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14.気付かれる

盗賊団の隠れ家を出ると目に付いたのは、村長をはじめとする村人と、家屋の前に捕縛さた盗賊達、そしてそれを見張るアルとミカルの姿だった。

アルとミカルが手を上げて微笑んでくれたのを見てホッとしたのも束の間、彼らに見張られている盗賊の中には”隊長”とよばれた男がいて、マリオンと目が合うとその目を細めてじっとこちらを見ている。

縄を掛けられている為何も出来ないのだが男の視線に背筋が一瞬冷えた気がした。


「目なんて合わせなくていい。ああいう輩はマリオンが見る価値もない 」


冷ややかな声音でユーリがマリオンと盗賊との間に立つ。

自分と盗賊との距離はあったのだが、ユーリが間に立ってくれたことでいつのまにか止めていた息を大きく吐き出した。


「ありがとう。ユーリ……… 」

「……マリオンは俺の兄みたいなものだから 」


そう言ってマリオンから視線を外したユーリの表情は何故か落ち込んでいるように見える。


「ユーリ? だいじょう――― 」

「マリオン様! 」


マリオンの言葉を遮ったのは先程まで共にいたカンデだった。

ふと手を見ると先程巻いたはずの布が外されていた。

クロードに診てもらったのか、傷は残っているものの出血はすでに止まっているようで安心する。


「カンデさん!! 」


マリオンの目の前に立ったカンデを追いかけるように、クロードも後からのんびりとやってきた。


「いや~マリオンが出てこないから心配でたまらなかったみたいだよ~ 」

「カンデさん……、私なら大丈夫ですよ。でも心配していただいてありがとうございます 」


クロードの言葉でカンデに礼を言うと頭を下げると、真っ赤になって首を縮めたカンデが可愛らしくてつい微笑んでしまう。

そうすると、余計にカンデの顔が赤くなったのがおかしかった。


「い、いえ! 気にしないでください。私が勝手に心配しただけですから 」

「ユーリ様~、あの人達どうします~? なんなら僕が一思いにやっちゃいましょうか? 」


口調とは裏腹に冷たい視線を投げかけたクロードの手に、急に炎の玉が浮かび上がった。

その様子に盗賊団の男達から悲鳴が聞こえ、その顔色は悪くなる一方だ。


「クロード……。本来ならそうしろと言いたいところですが、ヴィスキーン領を治めるハウゼン卿のところで裁かれるべきでしょうね 」


いつもの王子殿下の口調に戻っているユーリを横目で見ながら笑っていると、いつの間にかカンデがマリオンの横に立っていた。


「マリオン様、少しよろしいですか? 」


カンデに呼ばれてユーリ達から少し距離をとったマリオンは、手を口の横にあてて小さく喋りだす彼女に耳を寄せる。


「マリオン様、あの……。もしかしてマリオン様は女性ではありませんか? 」


カンデの言葉に吃驚したマリオンはカンデの顔をまじろぎもせず見つめる。


「あ、あの。どうして……? 」


マリオンの動揺を感じ取ったカンデはやっぱりという顔をすると再び口をマリオンの耳に近づけた。


「最初から、綺麗な方だなとは思ってたんです。でも男装してらっしゃるのでどうかな? と思ったんですが、先程私の手を手当てしてくださった時、マリオン様の手を見て気づいたんです。ああ、これは女性の手だなって 」


カンデの言葉にマリオンは自分の手を返しながら見てみたが、修行の成果である剣だこがあると女性のそれには見えないのではないだろうか。


「あ、今見えないと思ったでしょう? 剣だこがあるからとか関係なくて、男性の手は筋張ってますし、女性の手はほとんどの方が柔らかい手を持っています。マリオン様は筋張ってもないし、とっても柔らかい手ですからもしかしてと思いました 」

