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紅の救世主  作者: メアー
3章.力の弊害と覚醒
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18.ヴェルトモード


この場には【猛呀獣バエル】とミセリコルデの身体と同期したヴェルトしかいない。

施設内に警報が鳴り響く最中、この場を凌ぐには戦う他、道はなかった。



『流石は【覚醒者】一筋縄では行かぬか!しかし、貴様のその小さな身体では吾輩を屠る事など叶わぬ……!貴様を喰らい、より完全なる生命となってやる!!』




『……小娘!起きろ!この場を乗り切るにはやるしかない!!』


「ふわっ……!は、はいっ!でも!どうすれば……!」


『こうするのだ!小娘!【融合】だ!』


「は、はい!【承認】します!!」




気絶し掛けていたミセリコルデを起こし

ヴェルトは実体化した自身の身体を液状化。

表面に張り巡らせ、黒と紫の表皮を作り出した。

脈動する生きた鎧は、優しく彼女の身体を包み込み

激しい熱量と蒸気を放っている。


そのデザイン性はさながら、ダークヒーローのバトルスーツ。

黒の表皮に、紫のラインが全身へと張り巡らされている。


ミセリコルデを護りながら戦う為、考案された身体融合形態

名付けて、【ヴェルトモード】である。


「わ、わっ!身体が凄く軽い!地下牢でずっと練習してたやつだ!」

彼女の身体は、浮足立つほどに軽快となり

全身には際限なく力が溢れ、万能感すら錯覚する。


『これで小娘を護りながら身体を動かせるってものだ……掛ってこい獣。死の覚悟が出来たのならばな……!』



7メートルを超える体長の獣が、猛スピードで突進してくる。

ヴェルトはそれを大きく躱し、壁を走りながら攻撃を誘発

他の猛獣の檻を次々と破壊させる。


そして、何度も繰り返し逃げ回り、攻撃を空振りさせ、バエルの怒りを煽った。

その結果、この保管部屋の猛獣達は、破裂音と共に次々と死に絶えてゆき

そこら中にさっきまで生命だったものが転がっている。


中には拘束を解かれ、バエルへと向かっていく猛獣も存在したが、全てが鎧袖一触。

爪の一振りで無惨に肉片へと姿を変えた。


辺りには血飛沫と断末魔、砕かれた骨や肉。

臓器などがぶち撒けられている。




『逃げてばかりでは吾輩は倒せぬぞ!!』


「ひえ〜!怖い怖い怖い!!!」


『ふむ……もう少しか……。』


鋭い爪を振り上げ、体重の乗った攻撃が繰り出される。

その速さは空を斬り、床材を刻みあげ、威力の高さを明確に物語っている。


特殊装甲ガラスは真っ二つに切り裂かれ

壁や天井も次第に傷に塗れ、形を失ってゆく。


『覚醒者とはこの程度か!拍子抜けにも程があるぞ!さぁ!吾輩と戦うのだ!!』



幾度となく攻撃を回避し、研究動物と猛獣を容赦なく皆殺しにしたバエルであったが、たったひとり、ヴェルトモードのミセリコルデだけは倒せずにいた。


『な、何故だ……!徐々に回避の対応速度が上昇している……この小さな身体の何処にそんな力があるというのだ……!!』



『愚かな……。』



『なんだと……!?』



『そんな様子だから人に捕まり、実験に使われるのだ。……周りを見てみろ。』


『……!?まさか……!これは……!!』



バエルが肉を裂き、骨を砕き、無残にも殺戮した猛獣達、数にしておよそ300頭。

その死体が全てこの場から消えていたのだ。


『ば、馬鹿な!血肉ひとつ残っておらぬ!貴様!吾輩の攻撃を躱しつつ、この数の適応猛獣達を全て喰らったのか!!!なんたる食欲!!なんたる吸収量!!これが【覚醒者】の力……!!』



