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紅の救世主  作者: メアー
6章.世界の謎に迫れ
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36.振り上げた力の行方




ミセリコルデ達が雪被り山の惨劇の最中にあった時、豊は一通の知らせを受け取った。


「すまぬユタカ。私の力が及ばぬばかりに、元老院の権利者から目通りが通達された。」


「『自由騎士にして紅の騎士、ユタカ・ホウジョウに【元老院】より通達。貴族会への面会、出頭を所望する。』か。注目を集めすぎた……と言った所か……。」


豊はこの国で自由に活動する為、各権利者へ己の力を示した。その結果、取るに足りないいざこざは回避可能となったが、獲得した名誉が大きく、平たく言えば、やり過ぎたのだった。


不殺の100人抜き、醤油の独自開発、デルガルダの討伐とそれに伴うフラウ・ハーバリーの救出など、特にデルガルダ二頭の討伐は、歴史的偉業と認識されており、誰が紅の騎士を召し抱えるのかが、注目の的となっていた。


「まさか雪被り山の大怪鳥、デルガルダをも討伐するとは……。私が行ってきた情報規制にも限界というものがあってだな……。」


豊の果たした功績の大きさに、現実性が薄い所為か、イゾルデも感心を通り越して呆れている。彼女は、豊の知らない苦労を背負っており、自由騎士の恩恵を存分に発揮させようと奔走していたのだ。


「その点においては面目ないとしか言えませんぞ……。」


『人の集団社会とやらは……。難儀なモノだな……。』



「方々手を尽くしたが、ユタカに対する元老院及び、貴族会の関心は薄まらなかった。100人抜きをした時点で武力への注目は集まり、【ダルベール・メタボック】氏の主催会合においてデルガルダを撃退した辺りでもう止められなかった。」


「ちなみに、どういった手法で今まで面会を断ってきたの?」


「『紅の騎士は婆娑羅者ばさらもの……型破りものであるが故、決して飼い慣らす事は叶わず。』として言いふらした。貴様と親身にしているのはこの家の者だけであり、事情を知っているのは私だけだ。そこを考え、下世話な輩が寄り付かぬ方法をとった。」


イゾルデが取った手段は的確であり、また、豊の力を欲する輩から彼を守るには、最適な方法と言えるだろう。しかし、シルヴァネール家を敵に回したとしても釣り合いが取れる程に、豊の功績は高くなってしまった。



何らかの方法で紅の騎士を囲い込めれば、家の発展や位の向上、または王族に取り入る好機も巡って来るというものだ。


これらの考えは、側から見れば浅ましく思えるだろうが、家の存続を重視する事は、この世界の倫理観ではごく一般的な事であり、より強い力を欲するは世の常と言える。



「権力者を先に押さえるという戦略が仇になってしまったか……。折角頂いた自由騎士という称号が、逆に自由を奪う羽目になるだなんて思ってもみなかったよ。」


「ユ、ユタカさえ良ければ……我がシルヴァネール家が正式に囲い込み、元老院や貴族会から守ってやっても良いぞ……!私は顔が利くからな……!なんならお姉様に掛け合っても良い!!」


イゾルデ自身は平静を装っているが、何処かぎこちなさを見せていた。事実、彼女が一番豊を欲しているのだ。



「いや、赴きましょう。僕はこの国に留まるつもりは無いし、ミセリコルデの件もある。なんとしても彼女を取り戻し、村へ戻らねばなりませんので。しかし、こちらにも準備があります。一週間の猶予を頂けるよう取り計らいをお願い致します。」


元老院、貴族会における目通りの目的はなんなのか、豊は権力争いの渦中に飲み込まれる事となる。








一週間後、出頭に応じた豊は、イゾルデを付添人として、王城の一室に通された。

身辺に彼を歓迎する雰囲気はなく、異質な存在として、元老院が集結する【審問の間】へ向かう事となる。


「ここで貴殿の武器を預けて頂く。用心の為だ。それと、付添人はここまでだ。」


審問の間への扉を通過する直前、警備兵によって、武器の押収が言い渡される。

しかし、豊には疑念があった。


「それは構わないが、想定外の事態が起こった際に、身を守る術が無くなる。この場における外部からの危害に関し、安全は保証されるのか?」


「我らが厳重に警備をしている。案ずるな。内部で何かあれば、控えている警備兵全部隊が突入する。」


突入するとは言っても、安全が保証されるとは一言も言われていない。不安が解消される事はなく、豊は超重厚戦斧を預け、門を通過した。


天窓からわすがに光が差し込む程度の光源に、円状の法壇。銀の燭台に収まる数多くの光源。まるで豊はこれから裁判にかけられる様な心境であった。


壇上の元老院六人が、二段ほど高い所から見下ろす形で着席している。この時点でかなりの威圧感を浴びせられており、この場が人権を考慮していない尋問であるという事が容易に想像出来る。


