南風の港と、常夏のパイナップルポーク
湯波港での甘い夜市と温泉を堪能した三人は、港町で船券を買い求め、次なる目的地――南の海に浮かぶ常夏の島国『南風諸島』へと渡っていた。
潮風を切って進む大きな客船のデッキ。
「すごーい! 蓮、見て! 海の色がエメラルドグリーンよ! 海底のサンゴまで透けて見えそうだわ!」
シルフィが白いサンプロテクトのつば広帽子を押さえながら、船の手すりから身を乗り出して歓声を上げる。涼しげな薄手のアロハ風ドレスが、南国の強い風にふわりとなびいていた。
「おいおい落ちるなよ。しかし……本当に急に暖かくなったな」
蓮も腕まくりをしながら、眩しそうに青空を見上げる。
「ふん! 我の皮膚感覚によれば、この南国には我らの胃袋を狂わせる『未知のご馳走』が大量に眠っているはずだ。下僕、上陸と同時に補給作戦を開始するぞ!」
ルチアは麦わら帽子を深めにかぶり、すでに両手にスプーンとフォークを握り締めて準備万端だった。
やがて船が白い砂浜とヤシの木が連なる港へ横付けされると、熱気あふれる南国の市場の喧騒が三人を出迎えた。
色とりどりの南国フルーツやハイビスカスの花が咲き乱れる市場の通り。
その一角から、肉の焦げる香ばしい煙と、甘酸っぱい果実の芳醇な香りが漂ってくる。
「いらっしゃい! 南風諸島名物『パイナップルポークの炭火焼きステーキ』だよ! 自家製の完熟パイナップルソースで召し上がれ!」
浅黒く日焼けした店主が、厚切りにした豚ロース肉を炭火の上で豪快に焼き上げていた。ジュワッと溢れ出る肉汁に、甘酸っぱいパイナップルを煮詰めた特製タレが回しかけられた瞬間、煙と共に強烈な香りが周囲に広がる。
「「……ッ!!」」
シルフィとルチアの足が、南国の太陽の下でもブレることなく完璧に停止した。
「……蓮。私、パイナップルとお肉が組み合わさるなんて半信半疑だったけれど、あの匂いを嗅いだ瞬間、自分の認識の浅さを恥じたわ」
「我もだ……! あの甘辛いタレと香ばしいお肉の香りは、我が魂の飢えを直接揺さぶっている! 早急に二食分買い占めるのだ!」
「二食分も食うな! でも……確かに美味そうだな」
蓮は笑いながらコインを差し出し、出来立てのステーキプレートを三個買い求めた。
木陰のベンチに並んで座り、熱々の肉をナイフとフォークで切り分けて一口頬張る。
「~~~~~っ!! 美味しい!!」
シルフィが長い耳をパタパタと揺らし、目を丸くして身悶えした。
「お肉が驚くほど柔らかくて、パイナップルの爽やかな甘酸っぱさが脂のくどさを綺麗に消してくれるわ! お口の中が南国の楽園よ!」
「美味い……! 実に美味いぞ下僕! 肉の旨味と果実の酸味が完璧な調和を奏でている……っ!」
ルチアも大きな口でお肉を頬張り、口元をタレでいっぱいにしながら猛烈な勢いで噛み締めていた。
「火傷するなって。……ん、でもマジで絶品だなこれ」
蓮も笑顔で肉をかみしめる。
世界を救った大冒険の果てに訪れた、南国の温かな日常。
かつて戦うことしか知らなかった仲間たちと、こうして新しい街の新しい美味しさに出会い、笑い合う。
「ふぅ……美味しかったわねぇ……」
パイナップルポークを平らげたシルフィが、冷たいココナッツジュースをストローで吸いながら満足そうに溜息をつく。
「下僕、次はあの赤い果実が乗ったかき氷を食べるぞ!」
「お前は本当に胃袋が無限大だな……。よし、みんなで行こうか!」
「「おーっ!!」」
青い海と白い砂浜、そして眩しい太陽の下。
三人の楽しそうな笑い声が、南国の風に乗ってどこまでも響き渡っていった。




