表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅の救世主  作者: メアー
4章.未だ見えぬ悪意
PR
19/51

19.停滞と発展

豊視点


ペロリーノ司教から漏洩した情報によって

不正な教会への勧誘行為、及びインペリアルガードであるイゾルデ暗殺未遂の件により

神光教会は、法務局によって審問を受けていた。


本人が行方不明である為、ペロリーノに最も近しい存在とされる弟

司祭【チュルチュック・シャブリック】が審問台へと立たされる。


しかし、チュルチュックは兄のペロリーノよりも遥かに能力が低く、事情を全く知らなかった。真偽を見抜くオーパーツ。【真実の鐘】を持ってして、それは明らかとなった。


続けてペロリーノ司教派と呼ばれる全ての一派が、拘束と審問に掛けられたが、驚くべき事に誰にも司教の行方が分からないという。

兼ねてより、謎が多い人物と知られていたが、余りにも情報がない。

いや、【なさ過ぎた】のだ。


まるで関係者全てから、司教の記憶を抹消したかの様に不自然だった。


ペロリーノ司教との関連性が明らかにならねば

審問に招く事も【真実の鐘】の使用も不可能となる為、捜査は難航していた。




そして無情にも時間が過ぎ去ったある日。

調査から2日目にして深夜

【ペロリーノ司教】の惨殺死体が発見されたのだった。


これにより、ペロリーノ司教に関する全ての事件概要が調査不可能となり、ミセリコルデの足取りも掴めなくなったのだった。



「……困った事になった。」


豊は滞在の間イゾルデの屋敷へと世話になっていた。法務局と警備局の必死の探索にも関わらず、神光教会が秘密裏に集めていた、研究対象である子供達の行方が分からなくなったのだ。


「しかし、ペロリーノ司教は本当に死んだのだろうか?」


『確かに、部外者であるという理由で我々には死体の有り様を確認させなかったな。こんな事ならあのブンブン女に寄生して死体の検視解剖を行うべきであった。』


「イゾルデ暗殺が失敗した事で逃げ場を失い、自殺を図ったのであればともかく、後を追わせない為、関係者が司教を殺害したとしか受け取れない殺され方をしている。」


『目的としては、王宮内部に不穏な要素を残し、疑心暗鬼にさせる事だろう。更には黙りを決め込み、事件を風化させようとしている。』


「このままジアスの人たちに任せてはおけない。僕らも行動しよう。」


『そうは言っても貴様の立場は軟禁だ。下手にこの屋敷から動けば不審がられる。なんたってここの奴らはあの女以外、お前をまだ信用していない。』


「野盗討伐の実績だけでは信用に値しないというのか……。三食と寝室、大浴場付きは中々に魅力的だったけど……。」


『そういえば貴様、やたら頻繁に風呂に入っとったな。』


「二階に露天風呂付いてるとか珍しいし、景色もよく見えるし。精神統一も出来るから好きなんだよね。」



現在、豊が周辺から警戒を受け、イゾルデの屋敷に軟禁されているのは

彼の戦闘能力の高さや、整い過ぎている装備の所為である。


一個人では到底持ち得ない装備に、出生や身分などが不鮮明なのも合わせると、王宮だけで無く、各権力局にも警戒が及んでいる。


何せ神光教会の一部、ペロリーノの元私兵は豊が王国最強と謳われる、インペリアルガードのイゾルデと互角に渡り合った。

という事実を目の前で目撃しているからだ。




『実力ある者を手放しで歓迎する程、この国の人間は軽率ではないという事だ。』


「ミセリコルデは無事だろうか……。冥王。もう一方の自分と交信は出来ないのか?」


『条件が厳しい。我々がお互いに触覚を伸ばし、周波数を合わせ、適度な距離が詰められなければ通信は不可能だ。元々、分離して活動する事などほとんど無かったのだ。今回のは特に異例だな。』


