SOS 089 vsフランドル6
フランドル自身、
既に自我などは存在していなかった。
今理解しているのは、五感の感覚、そして
自分以外の相手が全て敵である
ということだけだった。
それで十分だった。いや、むしろだからこそ
フランドルは強さの高みに
片足を踏み入れたのだ。
「《熱砂陣》」
かつてアルマに無力化されたそれは、
フランドルの馴染み深い術式だった。
高熱を帯びた砂塵が敵を切り裂き焼き尽くす。
自在に動かせば、
防ぐことも難しい最強の矛にもなるし
貫くことも難しい最強の盾にもなる。
その術式を会得した際、
崇拝する術士でもあったハイランドは
フランドルにこう言った。
「息を吸うように術式を唱え、
息を吐くように構築する。
端的に言って、これが神導術の極意だな」
フランドルは最初にそれを聞いて、
つまりは自由自在に術を操ることが
大事なのだと理解した。
だからその言葉がどうとは思わなかった。
しかし、今、この瞬間は違う。
自我を無くしたフランドルは、
だからこそかつてとは反対に
ハイランドの言葉の本質に近付いていく。
熱を帯びた砂が、お互いにぶつかること無く、
円環とも螺旋とも言えない渦を巻く。
触れるものの存在を許さない、
圧倒的な破壊の意志がその術式に宿る。
前と違うのは、術を構築する手順が
とても自然に早くなっている事だ。
「《波震》」
向かってくる女の術士より
早く構築を終えているのがその証拠だ。
「忘れてたっ! すまん、ピースどけっ!」
「ほんと酷くないすかっ?!」
前後をヤバい二人に挟まれるピースが
一瞬だけ絶対絶命に陥る。
「《欺映》」
「《滞縛》」
ピースとオズマットが同時に術式を唱える。
ピースは自らの姿を欺き、オズマットは二人の
術式をゆっくりにする。
ピースが逃げるまでの時間稼ぎだ。
「うわっち!」
安全地帯まで逃げ切ったピースは転げるように
地面に膝をつく。
その時、フランドルとリオンの強力な術が
お互いにぶつかり合い軋んだ轟音を響かせる。
フランドルはその現象を冷静に分析して
力押しで勝てると判断する。
瞬間、フランドルはありったけの力を込める。
ぐいと砂塵が膨れあがる。
彼を強くした要因は、この機械的ともいえる
判断遂行の単純化だった。
躊躇なく、ありったけの力を込められた術式は
さらに暴力的な顔つきに表情を変貌させた。
「…やばっ!」
反射的に叫ぶピースの声を遮るように、
凛とした声がその熱砂を突き破る。
「《波乱》」
「……!」
突如、熱砂の一部が暴走して、
術士であるフランドルに襲いかかる。
その砂塵がフランドルの
眉間を切り裂いたのは、
ほんの一瞬の出来事だった。
リオンの強みは、まさに
その一瞬の汎用性である。
世界の現象の本質を《波動の重なり》
であると認識している彼女は
神導術を媒介にあらゆる波動に干渉出来る。
「《波塵》」
リオンの身体が超高周波に包まれる。
その爪先が触れただけで、鉄も切り裂く
超振動体へと変化する。
そのまま、リオンの左手が吸い込まれるように
フランドルの右胸を貫いた。




