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紅の救世主  作者: メアー
3章.力の弊害と覚醒
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16.ミセリコルデを追って





イゾルデが回復し、豊は彼女と共に村を出た。

無論ミセリコルデを取り戻す為である。


村長は自身の管轄である環境局に書状をしたため、村民の不条理な誘拐について異議申し立てをする所存だ。


しかし、普通に郵送しては途中で圧力が掛かり、訴え自体が闇に葬られる事もあり得るが、直訴を行ってもそれは同じだった。


故にインペリアルガードとして王都で権力を持つイゾルデの証言と、豊の交友関係と直訴をもってして、ペロリーノの悪事を公のものとし、ミセリコルデを救う手筈となった。




村から馬を借り、王都へと急ぐ2人

道中、少しずつイゾルデは自身の事を語った。


「私の中で覚悟は決まっていた。如何なる障害が立ちはだかろうとも、敬愛する陛下を救って差し上げたかったのだ。」


「その話は僕にしても良いものなのかい?」


頑なであったイゾルデの心境は、ペロリーノ司教の裏切りによって彼女に変化を与えた。


「お前との付き合いは短い。しかし、貴様と戦い、更には命まで拾って貰った。息苦しく狭い世間で育った私にとって、貴様の存在は……。非常に刺激的で、眩しいものだ。一方的な想いで済まないが、聞いてほしい。」


話を聴くに、彼女の生まれた環境や、周囲の期待、王国最大称号【インペリアルガード】としての名が、彼女に異常な過負荷を強いていたのだと、豊は感じ取った。





「そうか、陛下は君の父上なのか……。」


「私の母はかつて存在した小国の姫でな。国が統合される際に政略結婚によって第二王妃として迎えられたのだ。」


元小国の民草達を納得させ宥める為には、強く新しい血を取り込むのがこの世界での常とされてきた。


しかしながら、第二王妃の子をそのまま王位継承の座に祀りあげるのも如何なものかだと話があがる。王家も一枚岩ではない。


とある事件がきっかけとなり

若き日のイゾルデは、いずれ生まれるであろう第一王妃との子を守る存在となる為【インペリアルガード】としての道を示された。


それによって、陰謀渦巻く過酷な王位継承権争いに巻き込まれる事はなくなったのだ。



「しかし、何故、君はペロリーノ司教に狙われたのだ?」


「国王直属であるインペリアルガードと、教会における【執行者エクスナンバーズ】は古くより確執がある。理由は私にも分からんが、あいつ等は功績と勲章に何よりの喜びを見出している。どんな手を使っても1番の実力者で有りたいのだろう。」