「冥王が側にいれば安全だとは思うが。」


『ふむ……。今も電波を飛ばしているが……。残留電波が少しある。向こうも交信を試みたのだろうな。』


「流石に留守録みたいな機能は……。」


『ないな。』


「そうだよね。」



これまでの状況からでも様々な推理が可能だが、情報が足りない状況で予想を組み上げるものではない。豊は頭を整理させながら、今後の経緯を見守る事にした。


「こんな時だ。グルカニンブルや装備のチェックをしておこう。出来ることからコツコツとやるのが僕の信条だ。」


『うむ、我も協力しよう。ブンブン女との戦いで少し戦斧も草臥れて来た。収納と修理を行おう。』


「そんな事が可能なのか?」


『一応だがこの数日の間、手が空いていた故。救世主が我が次元城での戦いにて紛失した装備を、空間と次元の狭間から探しておいた。今はこれしか無いから大事に使え。』


カイパーの身体から、滑り落ちる様に取り出されたのは

【超重厚戦鉈・破】であった。

フォルトゥナ世界の迷宮で取得した壊の片割れであり、無限城の戦いにて紛失した武器である。


「良かったぁ……。」

代わりに【超重厚戦斧・壊】はカイパーに取り込まれ、修復作業へと入る。


「冥王。助かった!ありがとう!他にも装備はあった筈だが、それらも次元の彼方に消えたのか?」


『おそらくだがな。詳しい事は我にもわからぬ。何せ、戦いの際に【無限回廊】が破壊されるなど、予想もしていなかったからな。更に力を取り戻せば、探索の効率は上がる筈だ。』


「……冥王。まさかとは思うが、その次元空間。もう1人の冥王と兼用ではないか?」


『ほう……考えたな救世主。しかし、残念だが、これも交信と同じだ。両者でのやり取りをする場合、意思の疎通を予め行わなければ目的の物を取り出すのは不可能だ。』


「アイテムボックスの様にはいかないか。」


冥王カイパーと冥王ヴェルトの間で共通する異次元空間はそれこそ広大であり、自分の意思で物を取り出す仕組みとなっている。

何が入っているかも交信がなければ互いに把握はできない。


「四次元ポケットみたいだ。」


『言うなれば【異次元ポケット】だな。』





「ユタカ、邪魔するぞ。」


武器を整備していた所にやって来たのは、事情聴取を終えて帰ってきたイゾルデであった。彼女にも若干の疲れが見えている。



「お疲れ様、首尾はどうだい?」


「依然変わらぬ。関係者各位、どうやら記憶操作のオーパーツを使用されたらしい。これでは足取りは掴めぬな。」


「ここに居てもしょうがない様ならば、僕たちは独自で動くよ。手を貸してくれてありがとう。」


「力及ばず、すまない……。」


イゾルデは心底申し訳なさそうに肩を落としている。最初の印象からかけ離れているが、これが本来の彼女なのだろうと、豊は感じ取った。


『では、いっその事こと、国王に仮病を使わせて小娘を呼べないのか?』


「私たちが王都へ到着する前、陛下のご容態は【神子】によって治癒されたと聞いたが、未だ面会を出来る状態にはないな。後、陛下に危険が及ぶ事態は、極力避けてもらいたい。」




