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はじめまして魔法

 結局、冬弥は彼女の下僕になった。弁解しておくと冬弥が桃色な妄想に負けたとか、そういうのではなく、どちらかと言えば仕方なく下僕になった。事は彼女と冬弥が出会った日の夕方頃に遡る。



 元々、冬弥が彼女と出会ったのがお昼をかなり過ぎた時間だったようでやがて夜になろうとしていた。時間にすれば1~2時間ぐらい悩んでいたわけだが冬弥は、そこからも悩み続けた。


「それで、どうするの?」


「いい加減、決めたら」


「女性を待たせるのは失礼よ」


 それでも彼女は時々文句を言うものの冬弥の返事を待ってくれていた。だが最後に事件が起こった。人は誰もがお腹がすく、それは美少女だって、晩飯時になればお腹が空くだろう。


「グー」


 冬弥は女の子がお腹を鳴らしたとしても下品だとか思わない。むしろお腹を恥ずかしそうに抑える姿は何とも言えない可愛さがあると思っている。しかし、年頃の女の子にとってお腹が鳴ることは恥ずかしいことだと思う。睨まれたり、叩かれたりするのは仕方がない冬弥はそう考えていた。


「あー、ごめん、腹が減ったのか?」


「だっ、第二詠唱!、ファイアーボール!」


 だが、無神経にたずねた冬弥の目に写ったのは、燃えるように真っ赤な彼女の顔と、彼女の右手に浮かぶ小さな炎の塊であった。

 魔法、冬弥の頭の中にその言葉が浮かんだ。明らかに何もない所に現れた炎に冬弥は驚くが、今までの流れ的に炎はちょっと・・・いやかなりまずかった。


「ちょっと、待て!魔法とかそんなのはどうでもいい。まず、その手の上の物をしまってくれ!」


「私の魔法をどうでもいいって・・・私の事、馬鹿にしてるのっ!」


 命の危機に、思ったことを全て口に出してしまった冬弥。彼女はますます怒ってしまった。確かに魔法とやらに熱い彼女からすれば馬鹿にされた様に聞こえるかもしれないがそれは誤解だ。


「待て待て待て!違うって、俺、魔法見るの初めてなんだよ!というか魔法って何なんだよ!」


「そんなわけないでしょっ!」


 冬弥は説明をしてみるが上手くいかない。冬弥がさっきまで魔法というものがある事に疑問があった様に、彼女にとっては逆に魔法がないことがありえないらしい。冬弥は彼女が火の玉を出すのを見たので、あ~魔法ってあるんだ、という具合には一応理解できた。だからと言って冬弥が魔法を知らない事は変わらないわけでどうすることもできない。


「マジですよ?本気で初ですよ?」


「まだ言うの?私、あなたを消すくらい余裕でできるわよ?」


 意味不明な敬語で話しても彼女は信じてはくれない。むしろ、最終警告的な言葉を発すると炎の火力を上げ始めた。おい、物理的に消すのかよっという突っ込みは冬弥の心の中にしまっておく。いや、さすがに死にたくはないからな。それではどうやったら彼女を止められるか、一つだけ冬弥は思いついた。


「俺なる!下僕になっちゃうよ⁉」


「はっ?そう、なら良いのよ」


 もう、彼女の提案を受けることに冬弥はした。いきなり炎とか、いきなり拳銃突きつけられるのと同じだろと冬弥は思った。元々、記憶が無くて困っていたところだったし、最悪、帰るのは落ち着いてからでもできる、冬弥はそう考える。

 彼女も一瞬きょとんとすると、わざとらしく納得していた。

 彼女は一々絵になる容姿の持ち主で、しかも胸が大きい。しかし、いきなり炎の塊を当てようとする奴でもある。正直、冬弥には展開に付いて行くのが精一杯なくらいだった。


「それじゃあ、付いてきなさい」


「はい、はい・・・」

 

 ランタンの明かりが照らす夜の町を美少女と歩く。デートの様にも感じられるシチュエーションにも冬弥のテンションはあまり上がらなかった。なんというか冬弥の初恋の熱は早くも冷めつつあった。


「あっと、忘れてた。わたしの名前はリラ、リラ・ルベルム・ド・マーリン」


「九条冬弥だ、っと、名前が冬弥で、ファミリーネームが九条な」


「トーヤ・クジョ―、変わった名前ね?」


 歩きながら首を傾げてたずねてる彼女、リラを見ているとやはり可愛い。惚れた、惚れないとは関係なしに冬弥はリラには弱いようだった。


「あっ、あー、そうだな。記憶が無いからな!」


「ふーん、そういうことにしておいてあげる」


 少し誤魔化し気味に答えた冬弥にリラは、納得のいかないような顔をしていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「・・・なんだこれ、でかすぎるだろ!」


