30.生きる為の強奪
金の大鷲による別働部隊を確かめる為
雪被り山へと向かうミセリコルデとヴェルト
途中、山賊の襲撃を退け、実戦を経た少女は
気持ちも新たに歩みを進めていた。
自身の足しか移動手段を持たない現状、別動部隊に辿り着けるのかは時間の問題であった。
予め、計画を立てて行われたであろう神子の奪還作戦。肝心の神子が予定時刻を過ぎても現れなかった場合、金の大鷲はその場から移動してしまうのは明白であった。
それでも向かうと決めたのは、神光教会から逃れるという目的も兼ねていたからだ。
『小娘、今は自身の体力を最重視するのだ。最悪、金の大鷲の正体が掴めなくとも、別の方法で対処を考えておく。』
「はい。」
ミセリコルデも、自身の燃費の悪さは承知している。彼女と冥王はこの旅路の中で、自らに起こっている事象の解明と、存命の手段を探すという目的が定められているのだった。
この件で、救世主を頼る手もあったが、冥王ヴェルトの案により保留となった。
自身が帰還するという目的を彼らの方に任せた方が、遥かに効率が良いと考えたからだ。
『この先で獣等が現れた場合、率先し、倒して食うぞ。小娘が保管出来ない分の栄養は余が蓄えておく。監禁されていない今であれば、食糧を探し放題だからな。』
「拠点で補充した食料は、数週間分ありましたけど、わたし達からしてみればそんなに多くはないですからね。むぐむぐ……。」
こうして話しているうちにも、ミセリコルデはパンを口にしていた。
人間が、1日の摂取カロリーで移動出来る範囲は大凡決まっているのだが、彼女の場合、基礎消費量は常人の3倍から5倍と考えると認識しやすいだろう。それに加えて運動量も加味すれば、摂取する栄養価は必然と多くなる。
雪被り山までの道のりには、ひとつ集落が存在している為、ふたりは休みながら向かう事になった。
『良いか小娘、貴様の肩書きは出稼ぎの傭兵という事にしておけ。偽名を使えば正体がバレにくくなる。その上で、雪被り山で採取の依頼があったとか適当な理由を付けておけば、村人は警戒を緩める筈だ。』
「う、うん。そうする。」
嘘とは自分を守る為の口実、手段に過ぎない。昔の経験から、冥王はそれを生存に必要なものとして取得しており、惜しむ事なく使う事にしている。
「雪被り山が近いせいか、この辺りは寒いね。この環境だと、宿屋が取れるかどうか不安だよ。」
『こちらには金品がある。多少色を付ければ問題なかろう。』
冥王の言った通り、金払いさえ問題なければ宿は確保出来た。
多少多めの金を掴ませれば、扱いというものは目に見えて変化する。
それはこの宿も例外ではなく、宿の主人は、上機嫌で一番上等な部屋を提供した。
冬季に備えた造りの家は暖かく、巨大な炉による、轟々と燃え盛った焚き火は、その地域特有のものだ。
「ふう……あったかい……。」
ミセリコルデは大型炉の前で暖を取り、長机で食事を待っていた。
「ちょっくらごめんよお嬢ちゃん。追加の薪を焼べるからよ。」
宿屋の従業員が、丸太を丸ごと大型炉に焼べる。宿屋全体に熱を広げるには効果的だろう。
夕食時に訪れ始めた来客の靴には、所々雪が付着しており、積もり始めているというのがうかがえた。
寒さからか、きつい火酒を注文する者も多い。
火を囲み、人々は酒を飲み交わして、吟遊詩人が歌う。一般的に雰囲気の良い酒場という印象を受ける。
「いい飲み仲間だ、蜂蜜酒を飲もう!」
何処かで聞いた事のある様なフレーズが辺りから響く中、ミセリコルデの席には次々と料理の山が築かれる。
「あいよ、お客さん。おまちどう。」
恰幅の良い女性給仕が最後の皿を運び終わると、ミセリコルデは食事にありつけた事に感謝し、口をつける。
山盛りのパンに壺シチュー、ステーキの盛り合わせに、水ワイン。
それを一定のペースで黙々と食べ続ける。
それが、巨大の男性であれば人は気にしないだろうが、ミセリコルデは少女だ。
