37話
「黙れぇい。この、生きた化石があぁ!」
外へと膨らむ咆吼が恐怖心を跳ね除けるが、音圧の弱まりに連れて、不安の闇が一挙に押し寄せてきた。
焦燥感に追い着かれるより先に、エルドラが疾走。
全体重を乗せた剛拳が、魔王目掛けて肉薄する。
「でぇりゃあああぁ!」
魔王は、前へと踏み出した左脚を軸に回転。
上体を倒して拳を躱しつつ、中段蹴りで相手の胸板を踏み抜く。
「ブゥエアアァ!!」
自身の勢いを逆用された痛烈な一撃に、エルドラの巨体が大きく後ろへ跳ね飛ばされた。
相手の身体が離れた隙に、魔王は反対向きの左回りに振り向きざま、地面に刺さった血塗りの剣を右手で豪快に引き抜く。
空中へと振り払われた剣先の土が、ザバッと血飛沫に似た音を立てて地面を叩いた。
肩幅に脚を開いて息を吐き、人差し指と中指の2本を刃の根元から切っ先へと走らせると、それまで銀色だった刀身が、蒼い蛍光色を帯びていった。
「魔王さんの剣が、光ってる……?」
リュンの乾いた呟きに、すぐ横の田衛文が、発光現象の仕組みを語る。
「アレが、魔法で物を燃やす原理の応用ダヨ。燃えるだけの魔力がないなら、髪の毛や血液トカ、とにかく色んな道具を使って魔力を与えれば良いんだ」
言うなれば、人工の魔剣。
本来ならば、剣の材質や意匠によって術者のイメージが反発されるが、装飾に乏しい素朴な剣ならば、あらゆる魔法の加護を抵抗なく受け容れるのだ。
背中を地面へと打ち付けたエルドラが、息を乱して立ち上がる。
魔王は鋭い視線で柄の残り半分 ― 右手の後ろにもう片方の手も添えると、
毅然とした態度で宣言する。
「破滅教が死と苦痛を望むのなら、僕がこの剣で、お前に死をくれてやる」
「小賢しい……。斬れるというなら、近寄らせぬまでだ!」
エルドラが両手に魔力を込めて印を結ぶと、足下の小石が、空中に雲のような群れを形成し、掌の動きに合わせて、右へ左へと自由に移動する。
さらには礫の一つ一つが高速で振動しているため、接触すれば重傷は避けられない。
「こいつが村長を襲った技だな。思ってたよりもややこしそうだ……」
「今度は貴様を蜂の巣にしてやる!」
エルドラが手首を捻って腕を伸ばすと、礫の雲が、別角度からの時間差攻撃を仕掛けてくる。
(来たぞ。前後両面からの挟み撃ちだ!)
魔王は正面の礫群へと魔刀剣を振り、気合いと共に魔力を解放させる。
礫の群れは魔導衝撃に当たり、力場を失って地面へと落ちた。
(次は後ろっ!)
振り返り、ドーナツ型の石群に通過可能な空隙を見付けて、輪を潜るようにして伸身で跳躍。
すると程なく、こちらの礫嵐も自身の役目を終えて、力なく重力に引かれた。
魔刀剣は魔力を外へと放出するたび、再充填する必要がある。
前後両面の回避に成功した魔王は、自身の傷口に触れて、腕に滲む血を剣へと塗り込み、魔刀剣を再生させてエルドラに猛然と斬りかかった。
「うああああぁぁあ!!」
対するエルドラは礫の制御を已むなく中断して、後方高くへと跳躍する。
「くそっ、斯くなる上は!」
エルドラの巨体が、着地に合わせて地中に沈み込んだ。
下方からの絶対安全圏より、一方的に攻撃を仕掛ける気である。
「無駄だ。デモンズイヤー、全開っ!」
ビストゥス初日で編み出した無駄技が、左後方からの接近音を感知する。
「くたばれぇぇえ!」
「あまーい!!!」
出現に合わせて立ち位置を調整し、相手が飛び出してくる勢いを利用した居合い斬りを放つ。
エルドラの手刀が皮膚を軽く裂き、魔王の頬に真一文字の朱が引かれる。
すれ違いに、魔王の魔刀剣がエルドラの身鎧表面を深く断ち、目視可能な裂け目を刻んだ。
「ぐぬうぅぅ、なんという奴だ。よもや、地面からの敵にも対応できるとは……」