権力によって人民を支配し、屈服させてきた者達は、それしか手段を知らない。

自分以外を取るに足らない存在だと決め付け、踏み付け、蔑ろにし、優位性を示す事で人心を掌握しようとする。


しかし、それは弱い者への扱いだ。


豊の放つ強者の覇気は相手との実力差を認識させた。言葉を間違えるなよ。と言わんばかりの気迫が審問の間に放たれていた。


「何たる闘気……!」


「これでは……あまりにも……!」


壇上の元老院達はその場で陰口を始めた。

この場合の陰口はこそこそ、ヒソヒソを表す。籠に捕らえたつもりでいたのは小鳥ではなく猛獣であり、その籠の中には自分達もいる。




「ユタカ・ホウジョウ!元老院及び、貴族会による招集要請に応じ、ここに参上致した!要件をお伝え頂こう!!!」


拡声器を通した様な爆音の口上は、如何に老いた人物と言えど、骨伝導を通じてハッキリと伝わる程度のものであった。


「ワシが、元老院筆頭……。元陸上戦術部隊幕僚、【イワン・パブロ・ミルケニッヒ】である。此度の要請に応じてくれた事、元老院、貴族会を代表して労おう。まずはそこの椅子に腰掛け、楽にしてほしい。」



豊は言われるがまま椅子に腰掛けた。

その椅子は固く、長時間の着席に適したものではなかった。明らかな尋問設備である。


「して、私に何用でございますかな?」


「うむ、此度、貴殿に赴いてもらったのは他でもない。通達の通り、大怪鳥による王都襲来と、フラウ・ハーバリーの救出、及び雪被り山での大怪鳥討伐の件。それらの恩賞は日を改めて授与するとして……本題は、貴殿の出生についてだ。何処で生まれ、何処で育ち、どの様にしてその恐るべき力を手に入れたのか……。それを知りたいのだ。」


この国に籍を持たぬものがイゾルデの推薦によって騎士へと担がれ、実績も残した。

しかし、手放しで迎え入れるかと言われれば、そう警戒心は甘くない。


よって出生、身辺調査を行い、審問を経て

正式に判断を下そうという魂胆である。


「この国での出生記録はございません。我が身は遠い山奥に産み落とされ、夜叉狒々(やしゃひひ)を母とし、獅子と猩々を友として育った。物心付く前に山で人攫いにあい、奴隷として売られ、青年期を過ごし、主人の恩恵によって自由の身となったのです。」



1から全て出鱈目である。

これらの内容は全て、イゾルデとシルヴァネール家によって作られた話であり、誰も確かめようがない。



「我々の機関でも独自に調べたが、一字一句まごう事なく、貴殿の申した通りであった。それで、無類の強さの証明にはならぬが、戸籍や人民権を持たぬ貴殿が何故、シルヴァネール家に取り入られ、【自由騎士】の称号にまで至ったのか、それも答えてもらおう。」



「はい。」



尋問は続いた。これまでの経緯にイゾルデと打ち合わせをした内容を掛け合わせ、身辺情報を照らし合わせ、豊の身分を確立させる為の工程であると理解できるだろう。


平たく言えば、出生の分からないとても強い存在が、理由もなく国内に滞在していると、人々は不安になってしまうので、情報の擦り合わせをしましょう。という意図があったのだ。


