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紅の救世主  作者: メアー
4章.未だ見えぬ悪意
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25.大怪鳥




突如として会場を襲ったのは

王都より北の山に住う大怪鳥だった。


「ば、馬鹿な!この王都にガルデルダが出現するだなんて!!」


ダルベールは驚きを露わにするが、来賓に向かって即座に避難指示を出した。


「皆の衆!下がって屋敷へと逃げ込むのだ!衛兵!!衛兵!!であえい!!」


会場はパニックと化し、逃げ惑う人々でごった返した。人々は皆、ガルデルダの恐ろしさを伝承や唄、物語等の形で知っている為

取り乱すのは必然的な状況と言える。


ダルベールの武装私兵が続々と現れるが

大怪鳥の羽ばたきにより生まれる激しい風圧によって、一切の身動きが取れないでいた。


「【エクストラ・フォーゼ】!!」


その中でひとり、豊だけが身体強化によって風圧に耐え、大怪鳥へと向かってゆく。

「うおぉ……!まるで台風の中だ!」


身体強化を行なっても尚、攻撃に転ずる事が出来ない。この強風の中で、地面から足が離れれば、一瞬で吹き飛ばされてしまうからだ。



『コルルルァァ!!!!』


続けて奇声が発せられ、その振動数によって人々の身体が硬直する。圧倒的な捕食者から発せられる負荷にはなす術がない。


「なんだ、この異様な重圧は……!これはまるで……!」


全員の無力化を確認した大怪鳥は真っ直ぐ、散乱した料理を啄み始めた。


それは主に、豊が冥王醤油で作った料理である。山盛りのおにぎりが次々と胃袋に収められる。


「おのれガルデルダ!!わしの屋敷をめちゃくちゃにし、客人に危害を加えるその行い!決して許さぬ!!」


風圧が収まった事で、身を奮わせたダルベールは立ちあがり、刀剣を振り回す事で自身に注目を集めた。全ては他者を逃し、隙を生む為である。


彼の指示により、多くの弓兵が物陰に待機している。


大怪鳥は食事を取りやめ、ゆっくりと公爵へと近付いてゆく。


「うぬの思い通りにはさせぬぞぉぉぉ!!」


屋敷に避難したフランソワも、父の勇姿を目の当たりにして涙を流している。この絶望的な状況でも、ダルベールは諦めず、客人を守ろうとしているのだ。


そして一閃、ガルデルダの鋭い鉤爪が公爵を狙った。

「【ヘイスト・アクセル】!」


次の瞬間、刀剣は爪によって切断されたが、ダルベールは自身の身体が無事な事に気が付いた。


間一髪であった。

強化の上に加速を乗せ、稲妻の様な速さで、豊は大怪鳥の攻撃から公爵を救い出しており

それを公爵も即座に理解した。

「今じゃ!!!」


合図と共に、物陰から公爵私兵の矢が一斉に放たれる。


『コルルルァァ!!!』


咄嗟に、大きな翼で顔を守る大怪鳥。

矢は分厚い羽に阻まれ、全てが打ち落とされた。


その場で大怪鳥は羽ばたきを始め、再び風を生み出し。私兵達を蹴散らすのと同時に、走って飛び立つ加速を始めたのだった。


「奴が逃げるぞ!矢で追撃するのだ!」

追撃によって逃亡を促し、痛みと恐怖によって人間の恐ろしさを示す。獣相手には常套手段であった。しかし


「う、うわぁぁぁ!!助けてぇ!!」


突如として響き渡る悲鳴、大怪鳥が加速したその先には、逃げ遅れた者がいたのだ。


「あ、あれは!ハーバリー家のフラウ御子息!!」


「くそっ!術のクールタイムが……!」


急いで公爵を下ろし、飛び出すも

先程、ダルベールを救う折に時魔術を使用した為

身体強化だけでは豊の手は届かず、

不完全な疾走は空を切った。


大怪鳥は、転倒したフラウを足で掴み上げ

そのまま飛び上がったのである。

一度の羽ばたきは強風を生み、辺りをなぎ倒して一気に上空へと駆ける。


「弓兵!撃つな!御子息に当たる!」

態勢を立て直した弓兵だが、フラウの存在もあって、下手に矢を放てない。



「坊っちゃまっ!今お救い致すっ!」


「じいや!」


疾風怒濤。駆け付けた執事ロンベールは、素早く細身の剣を抜き、屋敷の壁と庭の木を足場にして大怪鳥へと飛び掛かる。


「せいっ!!」


ロンベールは加速を乗せて刺突を放ったが

空中の相手には効果が薄く、分厚い羽と筋肉によって攻撃は防がれ、剣が折れる。


「ぐっ……!!」


「じいやっ!!」


攻撃は不発に終わるも、ロンベールが時間を稼いだ事で冥王が到着し、豊に指示を出す。



『救世主!我を投げろ!急げ!』


「冥王!頼んだ!!」


『形態変化、【撃】!』

カイパーは即座に戟形態へと変形し、それを豊は全力で投げ飛ばす。


しかし、怪鳥はみるみる上空へと飛翔し、その距離は縮まらない。


『舐めるなよ鳥風情がぁ!!』


冥王が紫に発光し、戟形態が一瞬、限界を超えて伸長する。内部エネルギーを消費した突発的な細胞の成長である。


結果、刃は大怪鳥の翼へと突き刺さる。

更には体を変形させ、本体を大怪鳥に巻き付かせた。


『クルルルァァ!!』


『このまま体液を吸い上げてやる!』


傷口から侵入を試み、液状化した瞬間。

大怪鳥は空中できりもみ旋回を行い、冥王を振り落とそうと不規則な飛行を繰り返した。


『ええい!この鳥、冥王因子に抵抗がある。こいつも【覚醒】しているのか!』


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

冥王が攻撃を続ける事で、大怪鳥は激しく暴れ、その結果フラウ少年は危険に晒される。

この高さで落下すれば死は免れない。


『……仕方あるまい……!』

少年の保護を優先し、冥王は攻撃を中断。

大怪鳥はそのまま、北の山へと飛び去った。



冥王が空中で交戦していたその頃、

屋敷内の会場では、拐われたフラウ少年を如何にして救出するかが話し合われた。



「【大怪鳥ガルデルダ】……天空の覇者と呼ばれるジアス国の怪物……。記録では20年前にインペリアルガード【隻腕のウォレン】によって退治されたが、彼もまた大怪我を負った……。あの山を登り、大怪鳥を倒せる者は……。」


