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紅の救世主  作者: メアー
3章.力の弊害と覚醒
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13.奇跡の少女





嫌な予感がしていた。


新たにヨーキタの酒場で聞いた話によれば、国の教会派連中が各所で【目覚めた】人々をあらゆる手段で囲っているという。


身請け、圧力、恫喝、脅迫と良い話を聞く事はない。

豊は馬を村に寄贈した事を少し悔やみながら走り出していた。


『恐らくだが、ミセリが我の【純単多細胞】を体内に取り入れた事で、偶然この星の先住民種に【覚醒】が起こったのだろう。』


「猪が【冥王因子】を取り込んで強くなったのと同じ作用か……!」


『我は一度、生命の次元を最大級にまで高めた。その影響は他の生命体に対し【急激な進化】を促したのやもしれぬ。』


「バイラスの時と一緒か……!」


『……救世主よ、貴様【次元獣バイラス】とも因縁があるのか!?』



「長くなるからその話は後にしよう!」


『うぅむ……。なんの因果がは知らぬが、バイラスの話が出るとは……。』



馬や牛の速度で数時間の道程を走り切り、ようやく村近くの吊り橋へと近付いた豊。


「ゼェ……ゼェ……!フルプレートで走るのは……!はぁ……はぁ……しんどい……!」


『しっかりしろ。その辺に関しては我でもどうする事も出来ぬ。』


水を飲み干し呼吸を整えると、ここでようやく周りの状態を確認する事が出来た。


『馬車の車輪跡に複数の蹄鉄跡……、やはり村に招かれざる客が訪れている様だ。』


「またこのパターンか……。力がある輩はどうしてこうも……。」


『言うな。所詮この世は自分の勝手を他人に押し付ける仕組みになっているのだ。』


「現実はいつも厳しい……。」




ヤットコ村へと到着すると、中央広場にて人集りが出来ていた。

前回と異なるのは、村人が人質ではなく、ミセリコルデを守り、断固として戦う意志を示している事だ。


「貴様らっ!これは神光教会による勤めである!例の少女を出せ!!隠しても為にならんぞ!!」


ヤットコ村村長と鉄腕のオージィが武装を決めて立ちはだかる。


「黙れ!この村は先先代ジアス国王、【ガリオ13世】の名の下に築かれた神聖なる土地!!言わば王国直下管轄の村!貴様ら別所属である神光教会に、財産である民を引き渡す謂れなどない!!」


前回の野盗における暴力とは異なり

国の権威を揺るがす別組織同士の衝突である。村長にはこの村を守る責任がある為、何かしらの要請がある場合、国王の書名と正式な書類が必要であると明示している。



「これは国家に関わる火急の要請である故、その様な書状は持ち合わせておらぬ!言うならば神光教会の権威であらせられる司教、【ペロリーノ・シャブリック】様直々のご来訪、これこそがこの要請が正式なものであると言う何よりの証と言えよう!」


【ペロリーノ】と呼ばれた司教は多くの教会私兵に守られ、椅子に腰掛けている。

その男が立ち上がり、右手を掲げると

私兵達は揃って膝をついた。

司教独特の作法。今から喋るという合図だ。


「ミセリコルデという少女は、以前に【ヨーキタ】の町で大工の大怪我を治療したと聞きました。骨が折れて飛び出す程の怪我を、医者でも薬師でもない少女が何故その様な力を持ったのか……。それはまさに天からの啓示どおり!彼女は神に選ばれし癒しの神子、天より遣わされた神の子なのです!!」