 下僕になることを了承しリラの後を付いて行っていた冬弥の目の前には大きな城があった。まぁ、とても大きな建物なのでリラがそっちの方向に行くのは冬弥はわかっていた。それでも近くに行くとその荘厳差に圧倒された。

 

「うるさいわよ、確かに私も最初は驚いたけど、貴族が通う学園だもの。これくらい当然よ」


「はっ、学園?城じゃないの?」


「そう学園、トリタニア王国学術院。ちなみに王宮はもっと大きいわよ」


 驚いた冬弥にサラッと答えをリラは返した。お城じゃなくて学校とは・・・お金ってあるとこにはあるんだなと気の抜けた事を思う冬弥である。


「さっさと入りましょうか」


「おう?この中にはいるのか!?」


「当たり前でしょ?わたし、ここに住んでるんだから」


「いやだって、そこに兵士っぽいのが立ってんだけど・・・」


 冬弥の目線の先には建物の規模に相応しい、駄にごつい門と、門を守るように鎧姿の兵士が配置されている。門をくぐるのにも抵抗があるのに門の両隣には、剣をぶら下げた兵士がいるのだ。不審者とかと間違われて切り捨てられはしないだろうかとちょっとビビる冬弥。


「あの人達は騎士科の生徒だから大丈夫よ」


「んっ、騎士科?」


 そう言い残すとリラは兵士の方へと歩いて行った。そのまま兵士に一言二言会話を会話を交わすと冬弥の方へと戻って来た。


「はい、了解は貰ったから速くいきましょ」

 

 本当にここに住んでいるらしい、取り敢えず確認が取れたので冬弥はリラの後に続いた。中に入ると学校の中なのにしっかりと石で整えられた道が続いていた。道の周りは広場の様になっていて所々にベンチが置かれている。中に入ってもとにかく広かった。

 これはあれだ、日本風に言うなら東京ドーム何個分かっていう大きさだ。でも俺東京ドームって行った(記憶)がないからな。冬弥がアホな事を考えているうちにリラは道を左の方へと進んでいった。


「あっちじゃないのか?」


「そっちは校舎よ、あそこに寮があるの」


 正面の大きな建物を冬弥が指さすとリラは左の建物を指差した。そこには屋敷があった。校舎のような荘厳な雰囲気はなく、高さも三階立てくらい、しかしとにかくでかい。どこかのホテルか旅館かというサイズだ。


「いや、寮って言ってもでかすぎなんじゃねーか?」


「そう?貴族が暮らす寮だもの。これくらいは必要よ」


「あー、そっか貴族ね、貴族」


 貴族、耳慣れない言葉のはずなのに冬弥はその言葉になれてしまっていた。貴族ってくらいだからみんなスィートルーム的なサイズの部屋で生活してんのか、とか見たことのない貴族の生活を想像していた。

そのままリラの後に付いて行くと寮に着いたようだった。


「・・・誰にも会わないといいんだけど」


「んっ?なんか言ったか?」


「何でもないわよ!」


 リラが扉の前で何かを言ったようなので冬弥が聞き直すと何故か怒鳴られてしまった。何だよっと冬弥が言う前にリラはそのまま寮に入ってしまう。


「あっ、おい、ちょっと待てよ」


 冬弥も慌てて入るがリラに追いついたところで冬弥は周りを見た。上を見上げれば最上階まで吹き抜けになったエントランスにはシャンデリアの明かりが降り注いでいる。床には一面に赤の絨毯が敷かれ、冬弥は思わず靴を脱ぎそうになってしまう。


「あ~、やっぱ内装も豪華なんだな」


 冬弥がつぶやくとリラは今度もまた左の方へと歩いて行った。寮に入ってすぐ左、入口側の端っこだ。左側にいくつかあるドアの中から今度は一番右側のドアの前にリラは立った。


「ちょっと、待ってて」


 振り返ってそう言い残すとリラは扉の中に入ってしまった。中からは何かを移動させる音が聞こえるが何をしているのか冬弥には何をしているのかわからなかった。

 

 一人になってみると、まぁおかしな事になったもんだと冬弥は思った。記憶をなくして、途方に暮れていたら美少女に拾われる。そしてその美少女は魔法を使う貴族令嬢らしい。どこかのエロゲーみたいな展開だ。冬弥のお気楽さか、記憶が無いせいか、あまりヤバいとかお家帰りたいとはあまりならなかった。取り敢えずはリラの所で働いて、家にはボチボチ帰ればいいそう考えていた。