「あんな史実上の怪物相手では、流石に軍の兵でも……。」


皆が沈黙した。インペリアルガードですら手古摺る相手を、一体誰が倒せるのか

各部隊は地方に分散されており、呼び戻すには数週間は要するだろう。


「た、頼む!誰か息子を!フラウを救ってくれ!褒美なら望むだけ払う!誰か!」


ハーバリー家の当主は、泣き崩れている夫人を支えているが、その手は震えている。

望みが薄いと云う事が分かっているのだ。


現実的に、ガルデルダに【捕われた者】が助かったという前例がない。

奴は繁殖期に家畜を襲い、栄養を蓄える性質がある。つまりフラウは【餌】として捕まったのだ。



「今から追えば間に合うかもしれない。僕が行きます。」

話し合いが行われていた最中、屋敷へと戻り

豊は既にグルカニンブルを装着。

武装を完了させていた。


誰もが望みを捨て、失落の中にいたのに対し

たった1人、彼だけは着実に準備を進めていたのである。


「く、紅の全身鎧……!まさかあの……!頼む!騎士殿!私の息子を救ってくれ!」


王都では既に【紅の騎士】の噂は広まっていた。ハーバリー卿は藁をも掴む思いで、豊に息子を託したのだった。



「紅の騎士殿、坊っちゃまの救出、是非わたくしにもご助力させて下さいませ。」


名乗りをあげたのは老執事ロンベール。

彼もまた礼装から鎧へと装備を改めていた。

青と黒を基とした、薄手の美しい全身鎧だ。


年季ものではあるが、その丁寧な仕上がりと無数の傷が、戦いの歴史を表している。


「ロンベール……。既に老体である貴殿に幾度も頼らなければならないなど……。不甲斐ない主人を許してくれ……。今回は……今回はだけは……!【蒼い狼】に……!」


「承知いたしました。旦那様。」


思いの丈全てを言葉に出来ない程に、ハーバリー卿は精神的な負傷を追っていた。

その様子を真に汲み取り、白髪の老騎士はその目に熱い力を宿したのである。




「紅の騎士殿。先程は遅れを取りましたが、必ずお役に立ちます故、どうか……。」


豊の目を見つめる老騎士の瞳は鋭く、

年齢に見合わぬ力と気迫を感じた。



「分かりました。それでは、道中の道案内をお願いします。」


「かしこまりました。移動にはハーバリー家の名馬をお使いください。ご用意致します。」


こうして豊は、老騎士ロンベールに案内され

【大怪鳥ガルデルダ】の棲まう北の山を目指すこととなった。



「ハーバリー家の名馬は特別な早馬です。北の山へは八半日(3時間)もすれば到着出来るかと。」


「本来なら入念な準備をする所ですが、今は火急的速やかに行動せねばなりません。ロンベール殿、道中で山の詳細をお教えください。」


「御意」



セントジアス北の山、通称【雪被り山】


その標高の高さ故、一年中雪を被っている事から名付けられた山であり


古代人の痕跡を多く残すこの山は、山道がある程度整備されている。


「一万階段……まさか登る日が来ようとは……。しかし、これも坊っちゃまを救う為。命を賭けて挑まねば……!」


一万階段と呼ばれる険しい山道は、実際に登って数えた訳ではなく、1000数えてもまだ先が果てなく残されていた故、付けられた名である。


ふたりが山の入り口に差し掛かると、遠目に巨大な碑石らしき物が現れた。

それは、近づく事でより大きく存在感を表し、不思議と風化した様子が見られなかった。


「……これは。」


「古代人が残したとされるものですな。長年研究されておりましたが、未だ解明されておりません。それよりも早く坊っちゃまを救わねば……!」



「少し待って下さい……。何か手掛かりがあるかも……。この文字見覚えが……。」


「ふむ、それでしたらわたくしは、馬を休ませるために繋いでおきます。走りっぱなしで我々にも負担が掛かっておりますからな。」




豊は記憶を遡り、碑石の文字を読み解こうと試みた。そして、思案の末に予想だにしない真実が浮かび上がったのである。


「……どうして【神界共通文字】がここにあるんだ……。いや、それよりも【頂上直通昇降機】とは……。」


