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18.リボン


次の日の早朝。

村を出立する時に、村長と数人の村人が見送りをしてくれた。

村長はカンデとその姉、また他にも犠牲になったエルフや旅人の慰霊碑を作り弔ってくれると言ってくれた。

そしてジュルードパールの発展に力を入れ、うまく軌道に乗ったら王宮に献上すると言い、それに加え今後ベリーニ村ではエルフを避けるような真似はしないと約束してくれた。

その証として、最初に採れたジュルードパールを一つずつ渡してくれたのだった。


「それにしても、ベリーニ村の村長は、こんな高価な物を一つずつ私達に下さったのですが、良かったのでしょうか? 」


村から大分離れた所で、ミカルが懐から取り出したジュルードパールを見てため息をついた。


「ほんとだよねぇ~。こんな綺麗な珠、一財産になるのに。僕達にくれちゃってよかったのかなぁ~? 今からお金がかかると思うんだけど」

「それだけ感謝をしているということでしょうね 」


アルの言葉にユーリも頷いた。


「うん、だからこれはありがたく頂いておこう。村長も、カンデの形見の代わりにマリオンに持っておいて欲しいって言ってたし 」

「だからですよ~。村長はきっとマリオンにだけ渡す訳にいかなかったからでしょ~? 僕達は返したほうが良かったんじゃ~? 」


クロードの最もな意見にミカルとアルも頷いている。


「駄目ですよ! あの村を助けられたのはユーリ様と皆さんの力によるところが大部分なんですよ! だから受け取るのは何の問題も無いですよ。むしろ私なんて何にもしてないのに…… 」


マリオンの勢いに押されたイケメンエルフ達は顔を見合わせると苦笑いをした。


「わかった、わかったよマリオン 」

「ええ。そうですね。お礼としてありがたく受け取りましょう 」

「うん。村長が折角くれたんだしね。僕のお嫁さんが来たらアクセサリーに加工してあげればいいよね~ 」

「そうですよー! そのほうがカンデも喜ぶと思います 」

「だね~ 」


そう言って全員が顔を見合わせ、はじけた様に笑いが起きた。


「それにしても、ベリーニ村はこれから大変でしょうね 」

「そうだよね~。貝を養殖するって言ってたけど、お金大丈夫かなぁ~? 」

「それについては、ジュルードパールの養殖の件で国から援助出来ると思うから、に父上と宰相に相談しておくよ 」


ユーリの言葉に皆が安心した表情をみせた。


「流石、ユーリ様ですね! カンデも村の人も喜びますね! 」


マリオンは満面の笑みでユーリを見る。


「――えっ? あ、うん。そうだね 」


珍しくぼんやりとしていたユーリを不思議に思ったものの、その時は特に気にも留めなかった。




――――――――



「そろそろ休憩だって~。あの木の向こうに泉があるみたいだから、そこで休憩だよ~ 」

「はい、ありがとうございますクロードさん」

「ねぇねぇ、マリオン。ちょっといい? なんだかユーリ様の様子がおかしいんだけど、理由を知ってる~? 」


相変わらずだだ漏れの色気と、気の抜けた声のクロードに、首を横に振る。


「え? ユーリ様どうかしたんですか? さっき話してた時はいつものユーリ様に見えたんですけど 」

「うんさっきはね~。でも、よくよく考えてみるとなんだか今朝からぼーっとしたり、急に手で顔を覆ってみたり。とにかく、いつものユーリ様らしくないんだよね。マリオンなら理由を知ってるかと思って 」


確かにその話を聞いた限りでは、普段のユーリからは考えられない行動をしているようだ。


「いいえ? クロードさんがまた何かしたんじゃないですか? 」

「ひどいな~マリオン。僕は何にもしてないよ~今回は 」

「今回は……っていつもしてるんじゃないですか 」


苦笑いをしたマリオンをみてクロードはきょとんとした顔をしたが、そのまま破顔する。


「まぁそうとも言うよね~。あ、でも今回は本当になんにもしてないんだよ。様子がおかしかったのは昨日の夜からだし 」

「夜ですか……? 」


そう言えば、昨夜部屋の前で別れたとき、赤い顔をして固まっていたような気がするが、まさか風邪か何かだろうか?