『正直、お前達人間の社会などには興味はないが、これ以上面倒な奴等が出て来るとなれば、我と救世主の目的に多大なる遅れが生じる。それだけは御免被る。』


「そうも言ってられない。僕等はもう既に取り返しのつかない所まで関わってしまったのだろう。こうなったのも救いを必要とする者達が、僕を引き寄せたのかもしれない。」


『……我がお前ならば、救世主など報酬を貰ってもやりたいとは思わんな……。』


豊にとっての【救世主】とは

考えるきっかけを与え、導く者であり

その人間の人生に責任を負ってあげる事である。人は例外なくひとりでは生きられず、誰かが正しき道を教え伝え、示してやらねば獣と変わらないからだ。






馬を走らせる事数日。一行は王都【セントジアス】へと到着した。

巨大な城壁が日夜多くの建築士達によって改修されている。


「随分と年季が入っているね。」


「あぁ、王都は元々古代人の残した城下町を修繕して利用している。」


「古代人か……。」


『何処の星にも滅びと発展の連鎖があるのは変わらないのだな……。』


「……おっと、いけない……。つい古代の歴史に想いを馳せてしまった。今優先させるべき事はミセリコルデの奪還だ。」



城壁入口は人でごった返していたが、一般と緊急用で用途が分かれている為

迷う事なくイゾルデは緊急用を選択。


「火急的案件によりインペリアルガードとしての権限を以って、外門の通過を許可してもらいたい。」


「はっ!かしこまりました!」


イゾルデはインペリアルガードの証である騎士勲章を掲示し、滞りなく門を通過した。



「このまま王都の北部にある法務局へと向かおう。ペロリーノ司教の悪事を訴えなければならないからな。」


急いで周りを囲わなければ、口八丁手八丁である司教に逃げられると踏み

イゾルデの案内を経て、一行はジアス国の法律と秩序を司る唯一の機関へと到着した。


彼女は受付に向かい、手続きを行う。

「火急的案件により、インペリアルガードの権限を以ってして【クラハドル最高執政官】にお会いしたい。」


「【国家緊急優先法】のご活用でございますね。かしこまりました。現在、最高執政官は執務室にいらっしゃいますのでご案内致します。」


少しの待ち時間を経て、執務室へ案内された。長い廊下を抜け、扉を抜けると

書類と格闘する初老の男性の姿があった。


「失礼するぞ【クラハドル最高執政官】」


「【国家緊急優先法】などど、随分と古い法律を持ち出したものだ。こんな権限を隅々まで使うのはお前くらいだぞ。シルヴァネール卿。」


「申し訳ございません。クラハドル殿。此度は神光教会……司教ペロリーノ・シャブリックに関しての……」


「そう先を急ぐな。先ずはそちらの同行者の紹介からでも遅くはないだろう?」



「失礼した……。彼は【ユタカ・ホウジョウ】この度起こった事案にて、私の命を救った功労者であります。」


「お初にお目に掛かります。ユタカと申します。」


「……命の恩人か、事態は穏やかではないが。一先ず、私からも礼を言っておこう。シルヴァネール卿の命を拾って頂き感謝する。どうぞこちらへ。」


クラハドル最高執政官は2人をソファーへと案内し、給仕に飲み物を用意させた。



「して、ペロリーノ司教と事案についてだが……。」


本題を切り出そうとした際、敢えて豊が現状説明を行った。この件にはミセリコルデ誘拐に関わる異議申し立ても含まれるからである。


「ふむ……。シルヴァネール卿の暗殺未遂に少女の誘拐か……。証拠となるボルト矢まで……。」


「この矢に塗られていた毒は【ポップクイーン】と呼ばれる猛毒植物の根を煮出して精製された物であった。これを扱うのは王都内ではただひとつ。」


「神光教会だな……。ポップクイーンの根は薬となる部分もある為、教会の敷地内でも栽培と厳重な管理がされている。」


「それと、此度の出征記録なども照らし合わせ、物的証拠などは十分にあります。」



「分かった。私の権限により、司教ペロリーノ・シャブリックの拘束と審問協議を行うものとする。書類を仕上げて兵を動かそう。シルヴァネール卿とユタカ殿も同行してくれたまえ。」


「承知致しました。」




その後、クラハドル最高執政官の名の下に、ペロリーノ司教拘束の任を与えられた特別警備隊が出動した。しかし、王都中の捜索にも関わらず、司教の姿は煙のように消えていたのであった。




「今、警備隊を含む国中の兵で総力をあげてペロリーノ司教を追跡しているが、足取りが全く掴めないでいる。元より神出鬼没と呼ばれた相手だが、この大捜索で見つからないのも少し気掛かりだ。」


「クラハドル殿。捜索中、ペロリーノ司教の探す手掛かりとして、ひとつの資料が見つかりました。」


イゾルデが机の上に取り出したのは、腐食対策の施された羊皮紙の束であった。

名目は【各地孤児救済施設名簿】とあった。


ジアス国では、社会福祉の一環と犯罪防止の為、国による孤児院経営が実施されているが

その中でもこれは、軍事教育に念頭を置いた最新の施設記録である。


「近年激化する隣国【デュルクベルグ】……いや、今は【デュルクニア】との戦争において、身寄りのない子供を兵士にする計画が進められていた。代表者の中には教会の人間、ペロリーノ司教の名前もある。」


「私は今回の件で初めて知りました。項目の中には、新技術【召喚術】なるものの存在もあり、更には【魔法技術確立論】なるものまで記録されておりました。」



「召喚術に……魔法だって……!?」


豊は驚きを隠せずにいた。

世界によってこれらの概念は若干異なるが、この手の現実を侵食する現象は【次元獣バイラス】などの強い力の作用によって齎されている事が殆どである。


「ユタカ、どうした。これらの技術に何か精通しているのか?」


「……確証はありませんが、これらに似た技術は僕にも覚えがあります。魔術と呼ばれ、自然の理に作用する技術でした。」



「そんなお伽話の様な技術が確立しているのか……。そういえば、ペロリーノ司教によって集められた子供達は皆【覚醒者】という名称で呼ばれていたな……。これも何か関係が……?」


その言葉で豊はある一つの推測に辿り着く。

念話にて冥王との会話をはかる。


「冥王、まさかとは思うが……。」


『あぁ、おそらく貴様の考えている通りだろう。何者かが意図して、この世界に【冥王の因子】をばら撒いたんだ。そして司教は因子適合者を募って軍事利用しようとしている。』


「思い当たる節はないのか?歴代冥王の残党や別派閥なんかは存在しないのか?」



『冥王は本来、この次元における存在ではない。別空間、別次元における概念だ。』


「どういう事だ……。」



『元々冥王はこの次元を侵略し、己の手に収めようと試みた。それを対峙した我が【増殖】という物理で押し切り、打ち倒して取り込んだのだ。奴には運がなかったとしか言えぬ。』


「……それって、ある意味この宇宙を救ったという事では?」


『そんなつもりはなかったが、結果としてはそうなる。恐らくは我が、宇宙の再構築をした際に何らかの事象が起きたのだろう。」


「宇宙の再構築によって【バタフライエフェクト】みたいな事が実際に起きている訳だな……。これが、宇宙の修正力なのか……。」



『過ぎた時を巻き戻す様な事をしたからな。そのツケが回ってきたのだろう。我は謝らないし、後悔もしていない。』


「救われたものも多いだろうが、代償は大きかったという訳か……。確かに、やれる事をやるしかないな……。」




念話により、しばらく口を紡いでいた豊に対し、イゾルデが声を掛ける。

「……ユタカ、どうした?何か考えでも出たのか?」


「いや、ミセリコルデの安否を心配していた。彼女も【覚醒者】と呼ばれていた。ならば、その施設に幽閉されている可能性はないだろうか?」


「そうだな。可能性は大いにあり得る。早速この施設の場所を特定しよう。」


豊とイゾルデは資料を徹底的に洗ったが、ただひとつ、

何故か施設の場所に関しての有益な情報が見つからなかった。


何故なら、手続きに国の教育局を通す福祉施設とは異なり、神光教会の教育機関は独立した組織であった為、不透明な部分が多く


教会が【出来る情報開示は全てやった】と言えば、

それ以上の追求は不可能であり、独自の調査が必要になるからだ。

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