如何に装備を着込んでいようとも、他人には奇異な目で見える事だろう。
広い宿屋ではあるが、彼女の食事は必然的に目立ってしまうものであり、それを揶揄う目的で近づく者も現れる。
「ひとりで随分と羽振りがいいじゃないかよお嬢ちゃん。おれにも一杯、奢っちゃくれないか?」
声を掛けてきたのは、真っ白な毛皮装備で完全な防寒対策をしている男であった。腰には手斧、背中には長槍と大型の弩弓が備えられてあり、猟師、冒険者、傭兵、山賊、破落戸どれとも取れる姿をしており、いちばんの特徴はなんといっても、その太くてたくましいもみあげにあった。
「もぐ……もぐ……。蜂蜜酒でいいですか?」
「えっ?本当にぃ?悪いねお嬢ちゃん。」
「おばさん。蜂蜜酒をひとつ。」
「いいのかい?アンタぁ……。こんな奴に酒なんか振る舞って……。」
女性給仕はミセリコルデだけに聞こえる様耳打ちをするが、その対応が、この男に対する評価なのだろうと分かる。
年若い少女に酒をたかる様な大男の評価が高い筈もない。
「いいんです。それと、お肉とパンのお代わりを。」
「いやぁ、話が分かるお嬢ちゃんだ!」
運ばれてきた蜂蜜酒をグッと半分飲んだもみあげの男は、改めて自己紹介をした。
「おれの名前はトーマス。仲のいい奴等はトムって呼ぶ。お嬢ちゃんもそう呼んでくれや。」
「わたしは、ミ……。ミセリ。」
「おう。よろしくなミセリの嬢ちゃん」
蜂蜜酒が入ったトーマスは上機嫌でミセリコルデに話題を振った。
彼がこの辺りで山狩りをしたり、猟をして生計を立てている事。左手を怪我してからは休暇に入っている事、今は薪割りをして日銭を稼いでいるなど自分語りを始めた。
「見てくれよこの純白の毛皮を!【ベアニトラス】のデカいやつを狩った時に仕立てたんだ!あれはもう奇跡としか言いようが無い戦いで……!」
普通ならば厄介な人物であると思い、早々に話を切り上げるところではあるが、ミセリコルデは冥王から提案を受けていた。
「この辺りで山狩りをしているという事なら、【雪被り山】にも詳しいですか?」
その話題を耳にしたトーマスは笑顔で答える。
「おうよ!そりゃあもう、15年くらい狩猟生活してるからな!あそこも庭みてぇなもんよ!近くには山小屋もあるし、季節になったらあそこで寝泊りするんだ。ここに卸している肉も雪被り山の獲物だぜ!」
トーマスは、彼女が今頬張っているステーキを指差して言った。
よく喋る彼の狙いがふたりには分かった。 羽振りの良いミセリコルデに、道案内として雇って貰うつもりなのだ。
宿を借りる過程で、依頼で訪れたという都度を聞かれていたのだろう。
そういう仕事に対する目敏さは、この世界を生きていく中で必要な技能だ。
何よりその仕事への姿勢と意欲は、どの様な理由にせよ邪険に扱うものではない。
「では、仕事内容は雪被り山での散策における、安全な道の案内とその為の斥候、という事でよろしいですか?」
「おう!あの辺は大型の獣も出るし、山の天辺には大怪鳥も生息している。左手は怪我してるが戦えない訳じゃない。期待してくれ。」
トーマスは全面的に自分を売り込んだ。
左手の怪我を隠さない辺り、仕事に対する現実性、堅実さを感じる事が出来る。
「分かりました。ではトム、貴方を雇います。これは前金です。」
「話が分かるぅ!」
トーマスはミセリコルデから差し出された革袋の中身を確かめ、息を飲んだ。
「こ、こんなに……?」
トーマスは少女に対し小声で質問をする。
「……こんなの悪人に見つかったら襲われちゃう額だよ?本当にいいのかい?」
「えぇ、前金です。残りは任務が終わってからお支払いします。この額から、色々と察して頂ければ嬉しいです。」
革袋の中には、ジアス小金貨が4枚入っていた。これはこの国の資産価値にして、ひと家族4年分の生活費に相当する。
この金額を開示され、
トーマスは心の中で自らを鼓舞した。
【この仕事は人生の転機だ】と
