表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅の救世主  作者: メアー
3章.力の弊害と覚醒
PR
17/51

17.召喚術と魔法の確立




王の治療が終わり、毒の特定を完了させたミセリコルデは

王子【カイゼルグ】と別れを告げ、資料室を後にした。



自由になる好機と思いきや、ペロリーノ司教に代わり新しい世話役が待ち構えており

滞りなくミセリコルデは囚われの身となる。


螺旋階段を上り下りし、長い廊下を抜け

現在地が分からぬまま歩き続ける。


辿り着いたその先は、幽閉されていた地下とは異なり

明るさと開放感で満たされていた。


「やっと出られた……。」


少女が眩しさに目を白黒させていると、世話役が部屋まで案内をする。

そこは、豪華な庭付きの屋敷にある一室で、家具一式などが全て揃えられていた。


「何かございましたらこの鈴を鳴らし、なんなりとお申し付け下さい。」


要件だけ言ってひとつの手鈴を手渡し、世話役は去った。

あまりの速さに引き留める好機を見逃す程であった。




『まぁ、1人の方が都合が良い。少し辺りを散策するぞ小娘。』


「は、はいっ!」


屋敷を出て辺りを探索すると、現在地が生活居住区であり

近くには研究所と教育機関があるという事が、案内板によって明らかとなった。


「ここは、王都の……どの辺りなんでしょう。」


『建物が軒並み高く、木々や壁も厚い。判らぬ。』


整備された並木道を歩く事しばらく

ふたりは出口を探す過程で

ガラス張りの研究所施設へと辿り着き、そこであるものを目撃した。


それは幼い子供達が、大掛かりな機械に繋がれた状態で【何か】を行使する姿であった。


多くの研究者が周囲で記録を取り

子供達はそれぞれ熱心に取り組んでいるが

その表情には悲痛な恐怖が含まれていた。


特定の詠唱を以ってして、何もない空間から

【エネルギーの流動】が事象となって引き起こされている。


【魔法】とも表現出来る、不可思議な現象。

それによって、極小規模な次元の歪みが発生し

冥王は即刻、その正体に気が付いた。


『あれは……【闇の侵食術】……!そうか、そういう事だったか……!』


「ヴェルト、どういう事なの?あの子達は何をしているの?」



『説明は後だ。今は出口を探す事を最優先にしろ!』


「は、はい!」



しかし、辺りをくまなく散策しても一向に出口は見つからず

順路を遡ろうとも考えたが、ここまで複雑に歩き詰めた為、叶わなかった。


探索の疲れからか、建物の影に座り込む。

周囲を見渡すと、寄り掛かっていた巨大な円柱が突如開き、中から馬車が姿を表す。


荷台には【補給】とだけ表記され

それ以上の情報を汲み取る事はなかった。


何の変哲もない、建物の支柱と思われていた巨大な柱は

この世界では聴き慣れない音を発している。


『この駆動音……まさか昇降機だと……?バカな……。この文明水準で馬車を乗せて上下する機構や動力なんかある訳が……。』


「ヴェルト、空が暗くなってきたよ……。一旦戻らない?」


『……確かにな、敵が誰であれ、小娘が行方を晦ませば、見つかった際に拘束されるやもしれぬ。ここは従ったフリをして好機と救世主の助けを待つべきだろう。』


「……。」


ミセリコルデは先程の子供達の様子を思い出し

自身にもそれが課せられるのか、などの様々な不安を抱いた。


『身体の阻害に関してなら余がなんとかしてやる。例え腕が吹き飛んでも治してやるから案ずるな小娘。』


「ふふっ……。ありがとうございます。ヴェルト。」


ヴェルトなりの気遣いであったが、あまりにも拙いものだった為

ミセリコルデも逆に冥王の意図を汲み取り、安堵したのだった。


天を仰ぐと、徐々に夕陽が傾くのを感じる。

時間を告げる鐘の音が辺りに響き

それと同時に、鳥が空へと飛び立った。

その自然の美しさは異様な程に澄み切り、幻想的であった。





ミセリコルデが部屋に戻ると食事が用意されており、世話係が待機していた。

軽く頭を下げると料理の説明をして出て行った。

意図が読めぬ相手には、言い様のない不気味さがある。


料理には少しずつ薬品が混ぜられており

それら全ては、対象者の思考と意思を奪うものであった。


『ここまで徹底してくるとは……。何か大きな陰謀が渦巻いているのか……。』


ヴェルトと融合している間は毒も薬も全て分解可能である為

少しずつミセリコルデ自身にも耐性を付けさせていた。


『しばらくは頭が働かないかもしれんが大事には至らぬぞ。不安で寝れんだろうが、余が心拍やホルモンバランスを調整してやる。』


「……ずっと聞きたかったんだけど、どうしてヴェルトは私を助けてくれるの……?」


『お前が救った者は救世主だけではない。という事だ。』


その日はふたりの間にそれ以上言葉はなかった。

ミセリコルデは怒涛の1日を終えて眠りについたのだった。





翌日、世話係が身支度を整え、食事の用意をした後。

ミセリコルデは世話役に尋ねた。


「私はここで何をすれば良いのでしょう?」


「神子様は大変珍しい治癒術を確立なさいました。今後は教会の意向の下に、指定された人物の治療に当たって頂きます。それまではご自由になさって頂いて構わない、との事です。」


