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紅の救世主  作者: メアー
5章.暗躍と決意
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35.光の示した先に




新たな決意を胸に、一行は旅立ちの準備を進めていたが、立地や経済環境の危うさから難航を示していた。


それと並行して、大怪鳥の卵は皆に見守られながら、孵化の瞬間に備えている。


『小娘。大怪鳥が産まれたところで、どうするつもりなのだ。』


「わからない。ただ、わたしはあの瞬間、命の光に魅入られた。今思えば、親鳥が解けて崩れ落ちた時、この子を託された様な気がしていた……のかもしれない。」



ミセリコルデが、自身の覚悟の無さを認識する中、卵の中から力強い衝撃が起こり、殻にヒビを入れた。それは、分厚い殻を徐々に突き破り、孵化の段階に入った。


「殻を内側から破っているな……。大きさの所為か、他の鳥類と比べて迫力が違う……。」


切迫した状況にも関わらず、孵化の瞬間を皆が固唾を飲んで見守る。


殻の一部が剥がれ落ち、雛の姿が垣間見える。


「がんばれ……。がんばれ……。」


手伝う事は自然の摂理に反する。

殻を自らの力で打ち破れない者に、自然を生きてゆく資格は無いのだから。


やっとの思いで殻を破り、その姿が露となる。大怪鳥の雛は卵の大きさに反し、握り拳程の大きさしかなく、羽毛も無く、まだ目も開いていない状態にあった。


「ど、どうしたら良いのかな……?トム、普通、鳥は雛に何をするの?」


「生まれたばかりの雛は自分を守る術がない。体温を逃がさない様に親鳥が包んで、餌を与えるんだ。デルガルダもその辺は一緒だとは思う。」


『ここに柔らかく煮詰めた麦がある。与えてみよ。』


「そうだね。お皿によそって……。」


ミセリコルデが麦粥の準備をしようと、皿に手を掛けた所で異変が起きた。


『ガリッ……!ゴリッ……!バリバリッ!!』


強烈な破砕音に目をやると、産まれたばかりの雛が卵の殻を貪り食っていたのだ。


確かに、卵の殻にはタンパク質やカルシウムが含まれており、それを食べる生物も存在する。しかし、それとしても孵化して即座に食べる事は通常では考えられない。


殻だけでもかなりの質量があったにも関わらず、雛はそれらを一気に平らげ、皆はそれを唖然として見ていた。


『キュラァァァァァァ!!!!』


耳をつんざく怪鳥の高音。


閉じていた眼は開眼し、血走ったそれが辺りを隈なく見定める。

同時に、雛は寝床を蹴り上げ、その勢いで麦粥の鍋へと頭から突っ込み、一心不乱に食らい付いた。


その速度は目紛しく、大人三人分はあろうかという麦粥を、啄むのではなく、啜る様にして、瞬時に胃袋へと収めたのである。


『産まれて即座にこの食欲……。大怪鳥とは赤子のうちにも、これ程までに荒々しい存在なのか……。』


他の生物の誕生した瞬間を、知識以外に持ち合わせていなかった冥王は、この光景があたかも一般的であるかの様な仮定を口にする。


「……いや……。そうじゃないかも。」


もちろんそんな事がある訳ない。

言い放った彼女の予感は的中し、更なる異変はすぐに起こった。


雛の体の表面が大きく律動し、血管が浮き上がる。管を通る血液はボコボコと煮え立ち、骨が軋んで折れる音が幾度も響き渡る。


冥王はこの異常事態に際し、自らの眼を以ってして、熱感知器官による生体透視を行う。


すると、雛の体内には他に高い熱源、明らかな別の個体が存在しているのをはっきりと映し出された。


それは、体内を荒々しく這いずり、内部を喰いながら移動している。


『いかん、別の熱源が雛を内側から侵蝕している!!』


「おい!そりゃあどういう事だ!?」


『これは……。よもや脳に寄生し、生物としての主導権を奪うつもりか!』


「そんな!ヴェルト!何とかならないの!?」


『不可能だ……!例え余であっても、幼い個体の体内から傷を付けずに寄生主を取り除くなど出来ん!』


