12.オーパーツ
村での一件は終わり、落ち着きを取り戻しつつある中
豊とカイマンは祭祀場を訪れていた。
「ユタカ、ここには一体どんな秘密があるんだい?」
「説明します。祭祀場の近くに存在した取手のない扉の建物、此処は水量を調整する為の施設でした。」
「この大きさのものが人工物……。つまりは古代のオーパーツだというのか……!」
「その通りです。そしてここは水力発電所であり、蓄電所でもあった。」
豊は室内のパネルを操作して奥への扉を開いた。
奥には大量の送電官とモーターが稼働を続けていた。
「何という技術の結晶だ……。これは大発見だぞ……!」
「カイマンには悪いけど、ここのエネルギーはそう簡単に流用出来ないだろう。僕も経験則となんとなくで動かしているからね。」
「なんと……先程も驚いたが、キミは一体何者なんだ……?」
「普通の人なら言っても理解できるか分からないけど、カイマンなら分かるだろう。僕はこの世界の人間じゃない。別の世界から来た。」
「本来ならば疑う所だが、わたしは学者だ。この星が天体である事も理解している。その上に……。異世界人とは……。」
「こっちは相棒のカイパーだ。」
『感謝しろ小僧。此度の計画は我の発案と機転、活躍によってなし得たのだ。』
実を言うと豊が、レイを滝壺から回収している間
ここで水量調整をしていた水鎮の息子に不意打ちを喰らわせ、眠らせたのはこの冥王である。
「わかった、惑星外生命体までいるんじゃあ信じるしか無いな。わたしの知りうる見聞の中で、キミのような黒色で人語を使う不形態の生物は存在していない。……それで、わたしに何をしてほしい?」
『話が早くて助かる。』
「……それ、わたしの真似かな?」
「カイマン、この発電所のエネルギーが僕達には必要なんだ。ジアス国には黙っててほしい。」
「……理由を聞こうか。」
「僕達が故郷に帰る為にはこのカイパーの力を取り戻さなければならない。それには莫大なエネルギーが必要なんだ。」
「……いいよ。キミたちには借りがある。この施設を国に言えないのは残念だがね。」
「あぁ、よかった。助かるよ。」
「そうと決まれば、わたしも手伝おう。キミたちが家に帰るのをね。」
「有難い!」
豊たちは施設内部に存在する蓄電室へと向かうと
中には大量の蓄電池が保管されていた。
「すごいぞ……!これだけの電気があれば……!」
『ふむ……。蓄電池の容量と数を計算すればざっと1.21GWってところか……。』
「原子力発電所並みの電力がここに!?信じられない……!」
『だが、電気はいつまでも蓄えておける性質にない。経過年数や今までメンテナンスが入らなかった事を考慮すれば、あまり期待は出来んぞ。』
圧倒的な科学力の差を目の当たりにしたカイマンは
辺りの装置を丹念に調べ上げ、己の糧とした。
「せめて知識だけでも……。」
目にするものが全て新しいカイマンは夢中になって電気系統を見学していた。
『救世主、コネクターは何処だと思う。』
「ちょっと待って……。配電図があるから……。多分ここだと思うんだけど……。」
『電圧がどの程度か全く分からんが、我の肉体なら問題ないだろう。漏電と発火だけ気を付けてエネルギーを頂くとするか。』
「変圧器を介しているから多少の誤差はいいとして、全部の電気を吸収しても大丈夫なのかな?このダム自体に影響が出ると困るんだけど。」
『この手の施設は別口で電力を確保している筈だ。予備の蓄電池が他にあるのだろう。では、改めて頂くとしよう。』
電力はその性質上、急激に移動させる事は叶わない。
カイパーは時間を掛けてゆっくりと電気を自身へと取り込み続けた。
その間、豊とカイマンは情報をいくつか交換し
その中には次なる目的になりそうな獲物の情報も存在した。
「【鏡の塔】に【鉱山地下迷宮】か。強そうな生物が潜んでいそうだ。ありがとうカイマン。」
「いやいや、わたしの方こそ感謝している。それと、少し気になる話があってな……。」
カイマンがここまで豊に心を開いたのは偏に、彼に匹敵する知性と知能を持ち合わせた人物に今まで巡り合わなかったことに起因する。所謂、同士やオタク仲間というやつだ。
「国境付近で未確認生物の発生か……。いずれ王都には行くだろうし、その時に確かめるとするかな。」
「あぁ、王都を訪れたら是非、わたしの研究室にも顔を出してくれ。」
ふたりの友情が芽生えた所で、カイパーの充電が完了した。
『ふぅ……大体目標の5割といった所だ。』
「原子力発電所一基分で1割の半分か……。まだ先は長そうだな……。」
「電力が貯まるまで、滞在するのも一つの手ではないか?このキュージ村は米が美味いしな。」
『それなのだが……。』
カイパーの見解では、変電所の一部に劣化が見られており
発電の効率が下がっているらしく
再び最大値まで蓄積するまで約2年は掛かる見込みだという。
「時間が掛かろうとも、無いよりは遥かにマシだろう。修理する技術も材料も確保出来ないなら下手に触らない方がいい。」
こうして大量のエネルギーを調達した一行は
道の途中でカイマンと別れ、再びミセリコルデの待つ【ヤットコ村】へ向かう事となった。
『そろそろ小娘の【純単多細胞】を回収しても良い頃合いだろう。』
「みんなに会うのは久しぶりだ……。移動合わせて1ヶ月ぶりくらいか……。」
酒場にてキュージ村からヨーキタまでの定期馬車が無いかと探している最中、酒を飲み交わしていた人々の間で持ちきりの噂があった。
「なんでも、ヤットコ村に奇跡の力を使う少女が現れたって話でよ。不思議な力でパーっと、どんな傷でも直しちまうんだと。」
眉唾ものの噂話に男達も疑いの声をあげる
「嘘じゃねぇよ。ヤットコ村から物資輸送に来てた小さな娘がよ。足場から転落して大怪我した大工を救ったって話だ。その後めちゃくちゃに食い物を請求されたみたいだけどよ。」
「人を助けると腹が減るだなんておかしな話だけど、食い物で傷が治せるなら儲けもんだよなぁ!」
「ちげぇねぇ!オレもこの古傷が治れば戦場に戻れるのによぉ!」
「それを聞いた【神光教会】がな……。おっと、給仕の姉ちゃん!その料理はこっちだぜ!」
酒場には様々な人々と同じ様に情報が出入りしている。
この手の情報は玉石混淆ではあるが
時折豊はこうやって耳を傾ける様にしている。
「……ヤットコ村に奇跡の少女現る……か。とても嫌な予感がするんだが……。」
『……救世主よ。更に朗報だ。近くに何やら冥王因子の反応がある。』
「全然良い話ではないんですがそれは……。」
酒場を飛び出し、辺りを見回すが
人の波が多過ぎる為、因子の特定は不可能となる。
『反応を見失った……。ここは雑多過ぎる。』
「仕方ない、宿の手配ともう一度馬車の確認をして今日は休もう。」
再び酒場へと戻る豊たち。
人混みの中、この国で圧倒的な権力を持つとされる
【神光教会】が紛れている事など豊たちは知る由もなかった。