村人が騒めき始めた。

この村にも教会を信仰する者は少なくない。

村の中から神の子が出るという事はこの上ない名誉となり、その子は一生大切にされると聖典に記されている。


ましてや、司教直々の言葉は人々の胸を打つ独自の演説法を得意としている。


「どうする……。ミセリを教会に任せた方が良いのではないか?」


「田舎の村で一生を終える娘じゃないぞ」


「身寄りのない彼女の為には王都へ行かせた方が……。」


人々はそれぞれに少女の将来を案じて声を上げた。しかし、本人がそれを望んでいる訳ではない。


信心深い大人たちに代わり、声を上げたのは幼馴染みであるジャックだった。


「ミセリは神の子なんかじゃない!ヤットコ村の子供だ!俺はずっと一緒に育って来たんだ!ミセリを王都になんかやってたまるか!」


それを聞いた大人たちも、同調を示した。

ミセリ両親亡き後も、一緒に生活して苦楽を共にした家族だった筈だと思い直したのである。


「素晴らしい……!!村人同士の絆、素晴らしい思いやりである……!!」

拍手を喝采し、一番声を上げて歓喜したのは他でもないペロリーノであった。


「ほら皆様も!喝采なさい!我々の信仰が人々の倫理観と仲間意識を高め、これ程素晴らしい絆が生まれたのです!!今日は記念日!!そう!!記念日としましょう!!神子の誕生と、ヤットコ村の絆の強さを祝して!!」


ペロリーノが両手を掲げると、私兵達は一斉に拍手を喝采し、中には感動に咽び泣く者も居た。

教育せんのうが行き届いている証拠だ。



「少年よ……。私達は何もキミ達の絆を断ち切りたい訳ではない。神子には王都を訪れて頂き、歓迎するだけである。何も一生この村に帰って来れない訳ではない。1.2年程王都を満喫してもらい、帰すつもりであるぞ。」


ペロリーノは自身直筆のサインが入った書状を掲示する。

内容は神子の保護とその期間。丁重にもてなし、安全を保証し、家族には金品を授けるという内容だ。


「王都を知る事も大いなる社会経験、言うなれば知的財産となる。彼女を縛るだけでなく、広い世界へと送り出したあげるのも【家族】の役目、ではないのかね……?」



まるで正論の様に話しているが

前提条件としてミセリコルデが王都行きを望んでいない。という論点をズラしている。

まさに詐欺師の手腕と言えよう。



「どうやら間に合った様だな……!」


ここで息を切らせた豊が当時する。

村人は口々に救世主の帰りを喜んだ。

「ユタカ!来てくれたのか!」

「ユタカが来てくれたらこっちのもんだ!」


村人から歓声が上がる。

豊には野盗討伐とミセリコルデの治癒という功績がある。故に人気と信頼度は抜群に高い。


「申し遅れました司教様。私はユタカ・ホウジョウ。この村で世話になっている流浪の戦士です。」


「そうですか、流浪の戦士……。」


司教の目線は即座に豊の装備へと注がれた。

外見や装備から読み取る事が出来る情報は、未知の相手に対して有効な武器になり得るからである。


黄金をあしらえた真紅の全身鎧に、複雑な造形と宝石が鏤められた小盾。

重量と迫力を醸し出す鍛えられた戦斧。


司教の目には間違いなく実力者であり、位と気品を兼ね備えた人物と映った。



「私は神光教会、司教。【ペロリーノ・シャブリック】。此度はこの村から神の子が覚醒したとして急ぎ、参上しました。今し方、書状をもって、この申し出が正式なものであると証明しようとしていた所です。」