「カンデは私より年下に見えるのによく見てるんだね 」


苦笑いしたマリオンにカンデも笑みが零れている。


「もうすぐ十六になりますが、これでも色々と見ているんですよ 」

「そうなんだね。あ、でも彼等には内緒にしてくれる? 」


マリオンは視線でエルフ達を捕らえると大きく嘆息した。


「彼等に嘘をついてるのを知られたくないの 」


寂しそうな声を出してしまったな、なんて思っているとカンデはきょとんとした表情でマリオンを見ている。


「え、ええ………。マリオン様がそう仰るのであれば。ああ、それよりマリオン様。男性と一緒ではあまりのんびりとお風呂など入れないのではないですか? 」


唐突な質問を妙に思いながらも、確かに彼等と旅をしているとお風呂事情はあまりよくないなと改めて思う。

いや、お風呂に関しては辛いといってもいいほどだ。

髪はなんとかなるとしても、流石に体は難しい。ここ数日は野宿だったため仕方ないとして。

しかし、皆が川で水浴びなどをしていても、適当な理由をつけて少し離れた場所に移動し、そこから更に人目を避けて体を拭く程度しか出来ないのだ。

乙女としてはのんびり湯船に浸かりたいのが本音だった。


「実は、このジュルード湖とベリーニ村のちょうど間を少し北上するとそこに温泉が湧き出ているんです 」

「ええーー! 温泉とかあるの? 人に聞いて温泉っていうのは知ってたけど……、一度は温泉に入ってみたいと思ってたんだ 」


クレド村の周囲には温泉はないが、人伝えに聞いた噂ではお風呂好きにはたまらなくおすすめな場所らしい。

いつか温泉に入ってみたいとは思っていたが、まさかこんなに早く叶うとは思わなかったのだから、カンデのもたらした情報に素直に喜んでしまった。

そんなマリオンに気をよくしたカンデが更に口を開く。


「その温泉、村人は年二回の祭りの時期にしか使わないようにしているんです。ですから今は誰も使いませんからゆっくりお風呂に入れますよ。もちろん王子殿下達には内緒にしておきます 」

「うわ~~~嬉しいなぁ。カンデも折角だから、内緒で一緒に入ろうよ 」


久々にお風呂に入れるかと思うと気持ちだけではなく、口調までも軽やかになっているのにマリオンは気づかない。


「何をそんなに嬉しそうにしてるんですか? マリオン 」


ユーリが二人の会話を遮るように聞いてきたので、マリオンは笑顔で「なんでもない 」と答えておいた。

マリオンとカンデが二人で顔を見合わせて笑い合ってる様子に、ユーリは怪訝そうな顔をしている。


「……そうですか? そろそろ盗賊達を連れて村まで移動します。先程クロードがヴィスキーン領のハウゼン卿に連絡を取りましたので明日には引き取りに来るそうです 」


その言葉にカンデもホッとした様子を見せている。


「それから、人質にされていた村人達は湖の対岸にある洞窟に捕らえているそうですから、今から村人と迎えに行きます。マリオンはどうしますか? 」


ユーリの問いにマリオンはカンデを見ると尋ねた。


「カンデさんはどうする? 村の人皆人質をとられているならカンデさんも――― 」

「いえ。私は村で人質が帰ってきたときの為に色々と用意をしなければいけませんし。あまり人数が行っても…… 」


そう言ってカンデは村人達の中から人質を迎えに行く者の多さに苦笑いをしていた。

確かに集まってきている村人のうち半数がその役目を率先して受けているのだから結構な人数がいくようだった。


「それに、恩人であるマリオン様の温泉へ行く準備もしないとですから 」


こっそり耳打ちしてくれて笑うカンデにマリオンも大きく頷いた。


「ありがとうカンデさん。じゃあ私は盗賊達を見張る役目をしようかな。人質に関してはユーリ様がいるから安心だし。お願いしますねユーリ様 」

「ええ。分かりました。では、マリオンはミカル達と共にいてくださいね。決して彼らから離れないように 」


ユーリはそういい残すと村長たちと共に対岸へ出発していった。


「王子殿下はマリオン様のこととても気にしてらっしゃるのですね 」


不思議そうに呟いたカンデにマリオンは苦笑した。


「そうだね……。私はユーリ様の”兄”みたいなものらしいよ 」

「あ、兄ですか? 」

「残念ながら姉じゃないんだ。まぁ、隠しているから仕方ないんだけどね 」


ひとしきり笑った後、カンデと別れるとミカルとアルの側に向かう。


「アルさん! ミカルさん! 無事でよかったです 」

「マリオンこそ、無事でよかったよ。皆すごく心配してたんだ。もちろんユーリ様が一番されてたけど 」

「ええ、全くもってユーリ様の心配ようと言ったら……。でもマリオンが無事で本当に良かったです 」


二人のイケメンの笑顔にやられたマリオンは、眩しそうに目を薄める。


(やっぱりエルフの笑顔は眩しすぎる! )


