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転生令嬢は初恋を貫く!  作者: 尾木 愛結
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< 43 >  age19

 私は現在、国の最北にある王領の港町にいる。


 あの忌まわしい媚薬に苛まれた夜から五日後、祖母が体調を崩したと祖父から連絡が入り、私は王都にある祖父母の別邸へ向かった。祖母は六十三歳という年齢もあり、冬の寒さに体が耐えられなかったのだろう。

 その年の冬は例年よりも厳しく、国内でも温かい地域である王都でも厳しい寒さとなった。


 私は祖父母の為に空調機を邸全体に取り付け、夏冬でも二人が快適に過ごせる環境に変える。領地の方は万全なのだが、別邸の方まで頭に入れていなかった。祖母の体調が良くなるまで滞在し、そのままクレージュ公爵領へ戻らず、王領にやってきたのである。


 私がいる場所は、避暑地として栄えている首都から外れた港町。

 此処へ訪れた時は寒さが堪える三月だったが、初夏ともなれば過ごしやすい。


 アーデンという名の小さな町だが、港が近いせいか活気に溢れている。


 私は髪色を薄茶色にした時に、瞳の色も琥珀色に変えていた。

 この国で銀色の髪は、他国から嫁いで来た王妃陛下と王女殿下、そしてアグレッサ侯爵家の血筋だけ。髪色でどこの家の者か判別されてしまう。


 この地に来ることは、最初から決めていた事だ。


 クレージュ公爵令息と離婚してからも、あの邸に居座り続けているのが心苦しく感じていた。

 レイモンを口実に邸から出て、此処へ来るのは八月の予定だった。しかし予定が崩れて、翌年の三月になってしまったが、この地で暮らすのは当初の予定通り。


 時期がズレてしまったのは仕方ない。


 この地は国王陛下と王太子殿下から許可を頂き、十四歳の時に購入した庭付きの家がある。ちょっとした隠家みたいなもの。自給自足も憧れではあるが、自分には向いていないと自覚している。


 家の周りには結界を張り巡らせ、不法侵入を魔法と物理から弾く。

 これは元姉からの殺意から逃れる為に覚えた魔法だ。


 私の世話をしてくれるのは、王宮女官を引退した妙齢の女性レイナと、この地で知り合ったルイーゼという二十五歳の女性二人。ルイーゼの方は子連れなので、彼女の子供も一緒に暮らしている。

 彼女の子供は六歳の女の子アリーゼ。


 おそらく王太子の計らいで、彼女たちは私の世話をしてくれているのだろう。


 本来は自分の事は自分で出来るのだが、この地へやってきて三か月目に体調を崩してから事情が変わった。


 ーー私が妊娠するなんて信じられない!


 私の胎内から感じる魔力は二つ。


 どうやら双子を身籠っているようだ。

 子供の父親は、勿論クレージュ公爵という事になる。あまり記憶にないが、媚薬に苛まれた体をクレージュ公爵が鎮めてくれた。彼にとっては不本意な事だったかもしれない。


 私には遊んで暮らせるだけの個人資産もあるし、魔道具の特許で現在もお金が入金されている。

 空間収納にも十数年は暮らせるだけの大金があるので、生活に困る事はない。


 ここへ来ている事は、国王陛下と王太子しか知らない事だ。


 そのうち祖父母やレベッカ、養父母に伝えるつもりでいるが、私の現状を説明する事は難しい。

 今は何も考えず、のんびり過ごそうと思っている。


 先住民の認識では、私は裕福な商家の人間だ。

 夫に先立たれて未亡人という設定にしたのは、独身の若い女が身籠っているのは世間体が悪いからである。未亡人はともかく、バツイチなのは事実なので嘘は半分しかついていない。



 それから数か月後、私は十二月に男児二人を出産した。

 髪色は黒ーー彼の色と同じ。


 瞳の色は目を閉じているので見えないが、私に魔眼と同じ効果が表れた事で確認しなくても分かる。


 生まれたばかりの子供たちにも、髪色と瞳の色を変えておく。

 認識阻害も兼ねた変装魔法を応用した、私のオリジナルの魔法である。他人から見たら薄茶色の髪と、琥珀色の瞳にしか見えないだろう。


 名前もリエンヌと名乗っている。


 子供たちの名前は、長男がアルベール、次男はベルナールと名付けた。


 初めての子育てだが、自分が想像していたよりも大変である。初めての育児なのに二人もいるから、その大変さは二倍だろう。一人が泣けば、もう一人もつられて泣く。

 オムツを変えるのも同じタイミング。


 ーーもしかして一卵性双生児というのは、思考までシンクロしているのだろうか?


