SOS 093 vsサイエン4
グレースとカイケンは全速力で《洞穴》を飛び出る。
カイケンが陛下を背負ってから速度は上がり、
追っ手の連中を遥か後方に置き去りにした。
生真面目なグレースが陛下を渡すことについて一瞬渋ったが、
『そのにもつと心中します?』と聞かれた際、単純に
「それはないな」と思えた素直さがグレースの命を救った形だ。
「サブマスター!? 一体何が……こ、国王陛下!?」
《洞穴》の外で待機していたギルド職員と、期間契約をしているギルド員達が
わらわらと茂みから出てきた。
新国王の粋な計らいで、外で待ちぼうけすることになった面々は
ゆうに三十人を超える大所帯だ。
気を使って割高な古参冒険者を軸に声を掛けて集まって貰ったにも
関わらず、無駄な出費にグレースは内臓から湧きあがるような
ピリピリした雰囲気を纏っていたのは、ほんの少し前の話だ。
「説明は後で! 治癒術系が得意な方、あちらへ。陛下をお運びします!
職員も早く!」
「わ、か、畏まりました!」
ためらいも許さないグレースの圧力が、ざわつく現場を抑える。
同時にグレースは心の中で一人、出費が無駄にならずに済んだと安堵する。
『言ってる間に来ますよ? サブマスさん』
「わかってます、その他の方はこちら、敵性勢力が来ます!」
そのやり取りに、古参の参加者の最高齢らしき人物が声を上げる。
「おいおい? 敵性勢力? 高貴なる近衛兵の奴らはどうした」
「全滅だと思って下さい」
「……んだと?」
『サブマスさん!』
「状況三番! 生死不問! 特報あり!」
その言葉で、全員の意識がカチリと噛みあった。
わかりやすく言えば、
「出てくる敵を一人逃さず、倒してしまえ、報奨金も上乗せる」
ということだ。
それもギルド直依頼、かつ緊急依頼の合わせ技。
上手くやれば向こう数か月は遊んで暮らせる公算が立つ。
「ギィイイイイイイイ!」
《洞穴》からコブちゃんズと姉妹ズが飛び出てくる。
普通の一般人からしたら腰が抜けるような状況だが、
最早それらが金にしか見えない連中にとっては、
飛んで火に入る何とやらだ。
「「「うぉおおおおおおおお!!!」」」
問答無用で全力の攻撃を仕掛ける古参連中。
グレースが選りすぐっただけあり、連携に微塵の隙も無い。
コブちゃんズに至っては早々にほとんどの個体が討伐されたが、
姉妹ズは個体の能力が高いらしく、
結構な苦戦を強いられている。
しかしながら、ただ強い程度で勝てるほど、
古参連中の面倒さは生易しく無い。
絶妙な連携を取りながら、傷と体力の回復を交互に行い
相手の体力のみをどんどん削っていく。
『……冒険者のおっさんって、倒すのが一番面倒な生き物ですね』
「それだけが取り得だから……そんなことより、あれは?
あの少年はどこですか?」
『あれ? みなさんと一緒にいたハズですが……』
カイケンが辺りをキョロキョロと見回し、
ふと近くにあった大きめの木に着目する。
「その木が、どうかしましたか?」
『うりゃ』
カイケンが不意にその木の横っ腹を小突く。
とても軽く見えたものの、実際はびりびりと
地面を震わせるほど強烈にその拳を叩きつけた。
「あ痛ぁぁぁぁぁぁ!」
「な?!」
突如、どこからともなく膳が現れ、脇腹を抑えてのたうち回る。
グレースは突然の出来事に自分の目を疑った。
『こんなことでいきなり《融合化》しないでくださいよ。
というか、無機物との融合化とか、
一段飛ばしでいろいろ会得するのはあんまり良くないですね』
珍しく若干怒っている風のカイケンの言葉に、
グレースは再び驚く。
《融合化》という固有術式は初耳であったが、そんなものは
結構ざらにあることで、そこまで珍しいとまではいかなかった。
しかし、無機物との融合など、存在として聞いたことがない術式だった。
「す、すい………すいま、せん。
び、びっくり………して、
気づいたら……」
『ま、いいでしょう。それより膳くん。
多分お二人が危ないです』
「ふ、二人?」
『シルビアさんとソアラさん。
勘ですけど、あの二人が引き当てられたのが
災厄のアルマです。
ひいき目にみて、このままじゃ多分、二人とも死にます』
「え、え………?」
カイケンが膳の前に屈む。
まるで子供にやさしく諭すような、
そんな姿勢だ。
『膳くん。もしあの二人に少しでも恩を感じるなら、
ここはあなたが頑張るところですよ』
「……………」
『とても残念なことに、あなただけでは
この難局を乗り切ることは出来ません』
「……それは」
『ですが、あなたには他の誰かを使って
この難局を乗り切る術がある』
「…………」
『もちろん、今のあなたが使いこなせるとは思えませんが
やらないよりはましでしょうよ』
「……いや、その」
『一か八か、やってみてはいかがです?』
「……………僕、ギャンブルは嫌いなんです」
カイケンの声に、膳はそれだけをはっきりと答えた。
カイケンはそれを聞いてクスクス笑う。
『奇遇ですね、私もですよ』




