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紅の救世主  作者: メアー
4章.未だ見えぬ悪意
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26.撃破





雪被り山頂上。


うっすらと積もる雪原の中、大怪鳥ガルデルダとの戦いは始まった。



対象があまりにも巨大な為、攻撃は全て当たるが、ダメージを通す事が叶わない。


数度、超重厚戦鉈・破で斬りつけようとも、その分厚い羽と筋肉が威力を分散させてしまうのだ。


翼で薙ぎ払いを放つと、同時に突風が発生。

風に煽られ、下手をすれば崖から転落という恐れもある。


そして霜と雪に濡れ、不安定な足場。豊は足場を確保しながらの戦闘を強いられるのだった。



「高所での戦いは経験が少ない……。想像した以上に呼吸が……!」


エレベーターで一気に登った事による気圧の変化、薄い酸素と低温が全て敵となる。


この環境下で、大怪鳥の嘴、鉤爪、翼での攻撃を回避し、反撃を行わなければならないのだ。



「……身体強化は迂闊に使えない。もし、奴が空中に逃げ、時間制限いっぱいまで飛び回ればそこで詰み。勝ち目は無くなる……!」


身体強化、時魔術、破壊攻撃。

全てを完全に同調させなければ勝機は無い。


『この寒空を、あの図体で動き回るのだ。奴だって相当体力を消耗している。しぶとく粘って奴の力を削ぎ、一撃を撃ち込むしかあるまい。』


「あぁ。」



大怪鳥は飛翔し、大きく旋回する事で、慣性を味方にしようと画策していた。


「あの図体で加速すれば、かなりの破壊力が望めるだろう。しかしそれはこちらにとっても好機。」


『うむ……。おそらくは加速と体積を利用した突撃だろう。そうなれば奴は容易に軌道を変える事は出来ない。』


「よって、追撃の隙が生まれる……!」



豊は自分の足を地面に固定し、滑落を防ぐ。

それと共に、攻撃の威力を分散させない試みだ。


「ほんの一瞬。【エクストラ・フォーゼ】の効果を100倍にまで跳ね上げる。そうすれば疑似的に【メタボ・ル・フォーゼ】と同等の出力が望める筈だ。」


『消費を抑え、相手の力を利用した特大の反撃だな。ならば、我は奴の動きに遅延を仕掛ける。胸元を開けておけよ。』


「了解……!」


『来るぞ!』



十分な旋回行動の末、たっぷりと慣性を味方につけた大怪鳥は、豊目掛けて突進を行った。


翼を折りたたみ、空気抵抗を極限まで減らした攻撃は予想を遥かに超える速度だった。


『くらえ!【Cビーム】!!』


紅玉から高出力の収束電撃光線が放たれる。

勢いの乗った状態では回避行動は取れず、空中では電撃を体外に逃す事も叶わない。


『グクルルルァァ!!!』


脊椎動物であり、神経伝達器官が存在する以上。生物は電撃の力に逆らう事は出来ない。


逃げ場を失った電気は、命令系統を破壊し、筋肉の痙攣と硬直を繰り返す。

そこに待ち構えていた攻撃が繰り出される。


「全部乗せじゃいっ!!」


【身体強化】【時魔術】【破壊攻撃】

全てが統一されて調和した時

豊の攻撃力は何乗にも跳ね上がって、大怪鳥へと襲い掛かる。




まるで寒天を砕くような手応えと破砕音。

大怪鳥は頭を全て破壊され、そのまま滑空。

山を滑り落ちていった。


「……いっ……てぇ……!」


身体強化し、グルカニンブルで押さえ付けても尚、衝撃の反動は凄まじいものであった。

豊の両腕からは血が滴り、まともに動かす事は叶わない。


『応急処置はしてやる。コレはかなりの休養が必要だな。』


「あぁ、ゆっくり湯治して……ぐわっ!?」



思わず、目を塞ぐ程の強風が吹き荒び

豊とカイパーは再び警戒へと入った。


何故なら、羽ばたく音を轟かせ

【新たな大怪鳥が目の前に現れた】からだ。



大怪鳥は怒りに燃え、金切り声を上げながら威嚇を行なっている。

その頭には立派なたてがみが生えていた。


「そりゃあそうか……番いがなければ子孫は増えないもんな……。いけるか冥王。」


『救世主よ、先程の攻撃で【破】の刀身が歪んだ。修復しようにも時間はない。』


「【壊】もまだ直ってないのに【破】もこのあり様か……。どうする?」


『我も先程の【崩】で小僧を守った為、融合武器【暗黒戦斧・崩壊】は作れぬ。ならば……』


「別の【融合】試してみるか……!」


『よし【撃】の力を解放する!集中しろ!』



豊は両手に【超重厚戦鉈・破】を構え

意識を集中させる。視界の端に捉えた力の流れに乗り、【スピリチュアルパワー】を意識する。


両腕と戦鉈を巻き込み、融合を果たす冥王。

その姿は歪であり、禍々しい力を放出して尚、圧倒的な死の恐怖を孕んでいた。



この気配を察し、大怪鳥は一瞬怯んだ後、狂気で己を鼓舞し、旋回を開始した。


