上流騎士であらせられるわ。」


「猛撃の武将だ!初めて見た!すごい!」




往来のある広場で堂々と声を張り上げる人物目の当たりにし、周りの民衆は口々に彼の名前と家名を溢した。その人気たるや、猛将を一眼見ようと人々が集まってくる程である。


「その上流騎士殿が何用ですかな?」



吾輩わがはいの留守中にどうやってイゾルデ様を誑かしたかは知らぬが、この短期間においてジアス国民でない者が、ジアス国における自由騎士の称号を得るなどとはありえぬ事だ!」


「インペリアルガードの選抜試験を突破したからだと思うんですけど……。」


「インペリアルガードは歴代で八人!現行、三人しか存在しない偉大なる称号だ!お前の様な出生も分からぬ貧乏人に、選抜は突破出来るものではなぁい!!」



「不満があるなら直接イゾルデ殿に話を聞いたらどうだ。」


「イゾルデ様はこの国最強のインペリアルガードであらせられるぞ!そう易々と面会の申請を行えば、お手を煩わせる事になるのは明白!ならば、選抜を生き抜いた私自らが!お前の力を試すのが筋というもの!!」



「その筋だと僕への迷惑は全く考慮されていないのだが……。」


「ゆくぞ!紅の騎士!きえぇぇぇい!!」


カムセーヌは剣を引き抜くと、白昼堂々民衆の前で、大立ち回りを始めた。


「危ねぇだろ!やめろ!戦う気は無い!!」


「問答無用ぉ!!自由騎士であるならば、正々堂々騎士らしく戦えぇい!!」



「なんで周りの人間も騒がないんだ!こんな大衆の面前で騎士が剣を抜いているんだぞ!」


民衆は騒めきを見せているが、それは恐怖による騒動ではなく、街中に起こった争い事に、誰もが胸ときめかせる表情であった。


「上流騎士には不敬罪によって民を斬る権利を得ておるのだ!そんな事も知らぬ他所者にジアス国の自由騎士など務まるかぁ!」



「【切り捨て御免】みたいなもんか……。」




カムセーヌは意気揚々と剣を振り回し、豊へと襲い掛かるも、それらは悉く回避される。


「逃げるでない!騎士であるなら戦え!!」


「丸腰の相手に対して騎士を語るな!!」


「むっ、お前!武器はどうしたのだ!装備しなければ効果はないぞ!」


豊が武器を所持していない事に気付き、カムセーヌの攻撃はピタリと止んだ。


「武器屋の主人みたいな事言ってんな……。以前の戦闘でボロボロだから、修理してるんだよ。今は繋ぎの武器を探して王都を巡っていたって訳。だが、ロクな武器がなくて……。」



「ぬははは!愚か者め!そこらの武器屋で名剣が手に入るわけ無かろう!現在は戦時量産期、専用武具を作るなら鍛冶屋ごと金で囲うのが常識であろうが!!」



「ぐぬぬ……!やっぱりそうなるのか……。」



「その様子では武器が無くて困っておるのだな……?名家に生まれた者でもない限り、鍛冶屋を囲うなど剛気な事は許されぬ!吾輩が持つこの、二対の名剣【金床斬り】も、かの有名な【キタエール・タンクスマン】が打ち鍛えた代物よ。」