「もしかして風邪とかじゃないんですか? 」

「どうして? 」

「昨日ユーリ様が部屋まで送ってくれたんです。その時部屋の前で別れたんですけど、顔も赤かったしいつもと様子が違ってたので、もしかしたら体調が悪かったのかな……なんて思ったんです 」


マリオンの言葉にクロードは考えた素振りをしながら顎に手を置いた。


「風邪は多分大丈夫だけど……ねぇ、マリオン。昨日別れ際にユーリ様と何かあったんじゃないの? 」


今度はマリオンがきょとんとする番だった。


「何か……ですか? 」


これと言って思い当たらないのだが、目を閉じて眉を顰めて考える。


「もしかして…… 」

「何か思い当たった? 」

「わからないんですけど、昨日ユーリ様はカンデさんとのことを色々と気にかけてくれて……。すごくうれしかったなぁ 」

「うん。それはどうも関係ない内容みたいだね~。昨日の夜のこと、かいつまんで説明してくれる? 」


ユーリ様の御付ともなると色々主君のことを気にかけないといけないんだな、などと思う。


「ええ。いいですよ。昨日は温泉までユーリ様が迎えに来てくれて……、それから私が女だってばれちゃいまして 」

「ははは。ユーリ様気づいてなかったから、将来大丈夫か僕達心配してたんだよね~ 」


軽く言うクロードにマリオンは小さくため息をついて抗議する。


「ひどいですよ。私だって悩んだんです。気づいているなら早く言って欲しかったです 」

「まあまぁ、そこはほら。終わりよければってやつで。で、それからどうしたの? 」

「……それから、普通にユーリ様が騙してたことを許してくれて、それから村に帰って皆さんと話しましたよ? 」

「うん。僕が聞きたいのはそこから先デス 」


笑顔を崩さないままのクロードに先を促される。


「えー……、後は部屋に戻って、部屋の前で別れただけですけど 」

「ほんとにそれだけ? 」

「ええ。それだけですよ? おやすみなさいのキスをしたあと別れましたよ 」

「そっかー。おやすみなさいのキス―――――キ、キスーーーーー!? 」


クロードはそう叫んだままマリオンを凝視している。


「え、ええ? あれ? おやすみなさいのキスくらいします、よね? ユーリ様は弟みたいにかわいいですし……って、クロードさん、大丈夫ですか。なんだか、すごい顔されてますけど…… 」