先立つ際に、まとまった金が有れば、
人生の選択肢は増える。座学を習うも、新しい道具を買うも【選ぶこと】が可能だ。
「……男トーマス。この巡り合わせに感謝し、命に変えても任務を遂行する事を誓おう。」
大金を目の当たりにして、この男はどう判断をするのか。ミセリコルデはトーマスという男を少し知ることが出来た。
「それじゃあ、明日の朝に宿まで迎えに来るから、早めに休むんだぜ!おやすみ!」
明日の打ち合わせを行い、トーマスと別れたミセリコルデは、宿屋二階のひとり部屋で準備を行う。高めの金額を払って取った部屋は広く、ベッドも3つあり、本来ならば多人数で使用する部屋である。
ミセリコルデは窓に一番近い端のベッドを寝床とし、装備や日用品を一纏めにして保管していた。これらの知恵は軟禁されていた時に教会の本で得たものである。
装飾には嗜好を凝らし、壁には金属盾や剣などが飾られていた。こうした実用性のある金属の壁装飾は、寝込みを襲われた時の防衛手段になどに用いられ、格式の高い宿には一般的に設置されているものとされている。
「シーツと掛け布団も新しい……。」
『久しぶりの安定した寝床だ。しっかりと休んでおくと良い。』
「部屋の隅まであったかい……。良いお宿だ……。」
『この宿の作りから察するに、全室に石の煙突を通している。そこに熱が流れ込んで……』
「おやすみ……。」
ヴェルトが知識を披露する間もなく、ミセリコルデは軽装備のまま眠りについた。疲労が蓄積していたのであろう。
『どれ、余も眠るとするか……その前に……。』
ヴェルトは、大鼠形態で部屋の中を調査した。鍵も内側からしっかり掛けられており、安全を確認した後、【ある事をしてから】眠りについた。
そして夜が明ける直前、事は起こった。
ふたりが寝静まってからおよそ6時間後、内側からかけていた部屋の鍵が突如として開いた。静かに扉を開けられ、侵入者が部屋へと侵入したその瞬間
『ガシャァァァン!ガランガラン!!』
「ぐわぁぁっ!!」
扉の前に吊るしておいた金属の盾を盛大にひっくり返す音と男の悲鳴が響いた。
『来たか!』
ヴェルトは飛び起きると、部屋の隅にある照明の蝋燭へ、一斉に火を付けた。
音によって飛び起きたミセリコルデもすぐ様覚醒をし、侵入者の正体が明らかとなる。
「まさか……!宿屋の主人!?」
「くっ……!」
罠に掛かった店主の右腕には、鉄の盾で付いた傷と、【黒い蹄の焼印】が存在していた。
『やはり、賊であったか……。どう言い繕おうとも、その手に短剣が握られている以上、取り返しはつかないぞ。』
「まさか護衛に、喋る大鼠なんてのが居たとは計算外だった。お前達!力尽くで取り押さえろ!」
『遅い!』
合図によって、荒くれ者達が続々と部屋の中へと入ろうとするが、ヴェルトが放った【滅】の炎によって阻止される。
「な、なんだと!?」
主人達の意表をついた隙に、ミセリコルデは、荷物を担ぎ上げ、ヴェルトを肩に乗せたまま窓から逃亡した。
滅炎は宿屋内を駆け巡り、ものすごい勢いで火の手が回った。その所為で彼らは宿屋の消化作業に追われる事となり、ミセリコルデを逃す事となる。
「ちくしょう!なんてことしやがる!野郎ども!あのガキから金品を根こそぎ奪え!俺が行くまでは殺すんじゃねぇぞ!!」
主人の命令で複数の男性がミセリコルデの後を追った。
「絶対に逃しやしねぇぞ!!」
追手を一時振り切った事により、装備を整えたふたりは、走りながら作戦を練った。
「この後どうするの!?」
『近くの森に逃げ込もう。狩人の山小屋があの辺だった筈だ。敵の規模が分からん今、正面きって戦うのは愚策だろう。』
積雪の所為で、足跡が確実に残ってしまう為、見つかるのは時間の問題だと理解出来た。
『足跡に細工する時間はない。狩人の下へ行くぞ!』
「はい!」
「あれ?お嬢ちゃん、どうしてこんな所に?」
「トムこそ、どうしてここに?」
