↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/33

黒薔薇の城門と、鏡像の刺客

重力領域を突破した荷馬車は、荒涼とした岩肌がむき出しになる一本道を進み、ついに敵の本拠地――『黒薔薇城』の巨大な外門へと辿り着いていた。

天を覆う黒雲から途切れなく落ちる冷たい雨。

黒鉄で造られた重厚な城門の破風(はふ)には、棘(とげ)に塗られた薔薇の紋章が刻まれ、静まり返る城内に立ち込める霧が、まるで忍び寄る亡霊のように地面を這っていた。

「……ここが、黒薔薇城よ」

馬車の車輪を止め、シルフィが静かに吐き出した息が白く乱れる。

隣で手綱を握る蓮も、片手に『神の単眼鏡』を握り締めながら視線を上げた。

「ルチア。中に……首領がいるんだな?」

「……そうだ。我がかつて『お父様』と呼ばされていた男――帝国を裏から牛耳る【教皇シャルル】。そして彼を守る残りの幹部たちがな」

ルチアはハサミの柄を強く握り締め、覚悟を込めた瞳で城門を見つめた。

過半数を超える八つの神造遺物を回収してきた自分たち。だが、敵の懐深くに飛び込んだ今、ここから先は一歩たりとも油断の許されない真の死地であった。

「行こう。……三人で、必ず生きてこの門をくぐるんだ」

蓮の声に応えるように、シルフィとルチアが力強く頷く。

しかし、三人が城門の重い扉に手をかけようとしたその時――。

シャァァァン――――ッ!!

霧の中から、鏡が割れるような甲高い音が響き渡り、空間の景色がぐにゃりと歪んだ。

「――ようこそ、哀れな裏切り者たち」

歪んだ空間の裂け目から現れたのは、黒いシルクハットに身を包み、優雅な手つきで銀の懐中鏡を弄ぶ少女――幹部第一位、『鏡像のルクレツィア』。

その懐中鏡には、九つ目の神造遺物『水鏡の魔鏡(ヴィーナス・ミラー)』が嵌め込まれており、鈍い妖光を放っていた。

「この先へ進みたくば、まずは『己自身』の罪と向き合うことね」

ルクレツィアが鏡を蓮たちへ向けた瞬間、鏡面から放たれた光が三人の影を包み込んだ。

ドバァァンッ!!

霧の中から姿を現したのは――なんと、蓮、シルフィ、ルチアの『まったく同じ姿をした実体化された鏡像(コピー)』だった。

「なっ……何よこれ!? 私たちの偽物……!?」

シルフィが目を見開く。

出現した『黒いシルフィ』は、本物とまったく同じ構えで『風断ちの弦』を引き絞り、冷酷な眼差しで本物を見つめていた。

「無駄よ。私の『水鏡の魔鏡』が映し出す鏡像は、あなたたちの能力、魔力、技の癖に至るまで完全に同一。言わば『自分自身との命懸けの殺し合い』よ」

ルクレツィアが優雅に微笑む。

『黒いルチア』が本物を上回るほどの殺気を解き放ち、超高速で襲いかかってくる!

ズバァァァンッ!!

ルチアが咄嗟に刃で受け止めるが、まったく同じ筋力と技量による一撃に吹き飛ばされ、石畳へと叩きつけられた。

「くっ……! 動きが完全に読まれている……! 自分の攻撃を防ぐのがこれほど困難とは……!」

「私の風も……相殺されて届かないわ……!」

シルフィの解き放った高圧の風の矢も、鏡像のシルフィが放った風と正面から激突し、爆風となって霧散してしまう。

能力も、速さも、思考パターンすら同じ敵。

正面から戦えば、お互いに相打ちとなって倒れるしかない絶望の鏡像空間。

「クハハハ! どうした、自分自身に殺される気分は!? 己を越えられぬ者に、首領のもとへ届く資格などない!」

ルクレツィアの嘲笑が響き渡る。

しかし――激しい爆風の渦の中、結城 蓮は片目に『神の単眼鏡』を押し当て、静かに思考を研ぎ澄ませていた。

『――【神の鑑定眼】起動――』

(同じだ……。能力も、技の軌道も、魔力の波長も完璧に本物と同じ……。だが――!)

蓮の視界の数式の中で、本物のシルフィ・ルチアと、鏡像の二人の間に、たったひとつだけ『明確な決定差』が存在していた。

「シルフィ! ルチア! 聞け!!」

蓮の叫びが、激しい交戦音を突き破る!

「あいつらは俺たちの『現在の能力』を完璧に模倣しているだけだ! だが、あいつらには無いものがひとつだけある!」

「無いもの……!?」

「あいつらには……『お互いを庇い合い、土壇場で合わせる信頼の連携(タイムラグ)』が無い!!」

蓮は単眼鏡を突きつけ、二人に指示を飛ばした!

「自分の鏡像と戦うな! ターゲットを交差(クロス)させろ!」

「「え……!?」」

「シルフィは『ルチアの鏡像』の弱点を撃て! ルチアは『シルフィの鏡像』の風の隙間を切り裂け! お前たちが旅の中で育ててきた『相手を信じて預ける力』は、あの鏡像にはコピーできない!!」

その言葉に、ふたりの瞳が一瞬で覚醒した。

「そうか……! 私は自分と戦う必要なんてなかったんだわ!」

シルフィが即座に踏み込み、ルチアの鏡像の背後へ向けて『局所指向性・風切』を解き放つ!

「我が信じるのは己の影ではない……! この仲間たちだッ!!」

ルチアもまた、シルフィの鏡像の防御の隙間へ向けて、ハサミの刃を迷いなく突き立てた!

相手の鏡像は「目の前の本物」の動きにしか模倣反応(レスポンス)できない。

互いの絆による完璧な交差攻撃――鏡像の思考の枠組みを超えた連携の前に、コピーたちの防御は一瞬で瓦解した!

バリィィィィィン――――ッ!!

「な……なぜだ!? 完璧な模倣のはずなのに、なぜ予測外の連携で破られる……っ!?」

驚愕するルクレツィアの手元で、9つ目の神造遺物『水鏡の魔鏡』が、過酷な因果の矛盾に耐えきれず木っ端微塵に砕け散った!

鏡像たちは水飛沫となって霧散し、魔鏡の反動を受けたルクレツィアは悲鳴を上げて崩れ落ちた。

静寂が戻った黒薔薇城の門前。

蓮は砕け散った魔鏡の残骸から光る結晶を回収し、単眼鏡へと吸収させた。これで9つ目の回収が完了した。

「ふぅ……肝が冷えたわね。自分の姿をした敵と戦うなんて……」

シルフィが濡れた髪を拭いながら、安堵の息を吐く。

「ふん! 我々の積み重ねてきた絆は、ただの鏡に映せるほど浅くはないのだ!」

ルチアが胸を張り、ドヤ顔でハサミを収めた。

蓮は二人の顔を見つめ、力強く笑いかけた。

「ああ。……さあ、行こう。残る秘宝はあと三つ。この城の奥で、すべての決着をつけに!」

ギィィィ……と重い音を立てて、黒薔薇城の巨大な門がゆっくりと開き始める。

数千年の孤独を超えて育まれた温かな絆と、世界を解き明かす鑑定の瞳。

三人は互いの肩を並べ、暗雲立ち込める決戦の城内へと、足を踏み出していくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。