苦しげに唸ったあと、エルドラは落ち着いた様子で、腹部に走る傷口を掌でポンと叩いてみせる。
「しかし! 如何に貴様の魔剣と言えども、我が装甲を完全に断ち切ることは出来ないようだな」
エルドラの言うように、一対一の回避中心では、どうしたって決め手に欠ける。
そのうえ、初めのうちに蓄積した疲労が、いつになって効いてくるか分からない。
魔王が短く逡巡していると、仲間達の活気付いた声が横から近付く。
「ナ~ニ、ソレだけで充分だよ♪」
「これより支援に移ります……」
引き締まった手足がフワリと揺れて、田衛文の身体が、魔王の頭上左で静止する。
ワンテンポ遅れて、箒に跨った冥箒が反対側へと並んだ。
「助かるよ、2人共。あいつを倒すのを手伝ってくれるかい?」
魔王が喜色満面に呼び掛けると、田衛文は身体を揺すってウンと頷く。
「今の攻撃で姿を消せなくなったんなら、ボクだって、心置きなく戦えるからネ♪」
弾けるような笑みと晴れやかな声からして、よほど鬱憤が溜まっていたのだろう。
さっそく田衛文が、脇の下へと肘を引いて戦闘準備を始めるが、その勢いを遮る形で、冥箒が田衛門に協力を求めた。
「とは言え、あの遠隔攻撃は厄介です。私に少し考えがありますので、田衛文は暫くのあいだ、ヤツの気を惹いてて下さい」
涼しい顔とぞんざいな呼び掛けが、田衛文の癪に障った。
「ムゥ~……。ようやく反撃って時に、なんでそんな地味ぃ~な役回りしなくちゃイケナイの!?」
(あれあれ、困ったぞ? 早速、チームワークが乱れてら……)
軽く眉を寄せた魔王は、此処20年で最上級の微笑みを相棒へと向ける。
「僕からも頼むよ、田衛文……」(キラキラ)
「ガンバっちゃう、愛を込めて☆」
田衛文がビュイーンと白い軌跡を残して、敵味方の中間地点へと超特急で飛び出した。
ちなみに彼女の脳内では、魔王の顔が、当社比5倍の超絶イケメンに補正されている。
(おぉ、凄い勢いで飛んでった……。頑張れ~)
観戦モードと化した魔王の視界、エルドラを中心とした円周上を田衛文が飛び回り、精霊言語の方言混じりで魔導詩を紡ぐ。
「そう清か、此ん土地は、巡り行くぅ、瑞気のもとに……」
周辺魔法による環境の変化が始まった。
田衛文の声とは思えない高音域の歌声が、大地と水を滔々と讃える。
民族音楽の進行と共に付近一帯の漂流魔力が沈静化を始め、その副作用から、
気温がグングンと下がってゆく。
「完全詠唱か! 完成する前に打ち落としてくれる」
脅威を感じたエルドラが、田衛文に礫の雲を差し向ける。
しかし、これは大きな誤りだった。
雨上がりの地中から掘り出された石は、表面に僅かな湿気を帯びている。
それが高速で振動するために、隣り同士で氷結を起こしたのだ。
巨大な氷塊となった礫の群れは、運動速度が急激に落ちている。
「見付けました……。念動魔力の制御核、頂きます!」
壷を小脇に抱えた冥箒が、箒に乗って氷塊の輪を潜り抜ける。
すると、力を失った礫群は弧を描いて地面に落下し、反対に、魔力を吸収した
冥箒の壷は、内側から不気味な光を放った。
「よぅし、今度はこっちの番だ!」
魔王が、柄の握りに力を込めて前へと駆け出す。
「くっ、礫嵐を封じられたか!」
エルドラはバックステップで距離をとり、着地と同時に地中へ逃れようとするが、石の具足は地面に溶けることなく、足下を深く抉るだけで停止した。
「バカな!! 地面が凍って掘り進めんだと!?」
エルドラは、辛うじて掘り起こした土から巨岩の剣を精製する。
魔王の魔刀剣とエルドラの硬岩剣が交錯した。
袈裟斬りで挑む魔王を、反対向きの剣閃でエルドラが打ち合わせる。