怪訝な眼差しを向けたマリオンに、自分の状態に気づいたクロードは取り繕うように笑う。


「あ、うん。だ、大丈夫だよー。そっか、そうだよね~。『弟』へのおやすみなさいのキスねー、うん。理由わかったよー 」


渇いた笑いと固まった笑顔のクロードにマリオンは気づかない。


「私は何がなんだかわかりませんけど…… 」

「マリオンは気にしちゃ駄目だよ。うん、この調子でユーリ様をよろしくね~ 」


そういい残すとクロードはさっさと側を離れていった。

一体なんだったのだろうか……。

マリオンは首を傾げながら足を進めると、入れ違いに噂のユーリがやってきた。


「マリオン、今クロードと何を話してたの? 楽しそうだったけど 」

「クロードさんと、ユーリ様の体調が悪いんじゃないかって話してたんですよ。そんなに、楽しそうでしたか? 」

「うん。マリオン、言葉遣い 」


ユーリに指摘され、敬語のまま話していることに気づいた。


「ごめんごめん。クロードさんとさっきまで話してたからそのままの口調になってた。それにしても、ユーリは具合悪くないの? 」

「うん? 俺は体調は良いよ 」

「そっか、よかった。クロードさん達が心配してるみたいだから、後で声をかけてあげたら? 」

「後で……。それより、マリオン休憩の時、ちょっといい? 」


視線を下に向けたままのユーリはやっぱり少しいつもと違う気がする。


「いいよ……。でも、本当に大丈夫なの? 」


つい弟のように心配してしまう。

ユーリはいつものように首を傾げると、いつものように微笑んだ。

そのままなんとなく無言で歩いていると、あっという間に休憩場所に着く。


「じゃあ、あっちに行こう 」


マリオンはそのままユーリと、休憩場所とは反対側の泉の辺に腰を下ろした。

チラリとユーリの顔を伺うが、マリオンには気づかない様子で泉をじっと見つめている。


「それで、どうしたの? 」

「…………うん。渡したい物があって 」

「渡したい物? 」


問いかけてみるが、目線を合わせないままユーリは相変わらず泉を見つめている。

ユーリの渡したい物とは何か、さっぱり見当がつかないマリオンはのんびりとユーリの言葉を待った。


「これ…… 」


少し経ってからユーリが懐から出した物は、美しいひし形の石だった。

宝石のようにカットされた石は、ユーリの瞳と同じ真っ青で、吸い込まれそうなほど透き通っている。

手渡された――というより、手の中に押し付けられた石は何処からどう見ても高そうにしか見えない。


「あの、これって? 宝石? 」


戸惑いながら石を見つめるマリオンにユーリは大きくため息をつくと口を開く。


「……これは、エルフの守護石 」

「守護、石? それってどういうもの? 」

「守護石は魔力を固めて作った物だよ。お守りみたいなもので…… 」

「魔力を固めたって、ユーリの魔力でこれを作ったの? 」


太陽に石をかざしてみると、石がきらりと輝いた。

宝石じゃないのに、こんなに綺麗な形に作れるのか、と単純に感動する。

そういえば、王族は氷と光の魔法が使えるからこんな色になったのだろうか、などどうでもいいことが頭に浮かんでくる。


「ほら。マリオンはいつも危ない目にあうから。これを持ってたら大丈夫かなって 」


折角ユーリの瞳みたいに綺麗だと思っていたのに、そのユーリに水を差されてしまった。


「うっ……そう聞くと素直に受け取りたくなくなるのは何故だろう…… 」


眉を顰めて石を凝視するマリオンに、ユーリは苦笑する。


「まぁ、ほんとお守りだと思って持ってて。ね? 」


可愛らしく首を傾げたユーリは、絶対自分の可愛さを分かってやっているに違いない。

マリオンはブツブツ言いながらもジュルードパールを収めている懐の袋を取り出すと、守護石を袋に入れてお礼を言う。

二人は顔を見合わせて笑い合った。そうしていると額を拭うように、泉から吹く風がなんだか心地良い。

木々のざわめきを聞きながら二人は泉をのんびりと眺めた。

少し手持ち無沙汰になったマリオンは、自分の三つ編みを弄びながら鼻歌を歌う。


「前から思ってたんだけど、その白いリボンすごく綺麗だ。マリオンによく似合ってる 」


マリオンが手慰みに触っていた三つ編みの先のリボンに気づいたユーリの言葉に、マリオンは白いリボンに目を向けた。


「でしょう? すごく綺麗なの。お気に入りなんだ。あ、ねぇねぇ知ってる? このリボンって『離れた二人がいつでも側にいられるように』っていう恋愛成就のお守りみたいな感じで、恋人や家族にプレゼントするのが流行ってるんだって 」


言った後で、そうやって売られているのが百年先の未来であることを思い出す。

リボンを褒められてつい調子に乗ってしまった。


(あぁっ! これって、未来のアリソン商会で売られるまで無かったような……。どうしよう )


内心焦ってしまったマリオンだが、ユーリは「へぇ 」と興味深そうにリボンを眺めているだけなのであえて何も言わないことにした。

それを説明するには自分が未来から来ていると告白しなければならないからだ。


「そ、それでね。リボンの端に、自分の名前を書いて相手にプレゼントするんだって。自分が送った物を家族や恋人、好きな人が身につけてくれてると思うと嬉しいし素敵だよね~ 」

「そうだね、すごく素敵だと思う。そのリボン、よく見せてもらっていい? 」

「ん? いいよ。ユーリは色々な物に興味があるんだね 」

「うん。一度気になるとそれを調べないと気がすまないんだよね 」


苦笑いしたユーリにマリオンは三つ編みの先からリボンを外すとそれを手渡す。


「透かし模様が綺麗でしょう? すごく気に入ってるんだ~ 」


笑顔でリボンの説明をしてユーリの顔を見ると、そのユーリの顔は先ほどまでの笑みが消え真剣な眼差しでリボンを見ていた。


「ユーリ? どうしたの、そんな顔して 」


マリオンの言葉でハッとしたユーリは慌てたようにリボンをマリオンに返した後、いつものように微笑んだ。


「――いや。なんでもない。ちょっと考え事をしてただけだよ。それにしても本当に綺麗なリボンだ。モノもすごくいいみたいだし。…………誰かから、貰ったもの? 」


ユーリの声色がいつもと少しだけ違うような気もしたが、笑顔はいつものユーリのままだったのでマリオンも笑顔で頷いた。


「うん。このリボンはね、私の大切な友人に貰ったの。いつも一緒に居るんだけどね、何かとプレゼントをくれてね―― 」


ルイザのことを思い出すと、頬が緩んで勝手に笑みが零れてしまった。


「マリオンっ! 」


不意にユーリに名を呼ばれ、マリオンは驚いてユーリの顔をまじまじと見つめた。

ユーリはマリオンと顔を合わせずに、水面をじっとみつめている。

その表情はいつものユーリと違ってどこか硬い。

マリオンの怪訝な眼差しに気づいたのか、ユーリは慌てて後ろを向いた。


「――あっ、ごめん。驚かせて。そろそろアル達のところに戻らないと、また叱られるから 」

「う、うん。そうだね 」

「いこうか………… 」


ユーリは再びマリオンの手を取ると泉の反対側、皆のいる方に歩き始めた。

どこかいつもと様子が違うユーリに何もいえないマリオンはただ黙って歩いた。


なんとなく、その日はユーリから距離をとられていたような気がしたが、それに気づいたのは眠る直前だった。




ユーリはマリオンに守護石を渡しました。

マリオンは価値に全く気づいてません。




いつも読んでいただきありがとうございます。

今回はかなりUPするのに時間がかかってしまいました。

というのも、間違ってデータを消してしまいまして(汗

思い出しながら書いたのですがかなり時間が……

お待たせしてすみません



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