「ふむ……貴殿は、その少女の行方を追ってセントジアスまでやって来たと……。」


「彼女を救い出すのが我が使命。用が済めば、早々にこの国を立ち去りましょう。」


それを聞いて元老院は少し騒ついた。

豊が圧倒的な力を以ってして、この国の転覆を図る者や、功績によって上院に入り込み、権力を得ようとしている野心家であるなどの憶測があったからだ。


勿論、元老院や貴族会も彼の力を取り込み、己が地位を盤石なものに高めたいという欲望はあっただろう。しかし、事が済めば彼は出て行くという。


それでは彼を囲い込み、利用する事は出来なくなる。インペリアルガードに匹敵する戦力をみすみす逃す事など、政治を司る者としてあってはならないのだ。




「最後にひとつ尋ねたい。現在続いているデュルクニアとの戦争についてだ。貴殿はこの戦争についてどう考えている?」


「戦争とは価値観の異なる者同士で起こる、話し合いでは解決出来ない負の連鎖です。何を目的に掲げ、戦っているかが意義を判断する材料となりますが、理性ある種族であるならば、基本やるべき事ではないと考えています。」


ここで戦争反対派という大きな材料が生まれた。彼が反対派だという理由を用いて糾弾する事が出来れば、弱みを握り支配、もしくは陽動する事が可能と考え、元老院は食らいついた。


「貴殿はこの国の栄誉ある戦いにおいて異を唱えるというのか!?」


「栄誉とは何を示してそう申しているのか、具体的に挙げて頂きたい。この国での戦地の最前線に向かうのは短い期間で訓練された農民であり、一方貴族などの良家から出る兵は後方支援や、装備が充実し、生き残る可能性の高い騎士ばかり。死ぬのは誇りすら知らない民草や選ぶ余地のない傭兵達です。」


この手の問答を予期し、豊は事前に状況を調べ、把握していた。そして、戦況が良くない事も、更には戦争自体が、綿密な情報操作によって引き起こされたものである事も知っていた。


元老院はそれらを全て見透されているのだと確信した。この男を飼い慣らす事は出来ない。確かな矜持と意地を持ち、人格が確立されていて隙がない。その上それを裏付け、確かなものとする力すら持っている。


「民あっての国。それが理解出来ぬ訳ではないでしょう。殺す殺されるの消費社会では、人を育む環境は整いません。」


そこに一人の議員が踏み込む。


「現状、我がジアス国領土の拡大により、食料自給率は年々躍進を見せている。飢えるものは必然的に減り、国は栄えている。国の繁栄は国民すべての願いであり誉れである!!貴殿の発言は我が国の信頼を損ね、著しく侮辱するものである!断じて看過出来ぬ!」


議員の一人が席から立ち上がり、豊に対して異議を申し立てた。その剣幕は怒りに満ちており、今にも喰らい付きそうなほどである。


「お座りください。【元老院上院議員】【現・商業稼業組合頭取】【スリークス・エドバン・モーケルネ】氏、確かに自給率は向上している事でしょう。食糧事情が劇的に改善されたのも理解出来る。しかし、その食糧の全てがおおやけに出ている訳では無いはずです。」


「な、何故私の名を……!!」


元老院上院議員の名前や素性は、一部の貴族会や王家の者にしか知られていない。賄賂などを防ぐ目的から、一般的には伏せられているのだ。


それを知られているという事は、豊が独自の信頼出来る情報網を確立している事に他ならなかった。この真実は、他の議員をも震え上がらせる。


「モーケルネ上院議員、彼の言う、【おおやけに出ていない食料】とは何を示しているのかね?君の提出した資料によれば、その様な項目は明記されていなかったと認識しているが?」


「ご、誤解だ!イワン代表!恐らくは規定値以下の生産品における廃棄製品の目録を示しているのだろう。それらは規定に則り、然るべき方法で民衆へと還元されている!そういう手筈だ!!私は【ハネ】てなどおらん!」


【ハネ】とは公的資金や経済収益金の着服、横領の事である。


「誰もモーケルネ上院議員がハネを行なっているとは言っておらぬ……。ユタカ自由騎士よ。貴殿の申しておる【それ】は何を示しておるのだ?」


「はい、入手手段は申し上げられませんが、此方にモーケルネ上院議員の筆跡が記された書類がございます。これは、生産品の一部を融通する事で、彼が個人的に不正な払い戻しによって、利益を得られる仕組みの書状となっております。」


