大樹の霊窟と、侵食する巨樹の影
『フォレスト・ミル』で美味しいキノコグラタンとハチミツクレープを堪能した翌日。
三人は街の長から頼まれた小さな依頼――「巨木の根元に広がる古代霊窟で、木々を枯らす不気味な魔力が湧き出している原因を調査してほしい」という言葉を受け、大樹の地下深くへと続く暗い空洞へと足を踏み入れていた。
「うぅ……昨日のポカポカした樹上と違って、ここはジメジメして寒いわね」
シルフィが肩をすくめながら、指先に灯した小さな風の燐光で足元を照らす。
「ふん! どんな魔物が相手だろうと、我がハサミで刻んで終わりだ!」
ルチアが胸を張り、身の丈ほどもあるハサミを肩に担ぐ。
だが、最深部――巨木の巨大な根が縦横無尽に絡み合う広大な地下空洞に辿り着いた瞬間、その楽観的な空気は一瞬で氷ついた。
グシャァァァァァンッ!!
空洞の天井から、巨大な漆黒の根が何十本も牙のように突き刺さる。
闇の奥から姿を現したのは、枯れ果てた大樹の幹と、無数の魔物の骨が融合した異形の超巨大モンスター――【腐蝕の樹竜・グラトニー】。
その胸元には、教皇シャルルの極秘遺産のひとつであり、周囲の生命力を無差別・無制限に吸い上げて増殖する『黒棘の寄生核』が蠢いていた。
「ガアァァァァァァッ!!!!」
樹竜が咆哮を上げると同時に、空洞全体を埋め尽くすほどの「漆黒の巨根」が嵐のように三人に襲いかかった!
「『大気遮断壁』!」
シルフィが風のバリアを展開するが、根の放つ質量の重みと腐蝕毒によってバリアがみしりと悲鳴を上げる。
「くっ……! 重い……! 単なる植物じゃない、地下の岩盤ごと押し潰すような質量よ!」
「我が斬る! 『無情・断空』!」
ルチアが跳躍し、極小の空間断絶を纏ったハサミで迫り来る巨根を一閃!
ズバァァァンッ!と十数本の根を完璧に切り飛ばすが、切り口から噴き出した腐蝕液が石畳を溶かし、息つく間もなく新しい根が再生・増殖して襲いかかる。
「切っても切ってもキリがないぞ下僕! こいつ、空間ごと埋め立てる気か!?」
「待て! 二人とも引くな!」
蓮が単眼鏡を片目に当て、緑と黄金の数式世界を必死に解析する。
『――【神の鑑定眼】起動――』
視界に広がる複雑怪奇な樹竜の魔力循環回路。
(見える……! あいつは身体をいくら破壊されても、大樹の根を通じて周囲の広大な大地の魔力を絶え間なく吸い上げている! 普通に攻撃しても無限に再生される……!)
「蓮! どうすればいいの!?」
シルフィが風の刃で迫り来る根を必死に弾きながら叫ぶ。
「あいつの生命ラインは、胸の『寄生核』と、足元から伸びる『四本の太い主根』だ! あの主根が大地の魔力を組み上げるポンプになってる!」
蓮は指を突き出し、的確な攻略手順を叫んだ!
「同時に四本の主根を断たないと、一本でも残っていればコンマ一秒で再生する! チームワークで一気に畳みかけるぞ!」
「了解っ!!」
「任せて……! 私たちの息の合った連携、見せてあげるわ!」
蓮の指示のもと、激しい連撃戦闘が開始された!
「まずは俺が第一・第二の主根へ『鑑定』で解析した魔力の干渉波を叩き込む!」
蓮が胸の単眼鏡から黄金の光線を照射! 二本の主根の魔力流動を物理的にロック(固定)して麻痺させる!
ジジジジジッ!!
「グガァァァっ!?」
樹竜が苦悶の声を上げた一瞬の隙を逃さず、ルチアが影のように地を駆けた!
「第三の主根は我が貰う! 『断空・二連穿ち』!!」
ルチアの手から放たれたハサミの鋭利な破片と本体の一閃が、第三の主根を一寸の狂いもなく同時に切断!
「そして最後……第四の主根と、胸の寄生核は私が撃ち抜くわ!!」
シルフィが空中へ高く舞い上がり、『風断ちの弦』を限界を超えて引き絞る。
彼女が放ったのは、大樹の森の澄んだ息吹を極限まで圧縮した超高圧の風の槍――【極大貫通・疾風連穿】!
シュオォォォォォンッ――――!!!!
閃光となった風の槍が、第四の主根を貫通し、そのままの勢いで樹竜の胸元に鎮座する『黒棘の寄生核』へ寸分の狂いもなく直撃!
パリィィィィィィン――――ッ!!!!
核が木っ端微塵に砕け散り、魔力の供給源を失った【腐蝕の樹竜】は、凄まじい地鳴りとともに崩れ落ち、ただの枯れ木となって消滅していった。
静寂が、再び古代霊窟に戻ってくる。
「ふぅ……! 手強い相手だったわね……!」
シルフィが額の汗を拭い、安堵の笑顔を浮かべる。
「ふん! 我らの完璧な連携の前には、どんな巨木とてただの薪同然よ!」
ルチアも胸を張り、ドヤ顔でハサミを収めた。
蓮は二人の元へ歩み寄り、晴れやかな笑顔を見せた。
「頼もしかったぞ、二人とも。これで大樹の森の平和も守られたな」
「ええ! さあ、街に戻ったら長からお礼に『特製ハチミツパイ』をご馳走になりましょう!」
「貰う! 我は三つ食べるぞ!」
激しい戦闘を潜り抜け、三人は今日も温かな絆と笑顔を胸に、光の差す地上へと向かって歩み出すのだった。