「いいわよ、入って」


「失礼しま~す」


 顔を赤らめたリラから入ってこいと言われ、冬弥は何も考えずに部屋に入ったのが・・・


「なっ・・・んだと」


 そこはリラの私室だった。壁の柄とかはエントランスのは変わらない。しかし、一つだけ置かれたベッドにはいくつか可愛らしいクッションが置かれ、その隣には化粧台と大きな鏡がある。少し、大きく呼吸をしてみれば清潔感のある甘い香りがする。間違いなく女の子が生活をしていると確信できる空間に冬弥は固まった。


「ちょっと!変な所を見てないでしょうね」


「あっ、あ~違うぞ?ちょっと考え事をしてた」


 リラが眉を上げて冬弥の前に出てきたことで冬弥の体は動いた。

 冬弥には下僕といえば部屋を与えられて「今日からここがあなたの部屋よ。わたしは朝は七時に朝食を採るから」っとでも言われてこき使われるイメージがあった。というかいきなり部屋って危ないだろ。


「ところでトーヤ。下僕って何をするかわかってるかしら?」


「なんとなくはな、あんたの身の周りの世話をすればいいんだろ?掃除とか洗濯とか」


「わかってるみたいね。ならお腹が空いたからそこのテーブルにお皿を用意してくれないかしら?」


 壁の方に置いてある食器棚を指差すとリラは早速、冬弥を使い始めた。いきなりこき使うとか、ドラマの悪いおばさん以上じゃねーかと冬弥は思うがそこら辺は我慢する。テーブルの上にはバスケットが置かれているので恐らくサンドイッチか何かだろうと冬弥は丸皿をテーブルに置いた。


「ありがとう」


 冬弥が皿を置くとリラは一つしかないテーブルに座ってサンドイッチを食べ始めた。はむはむと少しづつ、上品にそれでいて美味しそうに口に入れる。

 そんなリラの姿を見て冬弥は一つ言いたかった。俺も腹が減ったと。今まで意識しなかったが冬弥も意識が戻ってからは何も口にしていない。それで目の前でうまそうなサンドイッチを美味しそうに食べられては腹が減るのは仕方がない。そこで誠也は言ってみた。


「なぁ、少し分けてもらうことはできませんでしょうか?」


「あなたは下僕になったんでしょ?ご飯は後よ」


 まぁ、こう言われると思ってました。冬弥は思う。リラから見れば冬弥は道端で拾った使用人で、冬弥からだと拾ってくれた雇い主である。なので超上から言われるのが当然なわけだが、実際に命令だのを受けてみると冬弥は面倒な気分になる。というかきっかけは魔法とやらで脅されたのが理由のなので雇用といっていいのかも謎。そこまで考えた冬弥は少し強気に出てみた。


「リラ、飯を俺にくれ」


「・・・リラ?あなた誰に向かって口聞いてるの?」


 当然怒られました。リラにとっては冬弥は目下の人間なわけで言われた事はもっともだ。しかしどうにも冬弥には下手に出るという事ができなかった。脅されるようにここに来たからか、それとも九条冬弥の性格か、少しイライラしてきた。


「そうは言うけどな?俺はまだ何も聞いちゃいないんだ。俺は何をすればいい?給料は?プライベートの時間は貰えるのか?」


「うるさ~い!とにかくわたしがご主人様なんだからわたしに従ってればいいの!」

 

 リラはどんっと音を立てて立ち上がると何やら袋を持って部屋を出ようとする。


「ちょっと待てよ、どこ行く気だ?」

 

 冬弥はそれを止めようとするが・・・


「お風呂に入るの!ついて来ないで!」


「風呂?あ~、いってらっしゃい」


 さすがにお風呂に付いて行く訳にはいかないので冬弥は見送った。お風呂・・・リラが言うと何とも良い響きに聞こえるから不思議だ。冬弥はお気楽で状況に流されやすい、結局この件は有耶無耶になってしまった。仕方がないのでお風呂妄想を始めると・・・ガチャッとドアが開く音が聞こえてリラが一言言っていった。


「そこのサンドイッチの残り・・・食べていいから」


 照れたように顔を赤くして今度こそ風呂にいったリラに冬弥はドキッとした。偉そうにしてなければ可愛いんだけどな~と冬弥はバスケットの中身を覗いてみる。そこにはサンドイッチが丁度半分残してあった。


「もしかして、元から俺にくれるつもりだったのか?」

 

 よくわからないが冬弥は椅子に座ってサンドイッチを食べ始めた。中に挟まっている物は卵だったりハムだったり、見慣れない野菜だったりとバリエーション豊富だった。その中でも冬弥はハムと野菜のサンドイッチが一番おいしく感じた。とても美味しかったので食べるのに時間はかからなかった。


 


 


 








 


 


 



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