『いいや違うな……。これは……【冥王】の力だ。』



因子と適合した猛獣達を分離体で回収し続けていた冥王は

満を持して攻撃へ転じる。


踏み出した一歩は鋭く大きい、一瞬にして間合いを詰めて

敵の死角へと潜り込む。巨体は身体の各部に死角を作る。

恵まれた体は時として短所となりえるのだ。


放たれた拳はバエルの巨躯をくの字に折り曲げ

痛みを感じる暇もなく、次の攻撃が追加される。

放たれた拳は、全身から、肩、肘、手首を連動させ回転を生み

貫通力を最大限に引き出した攻撃であった。


『小娘、身体で憶えろ。これが内臓に響く拳の繰り出し方だ。』


猛獣における自然の鎧、分厚い毛皮と筋肉を貫き、肉を引き裂き骨を砕く。

衝撃だけで内臓を破壊し、為すすべなく急所を打ち抜く。

さながら猛獣は、まな板の上の食材の様に、生きながらにして下拵えされている。


『負けて……なるものかっ!!』

渾身の反撃もヴェルトモードには通用しない。

振るわれた爪は見事に受け止められ、そのまま握力によって粉砕される。


『くっ……!その頭!噛み砕いてくれる!』


バエルが恐るべき速度で牙を剥くが、ヴェルトモードには予測済みであった。

渾身の右フックが、相手の横面を貫通し、顎を砕いたのである。


『弱い者を嬲るのは趣味ではないが、食事前の余興として小娘の経験値になってもらうぞ。やれ、小娘!』


「は!はいっ!えいっ!」


放たれた正拳突きは、バエルの鼻を容赦無くへし折った。

ミセリコルデ自身は意図していなかったが、鼻は万物の弱点と言える。

彼女の実直な一撃に、ヴェルトも納得を示した。


しばし生きたサンドバッグとして、一方的な暴力を受けた猛呀獣は

怯えきり、戦意を失いかけていた。


傷口から腕を差し込み、体液を啜り上げて力を奪い、己の糧とする。

これ程までに最効率を叩き出す戦闘は、最早闘争とは呼べない。

生命としての格付けは済んだのだ。


一方的な狩り、屠殺であった。

家畜を捻り殺し、肉へと変える過程だ。

冥王の喜びは食事。

上質で強い個体から取り出す血肉は、どんな高級料理にも劣らないだろう。


しかし、いつまでも遊んでいる訳にはいかない。

この身体の持ち主はあくまで、ミセリコルデなのだ。

余計な負担を強いては本末転倒と言える。


『仕上げだ……。300頭の適応猛獣、有意義な存在であった。取り戻した余の力、とくと味わうが良い。』



ヴェルトモードの左腕が異常なまでに増大している。

それは5メートル、10メートルを超え、遂にはバエルの全質量をも超えた。


『暗黒無限闘気、第三幕……。【ぜつ】』


神速の攻撃がヴェルトモードから放たれた。

質量は一点に集中し、槍の形を模る。

螺旋状に構成された黒と紫の光は回転して混ざり、空の中へと溶けて消えた。


それは瞬きよりも早く、音を超越し、衝撃を置き去りにし、風が巻き起こった。


一瞬の静寂が辺りを包み、再び時は動き出す。



『は、ははは!どうしたというのだ!吾輩の身体はどうにも……はがっ……!!』


『すまんな。攻撃が【速過ぎて】お前の脳では認識出来なかったらしい。さらばだ。けだものよ。』


『なんだと……!はがっ……!!』




ぜつ】それは【生命を絶つ】もの

暗黒無限刀を構成する一つ目の【槍】。

命ある者の【生命】を殺す槍。

因果を歪めて到達する絶対的な意志。


現実を直視した頃には既に、生命は終わり

魂は理から外れ、槍へと喰われる。


そして主人の糧へと【還元・・】されるのだ。


放たれた攻撃は相手の頭から身体にかけて、貫通していた。

一本の槍が針となって内部から炸裂。全ての点穴を穿ったのだ。


槍は形を変え、バエルを体内から抉り、喰らい尽くした。

そしてヴェルトへと還元され質量が増える。


「は、はわ〜!つ、疲れました……!」


ヴェルトモードを解除し、再び冥王はミセリコルデの胸部分へと戻った。


C→D



騒ぎを聞き付け、というよりも騒ぎが収まった事で、続々と研究員が押し寄せた。

混乱する現場中で、唯一生き残ったステゥーデも瀕死の重傷を負っていた。


それを発見したミセリコルデもあわてふためき、救助を呼び掛けた。

「はわわ……!どなたかー!!お医者様をー!!」


研究員は一斉に冷静になってミセリコルデを見た。適役はどう考えても彼女である。


「神子様!どうか博士をお救い下さい!」


「神子様!!お願い致します!!」




「わ、わ!分かりました!そうでした!私が神子でした!!」


言われて気付いたミセリコルデは、活性を使う事に対してヴェルトにお伺いを立てた。


『こいつらに恩を売る好機だ。好きにしろ。』


「は!はい!では、治療を開始します!お腹が空くのでご飯の用意をお願いします!!」


「了解しました!!」



こうして【ステゥーデ】はミセリコルデの【活性】によって復活を遂げた。


今回の件、表向きには猛獣が実験中に暴走し、暴れた結果

覚醒化が急激に進行した事による爆死と処理された。


要素が適応しなかった際に見られる現象として、以前から例があがっていたと云う。


ステゥーデは、監督不届きで神子を危険に晒し

研究対象である猛獣を全て台無しにした責任を問われた。

しかも神子の貴重な【治癒術】を使わせた事も

研究員の口から明るみとなり、今回の件は大きな問題となる。


教会による審問が行われたが

ミセリコルデ直々の申し出により、処分は棄却された。

これは、ヴェルトの入れ知恵である。


研究者であるストゥーデに恩を売り

因子猛獣を取り込んだヴェルトは本来の力の3%を取り戻していた。


しかし、予想外の事が起こる。

審議の場でミセリコルデの身の安全をどうするかが議題に上がったのだ。


集められた司教達が議論を広げる。


「今回の件で、神子様の力が明らかなものであるという証明が成された。【覚醒者】や【神化】について更なる研究が必要になるだろう。」


「そして、この偉大なる神の力を欲し、隣国である【デュルクニア】が神子様誘拐を企てているという情報が、バウロン卿により提出された。」


「神子様を我々しか知り得ぬ、安全な場所へと移送するのはどうだろうか?」


「いやしかし、それでは移送の際に何かあっては……。」


司教達によってミセリコルデのより安全な対処が議論されている。


『ま、まずい。小娘、このまま別の場所に移されたら救世主に見つかり難くなる!なんとか王都に留まるよう理由をでっち上げるんだ。』


「あっ!……えっとですね……。」


皆がミセリコルデの意見に耳を傾けている。


「陛下のお身体が心配なので、完治するまではここに残りたいと思います!」


『……ぐぅ……この場は……致し方あるまいか……。』



ミセリコルデの提案は教会員の心を打った。


「なんという慈悲深きお心……。自らがあれだけの怖い思いをなされたにも関わらず、陛下のお身体を優先させるとは……。わたくし感動して涙が溢れてしまいます。」


「今後神子様はなんとしてでも、我々がお守りするべきである!そうであろう皆の衆!」


「うむ、異議なし。」


なんとかこの場は収まり、ミセリコルデは再び例の施設へと逆戻りとなった。






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