 私が育児に慣れるまで数か月も要した。

 もうじき夏がやってくる季節ーー私は十九歳となり、二人の子を持つシングルマザーである。



「今年の夏はどうしよう」



 昨年はかろうじてお腹が膨らんでいなかったので、祖父母の別邸で過ごしていた。

 祖母の体調が優れなかったので、領地ではなく王都に残ったまま。


 レイモンはクレージュ公爵家からの招待を受け、歓喜に顔を綻ばせてクレージュ公爵領へ向かった。


 老公爵の事が大好きなのだろう。

 レイモンがクレージュ公爵領から戻り、ずっとダンジョンの話をしてくれた。それとクレージュ公爵が再婚していた話を聞き、胸が苦しくなったのは誰にも悟られてはいけない。


 レイモンの話によれば、再婚した女性が懐妊したので二人は離れて暮らしているようだ。後妻は実家で出産をする予定なのだろう。懐妊した妻と別居するのは、相手が生まれ育った実家で安心して出産をするのが目的だからだ。


 ーー彼の妻になれた女性が羨ましいな。


 レイモンは今年もクレージュ公爵家からの招待を受け、休暇の前半を向こうで過ごす予定だろう。


 今年の夏は、レイモンもクレージュ公爵の妻と対面するのだろうか。

 弟の口からクレージュ公爵の話を聞きたくない。


 私は生後半年を過ぎた子供に視線を落とす。

 二人ともすやすやと良く眠っている。髪が伸びて顔立ちもはっきりしてきた。子供の髪色は薄茶色のままだが、顔立ちがクレージュ公爵に酷似しているように思う。


 ーー前世の考え方だと、男の子は母親に似るはずなのに!


 この子たちの顔を見れば、分かる人にはバレてしまう。


 だけど私はクレージュ公爵令息の元妻だったのだから、怪しまれる事はなさそうだ。邪推されそうな要因は、子供たちの魔眼である。クレージュ公爵令息は魔眼を持っていない。

 隔世遺伝と言えば納得するかもしれないがーーーー。



「奥様、旦那様がご到着されたようです」



 レイナの言葉に息を飲み込む。


 ーー今、レイナは旦那様と言った?


 彼女は私の事情を知らないはずだ。


 王太子殿下に言われて世話をしてくれているが、私が誰の子を身籠っていたのかは教えていない。そもそも国王陛下や王太子にも妊娠の事は伏せているのだ。


 ーー私は影に見張られていたの?


 どちらの影だろう。

 もしくは両方なのか。


 私の同行を逐一知らせ、影の報告を共用していた事になる。



「ジュリエンヌ嬢……いや、もうジュリエンヌと呼んで良いか?」



 私の目の前に立つクレージュ公爵は、いつものラフな格好だった。


 しかも私を呼び捨てに呼ぶのは、どうしてなのだろう。ずっとクレージュ公爵に名前呼びを催促されていたが、彼の口から私の名を呼び捨てで告げられると鼓動が跳ねる。


 ドキドキと鼓動が早鐘を打つ。


 ーー私は期待しても良いのだろうか?


 でもーークレージュ公爵は再婚したと聞いている。


 私は彼に期待してはいけないのだ。

 彼の妻となった女性に誤解を招いてしまう。



「どうして……レイモンから、クレージュ公爵がご結婚された話を聞きました。再婚されたのに、何故ですか? 私の前に現れる理由はないはずです」


「その妻を迎えに来た」



 そう告げたクレージュ公爵に、私は抱き締められる。


 ーーちょっと待って! 妻って言った?


 クレージュ公爵が再婚した相手は、私だと言いたいのか?


 私はクレージュ公爵と婚姻契約書を交わしていない。

 本人の承諾なく婚姻が交わされるのは、親の庇護下の扱いでいる十八歳までだったはず。十六歳で成人の儀を迎えるが、年齢が若すぎるという理由で十八歳までは親の庇護下という扱いになっている。


 十六歳で結婚すれば庇護下から外れるが、私は十七歳で離婚したから、ギリギリ養父母の庇護下だった事が関係しているのかもしれない。


 ーー迂闊だった!


 もっと法律を詳しく勉強していれば、立ち回りも上手く出来ただろう。



「あの夜の事は覚えているか?」



 クレージュ公爵に問われて、私は首を左右に振った。


 あの夜は記憶が朧気である。

 私が覚えているのは、クレージュ公爵の息遣いと温かな体温だけ。


 それだけでも顔から火が出そうな程、私にとっては恥ずかしい記憶である。



「やはり覚えていなかったのだな。あの夜に責任は取ると告げてから、ジュリエンヌを抱いた。順番は逆になってしまったが、神殿には婚姻届けを出してある。アグレッサ夫人の看病から戻って来た時に、ジュリエンヌへ説明するはずだったんだがーー王太子殿下から話を聞いて、ジュリエンヌが此の地でゆっくり考えられるように待つ事にした」



 その後、クレージュ公爵が深い溜息を漏らす。



「いい加減、俺が寂しくて狂いそうだ」



 更にぎゅっと強く抱きしめられ、私は頭の中がパニックとなる。


 ーーどういう事?