「さて、ここに長居しても仕方ない。そろそろこいつらを村まで連れて行こうか 」

「そうですね。本当なら私がユーリ様と一緒に人質の方へ向かいたかったのですが…… 」

「ええと、相変わらずユーリ様第一ですね。アルさん 」

「勿論です。マリオンその質問は私にとっては愚問ですね 」


胸を張りながら無表情でこちらをみるアルに笑顔を取り繕いながらマリオンは盗賊達に目をやった。

ほとんどの盗賊は下を向いたまま力なく項垂れているが、”隊長”と呼ばれる男は相変わらずこちらを睨んでいる。


「はいはい。あいつらのことは私に任せてマリオンはアルと一緒に村に帰っておいで 」

「え、でも…… 」

「大丈夫。こう見えても剣にはちょっと覚えがあるし。それに…… 」

「それに? 」

「まぁユーリ様のご命令というのもあるから気にしないように。ちゃんとアルと一緒にいること。わかった? 」


優しい瞳で心配してくれているミカルにマリオンは素直に頷く。


「わかりました。アルさんと一緒に行きますね 」

「いい子だ 」


ミカルはマリオンの頭をひとしきり撫でると、向こうで待っている村人共に盗賊達を立たせ村へと歩き始めた。


「あの……、アルさん…… 」

「はい。随分と元気のないようですが、どうかされましたか? 」


急に元気のなくなったマリオンの声に気付いたアルが無表情だが心配そうに覗き込む。


「あ、あの。盗賊達の処遇は明日こちらの領主様が決められるのは分かったんです 」

「ええ、その通りです。まあ、彼らについては相応の刑が下されるでしょうね 」

「はい、それは良いのです。ですが、彼らに支配されていたとはいえ、盗賊の手助けをしていた村の人はどうなるのでしょうか 」


泣きそうな声になってしまったと思ったが今更だ。

村長さんも、カンデも好きで手助けしてたんじゃないとわかっているが、彼らの手引きによって犠牲になった人達もきっといるはずだ。


「そう……ですね。普通なら彼らも盗賊の助けをしたということでそれなりの処罰は免れません。しかし今回は人質をとって断ることの出来ない状況に置かれた彼らには情状を酌量する判断が下されると思います 」

「それはどれくらいのものになるのでしょうか 」

「そうですね。領主の判断によるところも大きいかと思います。大抵の場合、税金を多く徴収されたり、村から何人か働き手を出して数年働くなどになるのではないでしょうか 」

「そうですか……。村の人は被害者なのに…… 」


俯いたマリオンの肩にアルが手を置き、それが頭に移動すると撫で始める。


「ええ。彼等は被害者であり、加害者でもあります。盗賊がこの村に来なければきっとこのまま暮らしていけたのでしょうが、犯した罪は償わなければなりません。それを許すと小さい波紋が広がり、やがて国自体が揺らぐことになりかねません 」

「はい……… 」

「マリオンは本当にいい子ですね。ユーリ様があなたを気に入ったのも分かります。エルフにも人間にも優しく出来るあなたはユーリ様にとっていい道しるべになるでしょう 」


顔を上げるとアルが少し悔しそうな顔をして微笑んでいる。


「道――しるべですか? 私はそんな………、リードガルフの王子殿下にそんな大層なことは出来ませんよ 」

「まぁ、そこはあなたが気付いていないからこそなのでしょうが……。ああ、それからいくら気に入られているからといってもユーリ様の侍従は絶対に譲りませんからね 」

「なれませんよ! 」


アルのユーリ第一発言と、村人の酌量の余地ありということが分かっただけで随分心が軽くなる。


「ありがとうございます。アルさん 」


マリオンの礼にアルは目を閉じて微笑む。


「さぁ村へ参りましょうか。そのうちユーリ様が帰ってきますから色々用意をしなければいけませんし 」

「はい! 」


マリオンとアルは、湖の水面に反射した月明かりを眺めながら村への帰路へついた。



マリオンはカンデに女の子だと気付かれてしまいました。

ついでに盗賊も捕まりめでたしめでたし?

次回の更新は今週中にできるといいなぁと思っております。



今回も読んでいただきありがとうございます。

ブクマ教の神々に感謝。


さて、先日こちらとは別に悪役令嬢ものの話をUPしてみました。

今流行の悪役令嬢がどーしてもかきたくて。

息抜きに書いていたものをUPしました。

といっても完全見切り発車なので確実にこちらより更新が亀です。

ただでさえ遅い「フェアリーテールのような恋」ですが

「恋に落ちた悪役令嬢」をUPしてますます更新が遅くなるのでは?

とご心配のかたもいらっしゃると思いますがなるだけ頑張りマッス!


もしお時間のある方は「恋に落ちた悪役令嬢」もよろしくお願いいたします。

こちらの話はフェリーテールより短い話にする予定です(未定ですが)

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