「確かにね……。それと【神子】と呼ばれる人は確実にミセリコルデなのかも分からないし。」


『ふむ、間違えて釣れたとしたら惨事だな。何度も仮病が使える訳でもなし……。』



「ペロリーノの手腕によって秘密裏に集められた、【覚醒】したとされる子供達の行方もまだ分からぬままだ。その中にはミセリコルデとは別の神子も居るかもしれない。」



「とにかく情報が足りない。下手に動けば見えない相手に塩を送る事になりかねない。しばらくは神子の存在に気が付いていない程で動こうと思う。」


『そうだな。小娘の事は別の我に任せておけば良いだろう。今のうちに電気エネルギーの穴埋めを探さねばなるまいて……。』



「ふたりには済まないが、私もインペリアルガードとしての本来の仕事がある。手伝えなくて申し訳ない。この借りは必ず。」



「そこでなんだが、イゾルデ。キミの権力で、僕たちに国での身分証明をしてほしいんだ。今みたいな放浪の戦士では旅を続ける際、各方面に信用がないからね。」


以前の様に救済する為の力が存在しない為

豊には新たな肩書きが必要不可欠であった。


「ふむ……そういう事であるなら、私直属の部下になれば、それなりの権限が手に入るぞ。手続きは必要だが……。」


「何が必要なのかな?」


「簡単な筆記と実技だ。筆記ならこちらで細工出来るが、実技は皆の前で確かめる為そうはいかん。私の部隊と戦って実力を示してもらう。」


『くだらん。お前の剣を砕いた時点で救世主の方が力は上だというのに……。』



「まぁ、みんなの前で示さない事には始まらないか……。やろう。出来るだけ早く頼みたい。」



「では、明日の午後に実技を差し込もう。昼の鐘が鳴ったらインペリアルガード部隊の訓練所まで来てくれ。」


「分かった。それまでは待機していよう。」


『救世主、我はこの王都の設計と街並みを確かめたい。いざという時の為にな。』



「そうだな。食べ歩きでもしよう。」


豊はなんだかんだで冥王の目的を察していた。イゾルデに王都の構造を聞いておき、この日は王都見学と食べ歩きを行う事になった。



王都は城下町という事もあり活気が溢れ、物と人が忙しなく行き交っている。


細かく区画分けされた地区、整った道路。

整備された上下水道に公共施設。


古代人が残した遺産の上に発展した王都は、所々に用途不明な空間や構造物があり、生活の中に溶け込んでいる様に感じられるだろう。


「王都をぐるっと囲んでいるのは良くある構造だけと、これ程大規模な城壁は初めで見たな。」


周囲に聳える円柱の塔と、三重、四重と分厚い石造りの壁が、王都の守りを盤石なものとしている。


『修復の手軽さを考慮し、石と混合素材で造られているのは面白い。』


「あぁ、修繕の容易さも考慮されている。古代人はこれらを長く残したかったんだろうな。それが2000年以上前のものであり、まだ現役となるとすごいよ。長い歴史の中で文化物が破壊されたりしてないのは、余程統治が上手くいってたんだろうね。」


『しかし、何故2000年も続いた文明は滅びた……?』


「……そこも、【冥王の因子】に関わっていると思う?」


『……いや、やめよう。おそらくは杞憂だ。これまでの事もあり、全ての事柄に因果の導きが有るのではと勘繰ってしまった。【運命】など存在しない。』




「まだ、わからない事だらけさ。宇宙における【修正力】の力は侮れない。以前にも煮湯を飲まされたからね。」


『【次元獣バイラス】か。彼奴は厄介な寄生虫だったな。一度完全な母体を殺したが、死に際に我を巻き込んで自爆したので喰らってやったわ!がはははっ!』


「容易に想像がつく……。」



一瞬の沈黙を経て、空気が変わった。

『……救世主よ。我と貴様はもう、後戻り出来ない所まで気が付いてしまった。』


「あぁ。このまま【冥王因子】を野放しにする事は出来ない。原因を究明し、この世界を救わなければ……。」


『貴様といると飽きないだろうが、ちと面倒であるな。短い付き合いだが、そこはなんとなく分かってきた。』


「僕も冥王の事少し分かってきたよ。あなたはやはり覇者としての器がある。」


『ふははは!!当然である!!さぁ、景気付けに食事処を根刮ぎ閉店に追い込んでやるぞ!!』


「明日に備えて食うぞー!!」





飲食街に差し掛かると、人の数が増え、徐々に活気が明るみとなってゆく。


仕事を終えた者、戦いから帰った兵士など

多くの人で溢れている。

その中でも、国に所属せず傭兵を稼業としている荒くれ者達が比較的多い。


「やっぱり、仕事終わりの一杯は格別だなぁ!任務が厳しければなおの事だ。」


「今回の遠征は厳しかった。各地街道付近に強暴になった獣達が出てきたりしている。繁殖期でも無い種類も含まれていたな。」


「確かに、俺たちは遭遇していないが、国境付近で見たことのない生き物も発見されているって、別組織の奴等が話してたぜ。」


「自由ってのは聞こえはいいが、市民権がねぇ俺たちみたいなのにはやたらと強い獣が当てがわれる。たまったもんじゃねぇ。いつも終わってからノコノコやって来て、内地の兵士達にも頑張ってもらいてぇなぁ。」