魔王は敵の守りを全身のバネで押し上げ、振り上げた刀身を左向きへと手首を返して、剣先を横に払う。
胴払いが成立する直前、エルドラが瞬間的に前へと出て、柄を握る魔王の両手を掌打で制した。
左・右と順に足を下げ、魔王の兜割り。
エルドラが、振り下ろされる魔刀剣を剣で受け止め、手首を捻って、魔王の剣先を体側面に受け流す。
わずかに退いてエルドラの突き。
ただし、攻撃を受け流された時点で、相手の行動は予測済みである。
魔王は膝を曲げて身を低く倒し、肩の布地を裂かれる程度に被害を抑える。
魔王が屈伸運動を乗せた膂力で剣を振り上げた。
「てええぇぇい!!」
「ぬうっ!」
エルドラは巨岩の剣を即座に引き戻し、低い体勢からの強引な斬り上げを阻む。
『ガグン!!』
魔刀剣の魔力が、硬岩剣の結合魔力を寸断。
エルドラの剣は元の土塊へと帰り、魔刀剣は金属刃の原型を留めて光を失う。
バランスを崩したエルドラは、上体が仰け反る勢いを利用して後転し、再び後方高くへと跳躍する。
「見事な腕だ。ならば、我が奥義をその身で味わえ!!」
エルドラが落下の勢いを乗せて、堅い地面を強引に踏み抜く。
「そら、もう一度!」
ガズンと荒々しい音が鳴り、凍て付く地面にクモの巣状の罅割れが走る。
「魔王。アイツ、ムリヤリ掘り進める気だよ!」
田衛文の言うように、エルドラの周りでは、足下の地面が擂り鉢状の隆起を見せていた。
「コレでどうだ!」
三度目の掘削で、大量の土砂が空高く噴き上がった。
「地よ、我が盾となれぃ!」
掛け声と同時に、エルドラの周囲に分厚い土砂の防壁が築かれる。
「エストラ・ド・バラ、ユクサルネビア……」
内側から漏れる耳慣れない詠唱を聴いて、冥箒が表情を歪める。
「まずいですね……。短縮詠唱を重ね掛けして、一気に決着を付ける積もりのようです」
「ソンナ……。詠唱ナシで技が使えるのに、ソレが力を溜めたりなんてしたら、
一瞬で終わりダヨ!」
試しに魔王が岩壁に一撃入れてみるも、乾いた音を立てて剣が弾かれた。
さらには表面に刻んだ損傷部分が、見る見るうちに、内側からの土砂で塞がってゆく。
「うあっ!! いくら魔刀剣でも歯が立たない……」
「一度に強力な打撃を与えて、一気に粉砕する必要がありますね」
だが、魔王と田衛文が得意とするのは専ら対人戦闘ばかりで、破壊工作の分野においては全くの素人である。
「おじちゃん。それならさっき、こんな物を見付けたよ」
食堂壁際で戦局を見守っていたニルスが、袋の中へと手を伸ばす。
「そいつは、城の中から取ってきた爆弾か!」
「確かにそれなら、あの分厚い壁にも穴を空けられそうですね」
冥箒が効果を保証すると、田衛文がすぐさまサポートに動く。
「みんな、チョット待ってて。すぐに火を取ってくるから」
早口に告げたあと、食堂入り口へと猛スピードで突っ込んでゆく田衛文。
村人の一斉避難は隣国への亡命を意図していたため、初めから鍵は開けられていた。
「では、彼女が戻って来るまでの間、私も準備するとしますか。そぅれ、パッパッと……」
冥箒が徐ろに壷の中へと手を突っ込み、空中に発光粒子を散布する。
魔王は爆心地となるエルドラから距離を保ち、意識を空へと集中させると、空に燦めく霞のような粒子から濃密な魔力を感じた。
「そうか……。冥箒の得意な術式は、媒体法か」
媒体法とは、固有魔力を封じた物質を消費する、非詠唱型の術式のこと。
事前の準備が必要で、魔法属性の途中変更も不可能だが、利用の際は即時実行可能なうえに、短縮詠唱のような魔力損失がない点が強みである。
程なく、田衛文が火元の調達を終えて戻ってきた。
彼女は手にした蝋燭台をリュンに預け、ニルスから爆弾を受け取って待機する。