良く口が回る。ペロリーノは豊に対して書状を見せるが、必要事項に不可解な点や言い回しの難解な箇所が多々見られた。

しかも、途中で読むのを諦めるのを見越した様に長文である。


これでは教養のない者は騙されてしまうだろう。特に、小さな村出身の村長程度では。


『これは良くある詐欺の文章だな。特筆事項に小さく要点がまとめられている。程の良い奴隷契約そのものだ。』

念話越しに冥王も注意を促す。


「神子を保護する権利を全面的に教会側へと譲渡し、何人たりとも、口を挟む事を不問とする。ですか……。随分と小さい特筆事項だ。」


豊が文面を読み上げると村人から反感が飛んだ。当たり前である。コレはミセリコルデの人権を完全に無視すると公言している様な文面とも受け取れるからだ。


「いやいや、コレは全ての責任を教会が持つ。という意味合いでの文章でして……。」



「この【何人たりとも】には国王陛下も含まれているのでしょうか?」



問題はそこである。この書状が法的効果を発揮するのであれば、国王の意志すら省みず、ミセリコルデの処遇を決定する事が可能になってしまうのだ。



「ぶ、無礼な!今のは国王陛下を侮辱する発言だ!!衛兵!!此奴を取り押さえろ!!」


私兵が動き出したその時。


「侮辱しているのはどちらか!!」

豊は声に覇気を込めて放った。


その時点で私兵諸共、ペロリーノすら膝を付き、口を紡いだ。


「この様な、人を人とも思わない様な文面でミセリを縛ろうなどとは言語道断!!この国を守りし国王陛下に対しても不敬である!国民は陛下と国の宝である!それを理不尽に奪い、手中に収めようなどと、陛下に対する反逆と同意!!」



「黙れ!!黙れ!!この私に国家反逆の汚名を被せるとは不届き者め!!」


その時、豊の首に掛けていた【一粒の栄光】が鎧の隙間から輝きを放った。


「そ、それは……!その輝き……!!見間違える筈もなし……!この国宝のひとつ、【一粒の栄光】!!貴様それを……さては盗んだな!!この盗人め!此奴の様な盗人に発言する権利などない!衛兵!!此奴を不敬罪と国家反逆罪で捕えよ!!」



余りの往生際の悪さにそろそろ堪忍袋が切れそうな豊。

「良くもまぁベラベラと……!」


『無駄だ、救世主。口論は同じレベルでなければ成立しない。こんな豚では無理だ。』


「……そうだな……。」




「何を独り言を!この人数を相手に何とかなるとでも思っているのか……!」

ペロリーノの後ろには50人以上の私兵が待ち構えている。


「そっちこそ、【その数で足りると思うのか?】」


村人が武装し、人質でない以上。

こちらに負ける要素はなかった。

例え何かあっても豊には多少の人脈がある。

それでダメならこの国を滅ぼすまでに覚悟は決まっていた。ミセリコルデは命の恩人である。その恩に報いるのが救世主だ。


「ぐっ……ぬぬぬ……!!」

誰一人として私兵が動かない中、奥の馬車からひとりの人物が降りて来た。

私兵が続々と道を開ける。


その立ち姿は麗しくありながら力強く、可憐でありながら気高い。気品と実力を兼ね備えた男装の麗人であった。


「イ……イゾルデ様っ!!どうかこの不届きな輩に処罰を……!!何卒、【インペリアルガード】のお力を……!!」


ペロリーノは這い寄る様に麗人へと近づき、それは細身の剣によって阻止された。


「黙れペロリーノ。今回は特例によって随行したが、貴様の失態、一部始終見ていたぞ……。」


殺気の規模が尋常ではない。

豊ですら寒気を覚える程に、この麗人は強者である。


「お父様の件がなければこんな所には来なかったが……。【一粒の栄光】を目の当たりにして気が変わった。そこの紅……。ユタカと言ったか。それを何処で手に入れた。」



「旅の途中、馬車で立ち往生していた殿下を助けた際に頂いた。側近のアレク殿にも止められたが、【ルナディア様】直々の賜り物であったが故、私に決定権はない。」



「そうか、殿下の戯れか……。なら致し方あるまい……。」



ふたりが対峙している中、村奥の納屋に隠れていたミセリコルデが私兵の手によって拘束された。


「ペロリーノ様!神子様の身柄を確保いたしました!」


「でかした!早く馬車でお連れしろ!!」

最早、醜態を厭わずにペロリーノは素早い動きで馬車へと逃げ出した。


「ミセリッ!!」


「ユタカァ!!助けてぇ!!」


ミセリコルデは縄で拘束された状態で私兵に担がれ、拐われてゆく。


「今行くっ!!」


豊が走り出そうとしたその時、イゾルデが剣にて行手を遮る。


「……何をする……!」


「こちらも、都合というものがある。足留はさせてもらうぞ……!!」



先に剣を振ったのはイゾルデであった。

剣撃を回避し、豊も武器を構える。


「どうしても戦うと言うのか!!」


「言った筈だ!こちらにも都合があると!」




こうして豊対イゾルデの戦いは始まった。

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