13.救出
意識を取り戻した時、マリオンの体は固い床の上に転がっていた。
薄暗い部屋を見回すと、壁には木箱や樽が積まれている。少し埃っぽくて喉が痛かった。
どうやら倉庫らしきところにいるようだと理解する。体を起こそうと手を動かそうとしたが叶わない。
そこでようやく後ろ手に縛られていることに気づいた。
ついでに足首までもが縛られており、それでも無理やり体を起こそうと試みて後頭部に痛みが走る。
「動いちゃ駄目です! 」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえ、慌てて体をひねり声のしたほうに転がると、そこには同じように縄で縛られたカンデが座った体勢でこちらを心配そうに伺っていた。
「カンデさん……? ええと、ここは…… ? 」
「………ここは、盗賊団の隠れ家です。ジュルード湖の近くになります 」
”盗賊団”という言葉にマリオンの体がビクリと揺れる。
後頭部の痛みの理由を思い出すと怒りが沸いてきた。
「そう…だったんだ。あいつら盗賊団……か…… 」
マリオンの声にカンデは頭を下げた。
「すみません! 謝っても済むことじゃないけど、本当にすみませんでした…… 」
謝罪したまま頭を上げないカンデをじっと見つめると、その体は震えている。
嗚咽が響く室内でマリオンは小さくため息をついた。
「……カンデさん、その話は後です。今は、ここから出ることを考えましょう。詳しい状況を教えてください 」
その言葉に顔をようやくあげたカンデは目を見開くと、少しして大きく頷いた。
「まずは、私と一緒だったエルフ達はどうしましたか? 」
ユーリ達の安否が気になって仕方ない。意識を失う前から行方が分からないエルフ達はどこにいるのだろうか。
”隊長”と呼ばれた男の言葉を信じているわけではないが、あんなに自分を心配してくれた人たちが動けない怪我でもしたのではないかと不安でどうしようもない。
魔法も使えて腕も立つ彼らに限って……とは思うものの、薬云々と言っていた男を思い出し、安否を聞かずにはいられなかった。
「カンデさん、彼等は? 」
「あの、すみません。わからないんです。あの時、家の中ではマリオンさんしか見てないですし、ここに連れてこられる間もマリオンさんと一緒だったのですが誰も見かけていません 」
「そう………。でも、どうしてカンデさんまでここに? 」
カンデは盗賊団に支配されている村の住民なのに、どうしてここにいるのだろうか。
しかも体に縄までされている。これではまるで―――。
「マリオンさんに薬を仕込んだ飲み物を飲まないように言ったところを見られてたみたいです…… 」
「―――ご、ごめんなさい。私のせいで…… 」
「い、いえ! 元はと言えばこちらが悪いんですから。気にしないでください 」
困ったように微笑んだカンデにマリオンは首を振った。
「いや、だってカンデさんも人質捕られてるんじゃないの? それなのにどうして…… 」
「―――っ!」
息をのんだカンデは目を逸らすと小さく頷いた。
「………この村で、人質を捕られてない人なんていません。だから誰かお客さんが来ても何も言えないし、毎回助けられないんです。すみません 」
「でも、カンデさんは言ってくれたよ? 」
マリオンの言葉にカンデは少しだけ目を伏せると首を振った。
「……私はもういいんです。それより、マリオンさんの縄を外します! こちらに背を向けて下さいますか。奴等が戻ってくる前に―――早く! 」
そこで話は終わりだと言うようにカンデはマリオンに後ろを向くように促した。
急かすカンデにマリオンは大人しく従うことにした。
再び体を反転させたマリオンは後ろ手に縛られた手をカンデに寄せる。
後ろを向いているせいでカンデが何をしているか分からないが、カンデも体を動かしてマリオンに近づいてきたらしい。
そしてガチャリという音が聞こえたかと思うと、数分もしないうちにマリオンの手首の縄が外れた。
ようやく手首を開放されたマリオンが手をついて体を起こすとカンデの後ろ手には小さなガラス片が握られていた。
その周りには壊れたランプのガラスが散らばっている。その近くにいたカンデの指先には細かい傷がたくさんあり、その全てから血が滲んでいた。
「カンデさん! 手が……、ちょっと待っててください 」
マリオンはカンデからガラス片を取り上げると自分の足首の縄を切り、その後でカンデの手足の縄を切った。
「ひどい……。大丈夫ですか 」
