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16.疑念と温泉


その夜は、村のあちらこちらで篝火が焚かれ、村の広場には沢山の人が集まっていた。

ジュルードパールという今までにない新たな特産が生まれた祝いと、カンデとその姉ミアの死を悼んで、広場では料理と酒が振舞われている。

もちろんユーリやエルフ達も漏れなくそこに参加していた。

ベリーニ村の村長はユーリに飲み物を注ぐとそのまま頭を垂れる。しばらくの間何も話さない村長をユーリは静かに見守っていた。


「王子殿下……。この度は色々とご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした。そして、村を救って頂いた事――、感謝してもしきれません。本当にありがとうございます 」


涙交じりの村長の言葉に、周りにいた村の者たちも同じように頭を下げる。


「村長……、顔を上げて下さい。先にも説明しましたが、私達は王命によって各地を回っています。困り事があれば解消するのが私達の役目ですから、困っている村を助けるのは当然のことです 」

「いいえ! いいえ……。私達は正直エルフという種族が怖くて仕方ありませんでした 」


村長の言葉にユーリが目を見開くが、村長はそれに気づかないまま言葉を続けている。


「エルフという種族はそれは恐ろしい種族だと……前ドルガー王国時代に何度と無く聞かされていましたから。しかし王子殿下をはじめ、エルフの方達のご尽力でこの村は盗賊から解放されたのです。本当に……本当にありがとうございます 」


そのまま土下座をしそうになった村長の腕を持ち、それだけはなんとかやめさせることが出来たミカルは村長をユーリの前に座らせる。


「あの、村長。一つお伺いしてもよろしいでしょうか? 」


唐突なミカルの言葉に、驚いた表情をした村長は慌てて首を縦に振った。


「は、はい。私に答えられることなら 」

「じゃあ、僕が質問するね~? さて、村長は今、”エルフとは恐ろしいと聞かされていた”といいましたよね~? 」


何処までも口調の軽いクロードとミカルを不思議そうに交互に見ると村長は再び頷いた。


「それって~、誰に言われたのか教えてもらえます~? どこの村にいっても僕達は嫌われちゃってて。今までその理由がわからなかったんですよね~ 」


あっけらかんと言うクロードに、村長は戸惑いの表情を見せると小さく嘆息した。


「……私は、隣の村の村長から聞きました。”エルフは恐ろしい。エルフは逆らう人間を殺して、あとは奴隷にする。殺される前に殺せ”と……。いままで行商でこの村に来ていたエルフもいたので、俄かには信じられなかったのですが―――― 」