「それはいつですか?」


「それはわたくし共には判りかねます。また陛下の容態が変わるやも判りませんし。」


「そうですか、王都を見てみたいなって……。」


「神子様は貴重な力をお持ちです。いついかなる時、不届きな輩が神子様を狙うやも知れませぬ。」



『誘拐犯の一味がよう言う……。』

ヴェルトの声は実体化しない限りミセリコルデにしか届かない。


「機を見計らって王都見学も行いましょう。その時はわたくしも神光騎士と共にご一緒致します故。」


「えっと……その……。」


「……申し遅れました神子様。わたくし、身辺のお世話を務めさせて頂きます。神光護衛隊、浄めの【エスコシェイル】と申します。」


彼女は自己紹介を終えると忙しなくその場を後にした。


監視の目がなくなり、探索は再開された。

物資が搬入される昇降機が出入口であるとヴェルトは目星をつけたが

監視であるエスコシェイルは食事の度にミセリコルデを探しにやってくる。


その為、搬送の馬車に紛れ込んだりするのは時間的な猶予がなかった。

エネルギーが不足している現状、周りが敵だらけの状況で暴れるのも無謀であり、ミセリコルデの安全性を考慮すれば愚作だろう。


ヴェルトだけが分離して脱出ルートを探そうにも

戻れる保証や離れた隙に何が起こるか分からない。

状況は以前とは異なり、ミセリコルデの安全を確保する為

ふたりが離れる訳にはいかないのだ。


『……ふははは!もうなるようにしかならんな!!』


ヴェルトは掲示された数々の条件から

この環境をある程度、推理、把握出来ていた。


そして、今日も研究所へと向かった。


「ヴェルト……、どうして、ここに?」


『小娘を拐った奴等の背景を探る為だ。小娘、お前は我の持つ【純単多細胞】とそれに含まれた【冥王因子】。2つの要素が奇跡的に適応した全く新しい人類だ。』


「…………えっと???」


『……つまりだ、お前は治療の際、余と融合を果たした事で、身体がとても強くなったのだ……。』



「な……なるほど……。」



『ここで研究している奴等は、子供を使って人為的に小娘と同じ存在……奴等の言葉を借りるなら、【覚醒者】を作ろうとしているのだ。【冥王因子】は若い細胞に適合し易いからな。』


「なんでこんな事するのかな……。」


いくさをする為だろう。そこら辺は小娘の方が知っているのでは?』



「ジアス国は隣国デュルクニアと戦争をしています。でも、詳しい理由とかまでは、私は知らないです。なんでも、共和化の式典に紛れた反対派によって両国民がたくさん殺されたとかしか……。」