雛の体内が膨張し、体の構造が造り替えられ、存在が塗り潰されてゆく。

それをただ、黙って見守る事で刻々と時間は過ぎ去ってしまう。



「このまま黙って見てられない!」


ミセリコルデは暴れる雛の体を押さえ込み、中で蠢く何かを捕らえようと試みる。


『見殺しには出来ぬか……。小娘!要所を押さえ付け、血管に入らせるな!脳への到達を遅らせるのだ!』

冥王もまた、自身の触手を限界まで細くする事で、体内への介入を実行した。


雛の体は栄養摂取と変異によって大人の頭程の大きさまで肥大化し、内部では未だに未知の存在が体内を駆け巡っている。


脳への到達を防ぐ為、移動する患部を押さえ付け、先回りして道を塞ぐ。

その隙を突き、冥王が縮小化した触手で寄生生物捕らえる思惑であったが、その作業は難航を極めた。


時間にしておよそ二分にも満たない攻防であったが、その緊張と重圧は、戦いを終えたばかりのふたりには厳しく、最早、雛の存命を先延ばしにする処置しか施せては居なかった。


そして、終わりは突然やって来る。

雛だったものは自身の急激な肉体の変化に耐え切れずに破裂し、大量の内容物と臓物をぶち撒けて命を落とした。



『愚かな……宿主を殺す様では寄生など叶う訳無いだろうに……力が強すぎたのだ……。』


「そんな……折角生まれた命なのに……。」



この場での異常さは、大怪鳥の雛が爆発四散しただけでは語りきれない。

幼いミセリコルデが、涙ひとつ溢さず、

この怪異的な事象に【慣れ】を見せている点も見逃せないだろう。


この中でただ一人、普遍的な価値観を有しているトーマスは、彼女の冷静な反応に、畏怖に近しい念を抱いた。



『哀しき生き物よ、せめて夢の中では安らかな微睡を得るが良い……。』


冥王は、元雛だったモノを、液状化する事で体内に取り込んだ。

シナプスを通し、細胞に残された記憶の断片が、僅かに流れ込んでくる。それはまるで、なくしていた半身を取り戻すかの様な危うい感覚であり、仄かな温もりすら感じる。


そして、ある真実を知り得た。


『小娘、この雛……。冥王因子が【覚醒】しておった様だ。』


「という事は……親鳥も【覚醒】していたの?」


『うむ。おそらくは親から子へ、受け継がれたのだろう。』


記憶の断片と現状を考察した結果、覚醒者の遺伝子と冥王因子には深い結びつきが存在し、種を残す際に紛れてしまうのだと、冥王はこの場で仮説を立てた。



『冥王因子は【個】を強くし、より完全なるモノへと昇華する特性がある。それは小娘も身をもって体験しただろう。』



「さっき説明は受けたが……。おれみたいな一般人には想像もつかない話だぜ。強くなり続ける存在だなんて、まるで歴史上の伝説にある騎士長【黄泉渡り】だ。」


「トム……。こんな事が今後も起こるかもしれない……。わたしは……」


「おっと、それ以上言わなくてもいいぜ。おれはお嬢ちゃんを案内する役を引き受けた。男が自分で決めた事だ。そう簡単には覆せないさ。」


トーマスを按じ、旅の同行を考え直す様、声を掛けたミセリコルデであったが、彼はそれを承知で決意を固めた。


「うん……。なんて言ったらいいのか……。ありがとう……で、良いのかなこの場合……。」



『……誰が招いたのかは不明だが、この世界で冥王因子が意図的にばら撒かれているのだとしたら、多くの獣どもは子孫を残す事叶わず……。遠くない将来滅ぶだろう。』


「おいおい、それって人にも影響あるんじゃあないのか?」



『確かな事は言えないが、影響が無いとは言い切れない。この一連の事象、余とは異なる冥王……【イウオール】の仕業と考えるのが妥当だろう。』



「わたしの力を狙っている組織の重要人物……。会えば何か掴めるかも。」


「冥王イウオールに、冥刻のドミニショニスか……どうなるかは分からないが、取り敢えずの指針は見つかった様だな。」



こうして三人は新たな目標を定め

前に進むことにした。


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