「ええ、これくらい大丈夫です。気にしないでください。それより――― 」
「気にならないわけないでしょう! 目の前で怪我している人がいたら普通助けますよ! 」
カンデの言葉があまりにも自分を省みないものだったことにマリオンはつい怒鳴ってしまう。
それだけ言うと懐のハンカチを取り出し引き裂くと、細いひも状にしカンデの手に巻きつける。
カンデはというと、ただ黙ってマリオンの手当て受けてその様子をじっと見ているだけだ。
「さぁ、出来ました 」
「………ありがとうございます。あの、私――― 」
そう言いかけたカンデの声を遮るように扉の向こう、さらに奥から怒号と剣戟の響きが耳に届いた。
音の方向に目を向け耳を澄ますと、どうやら盗賊と何者かが戦っているらしい。
そして爆発音が聞こえたことでそれは確信に変わる。
「ユーリ様? よかった―――、無事だったんだ……! カンデ、ユーリ様たちが助けに来てくれたよ 」
そういってカンデに目をやるとカンデは瞳に涙を溜めて大きく頷いた。
「とりあえず、ここで大人しく待ってるのが得策だと思う。下手に出て行っても足手まといにしかならないし。それに、もしかして奴等が私達を人質に使うかもしれないしね。ということで、扉の前に荷物を積んで壁を作ろう。幸いここには箱や樽が沢山あるみたいだし。手が痛いなら無理しなくていいからね 」
マリオンはカンデの返事を待たずにさっさと木箱を扉の前に積み上げていく。
中身の入った木箱は押して、中身のない木箱や比較的軽い木箱をその上に積み、最後に樽を木箱に沿って積み上げる。
最初はただ見ていただけのカンデもすぐさまそれに加わり二人がかりでなんとか扉の前に防壁を築いた。
「少しは持ちこたえられるといいけど…… 」
「そうですね……。マリオン様……、あの…… 」
言い淀むカンデにマリオンは首を傾げて彼女を見つめる。
「あの、マリオン様はどうしてエルフと一緒に旅をしているのですか? エルフと言うのは私達人間に害しか及ぼさないと聞いてます。どうして彼等はあんなに私達を気にかけるのですか? 」
思いもよらなかった質問にマリオンは目を見張る。そしてゆっくりと質問の内容を噛み砕くと漸く口を開いた。
「ええと、彼等は人間に悪意を持ってないし嫌ってなんかないよ。害しか及ぼさないなんて誰から聞いた? あなた達村人を気にかけるのは彼等が優しいからだし、私があの人達と一緒にいるのだって同じ理由。彼等が困っていた私を助けてくれたからこの村にも一緒に来たんだよ 」
一緒にいる彼等がまるで化け物であるかの様な言い様にマリオンは眉を顰め、口調もきつくなってしまう。
そんなマリオンを見てカンデは頭を下げる。彼女が頭を下げるのはもう何度目だろうか、なんていう今は関係ないことが頭の中を過ぎった。
「すみません。あの方達を悪く言いたいわけではないのです。ただ聞いていたエルフとはあまりにも違うので驚いてしまって…… 」
一体どういう風にエルフ達が言われているのかすごく気になるところだったが、扉のすぐ近くから盗賊団の中で”隊長”と呼ばれていた男の声が聞こえた為、二人は体を身構えた。
「っち!! 扉があかねーぞ! 斧を持って来い! 」
「隊長、ここにありますぜ! 」
その言葉と時を置かずして扉を破壊する音が部屋に響き始める。
二人は樽と木箱を体で押さえながら防壁を守るが、扉を破壊される衝撃がそのまま体に伝わってくる。普通だったら焦るところだろうが何故かそうはならなかった。
盗賊達がここにいるということはユーリ達が追い込んだのだろう。もう少し頑張ればきっと彼等が来てくれると妙な確信があったからだ。
「“穿て、氷の矢!!!!” 」
遠くからユーリの声が聞こえ扉の前で叫び声と、高い音が響く。
扉を通して冷気が入り込み、積み上げていた木箱と樽に霜がおりると次々に凍り付いていった。
マリオンは呆然として動かないカンデを扉の前から遠ざけると小さな声をあげた。
「ユーリ……様? 」
「マリオン! 大丈夫か!? 」
扉の向こうから聞こえる心配気な声に大きく嘆息すると大丈夫であると声をかけた。
少しの時間しか離れていないはずなのに、こんなに懐かしく思えるのは何故だろうか。
一緒にいた時間がたった四日だというのに、マリオンにとってユーリ達の存在はいつの間にか大きくなっていたらしい。
「やっほ~マリオン。少し扉から離れといて~ 」
「はい! 」