『とにかく、人同士の争いに場違いな【闇の侵食術】を持ち込んだ奴が居るのは問題だ。まさか、この星の生命と適応するなんて考えてなかったからな。』



【冥王因子】はその力の強さ故、宿主を殺してしまう事が多く

適合する前提条件がかなり限られているとされていた。


しかし、巨大猪の例もあった様に

【間接的に誰かが介入した】事によって、因子に変異が起こったのである。



『小娘の場合、救世主の【紅玉】余の【純単多細胞】【冥王因子】のフィルターがあったこその適応だ。他の奴等よりも純度が高いはずだ。』


「だから【活性】が使える様になったんですね……。」


『燃費が異常に悪いのは、何かの間違いであってほしいくらいだがな。』


「い、いじめないで下さい……。」


ふたりが子供達の様子を見ていると、新しい研究者達がやってきた。

ミセリコルデを確認すると深々と礼をし、中には短く祈りを捧げる者もいた。


「な、なんでしょう……。」


ひとりの研究員が跪く

「【完璧な覚醒の神子様】。貴方様はこの世の希望でございます。必ずや【神化の秘密】を解き明かし、ジアスを完璧な神の国へと成し遂げましょう。」


ミセリコルデには何の言葉か解らないが

かなりの吹き込みがある事は間違いなかった。


「は、はい!」


勢いに押されてつい返事をすると

研究員は一斉に歓喜し、ミセリコルデを崇めたのであった。


「神子様にお返事して頂けるなんてズルいぞ!」


「神子様!私にもお声をお聞かせ下さい!」


「神子様っ!なんてお可愛らしい姿!」


交代で来た彼等は覆面で顔を隠しているが

言動から察するにかなり若い人材であった。


この狂信ぶりは偏に、本気の表れであり

そこに表裏は存在しなかった。彼等の放つ純粋な目は、覆面越しでも分かった。



『小娘、これは好機である。奴等に研究を説明させるのだ。』


「あ、あの。よろしければ何をしているか見学してもいいですか?」


ミセリコルデの申し出に対し

研究員たちは目を更に輝かせている。


「神子様が我々の働く姿を……!」


「なんという僥倖……!」


「私!頭がおかしくなりそうよ!」




研究員は皆懇切丁寧にミセリコルデを研究室内へと招き入れた。


中では文字や図面を表示する液晶や

演算を行う装置などが所狭しと並べられ

訓練を行う子供たちの身体へと、配線装置によって繋がれている。


「この、子供たちが身体に着けているものはなんですか……?」



「はい!神子様!それはですね……!」


「馬鹿野郎お前!神子様は俺に質問をしたんだぞ!」


「私よ!さぁ神子様こちらへどうぞ!」


研究員はミセリコルデと親身になりたいが為、必死のアピールをしている。

小規模な争いの最中、そこにひとりの女性が現れた。

彼女は唯一覆面をしておらず、素顔のままであった。


「君たち。頼んでおいた研究書類の提出と備品の整備と清掃はどうしたの?」


「ウェンリー博士……失礼しました!!」

研究員たちはその人物を見た瞬間、謝罪と共に自分の持ち場へと散っていった。


「やれやれ、彼等の狂信振りにも困ったものだ……。改めまして神子様、ワタシはこの研究機関の責任者である【ストゥーデ・サピエイト・ウェンリー】です。気軽にストゥーデとお呼びください。」


「ど、どうも。ミセリコルデです。」


「ご質問があったこの機械はですね。2000年前に滅びたとされる古代文明【リバレスティオ】のもので、この子達の生命を繋いでいるのです。」


「生命を……繋ぐ……?」



「はい、彼等は【神化覚醒】の際に能力を得ましたが、子供であるが故に生命の器が小さいのです。成長すればいずれは外せる様になるみたいですけど、今はこれが無いと、急激な体力の消耗により餓死してしまうのです。」


「餓死ですか……。」


餓死と聞いてミセリコルデは、自分にも思い当たる節があった。

能力を使用すれば極端な空腹に見舞われる。

これは自身の身体が以前とは異なるものに変わったという証拠だった。



「研究対象は人だけではありません。長年我々の手を煩わせた猛呀獣もうがじゅうなどを用いた【覚醒獣】の研究も着々と進んでおります。いやぁ、回収してくれたインペリアルガードの方には頭が上がりませんよ。」


ストゥーデも他の研究員と同じく、ミセリコルデに対して友好的であった。


彼女の場合は研究対象として興味があったのだろうが

ミセリコルデは唯一の完成体である為、研究の許可が下りなかったのだ。


「いやぁ、生物学の研究局で干されてたワタシを拾ってくれた教会の方々には感謝です。おかげで素晴らしい猛呀獣にも出会えましたし」


ストゥーデは得意げに、捕らえた猛獣の檻へと案内する。

そこでは強化ガラス越しに大量の猛獣が保管、飼育、実験されていた。


中でも特に目を引く、一際大きい個体。

猛呀獣もうがじゅう・バエル】


王都より遥か北の地に生息し、人々を脅かしていた存在で

特殊な発声器官と強靭な肉体、突出した瞬発力と果てなき体力を誇る。


インペリアルガードによって退治され

冥王因子によって復活を遂げた猛獣。


「この檻は他よりも更に硬い特殊な壁で作られていますから安心ですよ。ささ、もっとこちらへどうぞ。」



ミセリコルデが猛呀獣バエルへと近づいた時

突如としてバエルが起き上がり、壁に向かって奇声を上げた。

それは威嚇による咆哮とは異なり、徐々に高い周波数を発している。


『小娘ッ!下がれ!!』


ヴェルトの言葉を認識するまもなく

バエルは特殊装甲のガラスを【声】によって破壊したのだ。


「危ない神子様!!」

咄嗟に庇おうとしたストゥーデは猛呀獣の振り払いによって吹き飛ばされ

壁へと激しく叩きつけられた。


猛呀獣から明確な意思が、冥王の因子を通して流れ込む。


『忌々しい闇の者……吾輩は待ち続けた!覚醒者の来訪を!!そして今、時は満ちたのだ!!』



勢いよく飛び出したバエルは、ミセリコルデの頭を噛み砕こうと飛び込んだ。

しかし、それをヴェルトが許す筈も無かった。


『あまり調子に乗るなよ獣風情が。』


ヴェルトはミセリコルデの身体と同期させ

攻撃を回避したのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