SOS 084 vsサイエン1
『あれあれ? みなさん
どこかへ行ってしまいましたね~』
サイエンがおどけた調子で
新国王に言葉を投げかける。
一方の新国王は、何が起こったのか
まだ理解は出来ておらず
がらんとした空間にポツンと佇んでいた。
「……何だ? 何が起きたのだ?
みんな、どうした?
リオン様は? 近衛兵長は?
冒険者の職員は?
どうした? なぜ誰も居ない?」
まるで夢でも見ているかのように、
忽然と姿を消した面々。
何か幻術の類でもかけられたのかと思ったが、
その可能性はあろうことか相手に否定される。
『そんなわけないでしょ~。
あなたの持っている《宝剣》は
腐っても本物ですよ~?
幻術の類は全部弾かれちゃいますよぅ。
だから面倒でもちゃんと
転移術式であなた以外を飛ばしてあげたのに。
驚きの声も上げないなんて、
なんか損した気分~』
急に気落ちしたような声で、
サイエンはぶつくさ文句を言う。
新国王は未だ纏まらない考えのまま、
サイエン相手に喧嘩を売る。
「き、貴様ぁ!
わ、私が誰だか知ってのことか!?
こ、こんなことをして
ただですむわけがないぞ!?
わ、私は国王だぞっ!
新国王様だぞ!?」
『知ってるってば!
ああ~なんかやる気なくなるわ~。
リオンちゃんとかいたら、
もうちょっと面白かったのに。
こんなしょぼいおっさんが相手……萎えるわ』
手ごたえのある相手が居なくなり、
サイエンは本当にがっかりした様子だった。
「き、貴様、
何という口の聞き方だっ!?
いい加減に、皆を元に戻さんかっ!
承知せんぞっ!?」
聞き分けの悪い子供を黙らせるように、
サイエンは無造作に新国王に近づくと、
無遠慮に腹を蹴った。
「ぐべぁ!?」
新国王は宙を舞い、
ざらざらした地面にぐじゃりと着地する。
顔も体も擦り傷だらけで、
強烈な蹴りを喰らった腹は、
昼間の昼食を逆流させる。
のたうち回りながら、
新国王は這いずり、
ようやく今の状況が飲み込めた。
『っるさいですよ? ちょっと黙れ』
「げはぁっ、うげぇ!
うぇ、おい、おいお前、貴様!
ど、どうなるか、
分かっているんだろうな?!
この国で私にこんな真似をして、
ただで済むと―――」
『学習しろって』
新国王の左足が吹き飛ぶ。
サイエンが苛立たしげに蹴ったところ、
紐がちぎれるように呆気なく新国王の身体から
左足が飛んで行ったのだ。
「―――――!」
声にならない叫びが聞こえる。
『ああ、何か、もういいかな、別に。
洗脳するのもかったるいし、
いっそこのまま――――』
『―――このまま、どうするって?』
サイエンの独り言に被せるように、
誰かの声が正面から聞こえる。
『――カイ』
サイエンがその声に反応する前に、
サイエンの仮面に黒い拳がめり込む。
そしてそのまま地面へと深く深く突き刺さる。
ゴガァン、と岩盤を掘削したような音が空間を埋め尽くし、
そのまま大地を揺らした。
突如現れたカイケンの手によって、
サイエンは頭部から上が潰れて消し飛び、
今まで立っていた場所には大きな穴が口を開ける。
『いやいや、良かった。
これで世界も平和になりますね』
カイケンが地面から右腕を引き抜くと、
頭部を完全に潰された状態の
サイエンが沈黙していた。
その首から下は全て機械で出来ており、
既に活動を止めたそれは
生きている気配すら無くなっていた。
「……な、な、な」
すでに理解の許容を越えた新国王は
過呼吸気味になっている。
足の痛みは激烈だが、
段々と意識も遠のき始めているので
感覚も薄れだしていた。
『あら、どうも新国王陛下。
お目にかかれて光栄です。
お怪我は……ありますね』
新国王に向かい合うカイケンの背後から、
再び声が掛けられた。
あっけらかんとした口調ながら、
狂気に満ちている。
『色狂いちゃん。
何やってるの? こんなとこで』
もちろん、
カイケンの足元にいる
サイエンだったものは沈黙している。
話かけてきているのは、別のサイエンだった。
『真理狂い。まだいたの」
《洞穴》の奥からもう一人、
さっきと同じ姿同じ形でサイエンが現れる。
まるで世界がもう一度戻されたように、
先ほどとそっくりなサイエンがそこにはいた。
『だって、あたしってば、
十人姉妹だもんね~』
『ああ、そう言えば、そうだっけ。
ほんと最悪』
カイケンが右拳に力を込めた。
それを見ていた新国王は気絶する。
出血量が、危険水域に入ったためだ。
その時カイケンに、
ほんの少しだけ焦りが生まれる。