「おれは、夜明けに合わせてお嬢ちゃんに防寒着を届けようと……。」
雪道を走る事数分、森の方角から防寒武装を整えたトーマスと鉢合わせた。
「話は後で!村人がわたしの金品を狙って押し寄せてきます!森へ案内して下さい!」
「お、おう!なんか分からんが承知した!」
トーマスの案内で森へと入る一行は、彼の指導で茂みから茂みへと飛び移り、足跡を残さない方法を使って奥へと逃げ隠れた。
猟師しか知らない入り組んだ道に、小川を越えて茂みを抜けると、痕跡はほぼ残らなかった為、捜査はかなり難航する事となる。
1時間後、高台から様子を探ると、
巨大な松明を持った村人がおよそ50人、
男手が総出で山狩りの準備をしていた。
トーマスの案内で、普段から利用している見晴台を利用し、一行は休憩を行なっていた。
「しかし、おれの知る限り、宿屋の主人らは野盗の様な真似をする人達ではなかったが、この状況が何よりの証拠だろう。」
「わたし1人から奪える金品なんて、大した事ない筈なのにどうして……。」
『あの男達、様子がおかしかった。取り憑かれている。という表現は正しくないが、どこか、存在が揺らいでいて危うかった。それに垣間見えた【黒い蹄の焼印】』
「お嬢ちゃんの肩に乗ってる鼠が喋っている事に対して、おれは一応驚いた方がいいのかね?」
『そんなのは後にしておけ。狩人、この位置は特定され難いのか?』
「ココは風下だし、おれが獲物を探す時に使う隠れ家だ。他の奴は知らねぇ。煙突も遠くまで延びてる。」
『とりあえず、戦うにしろ逃げるにしろ、小娘を休ませてやりたい。その隙に余が偵察をしてくる。』
「ヴェルトひとりだと危ないよ。」
力の一部を取り戻した冥王だが、
先程逃げる際に【滅炎】を使用した為、移動、攻撃共に万全とは言えず、誰かの助けなしではこの雪道を越えることは難しいだろう。
『しかし……こう後手後手では……。』
「ならば、おれがついて行こう。山道なら任せてくれ。」
『ふむ……。』
しばし、思案を巡らせた冥王はトーマスの案内で見晴台を移動する事となった。
猟師ひとりの行動は、正確さと速度に長け、気配、痕跡ともに申し分なく移動が叶った。
冬に活動する獣の領域を避け、
トーマスはヴェルトを肩に乗せた状態で、先程の見晴台から別の場所へと移動した。
崖下から遠目に見下ろした先には、5人1組で間隔を開け、山狩りしている村人の様子が窺える。
彼等は周囲の枝木を容赦なく鉈で切り倒し、視界を確保している。
『狩人よ、村の連中を見た所、奴等は山の探索に慣れていない様子だが、あれは問題ではないのか。』
トーマスは村人の浅慮な行動に対し、少しばかり訝しんだ。
「彼等は本当におれの知っている人々なのか……?麓の集落では自然に生かされている事を感謝しながら生活している。あれではまるで山賊や破落戸ではないか……。」
『狩人がそう思う程の奇怪な行動……。なにかあるか……。』
「この時期、野生動物は一部を除き、冬眠に入るが、あの人数で山狩りをすればどうなるか分からない。せめておれらは獣たちを刺激しない様、立ち回るしかないだろう。」
しばし、村人達の観測を続けていると、遠くから光が反射するのが目に付いた。
「なにか……光っているな……。雪の反射か……?」
『……狩人、移動するぞ。あれは【望遠鏡】だ。どうやら補足されたらしい。』
「そんな!この距離で!?」
ヴェルトの言う通り、村人達が合流して集まり始めている。距離と高さがあるとは言え、あの数で囲まれればジリ貧となってしまう。
『昨夜のことは既に知れ渡っているだろう。いつも居る山小屋に、狩人が居なかった事などを踏まえると、貴様が疑われる可能性は高い。逃げるぞ!』
「おれも、そんなに嘘が上手いわけじゃない。捕まればそれと無くお嬢ちゃんを庇ったことがバレるだろうなっ!」
トーマスは雪道を滑る様に移動し、数ある拠点を渡り歩いて地の利を活かした。