クダを巻きながら飲食を行い、酒を一気にあおる。傭兵である彼らにとって、これが何ものにも変えられない楽しみとなっているのだ。



しかし、兵士を悪く言われて面白くない者も存在する。


「市民権が無い奴は大変だよなぁ。やっぱり生まれた国が違うと苦労も多いだろうなぁ〜ッ!」


「おい、やめろ。聞こえるだろ。」


「聞こえる様に言ってんだよぉ!俺たち内地の兵士はなぁ!獣と戦ってればいい訳じゃないんだよぉ!組織には決まりがあって団体行動は乱せないし、出動だって上の許可が必要なんだ!組織が何かも知らない奴に好き勝手言われて黙ってられるかよぉ!!」


異なるふたつの戦う職業。

片や傭兵、片や兵士互いには言い分があり

【経験でなければその苦労の本質は得られない。】


「俺たち傭兵が外で獣相手に戦ってるからお前ら兵士が楽出来てるんだろうが!」


「俺たち兵士は仕事が多いんだよぉ!毎日毎日、王都内部をどれだけ駆けずり回って人々の為に働いてると思ってんだ!」


お互いは自身の仕事に誇りと自尊心を持ち

譲り合おうとはしない。


ふたつの意見がぶつかった時、この国独自の法律が動き出す。


「店主っ!この店の【決闘バトル】は【腕相撲】だったよなぁ!決闘机を出しやがれ!!」


「望むところだこの野郎!地獄の訓練で鍛えた腕力を見せてやる!!」




この国では、いさかいが起こった際に、それを解決する独自の法が存在する。

それは店や、場所により異なるが

荒くれ集うこの酒場では【腕相撲】が解決法となる。


勝てば負けた方が一杯奢り、互いを讃えて終わる、勝負方法である。


ふたりの勝負は、机を破壊して引き分けとなった。

その場合は、互いに机の代金を払って酒を奢り合い、握手をして終わる。


怒りとは、単発的なものであり、正しい方法で発散させるのが常套手段とされる。


「お前の腕力、兵士にしてはやるじゃねぇか。」


「お前も、傭兵にしては……やる方だな。」


最後は同時に酒をあおって終了する。



「やはり、この国の民は賢いな。」


勝負を見届けたその後、2人は暴食の梯子により

繁華街で4軒の食事処を臨時閉店させた。


【紅の暴食】という通り名は、今後広く知れ渡ることとなる。






翌日。


一行は、城壁の外に建設された軍事訓練施設である

【セントジアス砦】を訪れ

イゾルデの要望によって急遽、豊の所属試験が実地された。


【インペリアルガード】は王家直属の騎士でありながら

およそ、3000の兵を指揮する大将軍の位置にある。


もちろん、その門は狭く。

ひとりで100人を相手にして戦える実力と、軍師を兼任出来る知識がなければならない。


そんな彼女が選んだ精鋭の騎士団が現在、訓練場へと集っており

戦場を生き延びてきたベテランから

貴族の子息まで、多種多様に人材が揃っている稀有けうな部隊である。



「皆に集まってもらったのは他でもない。もう既に噂にはなっているだろうが、この度こちらの紅の戦士、ユタカに【選抜】を受けてもらう事になった。」


辺りが騒めき始める。

この場における【選抜】とは、精鋭騎士の中から更に精鋭を選び抜くという、【インペリアルガード】に近づく為の試験だ。


内容は1対100の多数戦であり、100人がそれぞれに鎧の上から色の付いた装甲を乗せ、それらを全て破壊出来れば挑戦者の勝利となる。


年に数回、希望者によってその機会は設けられるが、10年にひとり出るか出ないかの突破率の試験だった。


「イゾルデ殿……。聞いていた内容と異なるのでは?」


「お前の強さを皆に知らしめる好機だ。しっかりと力を示し、皆の信頼を得ると良い!」



『……こやつ、脳筋怪獣か何かなのか?』


「……発言は控える。」


この冥王とのやり取りは他者には聴こえない。



実の所、紅の戦士は各部隊でも話題に挙がる存在であり

皆がその実力を確かめたいと感じていたのだった。


「あのシルヴァネール卿と互角に戦うなどありえぬ、この目で確かめなければなるまい」

そう皆が思っていた所への選抜。

これを好機と捉える者も存在していたのだ。


こうして豊の意図せぬ形で100人同時対戦試験が始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