「そ、そんな書状は知らん!ワシの筆跡や印など、やろうと思えばいくらでも偽造可能だ!こんなの証拠とは呼べぬわ!!」


「それだけではございません。こちらは国内運送における集荷物の内約と、押収されたモーケルネ上院議員への贈呈品リストです。」


この国における横領対策は厳しく、特定の組合や国の指定機関でしか物資の運搬を許されていない。


「ここ数年、様々な理由で祝い品であると偽り、モーケルネ家へと運搬された物資の中に美術品、貴金属、タバコ、茶葉を始めとした嗜好品が、数多く存在していました。その頻度は実に巧妙であり、長い期間で見れば大した額には見えませんが、総合した際に驚くべき資産へと変わったのです。」


貴族への理由なき贈呈品は賄賂となるが、冠婚葬祭の贈り物など関して言えば、受け取る側が後日申請を行うことで公に受け取る事が可能となる。


「ワシはそれらの申請を怠っては居らぬはずだ!専属の経理士がついておる!抜かっていたのであれば其奴の所為だ!」


「問題はそこではありません。モーケルネ上院議員。このリストが出て来たところが問題なのです。カーリアム、と言えばお解り頂けるでしょうか?」


「バ、バカな!!貴様!あの【鋼鉄のオルニカ】を……!ハッ……!」


口を噤んでも遅かった。かの書状の運搬と保管、及び契約、贈呈品リスト等を管理していたのはジアス国の経済状況を裏で静かに統べていた犯罪組織、オルニカであった。カーリアムとはその代表者が継ぐ名前である。


本来ならば口を滑らせるなど、政治家に有るまじき失態ではあるが、犯罪組織オルニカの規模は、国益の約三割にも届く年間利益を占めており、戦力の規模においても独立の軍隊が存在している。


これらから自身の情報が漏れるなど、想像もしていなかったのだ。

正式に国へと通達している贈呈品の中には、一点物の芸術作品も多数含まれている。

それらが犯罪組織から発見された裏リストからひとつも違わず一致するなど、偶然と偽ろうにも確率的にはあり得ない。


この仕組みは犯罪組織からリストが押収されない限り、絶対安全と言える万全策だった。


「こちらには鎮痛薬の原材料【イタミケシクサ】の生産を指揮し、それをどの食料経路を使って流通させているのかも記されております。オルニカはその規模に反し、名前も一部にしか知られていない犯罪組織であり、咄嗟にモーケルネ上院議員の口から出る様な名称ではありません。余程この人物に信頼を寄せていたのでしょう。ちなみに、組織は取り押さえ、クラハドル殿には裏付けを済ませており、現在正式な書状を制作している最中との事です。」


「く、クラハドルにまで既に通じておるのか……!ぐっ……!ぐぅぅう……!」



スリークスは完全に意気消沈していた。自身の働いた行いを看破され、証拠も掘り出された。他の元老院がある手前、安い言い訳は通用しない。観念を決めて椅子に腰掛け、顔を伏せた。



「……この様に、安全な場所から戦争を賛美し、その混乱に乗じて、私腹を肥やす輩が存在する以上、私は戦争に賛同する訳にはいかないのです。戦の裏に人の私欲しよくあり。」


元老院誰もが、ぐうの音も出ない。


「こ、これに関しては最早我々が偉そうに言える言葉はあるまい……元老院から国家犯罪者が出てしまっている以上、我らの信頼は失墜……。嘗ては強き王を立て、正義と国の為に発起した筈が……時の流れとは人さえも腐らせるか……。」


イワン代表は余程仲間を信頼していたのだろう。身内の裏切りに落胆し、この問答によって、その姿は見る影もなく年老いていた。


最早、豊の扱いを模索するなどしている場合ではない。元老院の威厳が中から瓦解したのだ。どのツラ下げて自論を述べられようか、何の正義があって理想を語れるだろうか。



「私は彼女を探す為に全力を投じる。それを妨げる事あらば、容赦はせん。そう胸に刻んでいただこう。」


そう一言告げると豊はその場を去った。

誰も止めるものは居なかった。



元老院上院議員であった【スリークス・エドバン・モーケルネ】はその後、様々な余罪を追求され、その地位を剥奪、終身禁固刑が言い渡され、一族は全て国の監視下に置かれた。尚、この件は秘匿とされ、一部の権利者以外顛末は知られなかったとされる。



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