そうして村人を疲弊させたと思いきや、勢い良く茂みを抜けた先で、武装した団体と鉢合わせてしまった。
「怪しい人物発見!直ちに拘束せよ!!」
武装集団は続々と集まり始め、その外套には金の大鷲が記されている。
「ふぁっ!?なんだアンタら!?このおれを天下の猟師、トーマスと知っての狼藉か!?冬のこの区画は、領主の許可無く入ってはならんのだぞ!」
「地元民だ!捕まえろ!」
「ちくしょう!」
トーマスは地面に煙玉を叩きつけ、煙幕にまぎれて踵を返し、再び茂みへと突き進んだ。
金属の装備を着込んだ連中が、山に慣れている猟師の足に敵うはずもないが、ここで来た道を引き返した事で村人達の気配も近くなった。
「あっ、ヤベッ!」
トーマスは右の茂みへと飛び、足跡を途切れさせた後、擬態をして背景と一体化した。
光源が少ない深森の中で、息を殺し、白い装備をしたトーマスを探し当てる事は、困難と言える。
そうした結果、村人と武装集団が顔を合わせることとなってしまう。
「なんだお前ら!」
「姿を見られた!全員を拘束しろ!!」
「なにしやがる!野郎ども!やっちまえ!」
あわや、乱闘騒ぎへと発展すると、少し遅れてひとりの人物が現れる。
「【争いを止めよ】」
会合一番に発せられた言葉は、争いを宥めるものであった。
しかし、その効果は想像よりも遥かに強力なものであり、それは最早強制であった。
姿を露わにした人物は、黒紫色を基調とした法衣と煌びやかな装飾を見に纏っていた。
「おや……誰かと思えば……この感覚……。【与奪】の眷属達ではないですか……。そういえば、彼の担当区域がこの辺でしたね……。山賊の魂を……成る程成る程。」
「な、なんだ、アンタは、お頭を知っているのか……?」
「申し遅れました、ワタクシは【金の大鷲】ドミニ・ショニス。【征服】を司る者です。【与奪】のドミニ・ショニスは何処へ?」
「お頭は別行動だ。二手に分かれて山狩りをしている。」
「キミタチの目的は?」
「お頭には口止めされている。言えねぇ。」
「たかだか【与奪】の分際で【征服】のワタクシに逆らうなど……。ふぅーっ……。悩ましい……。」
己の肩を抱き締め、怒りを沈める【征服】
「まぁ、いい。アンタはお頭の知り合いみたいだから、詳しくは合流してから直接聞くといい。俺たちは先を行かせてもらう。」
「何をそんなに急いでいるのかは知りませんが……。あそこで息を潜めている男と関係ありますかね?」
【征服】のドミニショニスが示した先は、真っ直ぐとトーマスを指していた。
「ちっ……!」
身を潜めたまま、再び煙玉を投げようと構えたその時、皆が意識を向けた反対側から突如として、大きな悲鳴が上がった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ベアニトラスだ!!」
熊科の体躯を彷彿させ、真っ白な毛の獣が、茂みを突き破って襲い掛かる。
振り回した腕が人の身体に命中すると、鈍い音と共に人ひとりの命を消し飛ばした。
体長は3メートルを優に超え、立ち上がれば大人と子供程の身長差が生まれる。
「よくも仲間を!死にやがれ!」
村人が炎を纏った巨大松明をベアニトラスへと振りかざすが、それも一撃でへし折られる。ベアニトラスには炎に対する恐怖心が微塵も存在しない為だ。
「ふむ、全員撤退。与奪には悪いですが、彼らを囮にして拠点まで戻りますよ。」
その様子を見ていた【征服】は冷静な判断で即座にその場を撤退したが、村人達は仲間を殺されて怒りに震え、それぞれの武器で応戦しだしたのである。
「準備や大型罠も無しにベアニトラスを倒せる訳がない。村人には悪いが、おれらも逃げよう。」
乱闘の隙を突き、トーマスも雪に紛れてその場を離れた。
『もっと情報を引き出したかったが、致し方あるまい。狩人よ、一旦小娘の所まで戻るぞ。』
「了解、人使いが荒いお鼠様だせ、全く……。」