村長はそこで言葉を切ると少し黙ったまま下を向いている。

そして顔をあげ再びため息をつくと、口を開いた。


「その村長曰く、人間が虐殺されるのを見た者がいると……。その村長も又聞きらしいのですが、どうやら隣のバローネ領でそれが起こったらしいのです 」

「バローネ領と言えば、領主は前ドルガー王国から引き継いでいらっしゃるファウス侯爵の総括領地です 」


アルの言葉にユーリが頷く。


「そ、そういえば! そのファウス侯爵の直轄領でそれが起こったとその村長は申しておりました 」

「……それは、本当ですか? 」


ユーリの問いに村長は大きく頷いた。


「…………私が聞いた限りの話ですが。間違いなく村長がそう申しておりました 」


村長の言葉にユーリは頷くと黙って瞳を閉じる。

そんなユーリの様子にアルとミカルは静かにユーリの言葉を待っている。

クロードは口笛を吹きながら村人の様子を興味深そうに見つめていた。


「アル、ミカル、クロード 」

「はい、ユーリ様 」


三人は名を呼ばれるとユーリの前に跪き頭を垂れた。


「私が考えていた以上に事は大きいらしい。ヴィスキーン領の視察を早めに終え、そのままバローネ領へと向かいます 」

「仰せのままに。では私はこのまま旅の準備を進めて参ります。クロード、手伝いなさい 」


アルの言葉に「え~ 」と文句を言ったクロードだったが、アルの笑顔を見た途端素直に頷く。


「手伝いはいいんだけどさ~、もう少しゆっくりしてたかったな~ 」


文句をいうクロードにミカルも苦笑いをしながら「そうだな 」と頷いた。


「アル、準備は明日で良いから今日は村の方たちが用意してくれた食事を楽しみましょう 」

「ユーリ様……っ!! なんと、なんとお優しいぃぃ 」


今にもユーリに飛びかかろうとするアルの左手をクロードが押さえる。


「はいはい、それはもういいからアルもいこうよ~。ミカル、そっちもって 」

「……仕方ない 」


大きくため息をついたミカルはアルの右手を押さえると村人が集まっている広場へと引きずって行く。

そんな三人の様子を見ていた村長は目を丸くしていたが、イケメンエルフのやり取りに最後は笑いを堪えているようだった。


「楽しい方たちなのですね…… 」

「ええ。ああ見えてなかなかおもしろい者達なのですよ 」


呟くユーリに村長は大きく頷くとエルフ達と会話をしている村人達に目を向けた。


「……王子殿下 」

「はい…… 」

「こんなに穏やかな日々が来るなんて思ってもみないことでした 」


涙ぐんだ声で村長は続ける。


「王子殿下やみなさんが、この村に来て下さったお陰です。本当に、本当にありがとうございます 」

「……いいえ、カンデさんの勇気のお陰です。それからマリオンの…… 」


そこでユーリはようやく気づいた。

村長と話す前までは確かにマリオンも広場にいたのだが、今は何処を見てもその姿を確認できない。

ユーリの脳裏にマリオンが盗賊によって連れ去られた時の記憶が蘇った。


「ああ、マリオンさん。マリオンさんにも本当に感謝しております。カンデがあの方に伝える決意をしたのも、あの方の人柄があってのことでしょうね…… 」

「え、ええ 」


マリオンを見つけることの出来ないユーリの返事はどこか気もそぞろだが、そうしたユーリの態度に気づく様子のない村長が思い出したように口を開く。


「そういえば、マリオンさんがいないですね 」


村長もマリオンを探すように広場に目を向けるがマリオンの姿は相変わらずない。


「ああ、そうでした。そうでした。マリオンさんは湖と村との間にある温泉を見てみたいと仰ってたんだ 」

「温泉……ですか? 」

「ええ、温泉です。この村には祭りの時に開放している温泉があるのですが、その話をどうやらカンデから聞いてたらしいのです。それで、カンデと約束したから温泉を見てみたいと仰ってたんでした 」


その言葉でユーリは少しだけ肩の力を抜くことができた。

とりあえずマリオンの居場所が分かったので安心する。


「その場所、私にも教えていただけますか? あの者は人間ですが、最初からエルフを怖がることも無かったんです。今では大事な旅の仲間ですし、それにマリオンは私の兄のような者なのです 」


苦笑するユーリをみて、村長も眉を下げて笑っている。


「場所は湖と村のちょうど間を少し上がって行った所にありますから。今地図をお持ちしますので少しお待ちください。それにしてもマリオンさんは幸せですね。王子殿下に兄のように慕われているなんて 」


そういうと村長は急いで自分の家へと走っていった。

残されたユーリは村長の言葉に大きく嘆息すると、銀の髪をぐしゃりと乱暴にかきあげた。




――――――――




「はぁ~~~~………ほんと気持ち良いなぁ………… 」


乳白色の温泉に浸かりながらマリオンは大きく息を吐く。

ちょうど良い温度のお湯を手ですくい顔にパシャリとかけると、弾かれた水の玉が腕を伝い温泉に落ちた。

ぽたりと水面に落ちた雫が波紋を拡げる。それを皮切りにいくつもの雫が、いくつもの波紋を作り上げていった。


「……カンデもここに居たら良かったのに、な………… 」


頬を伝う涙を拭うこともせず、零れるままにする。

どうせ温泉で濡れているのだから涙を気にするのは今更だ。


「ふぐっぅ………っ。カン、デっ……、うぐっ 」


誰もいない場所だからか、嗚咽を堪える必要もない。


「うわぁあーーーーーん。カンデーーーーぇ。ああああああーーーーん。うわーーーーぁん 」


子供のように泣き叫ぶ。あの時我慢して泣けなかった分を今ここで出し切らないと苦しかった。


「カンデぇーー……。カン、デ……。ごめんね、ごめん………… 」


濡れた両手で顔を覆いながら嗚咽を漏らした。

自分のせいでカンデは死んだのだ。

あの時、自分が避けていたらカンデが庇うこともなかったし、死ななかったかもしれない。

自分さえあの時、もっとしっかりしていたら――――。


「マリオン……? 」


不意に、優しく響いた声に、両手を外すと顔をゆっくりと上げる。


「ユーリ…… 」


どうしてここにユーリがいるのかなんてこの時は考えもしなかった。

ただ、いつも自分が苦しい時に側にいてくれるユーリに、自然と笑みが零れた。

しかし、そんなマリオンとは違いユーリの瞳は大きく見開かれ呆然とマリオンを見つめているだけだ。


「ユーリ……? 」


不思議そうな声に気づいたユーリは、慌ててマリオンから視線を外すと顔を真っ赤にしている。


「あの、その……マリオン 」


しどろもどろなユーリはチラリとマリオンを見たが、やはりすぐに目を逸らした。


「マリオン……、マリオンはお……… 」

「お? お、って何? 」

「~~~~~~~っ………マリオン! 」

「は、はいっ! 」


勢いよく名を呼ばれたマリオンも同じように勢いよく返事をした。

真剣な眼差しのユーリの目元が薄っすら赤く色づいていることにマリオンは気づかない。


「マリオンは……。マリオンは、女の子だったのか…… 」


ぼそりと呟いたユーリの言葉が耳に届いたが、一瞬何を言われているのか理解できなかった。

しかし次の瞬間、自分の格好と赤い顔のユーリを見て理由が分かる。


(ああああああっっ! わ、私っっ。今、裸っ…………!!!? )


「――――あっちで待ってるから、後で話をしよう 」


それだけ言うと、ユーリは足早に去っていった。

ユーリに女だと知られてしまったことに、動揺を隠せない。


「どう、しよう……。ばれちゃった…… 」


皆を男だと騙して旅に同行させてもらっていたのに。

女だと、一緒に旅をするのは嫌がられるかもしれないという不安がマリオンを襲った。

温かいお湯に浸かっているはずなのに、手足が冷たく感じてしまうほどショックだった。

しかしいつまでもユーリを待たせるわけにはいかないと思い至る。

強張った手足を無理やり動かして着替えをする為に温泉からあがり、おぼつかない足取りで脱衣場に向かうと、急いで体をタオルで拭いた。

ガタガタと震える体に服を着ると、ユーリの待っている場所へと足を向けた。



とうとう、マリオンが女の子だとばれてしまいました。

1,2話で村の話は終わりとかかいてましたけど、嘘っぱちでした(汗

甘甘したいデス



いつも読んでくださりありがとうございます^^

ブックマーク追加していただいた方も大変嬉しく思います。

生後数日だった子猫ももうすぐ1ヶ月でだいぶ落ち着いてきました。

が、仕事は相変わらず忙しいので更新遅れ気味になっております

すみません

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