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15.犠牲と加護

※R15 少し残酷描写があるかもです。いつもよりちょっと長めです


村へ着くとマリオンの元へカンデが走り寄って来た。


「あれ? カンデさんどうしたの? 」

「マリオン様、あのちょっとよろしいですか? 」


そう言ってアルの方へ視線を移したカンデにアルは頷くとマリオンの肩に手を置いた。


「ではマリオン、私はミカルの所に行きます。カンデさん、マリオンを休めるところに案内していただけますか 」

「はい! 」


カンデの返事に頷くとアルは盗賊がまとめて縛り上げられている村の中央部へと歩いていった。


「それで、一体どうしたの? 」

「あの、温泉の話なのですが……、実は思ったよりバタバタしててご案内が出来そうにないんです 」


しゅんとした表情で肩を落とすカンデにマリオンは首を横に振った。


「ううん。気にしないで。人質だった人が帰ってくるし、盗賊のこともあるし忙しいのは仕方ないよ 」


マリオンの言葉に瞳をうるうるさせたカンデは両手を前で組んで頷いている。

そんなカンデの様子が可愛らしくてマリオンはカンデの頭を撫でた。


「じゃあ、明日にでも行こうよ。明日なら盗賊も引き渡してるだろうし、もう少し村も落ち着いてると思うし 」

「マリオン様…… 」

「ちょ、ちょっと! どうしてそんなに泣きそうな顔をしているの? 」


慌ててカンデの顔色を伺うが首を横に振るばかりで何も答えなかった。


「だ、大丈夫です。気になさらないでください……。ちょっと昔のことを思い出しただけです。さぁ、皆さんのお部屋に案内しますね 」


そういうとカンデは歩き出す。マリオンはカンデの様子を心配したものの、どうやら既にいつものカンデに戻っているようだ。

歩き始めたカンデの後姿を見て嘆息する。


(カンデさんの様子がちょっとおかしい気もするけど大丈夫かな……? ……明日になれば、色々落ち着くよね。そうしたらカンデさんとゆっくり温泉、温泉~~ )


いつのまにか遠くの空が白み始めている。明日のことをのんびりと考えながらマリオンはカンデに続いて歩き出した。

そんなマリオンの後姿を、遠くからじっとみつめている人物が居たことに、村にいた誰もが気づかなかった。




――――――――




「マリオン危ないっ――――!! 」


一瞬の出来事だった。

不意にユーリの叫び声が響く。切羽詰ったような声にマリオンは振り返った。

焦ったような顔をしたユーリに心配になる。

一体どうしてそんな声を出したのか、いつも聞いている優しげなユーリからは考えられないような声だ。

しかし、マリオンの視界に急に入ってきたのは弟のようなユーリではなく、盗賊団の”隊長”と呼ばれた男だ。

キラリと光った”隊長”の右手が眩しくて、マリオンは目を細めた。

何故そこに”隊長”がいるのか分からない。

朝起きて昼近くにハウゼン卿が来て、たった今盗賊達を引き渡したはずなのに。

「どうして? 」という疑問が頭に浮かんだ。

兵士の腕を振り払い、こちらに向かって突進してくる”隊長”になすすべもなく立ち尽くす。

”隊長”から向けられたギラギラ光る眼差しから目が離せなかった。そしてその右手に握られたナイフからも。


「お前だけは殺してやる! 」


男の言葉で、「ああ、ここで自分は死ぬのか 」……、何故かそう思ってしまった。

避けようのない距離とスピードに死を覚悟した時、体に大きな衝撃が走る。そしてそのまま自分の体が地面に転がったのも分かった。


(ああ、私……刺されたんだ……。でも、そんなに痛くないのはどうしてだろ? )


