SOS 094 vsアルマ5
奥の手が頭を過るヒナギクに、思いがけない出来事が起こる。
アルマがその表情を歪めたのだ。
「ちっ!」
ヒナギクに振り下ろす予定だった右手は、
急遽その方向を変え、何も無い空間を薙ぎ払う。
拍子に、何かが弾ける音がする。
パチパチとのパラパラとも聞こえるそれは、
ヒナギクにとってもなじみのないものだった。
ただ、超直感的にそれがかなり危ないものであると勘づき
ヒナギクはその隙を付くよりも、大きく距離を取ることを優先させる。
現場の変化を察したソアラは、遠距離攻撃を中断した。
そしてその瞬間に、アルマとヒナギクの間で急激な静寂が訪れる。
「(薬毒……薬師か)」
びりびりと痺れて動かない右手を意識しながら、
アルマは態勢を立て直す。
耄碌した自分の戦闘勘に辟易しつつ、
それとは反対に心はどんどん冷静になっていく。
「「《飛針》」」
聞いたことのある声とない声が聞こえる。
ある方はあの銀髪少女の声だ。
「(一拍遅い)」
針のような細い飛弾がアルマに向かってくる。
防ぐことも避けることも出来るほどだが、
アルマは迷うことなく避ける。
「(毒仕込み、単独じゃないな)」
分析するまでもなく、その《飛針》が単なる攻撃ではなく
毒性の付与されたものであると看破する。
そして、あの銀髪少女の特性からして、
薬毒まで使役出来るとは考えにくい。
それには別の術士の存在が必要なはずだった。
「(もう一人の女か。回復役を放棄する気だな)」
アルマの背後から二つの影が飛び出してくる。
シルビアとサティの両名だ。
「(やはり遅い。経験値が黒髪とは違うな)」
「「《毒葬》」」
サティの呪言が耳を打つ。
薬師であるサティは、物質的な薬学の研鑽もしてるが、
術士として薬性、毒性を付与させる術式も構築できる。
ただ、本来であれば薬師にその技術を実戦で使えるほどまでに
強化することは出来ないはずだった。
まだ、毒薬を実際に投げつける方が効果があるだろう。
「(共鳴術? 違うな、本質が違う。
ただ、二人で一つの術式を構築しているのは確かだな)」
アルマはすぐに気が付いた。
シルビアとサティが同時に同じ術式を発動させている。
ヒナギクは九死に一生を得たという安心から一転、
二人の行動の背景を読み取り焦る。
恐らくシルビアはアルマの強さを実際に見て理解していた。
それゆえ、ヒナギクとソアラでは手に余ると予想するに至った。
けれど、上官でもあるヒナギクの作戦を無視も出来ず、
サティと話した上で、ヒナギクの危機には飛び出す覚悟をしていたわけだ。
つまり端的に言えば、二人は対峙すれば死ぬ可能性があることを
充分理解した上で、いまアルマに向かっている。
もっと言えば、それは生き残ることを放棄しているに近い。
ギルド職員としても、一人の人間としても
一番陥ってはいけない考え方だ。
「だめっ! 二人とも! 逃げ……」
「《離滅》」
無情にも、アルマの一言で彼女たちの渾身の《毒葬》は
跡形も無く消え去った。
「残念だな。
世界は、極小の粒の寄り合いで出来ている。
その世界に身を置く俺に
飲める毒など効きようもないからな」
ゆっくりと振り返りながら、アルマはその瞳を捉える。