緊張感のないクロードの声さえも懐かしく思えるのだから不思議だ。マリオンはそれについ笑ってしまったが、その隣にいたカンデが不思議そうな顔で見ていることには気づかなかった。
「”融かせせ、炎の息吹” 」
クロードの魔法が扉の内と外の氷を全て融かしていく。暖かい風がマリオンの頬を撫で、緊張からか冷え切っていた体までも温めてくれた。
ガチャリと扉を開ける音が聞こえる。
「あらら。これじゃあ通れないよ~マリオン 」
クロードの呆れたような声にマリオンは慌てて木箱と樽を邪魔にならないところにどかす。
呆然としていたカンデも慌てて手伝うとあっという間に場所がひらけた。
「マリオン! 」
最後の木箱をどかせていると、後ろからユーリが抱き着いてきた。
「わぁっ! 急に抱きつかれるとびっくりするんですけど。ユーリ様……聞いてますか? 」
マリオンが呆れたように尋ねてもユーリは首を振るばかりで何も答えようとしない。
クロードに助けを求めて視線を送るとそんなマリオンとユーリをみて何がおかしいのか、にこにこしているクロードと目が合った。
「ん~。ユーリ様、マリオンと離れてすごく心配してたんだよ~。だから、大目にみてあげてよ 」
「心配かけたのは謝りますけど、これじゃあ歩けません 」
「まぁまぁ。もう少ししたらユーリ様も落ち着くと思うから。ね? 」
そういわれてはしぶしぶ頷くしかない。
(まぁ、でもかわいい弟に抱きつかれていると思えば苦にもならないか )
などと思っているとますますユーリにきつく抱きしめられる。
腰に手を回して背中に顔を密着させているユーリが可愛くて仕方ない。
「あ。僕は先に外に出ちゃいますよ~。さっきの盗賊団は魔法で外に出してますし、アルとミカルが見張ってるからご安心を。さぁ、そこのお嬢さんも一緒に行きましょう 」
色っぽい流し目に頷くしかなかったカンデに心の中で手を合わせたマリオンは出て行く二人を黙って眺める。
それから少し経つが一向に”離れない””喋らない””動かない”ユーリにマリオンはため息をついた。
「ユーリ……? 心配かけてごめんね 」
腰からお腹に回されたユーリの手を、マリオンはそっと握る。
見かけは美少女でも、手は女の子よりごつごつしていることをこの四日で知った。
握ったユーリの手は少し冷たくて、震えていた。
マリオンは震えと手の冷たさを止めたくてユーリの手を握りこんだ。
「本当に心配した…。この間の時より……もっと、ずっと心配した 」
絞るように出す声に、マリオンは上を仰ぎ見るとため息が勝手に出てしまった。
(あ~……。心配かけててこんなに思うのは悪いけど、本当に可愛い子だー )
素直に自分を慕ってくれるユーリをマリオンは抱きしめたい衝動に駆られたが、如何せん後ろから抱きつかれているので叶わない。
「今度はもっと気をつけるよ。だからそんなに心配しないで 」
「いやだ! 気をつけるのはいいけど……心配するな、なんて聞けない! 身内が捕まったら誰だって心配する。だからマリオンが心配かけないようにすればいいんだ 」
変な理屈を展開しだしたユーリに苦笑しながら手をポンポンと二回叩いた。
「わかった、わかった。でもほら、もう外に行かなきゃ。アルさんたちがまってるよ。村の人とも話さないといけないでしょう? 」
「……マリオン 」
「なに? 」
「………むかつく 」
ユーリは背中から離れるとそっぽを向いたままマリオンの手をギュッと握り締めた。
「えー。むかつくって、ひどいなー 」
「なんか、余裕があるのがむかつくんだから仕方ない 」
「…………まぁ、ユーリよりは年上だしね。とりあえず、行こうか 」
可愛さのあまりつい頭を撫でると、それに驚いたように目を見開いたユーリはすぐに満面の笑みを浮かべた。
今度は素直に頷いたユーリを見て小さく微笑むと、二人はようやく外に向かって歩き出した。
あと1,2話ベリーニ村の話が続きます。
ああーー早く甘甘したいんですがまだまだ無理そうです
早くいちゃらぶ書きたいです。
ブックマークありがとうございます。
増えていくブックマークに日々やる気がでてます^^
ブクマ教の神々に感謝します。
さて、私事ですが最近赤ちゃん猫を拾いまして
ミルクあげるのが大変です(汗
まだ2週間前後の赤ちゃんなので4時間とかミルクって……きついデス。
あと、仕事が立て込んでおりまして今回のように少し更新が遅れるかも知れません
ご迷惑おかけします。
次回更新は来週になりそうです。
お待たせししますが頑張りますので少しお待ちくださいね。