倒れた時頭を打ったせいで意識が朦朧としたが、騒然とする周囲に、ゆっくりと目を開いた。

すると、すぐ側で数人の兵士に取り押さえられた”隊長”が悔しさを吐き出すように叫んでいる。

聞くに堪えない暴言を吐き続ける”隊長”に、引き取りにきていたハウゼン卿の部下が長い警棒で打ち据えると、男はそのまま意識を失ったようだった。

そこでようやく安心出来たマリオンは、自分の体が動かないことに気づいた。

体は動かずとも、手だけは動くようで自分が生きていると実感したくて手を空にかざしてみる。


「え……? 」


青い空にかざした自分の手は真っ赤に濡れていた。

訳の分からない事態に自分の体に目を向けると、体の上には一人の少女が横たわっている。


「う、そ―――!? 」


勢いよく体を起こすマリオンにユーリやアル達が手を貸してくれた。


「ど、どうして……? ユーリ様、なんで? どうして―――― 」


言葉の端々に動揺が出てしまったマリオンに、ユーリは沈痛な面持ちで口を開いた。


「マリオンを庇って……飛び出したんだ。もう間に合わないと思ったら彼女が……、彼女が、マリオンとあの男の間に…… 」

「うそ……! カ、カンデさんっ、しっかりして!! ユ、ユーリ様! クロードさん! 彼女を、カンデに魔法で……、お、お二人なら出来るでし―――― 」

「無理だよ 」


静かな声でクロードがマリオンの言葉を遮った。


「どうして? だって、ユーリ様とクロードさんは魔法が得意なんでしょ? だったら治癒魔法だって―――― 」

「マリオン……、残念だけど俺は治癒魔法は初級しか使えない。クロードもまだ中級なんだ 」


いつの間にか言葉が普段のユーリに戻っていることにもマリオンは気づかなかった。

ただ、あんなに魔法が得意な二人ならきっと何でも出来る、と勘違いしていた自分の愚かさに言葉を失っていた。

カンデの傷が、彼らでは手に負えないほどの重傷なのだと思い知らされる。

わき腹からどくどくと流れ出る血に焦りながらも傷口を強く押さえてみたものの、その勢いがおさまる様子はなく、ただ赤い血溜りとなって広がっていく。


「ご、ごめんなさい。カンデさん……カンデさん、どうして…… 」


じわりと湧き上がってくる涙を止めることが出来ず、ただ流れるままに頬を伝っていく。


「マ、リオンさま…… 」


今にも消えてなくなりそうなか細い声が耳に届いた。

自分の側で血の気を失っていく彼女の手がマリオンに差し出されると、すかさず両手で掴む。そして小さな彼女の声を聞き漏らさないように耳を口元に寄せた。


「カンデ! カンデ………。どうして? 大丈夫? きっと治してくれる人が―――― 」

「いい、え。私、もう……駄目です 」

「駄目じゃないよ! 誰か、治癒魔法の得意な人がいるはずだから! ちょっと待ってて。誰か!! 誰か治癒魔法が得意な人はいませんかっ!? 誰でも良いんです!誰か―――― 」