碑石に記された文字を読み解くこと数分。

内容としてはこの山の目的と、頂上直通エレベーターの存在を示す記述だった。


「ロンベール殿、こちらへ。上手くいけば一万階段を攻略出来るかもしれません。」


「それは誠ですか!」


「この碑石によると、脇道の林を抜けた先に裏道があるとの事です。行ってみましょう。」


道を外れ、林の中を進むと木々に隠れた扉を発見。くまなく調査を行うと、操作パネルが起動し、扉が開いた。

照明が点灯し、内部が明らかとなる。


「なんと……触れずに開閉する扉とは……。よもや頂上へと続く道が?」


「えぇ、恐らく……。先程の碑石に、古代人が残したであろう、頂上へ繋がる昇降機があると云う記述がありました。……以前、ダムで見たパネルに似ている……。これなら感覚で操作出来そうだ。」


豊たちは、扉の先にあった畳二畳程の部屋へと入り

パネル操作によってそれを動かした。

大きな起動音と共に、部屋が動き出す。


エレベーターの速度は早く、それでありながら慣性による圧力を感じる程であった。


「ロンベール殿、この様子ならすぐに辿り着きそうです。戦闘の用意を。」


「騎士殿、最悪の場合、フラウ坊っちゃまの亡骸を抱えてお逃げ下さい。わたくしが殿しんがりを務めます故。」


「そうならないよう最善を尽くします。ガルデルダの相手は僕がしましょう。」


エレベーター内では緊迫した空気が流れていた。到着した先の情報が無いのも理由のひとつではあるが、何よりも人質が無事かどうかも不明であるからだ。


到着の合図らしき短い音が鳴り、扉が開いた。それと同時に高所特有の冷たい風が吹き付け、ふたりは目を細めた。


十分な広さの足場に、風化した石の階段。

辺りを見渡せば、自分達が雲の上にいる事が明らかとなった。


「……道理で寒い訳だ。酸素も薄い。」


現時点からは怪鳥の巣らしき物は見当たらない。照りつける日の光がとても近く感じられる。それ程、この山の標高は高いのだろう。



「もしや、昇り過ぎてしまったのでしょうか?」


「もう少し詳しく探索してみましょう。」



風の音に殆ど掻き消されているが、

注意深く耳を澄ますと、遠くで怪鳥の嘶きと、金属音が聞き取れた。


鳴き声を頼りに更に山を登ると、頂上付近の広い高原に巨大な巣が存在していた。


暖をとる為の資材や金銀財宝。

二つの巨大な卵に獲物の死骸。

どれもガルデルダが蓄えたものだろう。


巣の中には冥王とフラウの姿もある。


『このっ!忌々しい阿保鳥がぁ!ぐっ!!いい加減にっ!!諦めろ!!』


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!怖いよぉぉ!じいや!じいやぁ!」


『クルルルァァ!!!』


冥王がフラウを庇い、崩刃を展開させてシールドを形成しているが、大怪鳥はその上から嘴で、容赦無く攻撃を仕掛けている。


豊は手筈通り、ロンベールに合図を送って奇襲を仕掛けた。


「こいやぁぁぁあ!!!!」


大声を放って注意を逸らし、その間に救出を試みる。フラウはロンベールの姿を確認すると安堵した様子でしがみつく。


「じいやぁ!来てくれたぁ!!」


「坊っちゃま、急いで脱出致します。お掴まりください。」


フラウを抱えたロンベールは、そのまま山を降ってエレベーターの場所へと向い、戦線を離脱した。



『救世主!小僧は離脱した!我々はこいつの後処理だ!!』


「分かった!」


冥王は豊と合流し、紅玉へと身を潜めた。

『小僧を守る為に力を使い過ぎた。補充するまでなんとか持ち堪えろ。』



「それは、倒してしまっても?」



『できるものならな……。』


軽口のひとつでも叩きたい場面ではあったが、冥王の一言で身が引き締まる。

「こりゃあヤバそうだな……。」



天空の覇者、【大怪鳥ガルデルダ】との戦いが始まろうとしていた。

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