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紅の救世主  作者: メアー
3章.力の弊害と覚醒
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14.VS.インペリアルガード





イゾルデが広範囲に放った殺気によって、村人全員が硬直状態に陥った。


これによって、村人がミセリコルデを救い出す。という選択肢が自然と消える事になる。



「私の目的は貴様の足留めに過ぎない。たっぷりと時間を稼がせて貰う。」


「そうはさせるか……!」

豊はこの瞬間に時魔術を発動させ、自身の速度を上げようと試みた。

しかし、何を考えたか、イゾルデは豊に対し、面と向かって衝撃波を放ったのだ。


「そうか……!!これが狙いか……!!」


豊と村人達は直線上に位置している。

彼がイゾルデの攻撃を受けなければ、衝撃波は村人を襲うだろう。

更にはその剣撃の速度を以ってして、時魔術の詠唱を阻止しているのだ。



「うぐぐ……!!みんな!……早く逃げてくれ!!ぐっ……このままでは戦えない!!」



村人は恐怖で強張った身体に鞭を打ち

衝撃波が届かない位置まで下がる事を余儀なくされた。

これにより、ミセリコルデを追う事は完全に阻止されたのだった。


『この女、状況を使うのが上手い。闘いに慣れている。』


そして、豊の救世主としての弱点も瞬時に見抜いていた。

豊は周りに守るべき対象がある時、そちらを優先する性質タチなのだ。



「こんな事して何になる!!ミセリをどうするつもりだ!!」


剣撃による衝撃波を戦斧で掻き消し、盾で弾き飛ばす。

豊は早くもこの攻撃を理解し、対応を可能とした。



「やはり、只者ではないようだ。この短時間で私の【対風アイレ・ウェントス】を見切るとは……!」



「やめろイゾルデ!ミセリの力はお前たちが考えている様な簡単に扱えるものじゃない!!ここで争っても無意味だ!!」



「黙れ!無意味かどうかは私自身が判断する!」


イゾルデは二本目の剣を抜き、豊へと斬りかかった。

対の双剣は目で追いきれぬ程早く、豊は劣勢を強いられる。


二本目の剣は一本目の剣と全く別方向から飛んでくる。

視界の端と端で剣の軌道を収めなければ、回避も防御も不可能となる。


しかし、豊には武器による射程が彼女よりも数センチ程短い。

腕の長さならば優勢だが、武器の長さでは劣っているのだ。


距離をとればこちらの攻撃は当たらない。

下がって時魔術を使おうとすれば衝撃波が飛ぶ。

ならば、この距離を維持し、攻撃を防ぎながら活路が開けるのを

ただひたすらに待ち続けるしかないのだ。


無数の斬撃が衝突し、その度に身体の何処かが裂傷を起こす。

交わした攻撃が余波を作り出し、かまいたちとなってふたりへと襲い掛かる。


「ぐっ……ぬぅ……!!」



「くっ……ふぅぅ……!」



二対による双剣と戦斧と盾。

互いの技は拮抗しているが、素早さという点においてはイゾルデが優勢であった。

豊はその戦斧という形状と重さによって、攻撃や守りが後手になってしまっている。


「くそっ……!こうしている間にもミセリが……!」


「雑念が見えるぞ紅の戦士!その様な浮ついた心では!私は!倒せぬ!!」



戦いに集中する事が結果的に戦闘を早く収束させる。

それは分かっているが、斬撃を弾く手は徐々に痺れを見せ

早くて重い連撃は、身体に軋みを生み出している。


豊は振り下ろされた斬撃に合わせて半歩下がり、空振りを誘う。

【受け】こそが豊の戦闘スタイルであると錯覚させるには十分打ち込ませた。


そのタイミングで振り下ろされた剣を右足で押さえつける

射程という長所がこの瞬間だけは短所へと切り替わる。


片方の剣を封じ、踏み込んだ瞬間にイゾルデの懐から外側に向けて

盾での打撃を放った。【腕弾き】パリィングである。

淀みなく、内側から放たれた盾攻撃は

もう片方の攻撃を阻止し、腹部のガードが一時的にがら空きとなる。


しかし盾攻撃を先に使ったため、必然的に戦斧での攻撃となる。

この攻撃にはほんの少し、猶予が生まれるはずだった。

斧での攻撃には振り回す事で生まれる遠心力と腕力による【溜め】必要となる。


そこで戦斧での攻撃動作を短縮する為、豊は瞬時に手を放し

戦斧ではなく、拳で直線の攻撃を繰り出した。


「ぐっ……!」

イゾルデの腹部に衝撃が走る。これ程までに高度な不意打ちを

人間から受けたことは今まで無かったのだ。


ましてや武器を空中で手放し、拳を放ってから持ち替えるなど

相当の熟練度を積まなければ実現出来ない高等な技術であった。


「浅いか……!」


