SOS 085 vsアルマ2
「さて、行くか」
アルマは丘の上にいる四人を見上げる。
いままでのアルマであれば、とりあえず手当たり次第
適当に屠っていたが、シルビアとソアラに
手痛い迎撃を受けた経験から、
ほんの少しだけ慎重に事を進めるようになった。
アルマ自身が《宝銘》となる前。
戦時中の学生だった頃をぼんやりと思い出しながら、
ゆっくりと相手の力量を品定めする。
近衛隊は良くも悪くも昔と同じで、
見栄えと権威にこだわっている連中だったので、
不意打ちをすれば全滅は容易であった。
けれど、いまから対峙する奴らは、
不意打ち闇討ちが日常茶飯事の冒険者ギルドの連中だ。
どんな隠しダネを持っているかわからない。
サイエンとの契約を履行するために、
あまり手を抜くわけにはいかなくなったアルマは、
一歩ずつ距離を詰めていく。
淡々と山道を登るその姿は
老いた猟犬が若い兎を追い詰めているかのようだ。
「……大体の位置が分かりました。
私たちはいま、《洞穴》のある山から
北へ向かって飛ばされたようです。
ここから戻るのは……ちょっと骨ですね」
サティの検分通りであれば、助けを呼ぶにも逃げるにも
中途半端な位置にあると推察できる。
どっちつかずな対処をすれば、
四人はここで詰むことになる。
「シルシル? 正直に答えて欲しいんだけど、
本気でやって勝てそうです?」
ヒナギクが考えながら口を動かす。
年下ではあるが、実力と経験値の格が違うヒナギクに、
シルビアは敬意を持って話す。
「私とサティ先輩は瞬殺でしょう。
ヒナギク監査官とソアラは善戦出来ると思いますが、
ソアラが足を引っ張ると思いますので
結果、全員全滅すると予想します」
「うん、まあそうですね」
サティと、今のシルビアは補助専門の役割だ。
アルマ相手では部が悪い。
ヒナギクであれば時間稼ぎは可能だが、
確固たる決め手に欠ける。
《宝銘》相手に、圧倒出来る手札が想像出来ない。
ソアラに至っては、吉と出るか狂と出るか
それすら判断が付かない。
「あ、あの、良いですか?」
「ん? どうしたんです?」
そんな中で、ソアラが意見を上げる。
珍しいが、特に遮る理由も無いので
ヒナギクはソアラの話を聞く。
「多分、ゼンくんの影響だと思うんですけど、
簡単な術式なら、暴発せずに構築出来そうです。
私も、戦力になります」
「……ほえ?」
ヒナギクが呆気にとられたのも当然だ。
サティも同じ表情をしている。
ソアラの暴発事件は何も
今日に始まったことではなく、
ソアラが入職してからの恒例行事みたいなものとなっていた。
まだ大きな事故は起こしていないが、
いつそうなるか不安は尽きない。
同僚の職員はみんな心の中では、
『自分以外の時に起こりますように』と、
願っている節もあった。
「本当? シルシル?」
一番冷静に判断出来る同僚である、シルビアに
ヒナギクは真面目な声色で尋ねる。
「……はい、初級の術式だけですが、
以前とは比べ物にならないほど、安定して運用構築が出来ています。
威力を上げるのは危険ですが、手数を増やすことは問題ないと思います」
「ふむふむ、だったら方法はあるか。
でも、決め手に欠けるのは変わりないです。
さてどうしたもんでしょう」
「あ、あの……」
シルビアには、まだ共有していない情報があった。
それは、敢えて共有したくはない、もっと言えば
タダで教えるには惜しい情報だった。
しかし、状況は切迫しており、四の五のは言っていられなかった。
「あの、実は、まだお伝えしていないことがあります。
あの少年、ゼンの能力である《融合化》についてです」
ひとしきり、話を聞いたあと、
ヒナギクは瞑目する。
さっきまでは見えていなかった勝ち筋が見えてきたようだ。
同時に、シルビアの抱えているちょっとした闇を垣間見て、
ヒナギクは作戦を練り直す。
他の三人は一言も発さない。
それは、ヒナギクがカルマリの中で
最高戦力の一角であるという事実があったからだ。
余計な口出しは邪魔にしかならない。
オズマット教務官の評価では「神導術」抜きの実力勝負なら
カルマリで一番強いと言われているのが彼女だ。
そのヒナギクが目を開ける。
シルビアはやや硬直するが、ヒナギクは彼女の行動の一切を否定しない。
シルビアが自分しか知らない秘密を保持しようとしたことなど、
まるで大したことはないと言うように、
大きな目を真っすぐシルビアに向ける。
「ありがと、シルシル。おかげで生きて帰られるかもです」
「い、いえ、そんな……」
「さて、ではでは、反撃とまいりますか~」
さっきまで絶望的だった四人に
僅かな希望の灯がともる。