周りを見回したながら叫ぶマリオンの手をギュッと掴んだカンデは「もう、いいんです 」と笑った。


「よくないよ! だって、カンデ……、一緒に温泉入るって約束したじゃない…… 」


尻すぼみになった声にカンデから微かな笑い声が漏れた。


「ああ、本当。約束して、ましたね。………マリオン、さま。なんだか、もう目がよくみえなく、なってきました 」

「カンデ!!!! 」


悲鳴に近い声にユーリがマリオンの側にくる。


「マリオンさま。マリオンさま、……ほんと、うに、色々ありが、とうございました……。王子殿下とマリ、オンさま達のお陰で……村を救え、ました 」


息も絶え絶えに話を続けるカンデにマリオンが首を振る。


「そんなことないよ! カンデが、カンデの勇気のお陰で村は救われたんだよ 」

「い、いえ。私は、ただ……姉さんの仇が討てれば、よかったんです。マリオンさま……マリオ、ンさまはどこか、姉さんに似てます。だから、今度こそ、助けたかった 」


そう言って一度目を閉じたカンデの手をマリオンは強く握る。

その手の強さにニコリと笑ったカンデがゆっくりと目を開いた。


「ああ、姉さん……、迎えに、来てくれたんだ。よかったぁ 」


既に目が霞んでいるだろうカンデの言葉にマリオンは目を見開いた。そしてユーリに顔を向けると、ユーリは首を横に振る。


「あいつに……。”隊長”に殺さ、れたって聞いて、悲しかった、けど。姉さん、元気そうで、良かった 」


カンデから零れた涙が頬を伝い、地面に吸い込まれていく。

いままでの彼女の言葉を思い返してみると、自分の人質について語らなかったり、既に諦めていた節があった。

昔を思い出したと言った彼女の様子がおかしいと感じたのは間違いじゃなかったのだ。

ここでようやく腑に落ちる。

カンデの人質にとられていた姉はあの”隊長”という男に殺されてしまったのだろう。

そしてそれを知ったカンデにはもう失うものはない。それが今回マリオンに忠告をしたきっかけなのだろうと推測できた。


「カンデ……、カンデ!! しっかりして! 」


閉じかけていた目を薄っすら開けたカンデはマリオンを見上げた。


「ミアねえ、さん……村の人、助け、られたよ。やくそ、く………まも……たよ 」


それがカンデの最後の言葉だということに気づいたのは、少し経ってからだ。

眠っているように目を閉じたカンデに話しかけても、揺すっても、彼女からの反応はない。二度とないのだ。

それに気づいた時、マリオンは呆然とした。

ユーリの温かい手を額に感じた時、自分が意識を手放していたのだと理解した。


「ユーリ、様……カンデは? 」


覗き込むユーリの真っ青な瞳を見つめながらマリオンは問うたが、ユーリは無言でマリオンに治癒魔法をかけている。


「ああ、やっぱり、夢じゃなかったんですね 」


ユーリの様子でカンデが死んだということを再確認してしまう。

やっぱり勝手に零れる涙に、悔しくてどうしようもなくて唇を強く噛んだ。

そんなマリオンの目を手で覆い隠したままユーリは治癒魔法を続けている。

温かい手とユーリの優しさと、きっと治癒魔法の効果で、少しだけ気持ちが落ち着いた気がした。


「ユーリ様、ありがとうございます 」

「……いいや。俺は、何も出来てないよ 」


そう言ったユーリの言葉はどこか元気がない。


「さぁ、マリオン。彼女を最後まで送ってあげましょう 」


いつもの口調に戻ったユーリがマリオンの手を引っ張って体を起こす。


「送る…… 」


ユーリの言葉で数年前に亡くなった祖父を思い出した。

リードガルフでは、死んでしまった魂が死後迷わないように、神様に祈りを捧げて送り出してあげるのが通例だ。

ユーリとエルフ達はカンデの前に膝をつくと祈りを捧げるために黙祷を始めた。

マリオンもそれに習って膝をつくが、周りにいる人間は訳の分からないような顔をしている。

理解しているのはエルフとそれを知っているものだけらしい。

未来のリードガルフでは人間もエルフも同じようにやっているのに、ここじゃあまだ浸透してないのだ。

マリオンはそう思うと、そのまま目を閉じ両手を胸の前で組んだ。


「神よ。今、ここにあなたの愛し子カンデを、御許にお帰しいたします 」


やわらかなユーリの声に、マリオンは涙がまた零れてしまった。


(ああ、こんなに素敵な聖句で送られるなら、カンデはきっと迷わないよね )


「そして、もう一人。愛し子カンデの姉ミアも、あなたの御許にお帰しいたします 」


ユーリの言葉に目を見開いた。

マリオンがいつも聞いている聖句とは少し違うなと思った時、ユーリはカンデの姉まで一緒に送ってくれようとしているのだ。

ユーリの優しさに咽び泣きしたくなったが我慢した。


「女神の加護がいつまでもあらんことを 」

「女神の加護があらんことを 」


あちらこちらから「女神の加護があらんことを 」と呟く声が聞こえてきた。

辺りを見回すと、いつのまにか村人たちも膝をつき、ユーリやエルフ達の聖句を真似してカンデを送ってくれていた。

ユーリやエルフ、村人や兵士の心にマリオンも頭を垂れて呟いた。


「カンデとミアさんに女神様の加護があらんことを 」


すると、辺りが再び騒然とし始める。

何事かと頭を上げると、ユーリ達の前に横たわるカンデが白く輝いていた。


「ユーリ、さま? あれは…… 」


目の前の事象から目を話せないまま呟いたマリオンにユーリも驚きを隠せないように「まさか! 」と呟いた。


『我が愛し子たちよ 』


その言葉が文字通り脳裏に響くと、いつのまにかカンデの傍らに白く美しい女性が立っていた。


『我が愛し子たち、そなたらの願いにより、そこの娘とその姉を我が御許に受け入れよう 』


鈴を転がしたような、それでいて低く流れるような声色にマリオンは立っていられない。

ユーリがマリオンを支える中、周りの村人の中には失神する者もいるようだった。


『エルフの王子よ、そなたの強い呼びかけにより、我はここに来た。そして、この可愛い愛し子の願い 』


そう言って女神がカンデを見やる。


『この子の願いにより、この村に加護を与えよう 』


「女神ロザーリエ、カンデの願いとは何でしょうか 」


物怖じすることなく、それでいて柔らかで丁寧なユーリの言葉に女神は鷹揚に頷く。


『この子の願いは、村を豊かで争いのない場所にしたいそうじゃ。我はその願いを叶えるため、加護を与えた 』


そう言うと光は急速にしぼみ始め、女神の姿がだんだんと薄くなって消えていく。


『湖を見るが良い。そこに我の加護によってこの村に繁栄をもたらすものがおるじゃろう。しかし、この村がそれが原因で争いになったときには、その加護は瞬時に消えうせようぞ 』


