バケツプリンの試練と、とろける微笑み
甘いカラメルと濃厚なバニラの香りが漂う山村『プディン・ヴェール』。
村の中央広場に足を踏み入れた三人の視線の先には、すでに大勢の観光客や地元住民が集まる特設ステージが設けられていた。
そこに鎮座していたのは――人間の顔どころか、小さな樽ほどもある圧倒的な存在感を放つ巨大な黄金色の山。
「う、うわぁ……! すごいわ蓮! あれ、全部プリンなの!? ぷるんぷるんに揺れているわ!」
シルフィが両手を口元に当て、瞳をキラキラと輝かせて見上げる。
「あれが噂の……『特大バケツプリン』か。想像以上のバカでかさだな……」
蓮が引きつった笑いを浮かべる横で、ルチアはすでにハサミ(ではなく巨大なスプーン)を両手で握り締め、血赤色の瞳をメラメラと燃え上がらせていた。
「フフフ……ハハハハ! 見たか下僕! 我の夢にまで見た至高のプリン城だ! 今日の我がハサミ(スプーン)は一味違うぞ! 覚悟せよ、黄色い巨城よ!」
「お前、戦う相手を完全に間違えてるからな?」
村の長から大きなスプーンを渡され、三人でテーブルを囲む。
皿の上にドカンとそびえ立つ特大バケツプリンは、表面にツヤツヤと輝く黄金色のカラメルソースがたっぷりとかかり、一口すくうたびにプルプルと美味しそうに身震いをしていた。
「よし……三人で力を合わせて完食するぞ! いただきます!」
蓮の合図と共に、大きなスプーンが黄金の山へと一斉に突き立てられた。
すくい上げた一口を、口の中へ運ぶ。
「「「……ッ!!!!」」」
三人の動きが同時に止まった。
とろけるような滑らかな舌触り。濃厚な卵とミルクのコクが口いっぱいに広がり、後から追ってくるほろ苦いカラメルのアクセントが完璧なハーモニーを奏でる。
「~~~~~っ!! 美味しい!!」
シルフィが長い耳を幸せそうにパタパタと揺らし、両頬を押さえてうっとりと目を細めた。
「卵の優しさとミルクのコクが……お口の中でとろ~っとけていくわ! こんなに大きいのに、全然くどくないのね!」
「美味い……! 実に美味いぞ下僕! このカラメルのほろ苦さが、甘みを引き立てて永遠に食べ続けられる……っ!」
ルチアも巨大なスプーンで豪快にプリンをすくい、口いっぱいに頬張りながら幸せそうに身悶えしていた。
「熱い……じゃなくて、冷たくて喉越し最高だなこれ。マジで美味い!」
蓮も笑顔でスプーンを動かす。
最初は「こんなの食べきれるか?」と思っていた特大プリンだったが、あまりの美味しさに三人のスプーンは止まらない。
ザクッ、すくって、パックン。
ザクッ、すくって、パックン。
「ふふ、ルチア、口の横にカラメルがついているわよ」
シルフィが優しく手拭いでルチアの頬を拭いてやる。
「むぐぐ……自分で拭ける!……それよりエルフ、あっちのカラメルが濃い部分を横取りするな!」
「横取りじゃないわよ、早い者勝ちなの!」
「待て二人とも! 俺の領分まで侵食するな!」
大きなバケツプリンを挟んで、右へ左へとスプーンが交錯する。
世界を救った最強のパーティーによる、平和でくだらないプリン争奪戦。
数十分後――。
あんなに大きかった特大バケツプリンは跡形もなく消え去り、皿の上には綺麗なカラメルの跡だけが残されていた。
「ふぅ……食べた……食べたわぁ……」
シルフィが満足そうにお腹を押さえ、椅子に深く腰掛けながら天井を見上げる。
「むぅ……我が胃袋も、ついに完全満腹状態に達した……。満足だ……」
ルチアはカエルのぬいぐるみを抱きしめ、お腹をぽんぽんに膨らませて、幸せそうに目を閉じかけていた。
蓮も冷たいハーブティーを飲みながら、ふっと柔らかく微笑んだ。
「完食できたな。……ごちそうさまでした」
ふと、シルフィが蓮とルチアの穏やかな顔を見つめ、優しく手を重ねてきた。
「ねえ、蓮。ルチア」
「ん?」
「私ね……昔は『永遠』なんて言葉、寂しくて大嫌いだったの。エルフだけが取り残されて、みんながいなくなっちゃうから」
シルフィは温かな陽射しを浴びながら、世界で一番美しい笑顔を浮かべた。
「でも、今は思うの。こうやって二人と一緒に笑って、美味しいものを食べて……その瞬間の温もりは、私の心の中で『永遠』に生き続けるんだなって」
「……シルフィ」
「だからね、これからもずっと一緒よ。美味しいものをたくさん食べて、たくさん笑い合って……旅を続けましょうね」
「……おう。あたり前だろ」
蓮が笑って答えると、隣で寝かけていたルチアもむにゃむにゃと呟いた。
「……うむ……下僕……次は……魔法の街の……パフェだ……」
「お前は本当に夢の中でも食いしん坊だな!」
三人の賑やかで温かな笑い声が、秋の爽やかな風に乗って、山村の青空へとどこまでも響き渡っていった。
世界をめぐる大冒険の、その先にある物語。
特別な奇跡なんてなくても、彼らの笑顔と温かな絆がある限り、この愛おしい旅路はこれからもずっと、どこまでも続いていくのだった。




