大樹の都市と、木漏れ日のキノコグラタン
嵐の海の激闘を乗り越えた大型客船は、ついに東の大陸の港へと滑り込んだ。
港から馬車に揺られること半日。三人の目の前に広がったのは、雲を突くほどの巨木――神木『アルベロ』の幹や大枝に直接建てられた、幻想的な樹上都市『フォレスト・ミル』だった。
巨木の葉を抜け抜ける風は清涼で、どこか青く香ばしい森の匂いを運んでくる。
「うわぁ……! すごい見晴らしね! 街全体が一本の大きな木の中に包まれているみたい!」
木製の吊り橋の上で、シルフィが金色の髪をふわふわとなびかせながら、眼下に広がる緑の樹海を見下ろして歓声を上げる。
「高さ数千メートルはあるな……落ちたらひとたまりもないぞ」
蓮が手すりを握りながら苦笑いしていると、隣でルチアが鼻をひくひくさせながらクンクンと空気を嗅いでいた。
「下僕……! 我の鼻が、香ばしいチーズの焦げた匂いと、濃厚なキノコの甘い香りを捉えたぞ! 早くあそこへ向かうのだ!」
「お前は高所恐怖症どころか、どこに行ってもメシの匂いしか拾わないな……」
馬車を木陰の手留所に預け、木漏れ日が揺れる木造の回廊を歩いた先で見つけたのは、樹幹の空洞を丸ごと改装した風情あるレストランだった。
店先に並べられていたのは、くり抜いた香ばしいパンの器に、たっぷりの名物『森の黒キノコ』とホワイトソース、そして黄金色のチーズを乗せてこんがり焼き上げた特製グラタン。
「「……ッ!!」」
シルフィとルチアの足が、例のごとく見事な同調でピタリと停止した。
「……蓮。私、あのトロトロに溶けたチーズの表面を見た瞬間、長旅の疲れが完全に吹き飛んだわ」
「下僕! あの芳醇なキノコの香りは、我が魂を直接揺さぶっている! 早急に購入せよ!」
「はいはい、わかったよ……」
蓮は苦笑いしながらコインを出し、焼き立ての熱々キノコグラタンパンを三個買い求めた。
木漏れ日が柔らかく差し込む樹上のテラス席に並んで座り、スプーンでトロトロのチーズとソースをすくって一口頬張る。
「~~~~~っ!! 美味しい!!」
シルフィが幸せそうに長い耳をパタパタと揺らし、両頬を押さえて身悶えした。
「キノコがプリップリで、濃厚なクリームソースと香ばしいチーズが口の中でトロ~ッとけていくわ!」
「美味い……! パンの器も香ばしく、ソースが染み込んでいて至高の味わいだぞ下僕!」
ルチアも口元にホワイトソースを付けながら、夢中でスプーンを動かしていた。
「火傷するなよ。……ん、でもマジで絶品だなこれ。森の恵みって感じだ」
蓮も笑いながら一口かじる。
昨日までの嵐の海での激闘が嘘のような、ポカポカとした平和で温かな時間。
どんなに恐ろしい敵が現れようとも、こうして三人で美味しいものを食べ、笑い合える日常がある限り、彼らの旅はどこまでも楽しく、温かく続いていく。
「ふぅ……満足したわねぇ……」
グラタンを平らげたシルフィが、果汁100%の森のベリージュースを飲みながら、満足そうに目を細める。
「下僕、次はあの木の上で売っている『森のハチミツクレープ』を食べるぞ!」
「お前は本当に胃袋が無限大だな……。よし、みんなで行こうか!」
「「おーっ!!」」
新しく訪れた東の大陸。
爽やかな木漏れ日と木々のざわめきの中、三人の楽しそうな笑い声が、どこまでもどこまでも響き渡っていくのだった。