「機動性のある【崩壊】とは違う……。差し当たって、前例に沿って命名すれば、【暗黒戦鉈・撃破】ってところか」


『【撃破】か、打ち破る事を前提とした名であるな……。幸先が良さそうだ。見たところ、性質は攻撃一辺倒のようだが……この場においては都合が良い。』



2mを超える圧倒的な刀身と30㎝超の厚み。

分厚い羽の様な【外部機構】と重量。

巨大な竜すらも両断出来そうな迫力がある。


『来るぞ。制御はこっちでやるから好きに戦え。』


「よし……とは、言ったものの……。」


豊はこの時点で両手に違和感を感じていた。

【撃破】が巨大な刀剣であるならば、取手の握りが刀と同一方向に向かなければならない。それに対して彼の手は平行、【順手】で固定されている。


「こんな握りで武器が触れるわけないだろ……。何処かにギミックがある筈……!」


『来たぞ!』


「うぉぉぉぉ!!」


恐るべき速度で突撃してきた大怪鳥に対し

豊は力任せに【撃破】を振るが、命中したのに対して結果が現れなかった。


高い反響音が辺りに響き、先程の違和感は確信へと変わった。

大怪鳥は再び、天高く舞い、旋回を始める。




『何故弾かれた!!【撃破】は刀剣ではないのか!?』


「今の攻撃で分かった事がある。この長い刀身は、おそらく……【砲身】だ。」


『なんだと!?』


先程の攻撃で手元の機構が変形し、グルカニンブルの紅玉部分と接続されていた。


衝撃時の高い反響音は、砲身が空洞である事で生まれたものである。


【撃破】は力によって振るわれる刀剣ではなく、エネルギーを弾丸に変換し、放出する為の【砲身】であり、使用者はそれを支える【砲塔】なのだ。



『故に、持ち方が順手で固定されていたのか……。』



「なんて大雑把な兵器なんだ!照準器や計算機も無しに飛んでる鳥を撃ち落とせというのか!」


『やるしかあるまい!案ずるな!確実に当たる方法はある!』


冥王の言わんとしている事は、自ずと理解出来た。照準が定まらないのであれば、躱せない状況から撃てば良いのだ。


「【接射】しかないか……。」



大怪鳥は攻撃を加える際、真っ直ぐこちらへと飛んでくる。それによって、またしてもふたりは危ない橋を渡る羽目になるのだ。


『この兵器、おそらくは我の収束電撃光線、【Cビーム】を基としたものであろう。エネルギーはこちらに任せ、貴様は機を見て引き金を引け!』


「……分かった!」


先程よりも余分に大きな旋回を行い、蓄積した慣性と加速。それが自重と抵抗を味方に付け、突進してくる。



『装填完了!引き寄せろ!』


「今度こそ終わりじゃい!!」


引き金を引くと、羽が展開し、地面へと突き刺さる。【撃破】の内部機構から、けたたましい駆動音が鳴り、砲身へと圧縮エネルギーが注ぎ込まれ、反動と共に弾丸がマズルを通過した。


鼓膜を10枚連続でブチ破る様な、想像を絶する衝撃音が発生し、真空波と衝撃波も後に続く。


肝心の大怪鳥は、収束した電撃の弾を受け、一瞬、溶けた金属の様に融解した後、蒸発。消炭すら残すことなく消滅したのだった。


収束弾が通過した空は、雲が吹き飛び、

一筋の光は大気圏を離脱して、宇宙へと消えていった。


【撃破】は自身の役目を終え、融合を解除し、本来の形へと戻る。


「咄嗟に冥王が守ってくれなかったら、頭が破裂して死んでいたのでは……?」


発射の直前、カイパーは【撃破】の威力とその影響を察し、豊の頭を守ったのだった。




『ふははは!何という威力だ!現役時でも個別兵器でこの威力は出した事はないぞ!』


急死に一生を得た豊とは異なり、冥王は【撃破】の威力にご満悦であった。


撃破が放たれた跡地は、熱と衝撃波で吹き飛び、周囲に存在していた草木を全て吹き飛ばし、焼き尽くしていた。


怪鳥の巣も衝撃波の影響を受け、丸ごと何処かへ吹き飛んだ様子である。



「騎士殿!ご無事でしたか!先程の爆音は一体……。」


騒ぎが終息した事で、ロンベールとフラウが登ってきた。高低差があった為、ふたりとも無事である。


「ご指示通り、昇降機の中に隠れておりました。どうやらガルデルダを討伐したご様子。わたくし、感服いたしました。」


「いやぁ……ギリギリでした……。すみません、手を貸して頂けたら嬉しいのですが……。」


豊はその場にへたり込み、呼吸を整えている。傷付いた両腕は上がらず、今は自分で汗を拭う事も出来ない。



『……いかん、今回のでビームを2回も撃ち込んでしまった……。エネルギーが極端に低下している……。ダムで補給した電気エネルギーを全て失ってしまった……。』


「早く帰ってラーメンでも……。いや、……冥王。アレを見てくれ。」


豊が指差した先、ビームの余波で吹き飛んだ山頂に、ただ一つ。


熱と衝撃波に巻き込まれたにも関わらず

傷ひとつ負ってない建築物が残されていた。







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