拳が届く瞬間、イゾルデは自ら後ろに飛び、脱力によって

衝撃を分散させ、本来のダメージを最小限にまで抑えた。


後ろに飛んだことでふたりの間に距離が生まれ

仕切り直しとなった。


「「ふんっ!」」

再び、前へと動き出した剣と戦斧の攻防。

嵐の中に取り残されたような衝撃と圧力が容赦なく両者を苦しめた。

呼吸は徐々に乱れ始め、鼓動は激しく警戒を知らせる。


「この私の技についてこれる者はこの世界に数人とおるまい。誇るが良い。」


「そうかい?このくらいの斬撃は僕の国じゃあたくさんいたよ。」


「ふっ……!苦し紛れの戯言を……!今すぐ終わらせてやる……!!」


双剣での押し出しにより体軸をずらし、豊が一歩下がる。

「でりゃあああっっ!!」

気合いと共に繰り出されたのは

踏み込みより生まれた瞬発力を乗せた一撃

更に回転が加わる事によって遠心力が乗り

双剣による斬撃の効果は数倍に跳ね上がる。


一撃目を躱せば即座に第二第三の剣が防御の上から叩きつけられる。

盾と戦斧を重ね合わせ、防御を固めるも

更に回転速度は増してゆく


「この連撃、止められるものなら止めてみよ!!」


「ぐっ……!このままでは……!」


言葉を交わす間も変幻自在の剣撃は止む事なく襲い掛かる。

弱体化により本調子ではない豊は、じわじわと追い詰められてゆく。

『救世主、手を貸そうか?』


「それならミセリを追ってくれ……!」


『安心しろ。小娘の身体に居るのは我自身だ。別個体ではあるが、危険はない。あっちの我が何とかする。今はこのブンブン女を何とかしなくてはな。』


「……ブンブン女って……。」


「貴様ぁぁぁ!!その蔑称は私に対してかぁぁぁ!!!」


「ひえっ……!そんなつもりは……!」



『ブンブン、キンキンとうるさい女だ。』


思った以上に【ブンブン女】という蔑称が癇に障ったのか、彼女に一瞬の隙が生まれる。


「今だ……!」

豊は【超重厚戦斧・懐】の刃をイゾルデ側へと向け、押し出す。

互いの武器の刃が当たった瞬間に【破壊】を発動させたのだ。

それにより双剣の片方が破壊され、余波の効果で回転は止まり

イゾルデは一瞬、無防備な状態へと放り出された。


【よしっ!!】

一閃。光の速さで紅玉から放たれたのは、稲妻の束であった。

それはイゾルデの胸を貫き、次の瞬間、彼女の全身が麻痺を引き起こす。


『集束電撃光線、名付けて【Cビーム】だ。』


「かはっ……!や、やられた……!まさか両手が塞がった状態からの攻撃とは……!!」


不意打ちでの電撃をまともに受けたにも関わらず、イゾルデは膝を折らなかった。



『しぶといな……。出力をケチったのが間違いだった。』

イゾルデが死ななかった事にやや不満の冥王だったが、今はそれどころではない。


「……私は貴女を侮らなかった。さっきの攻撃がその証だ。……そして、もう馬車も見えなくなった。これ以上の闘いは無意味だろう。剣を収めてくれ。」


イゾルデは横目で馬車の有無を確認し、一瞬だが安堵の表情を見せた。

「……分かった。剣を収めよう。私は役目を果たせればそれで良いのだ。」



「……もう一度言うが、ミセリの力は彼女の命を繋ぐ為、仕方なく私が分け与えた禁忌の力だ。性質に付いてもまだハッキリと分かっていない。危険なんだ。」



「くどいぞ!そんなの百も承知だ!私は!私の意志で!信念で信じる道を選択したんだ!貴様に指図され……!ぐっ!!」


突如としてイゾルデがその場に膝を着いた。

手を当てている箇所には深々とボルト矢が刺さり、激しく出血している。


「なんだと!?」


『救世主!茂みの中だ!!』


「どおりゃあ!!」

豊は戦斧を投げ飛ばし、隠れていた刺客の頭を砕き割った。

次の瞬間、音を上げて炸裂弾が起動。刺客は跡形も残さずに自爆した。


「しっかりしろイゾルデ!!」


「まさかこの私が、ボルト矢すら躱せぬとは……!」


電撃によって身体が麻痺していた為、回避が間に合わなかったのだろう。

イゾルデの腹部からは血が流れ落ち、それに伴って顔は段々と青ざめてゆく。


『救世主、矢に毒が塗ってあるぞ。』



「毒だと!?何故!?」


「ペロリーノの仕業だろう……万が一私が負けた時の為の口封じだ……。こんな所で……死ぬのは……。」


「冥王ッ!!!!」


『分かっている。ブンブン女をこんなしょうもない場面で死なせる程、我は落ちぶれちゃいない。』


紅玉から具現した冥王カイパーは、分離させた身体を液状化し

イゾルデの体内に侵入させた。

ボルト矢を摘出し、傷口を塞ぎ、解毒を施したのである。



『救世主よ。これはまずいかも知れぬぞ。』


「どうした!!」


『この作業で今回得た電気が半分以下になりそうだ。』