「ジュリエンヌのいない日々は色褪せて見える。俺の両親も気落ちして元気がない。そろそろ戻って来てくれないか?」



 クレージュ公爵は祖父母を始め、養父母であるアンダーソン侯爵夫妻にも私との関係を打ち明けたらしい。

 

 そしてーー私を抜きにして婚姻届けが出された。

 本人のサインがなくても、双方の両親が認めれば婚姻が成立してしまう。


 きっとレベッカが、私の事をバラしたのかもしれない。彼女は私の初恋の相手を知っている、唯一の人間だから。



「ようやくジュリエンヌを手に入れたのに、俺に一人寝を続けさせるつもりか?」



 ーーその言葉! 言葉は暴力だって聞くけど、正にソレ!


 私の心臓が撃ちのめされました。



「ジュリエンヌと離れて暮らすのに、俺が限界にきている」



 クレージュ公爵に耳元で囁かれ、私は不覚にも腰砕けとなる。


 ーー天然タラシは健在だった!



「結婚式の準備は母上が取り決めて、日取りは来週ーー王都の神殿で式を挙げた後、披露宴は王都の邸だ。アンダーソン侯爵夫妻だけじゃなく、アグレッサ侯爵も出席してくれるそうだ。先輩は分かりにくいだろうが、ジュリエンヌの事を大切に思っている。今なら魔眼を使って先輩の本質が分かるんじゃないか?」



 魔眼にはそういった使い方もあるのか。


 アグレッサ侯爵の本心や気持ちを知った所で、私にとっては今更だ。

 それでもーーわだかまりがあるより、ない方が良い。



「息子たちの事も神殿に報告済みだ。俺の息子として公爵家の籍に登録している。ジュリエンヌは堂々と俺の隣に立っていれば良い」

 


「……」



 ーーどうしよう。


 嬉しくて涙が出そうだ。



「レイモンもジュリエンヌに会いたがっている」



 私が無言のままでいるのを心配してなのか、クレージュ公爵が私の顔を覗き込む。



「俺はーーずっとジュリエンヌに惹かれていた。その事を自覚したのは、国立ヴァソール学園へジュリエンヌの入学が決まってからだった。自分の息子よりも年下の子供に惹かれている自分が信じられなくて。それでも俺の気持ちは変わらないままだった。そんな時、ダニエルがジュリエンヌに婚約を打診すると言い出し、それを阻止しようとしたんだが婚約は成立してしまった」



 クレージュ公爵が私に対する気持ちは、息子と同じく娘のように思っているのだと納得していたらしい。

 従姉妹と親しい子供。


 最初はそれだけだった。


 年に一度だけ園遊会を過ごす同士。

 それなのに、公爵家の秘宝とも呼ぶブラックダイヤモンドを贈りたい存在になっていた。まだ僅か八歳の子供に向ける感情ではない。


 クレージュ公爵の中で、子供に向ける感情ではないと葛藤する日々を送っていたようだ。


 そうして過ごすうちに、自分の息子が私に一目惚れをしたと言って婚約を申し出たのである。確かに、あの時のクレージュ公爵は反対の言葉を言っていた。

 元父であるアグレッサ侯爵も同様である。


 当時のクレージュ公爵令息に対して、魔力量が少なくて頼りない。

 そんな言葉を言っていた。


 婚約の契約を交わす時、大人たちで話し合うからと、私とクレージュ公爵令息は応接室から追い出されたのである。その時にクレージュ公爵はアグレッサ侯爵に提案していたらしい。



「俺の息子との離縁が締結された場合、ジュリエンヌは自分が娶る」



 そんな言葉を交わしていたのは初耳だったが、当時の私は十歳の子供である。


 おそらく感情の乏しいアグレッサ侯爵も驚いた事だろう。

 最後までクレージュ公爵令息との結婚は反対していたので、アグレッサ侯爵の中ではクレージュ公爵に娶られるのが決まっていたのかもしれない。


 私が出した婚姻契約書の件で、クレージュ公爵の気持ちが固まったようだ。


 ーーだから名前呼び!


 そしてクレージュ夫人が「お母様」という呼び方に拘っていた理由も。



「ジュリエンヌ、俺はお前を愛している」


「……っ!」



 ーークレージュ公爵が私にキスした!


 いきなりの展開で頭がついていかない。


 私があたふたと焦っていたら、私の魔力が乱れた事で双子が泣き出した。

 子供が泣き出した事で、私はクレージュ公爵の抱擁から解放される。ずっと抱きしめられたままだったのだ。


 ーー本当に心臓に悪い。


 こういったスキンシップに、私は慣れていないのだ。



「この子が……お前が長男のアルベールか。母親の異常に気付いて泣くとは、なかなかのマザコンだな」



 クレージュ公爵がアルベールを腕に抱いている。


 いつの間にか私の変装魔法が解かれ、本来の姿に戻されていた。元父アグレッサ侯爵はチートだが、クレージュ公爵も負けずに十分チートだと思う。


 クレージュ公爵の腕にアルベールがいるので、私は次男のベルナールを腕に抱く。二人ともギャン泣きなので、かなり騒音に近い状態だ。生後間もない頃の泣き声は平気なのに、半年も過ぎれば声量も発達するのか。



「ジュリエンヌ、俺と一緒に帰ろう」



 この家は二人に管理を任せ、私はクレージュ公爵と共に、二人の子供を連れてクレージュ公爵領へ戻る事になった。




 


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