女神の最後の言葉は光のように脳裏に焼きついていた。

消えた女神の余韻に浸っている者が多い中、ユーリは村長に声をかけるとすぐにジュルード湖に向かう。

村長は残る者にカンデの亡骸の世話を言いつけることを忘れずにいてくれた事にホッとした。




村から少し離れたジュルード湖に着いたのは日がまだ高い位置だった。

太陽の光でキラキラと輝く湖の周りを、数人が女神の加護を見つけるために歩き回っている。

しかし、いくら湖の周りを歩いても加護らしきものは見つからない。


「もしかしたら、湖の中なのかもしれませんね 」


そう発したユーリの言葉で皆が一斉に湖面を覗き込む。

しかし、湖の中もいつもと変わった様子がなく、何が加護なのかさっぱり分からなかった。

落胆する村長と村人達に悲嘆の色が見え始めた頃、マリオンがもう一度湖に目をやった。

すると、岸から少し離れたところが異様にキラキラと輝いていることに気づく。

太陽の光の反射にしてはおかしいかも、程度の輝きだったがユーリと村長に指をさして叫んだ。


「あそこ! あそこの湖面が他よりキラキラしている気がするんですが…… 」

「ほ、ほんとうだ! おい、誰か船をここまで持ってきておくれ 」


焦ったような村長の声に、一番若い男性が皆まで聞かずに船着場へと走っていく。

少しだけ待っていると先程の男性が船にのってやってくる。

村長とユーリ、湖面に気づいたマリオンを乗せた船を急いで漕ぐ男性はよほど急いだのだろう、汗だくだった。


「あ! 湖の底を見てください!! 」


興奮したように叫ぶ村長の言葉に従って目を向けると、そこには手のひらほどの大きさの貝が所々に存在している。


「こ、これが女神様の加護でしょうか? 食料が不足がちなこの村の新たな食料になるということですかね 」


嬉しそうに笑う村長にユーリも頷いている。

けれどマリオンにはそれが何か、目にしてようやく頭の中で足りなかったピースが埋まったような気がした。


「違いますよユーリ様。これ、あれです。ジュルード貝です 」

「それって、マリオンが言っていた……綺麗な珠ができる……? 」


首を傾げた仕草で、日の光を反射した銀の髪が揺れてとても綺麗なユーリに大きく頷く。


「あの、村長さん。あの貝を一つ、二つここに持ってきてはいただけませんか? 」


マリオンの言葉に不思議そうな顔をした村長だったが、船を漕いでいた男性に貝を採ってくるように言ってくれた。

男性も不思議そうな顔をしていたが、船の櫂を手から離すと勢いよく湖に飛び込んだ。

透明度の高い湖の中を、慣れた様に泳ぐ男性はジュルード貝を手早くとると、村長に貝を手渡した。

その貝を一つ受け取ったマリオンはユーリに短剣を借りると、貝を開ける為に貝の口に浅く剣を差し入れた。

ここで傷をつけると元も子もないので慎重に刃を入れる。

ルイザとの会話で聞いただけのジュルードパールの採り方を思い出しながらゆっくりと貝を開いた。


一つ目の貝には何も入っていなかった。

二つ目の貝も同じだった。

三つ目の貝を諦めきれない思いで開いた時、貝の中に鎮座する美しく大きなジュルードパールが目に飛び込んできた。


「こ、これですよ! ユーリ様! これが、ジュルードパールって言う美しい珠です 」


ようやくみつけたジュルードパールに思わず声が弾んでしまったマリオンを他所に、ユーリと村長、そして村人の男性はジュルードパールに目を奪われているようだった。


「こ、これがジュルードパール……。なんて美しいんだ…… 」

「ええ、本当に……これが女神様の加護なのですね 」


二人の呟きにマリオンは頷いた。


「きっとそうです。カンデの願いがジュルードパールを連れてきてくれたんです…… 」


鼻声で呟いたマリオンに、村長も涙を流して頷いた。


「ええ……。ええ、きっと。カンデと女神様のお陰でこの村は救われます 」


そういって呟いた村長の言葉に、ユーリとマリオンは顔を見合わせると笑顔が零れる。

手のひらの中のジュルードパールは、太陽の光を反射していつまでもキラキラと輝いていた。



カンデと女神様のお陰でベリーニ村に特産のジュルードパールが生まれました。

以前、1,2話で終わるなんて書いてましたが、次でベリーに村の話は最後です。(きっと、たぶん……)

甘酸っぱい場面をそろそろ書きたいです。



さて、更新が遅くなりブクマをしていただいた皆様には大変お待たせをしました。

申し訳ありません。

仕事がかなり忙しく、また猫の面倒もありましてなかなか書く暇がなかったというどうしようもない言い訳なんですが……

流石に一週間近く経つので、読んで下さる方に見捨てられてもしかたないかも…

という思いもありましたが、こうやって見ていただけるのでありがたい話です。


これからもマリオンをよろしくお願いいたします^^

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