星空の学術都市と、銀河を映すパフェ
プリンの山村『プディン・ヴェール』を満喫した三人の荷馬車は、山あいの街道を抜け、夜空に最も近いと言われる高台の都市――『星空の学術都市アストリア』へと足を踏み入れていた。
時刻はちょうど黄昏時。
街を囲む澄み切った空が、朱色から深い群青色へとグラデーションを描きながら溶けていく。街中に点在する観測塔の先端や街灯には、星くずのように青白い魔導光がポツポツと灯り始めていた。
「わぁ……綺麗……! 蓮、見て! 街全体がまるで夜空の星々をそのまま敷き詰めたみたいよ!」
荷馬車の御者台で、シルフィが目を輝かせて歓声を上げる。
「ああ、高い場所にあるだけあって空がすごく近く感じるな。風も澄んでて気持ちいい」
手綱を引く蓮がフッと頬を緩めていると、荷台からルチアが鼻をひくひくさせながら這い出てきた。
「ふん! 景色も良いが、我が胃袋の『甘味探知センサー』が猛烈に反応しているぞ! 下僕、ルチア様のリクエストであった『星空パフェ』の店はどこだ!?」
「焦るなって。ほら、案内板が出てる。観測タワーの最上階にあるカフェらしいぞ」
馬車を停留所に預け、三人は長~い螺旋階段(と浮遊エレベーター)を登り、街で一番高い天体観測タワーの展望カフェへと向かった。
ガラス張りの天井から本物の満天の星空が降り注ぐカフェテラス。
テーブルの上に運ばれてきたのは、透明なクリスタルグラスに盛られた、目を見張るほど幻想的な『銀河の星空パフェ』だった。
深青色のブルーベリーゼリーとバニラビーンズたっぷりのアイスの上には、キラキラと輝く金箔と、星の形をしたサクサクの砂糖菓子。そして仕上げに、温かい特製の紫芋ソースをかけると、グラスの中でまるでオーロラのように色が移り変わっていく。
「「……ッ!!」」
シルフィとルチアの目が、夜空の星以上に輝いた。
「……蓮。私、こんなに美しい食べ物を見たことがないわ。食べるのがもったいないくらいよ」
「我もだ……! この星くずのような輝き……我がハサミで崩すのがためらわれるほどの芸術作品だな!」
「崩すのにハサミは使わないけどな。……よし、冷めないうちに(溶けないうちに)食べようか!」
三人は長いスプーンを手に取り、夢中になってパフェへと伸ばした。
一口すくって頬張る。
「「「……ッ!!!!」」」
滑らかなアイスの甘みと、甘酸っぱいベリーゼリーが口の中でひんやりと弾ける。サクサクした星型のクッキーの食感がアクセントになり、後から追ってくる温かい紫芋の香ばしさが絶妙なバランスを取っていた。
「~~~~~っ!! 美味しい!!」
シルフィが幸せそうに長い耳をパタパタと揺らし、両頬を押さえて目を細める。
「冷たいアイスと甘酸っぱいゼリーが、お口の中で天の川を作っているわ!」
「美味い……! 実に美味いぞ下僕! この星型のクッキーの歯ごたえもアクセントになっていて至高だ……っ!」
ルチアも大きなスプーンでパフェをすくい、口元にクリームを付けながら夢中で頬張っていた。
「焦るなよ二人とも。……ん、でも本当に美味いなこれ。後味がすごくさっぱりしてる」
蓮も笑顔でスプーンを動かす。
ガラス越しの満天の星空の下、三人で突く大きなパフェ。
世界を脅かす秘宝も、命を狙う刺客も、もうどこにもいない。
ここにあるのは、ただどこまでも優しく、温かで、最高に甘い日常だけだった。
「ふぅ……満足したわねぇ……」
パフェをきれいに平らげたシルフィが、温かい紅茶を飲みながら、夜空を見上げて優しく呟く。
「ねえ、蓮」
「ん?」
「私、時々思うの。……あの時、あなたがこの世界に来てくれて、私と出会ってくれて、本当に良かったなって」
シルフィは愛おしそうに蓮とルチアを見つめ、そっと手を重ねてきた。
「あなたの作るご飯と、そのまっすぐな優しさがあったから……私は一人きりの長い時の中から抜け出せたの。……ありがとう、蓮」
「……何言ってるんだよ、急に照れるだろ」
蓮が少し顔を赤くして目を逸らすと、隣で満足そうにお腹を叩いていたルチアが、ふんと胸を張った。
「当然だ! 我と出会えたことも含めて、下僕の人生は最高に輝いているのだからな! 感謝するが良い!」
「はいはい、口元に紫芋クリームをつけたまま威張らないの」
シルフィが優しく手拭いでルチアの顔を拭いてやると、ルチアは「むぐぐ……自分で拭ける!」と赤くなって暴れた。
三人で顔を見合わせ、クスクスと楽しそうに笑い合う。
満天の星空の下、どこまでも広がる夜空と、温かな仲間の体温。
12の秘宝を巡る大冒険を終えた彼らの旅路は、これからもたくさんの「美味しいもの」と「大切な思い出」を乗せて、どこまでも、どこまでも続いていくのだった。