「金持ちはいいなぁ。」



「そうであろう!そうであろう!どれ、ひとつお前のやる気が出る提案をしてやろう。吾輩の勝負を受け、力が認められた暁には、我が家にある名剣をひとつ融通してやろう。」



「えっ!?本当!?」


「上流騎士に二言はない!」


「あっ、でも、今は武器無いし……。」


「騎士とは格闘術も心得るもの、今回はお前の条件に合わせて吾輩も素手にて相手をする。」


「まぁ、それならいいか……。」


真剣勝負じゃないだけマシだと考えていた豊は、その甘い申し出についつい返事をしてしまう。


「行くぞっ!!」


初動。カムセーヌは流体の様な脱力と、膂力による爆発的な瞬発力によって間合いを詰め、豊の虚を突く攻撃を放つ。


「うぉぉ……!この体重移動からの鋭い攻撃……!八極拳みたいだ……!」


「ほう、この拳を躱すとはな……!少しは出来ると言う訳か……!」



「やる気が出る様な条件も出してくれた事だし、久しぶりに体術面を鍛えて行きましょうかね!!」


豊は右脚を前に出し、腰を落として重心を中央へと定めると、両手を上下に開いて大きく構えた。


「珍しい構えだ。南方の民族が使う【チャトラ】によく似ている。それでいて安定していて、呼吸も静か……。この完成度……!お前の強さの根幹は体術にある様だな。」


構えだけでかなりの評価を受けているが、豊の構えは覇王天命流【天破の構え】と呼ばれ、格闘ゲームキャラが使う構えである。


呼吸と重心が安定しているのは単純に、彼が死線を数多く潜り抜けてきた成果に過ぎない。


「上流騎士の格闘術!その身に刻むが良い!!」


正しく洗礼された型の連携技は、淀みや迷いを一切含まず、素早く、重く、そして正確であった。


「ここまでちゃんとした対人格闘は久しぶりだ。折角なので勉強させてもらいます。」


「たわけ!吾輩の圧勝で終いよ!!」



豊は、繰り出された前蹴りを素早く片手で払い、払われた脚に沿って回転と同時に距離を詰め、裏拳を放つ。


カムセーヌはそれを屈んで回避し、屈伸した溜めを使って、豪快なアッパーカットが炸裂させた。


命中の瞬間に手を滑り込ませる事で、直撃を受け流し、それによって生まれた運動エネルギーと、回避した動作と体重移動を駆使して、弧の軌道を描いてから遠心力を蓄え、真っ直ぐに拳を突き出すと、カムセーヌは両腕を前に構えてそれを防御した。


「……固いッ!!」


「ふははは!打撃に耐える鎧こそ最強よ!」


一瞬の出来事であったが、見逃しはしなかった。カムセーヌは拳が当たった瞬間、構えた両腕から肩、胸、へと衝撃を逃し、最終的には身体を通して足から衝撃を受け流したのだ。


「その様子、我が家に伝わりし絶対の防御術に気づいた様だな……!鍛え上げたしなやかな肉体がなければ、衝撃を這わせて逃す芸当など出来はしない。これぞライブラル防御術奥義、【地龍の型】!」



「大地に足がついている限り、衝撃は足から逃げるという訳か。」



「この奥義は訓練だけでは辿り着けぬ境地にある。生まれながらの才能に慢心せず、弛まぬ努力を積み重ねた血の結晶なのだ!!」



「大したもんだ。もう一度見せてもらってもいいかな?」



「ふははは!!初回特典はここまでだ!!今度はこちらから行くぞ!!」


カムセーヌはその剛体から大地を踏み抜き、足、膝、腰、肩、肘、拳の回転を一点に集中させ、究極の正拳突きを打ち出す。


その威力は砲弾の様な突破力と貫通力に加え、圧倒的な重さを備えていた。


「とんでもねぇパンチだ……。」


接触の瞬間に手甲で威力を逸らし、直撃は躱したが、拳の風圧によって、観戦をしていた民衆はのけぞって転んだ。かなりの距離があったにも関わらず、余波で大人一人が不意に転ぶ程の威力があるのは恐るべき事である。


「だけど、何するか分かってたら対策は出来るもんだ。」


「ぬぅ……!この拳を躱したのはお前で二人目だ……!これは評価を改めねばなるまい……!!」



「威力だけならイゾルデ殿より強いな。」



「だが、当たらねば意味はない……!イゾルデ様にも言われた言葉だ。今度は外さぬ。」



「そう易々と打たせはしないさ。」


「ぬうぅ……!?」


恐るべき拳の威力ではあるが、予備動作と溜めには僅かな隙が存在し、それは意外な程あっさりと崩れる繊細なものであった。


「なんと素早く正確な攻撃……!的確に相手の嫌がる箇所を攻め立てるとは……!」


「全然褒められてる気がしない!!」



豊は足払いの要領で下段の蹴りを組み合わせ、相手の足を回避へと意識させる様に攻め立てた。


素早い攻撃が初動を遮る事で、カムセーヌの重たい一撃は不発に終わり、二人は互いの隙を作り出す攻防へと切り替った。


打ち出し、薙ぎ、落とし、突き、払い、反り、屈み、いなし、転ずる。


正確な体重移動と攻撃の予測。誘導と挑発。

互いに致命を回避し、僅かな呼吸の乱れも生じない戦いは、30分続いた。


やがて両者は息を切らしながら、錘をつけたかの様な鈍足に陥る事となる。


筋肉疲労と心拍数の上昇。極度の酸欠に、積み重なった負傷。様々な要因の果てが、この泥試合。


両者の拳は手甲越しでありながら、既に傷だらけとなっており、血が滴っている。

攻撃を回避する事も叶わず、繰り出した拳は全て命中する。ここからは意地と精神力の戦いだ。




如何なる生物であっても、全身全霊の全力疾走を30分行う事は不可能。最後は両者の拳を交わして接触、転倒して戦いは終わった。


「もう……引き分けでいい……?」


「わ、分かった……やめよう……。」


こうして、王都中央広場での戦いは幕を閉じ、民衆は両者を讃え、拍手喝采を贈った。

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