「そんなの構わないから彼女を助けて!」


『仕方ないか……。』

冥王の倫理観と価値観はやはり生命を卓越したものがあった。






それから1週間が経過した。

豊は村人を説得し、家を借りてイゾルデの看病を続けた。


村人を信用していない訳ではないが

ミセリコルデを拐う手助けをしたのはイゾルデである為

そう簡単に割り切れるものではない。



「う……うぅ……此処は……?」

血液の不足により眠り続けていたイゾルデが目を覚ました。


「とりあえず、水を飲みなさい。」

豊が水を手渡し、補助を行うと

イゾルデは奪うかのように水へと喰らい付いた。

喉を鳴らし、水は流し込まれる。


「ぶはぁ……!」


「話は落ち着いてからで良いだろう。もう少し眠るといい。」


「…………。」


『おい、ブンブン女。礼も言えぬのか。』


「誰がブンブン女……だ……!!って……!」


彼女の腹部に繋がっているのは冥王カイパーの分身体であった。


グロテスクな見た目なだけあって女性であるイゾルデにはかなりの衝撃だろう。


しかし、カイパーが消化器官の役割を果たしている為

食事も排泄も滞りなく行われ、回復にのみ集中出来ている。


「わ……これは……!どういう……!?」


自身の身体から得体の知れない不形態生物が生えているのは

自身の体外に流れ出た内臓を見るにも等しい衝撃だろう。


「今君をミセリコルデと同じ方法で治療している。見た目は衝撃的だろうが、命に別状はない。もう、毒は抜けているし傷口も残らないだろう。」


「そ……そうか……!いや……しかし、絵面的にこれは……!!」



「……これが、君が奪おうとした力の正体だよ。自分の身に起きている事だ。良く考えるんだね。」




豊の言葉を聞き、自身が手にしようとした力の在り方に戸惑いを見せるイゾルデ。


『救世主がどうしてもお前を救いたいと、泣いて頼むから我が身を削って助けたのだぞ。感謝の一つでもしろ。』


「いや、冥王殿。泣いてはいないでしょ。」


『そうだったか?我々の旅の成果をほとんど投げ出して救った命だ。無駄にならん事を祈るばかりだがな……。』


「すまない……。世話を掛けた……ッ!!」


「……助かって良かったぁ〜ッ。」


豊はイゾルデの手を取り、心からの言葉を吐露した。

その顔には心労が見え、彼女が起きるまでの期間

ろくに休めていなかった事が容易に窺える。

その手は温かく、血の通った人の熱を強く感じる。


「(この男……誘拐の手助けをし、自分を痛め付けた私の事をここまで案じて……。なんと懐の大きい……。)」



『ブンブン女、脈拍が高いぞ。何を興奮しておるのだ?』


「こ!!興奮などしていないっ!!」


『救世主、この女は安定した。もう大事にはならん。安心して寝ろ。』


「そうさせてもらうよ。いやぁ……良かった……よかったぁ……すやぁ……。」


睡眠というよりも安堵した事により

緊張から解放され、身体に限界が来たのだろう。

最早眠るというよりも気絶だった。





「不思議な男だ……。敵である私に情けを掛けるなんて……。」



『ブンブン女。』



「その蔑称はやめろ!私の名はイゾルデだ!」



『我にとって人間の名前などどうでも良い。ブンブン女。救世主は言わなかったから我が代わりに言うがな。貴様を救う為にヤツがどれ程の対価を払ったか教えてやる。』


「そ……それはヤツが勝手に……。」


『『『殺すぞ。』』』


低く、暗く、重く、歪み、淀む声。

強く噎せ返る様な死の気配は

彼女が今まで感じた事のない恐怖であった。

常人ならこの覇気で死んでいる事だろう。

心臓に氷を突きつけられる様な寒気が彼女の全身を支配する。


『我は救世主と違って貴様になんの未練も思入れもない。しかし奴の希望で我は手を貸した。借りを返せ。我でなく、奴にだ。それこそ命を掛けてな。話はそれだけだ。』


「……何故そこまでして……。」


『奴は言ってた。【こんな美しい人を死なせては男の名が廃る。】とかなんとか。おそらくは自尊心の問題だろう……。命に限りある種族らしい自分勝手な考えだが……。おい……、そのデカい脈拍を抑えろ。我は寝る。起こすなよ。』




「うるさい……。わかっている。」


イゾルデはその人生の中で、これ程までに自身に命を傾けてくれた人物と出会った事はなかった。


「なにを……私は……。生娘でもあるまいに……。何故……こんなにも……。」




喜びが込み上げ、胸が高鳴るのだろう。

何を期待しているのだろう。

イゾルデは自分の気持ちに整理がつかず

その日は思考をずっと廻らせていた。






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