あとは、魔王の号令一つで連携が始まる。
「冥箒・田衛文・僕の順で行こう。2人とも、タイミングを合わせてくれ!」
「リョ~カイ。冥箒は爆風の制御、お願いね♪」
冥箒が無言でコクリと頷き、両手で宙に印を刻む。
「闇より生まれし虚幻の輝き。混沌よ、在れ……」
キーワードに反応して幻術が発動。
自身を象った6つの幻影が、石壁の周囲で等間隔に浮遊し六芒星を構成する。
障壁が完成するのと同時に、田衛文が爆弾の導火線に着火。
すぐに高度を上げて、両手を頭上に大きく振りかぶる。
「トドケ~!」
宙を斜めに滑る爆弾が、エルドラを守る石壁へ見事に命中。
弾着と同時に爆風が大きく縦に膨れ上がり、積み重なった全ての防壁を粉砕する。
障壁の罅割れと開口部から漏れ出す濛々たる土煙。
視界が晴れるのを待たず、魔王が敵の詠唱位置へと駆け寄って、大きく一閃。
魔刀剣が、エルドラの胴体を大きく抉り取る筈だった……。
「魔王、ヤッタの!?」
不意を突かれた表情で、魔王が小刻みに首を振る。
「ダメだ。全く手応えがない!」
咄嗟に冥箒が、手を鉤爪状に曲げて宙を薙ぐ。
「ふうぅンっ!!」
そよ風が土煙を吹き消して、無人の岩場を露わにした。
「地下です!」
反射的に魔王が振り返る。
冥箒の不安は的中し、エルドラは3人の視界の外で、詠唱の時間を稼いでいた。
「現・壌・號・儡……」
詠唱の余韻に静寂が重なる。
恐らく次の攻撃こそ、回避不能な最後の一手だ。
魔王は剣を捨てて、早口に説明する。
「一か八かだ。ヤツを攻撃する!」
魔王はリュンから授かった装核を右手でしっかりと握り、装甲が剥がれた相手の左腹部を狙ってダッシュする。
「田衛文、今こそ魔力移譲を!」
田衛文は迷わない。
冥箒の指示で両手の指を互い違いに組み合わせると、心を込めて祈りを捧げた。
(魔王、ゼッタイに負けないで……)
無垢なる願いが思考共有を伝わり、魔王に勇気と活力を与える。
(行ける……。この一撃で全てを終わりにしてやるぞ、エルドラ!!)
より速く、より強く、魔王の身体が夜の闇を疾駆する。
しかし、魔王に先じてエルドラの奥義が完成した。
両者のあいだを取り囲むように、地表に幾つもの石板が出現する。
「グハハハハハハ……。大地の棺に抱かれて眠れ、エスト・ヴァン・アース!!!!」
両サイドの石板が中央へと集結し、前後左右のあらゆる角度から魔王を押し潰す。
「魔王さん……」
「おじちゃん、そんなぁ……」
リュンとニルスが絶望に立ち尽くす。
2人の目には、このまま全てが終わってしまうかに見えた。
しかし、強敵エルドラの顔に張り付くのは、歓喜の笑みではなく苦悶の形相であった。
「むっ、ぐぐぐググ……」
エルドラは魔力を集中し、内部の獲物を圧縮しようと奮闘するも、石棺は一定のサイズを保ったままピクリとも動かない。
それはつまり、内外の圧力が拮抗している事を示す。
(どんな暴威にも怯まない力を……)
(ドンナ苦難をも乗り越える魂を……)
魔王と田衛文。
2人の鼓動が熱を帯び、やがてピタリと心音が重なる。
「今、僕に!」
「今、彼に!」
卵殻を破るような音を立てて、石棺の表面に無数の亀裂が走った。
裂け目から放たれる幾条もの魔力光が、エルドラの心に恐怖の二文字を刻み込む。
「この、この……」
大地を震わす鈍い振動を放ち、石棺が勢いよく弾け飛んだ!
『バケモノがあああぁぁぁ!!!』
視界が開けると同時に、風を裂き、闇を貫いて魔王が駆ける。
「てやっ、せやっ、ぬぅわあぁぁ!!」
絶叫するエルドラが石弾を連発するも、魔王は決して止まらない。
石礫が皮膚を裂き、腕を伝う血が装核を濡らそうとも、
走る。
駛る!
奔る!!
「ねえぇぇりゃああぁぁ!!!」
魔王は魔力を剛力に変えて、エルドラの脇腹に拳を叩き込む。
「カハッ……」
神経を冒す疼痛に、エルドラの口から呼気が漏れた。
掌中の装核が打撃の撃力で前後に潰れ、流線型の中心軸に歪みが生じる。
エルドラは、全身が痛みに硬直して動けない。
その隙に魔王は、黒ずんだ肉塊を、手首を曲げた掌底で抉り、罅割れた退魔の
装核を敵の体内へと捻じ込む。
両手が完全に自由になると、相手の肩を掴んで軽く跳躍、胸板に強烈な両足蹴りを叩き込んだ。
「あがぉあぁぁぁ……!」
エルドラは、肩の装甲板を強引に引き剥がされてヨロヨロと後退し、左膝を地面について蹲る。
対する魔王は、飛び蹴りの反動を利用して後方高くへと蜻蛉返り。
振り落とされた血が荒れ地の上を点々と染め、爪先は月輪をなぞる。
「グウゥゥ……。ガハッ!」
エルドラは強引に立ち上がろうとして失敗し、再び地面に膝をつく。
魔王が無事に着地を決めると、覇気を宿した冥箒の表情が輝きを増した。
「敵・味方の状態差を確認……。絶好の機会です」
「よし、来た。田衛文、冥箒。エルドラに集団詠唱を仕掛けるぞ!」
「待ってマシタ♪ 戦闘用のボクの魔力、この一撃に全て賭ける!」
田衛文の意気込みが、猛スピードで飛び行く空に星の瞬きを映し出した。
その対極、冥箒が魔王の左前方へと展開し、エルドラを中心とした、魔王・田衛文・冥箒による三方陣を形成する。
第一声、冥箒の詠唱が漂流魔力を励起させる。
「三方より、空を通じて汝に祈る」
魔王とエルドラを結ぶ血の点線が、茫洋とした光を放つ。
漂流魔力が血液を、血中魔力が魔王と装核を繋いだことで、即席の魔力通信線を構築したのだ。
冥箒の詠唱に続けて、魔王の宣言が、装核に所有権を主張する。
「我が血、我が力を以て、其(装核)の覚醒を望む!」
魔王の体内魔力が魔導線を通過し、装核に乳白色の輝きが点った。
最後に田衛文の言霊が、装核の機能を解放する。
「汝、退魔の装核。何者をも受け容れぬ気高きモノ!」
3つの頂点から結界魔術の境界が延び、魔方陣の内部で対流する魔力が激しく
共鳴する。
「応えよ、
大地に遍く
魔導の結晶!」
「応えて、 「応えなさい、
大地に遍く 大地に転がる
マドーの結晶!」 魔導の塊!」
三人詠唱・装核陣が完成した。
装核は、エルドラの体内魔力を臨界点まで吸い上げ、余剰分を外部へと吐き出し続ける。
肉体維持の魔力を急激に奪われたエルドラは、思うように身動きが取れない。
「なんだコレは! 静まれ……。えぇい、静まれ!」
エルドラは装核を制御しようと必死に藻掻くが、無駄な努力である。
気力・体力を大幅に失ったうえ、魔力を操作する技術 ― 魔力操技を心臓部の装核へと分散させているのだ。
魔王に田衛文と冥箒のサポートが付いている以上、エルドラに主導権争いの勝ち目はない。
「エルドラ……。どちらが本当に、この世に必要とされてるのか教えてやる」
魔王はそう言うと、胸元のポケットを開いて、最後の一つとなった力石を取り出す。
「この力石一つじゃない。お前の力を奪い続けてるその装核にも、みんなの想いが込められてるんだ!」
「黙れぇい! 認めん……。認めんぞ! こんな結末、世界は決して認めたりはしない。この世が真に求めているのは貴様ではない! 我ら、破滅教の理想なのだ!!」
「いいや、そいつは違うね。この世界に本当に必要とされてるのは、神でも魔王でもない。現在を生きる、一人一人の大切な意志なんだ!!」
魔王は右手を大きく振りかぶり、上半身をグルリと横に一回転させた勢いを利用して、力石を全力で投げ放つ。
力石が宙を閃く僅かな時間、五人の胸に様々な想いが去来する。
重税に憂う日々。
運命に翻弄される深い哀しみ。
洗脳の犠牲となった者達の無念。
そして、苦難に抗おうとする者達の力強き意志。
それら万感の思いを乗せて、力石は退魔の装核へと衝突する。
『ピシッ! ピキピキピキッ……』
破裂した力石が魔力を解放。
内外から加わる魔導圧力が硬度限界を上回り、退魔の装核が砕け散る。
「ぬおおおおぉぉぉぁぁぁぁ!!!」
エルドラの絶叫を追いかけて、爆発の轟音と光がビストゥスを劈く。
装核の暴発魔力が天を貫き、エルドラの肉体は天地に四散した。




