SOS 083 vsフランドル4
《洞穴》の麓に居る冒険者達の前に、
女神が降り立ったのはその時だった。
突如として空間が弾け、何もない空間から聖導士である
エルダナリヤ・リオンが現れたのだ。
待機していたのは古参の冒険者達なので、
混乱とまではいかなかったが、衝撃と動揺は瞬時に感染した。
聖導士とも呼ばれる使い手のリオンは強い。
それこそ《宝銘》とまではいかなくても、
英雄や英傑と呼ばれる
伝説級の使い手と比肩しても遜色のないぐらいだ。
そのエルダナリヤ・リオンが現れると同時に
「逃げて下さい!」と叫んだのだから、
事態はよほど緊迫している。
「《光穿閃》」
「《壁波》」
男が術式を唱える声に被せるようにして、
リオンもまた術式を唱えた。
光の閃きと同時に矢が射られ、
リオンの眉間を貫くために迫る。
しかし、光はリオンに到達する直前に屈折してしまい、
あらぬ方向へと突き進む。
結果、光の閃きは近くにあった古民家を
斜め上段からバッサリと切り捨てた。
崩れ落ちるその音を背後に感じながら、
リオンは自分の心臓が跳ね続けているのを感じる。
聖導士などと持て囃されているが、
対人戦で本当の強者と競り勝ったことなどないリオンは、
実践経験が圧倒的に不足していた。
「あなたは誰です?!
名前ぐらいは名乗ったらどうですか?!」
「《万華火輪》」
まるで返事をする気などなく、リオンの言葉に被せるように
男は追加で術式を唱える。
会話で仕切り直しをしようとしたリオンは、
慌てて術式を構築しようとするが、間に合わない。
「《滞縛壁》」
リオンのすぐ後ろから、聞き覚えのない声が聞こえる。
敵対勢力の声とは違う、落ち着いた声音だ。
「そりゃダメだ、聖導士のお嬢ちゃん。
殺す気できている相手に話す気でいるのは危険だぞ。
話をしたいなら、相手から話をさせるように誘導しなきゃな」
相手の攻撃を止めたのは、冒険者ギルド所属の教務官
オズマット・オーサーだ。
「ピース。ちょい手伝ってくれ」
「はい」
こういう時にふざけないピースは、頼りになる。
「お嬢ちゃん、陣形はギルマスが整えている。
遠慮なくやるぞ。いけるか?」
「え? は、はいっ!
大丈夫です。申し訳ありませんでした」
「謝罪は後だ。合わせてやるから、思い切りやってみろ」
「は、はいっ! わかりました!」
「……聖導士様相手に
お嬢ちゃんは止めたほうが良くないっすか?」
ピースがとてもまともなことを言う。
「まあ、叱責は後で受けるさ。いいから行くぞ。《解除》」
相手の放った攻撃が再び動きだす。
オズマットとピース、
リオンの三人はそれを避けるように潜り抜け、
術士の元へと駆けて行く。
「《鉄壁》」
陣形を整えている中、ギルドマスターであるベントリは
ゆっくりと用意していた術式を唱える。
巨大な壁が地面からせり上がり、
自分を含む他の冒険者連中を守るように取り囲んだ。
口で言うのは簡単だが、その規模の術式を構築するのは
並大抵の力量ではなかった。
傍目にそれをみながら、リオンは舌を巻く。
神導力の総量は自分が上だろうが、
その運用技術に雲泥の差があった。
「よそ見している場合じゃないぞ?
ほら、もうすぐご対面だ」
自分を先導するこの男も、
同じかそれ以上に技術の深みを持っている。
冒険者ギルドとは、利己的で
個人行動しか出来ないはぐれモノの集団だと
認識していたが、リオンは自分の理解が
間違っていたことを痛感する。
「随分久しぶりな感じがするじゃないか? フランドル。
まあ、だからといって特に何も感じないがな」
オズマットは相手を知っているらしい。
リオンはそれを理解して、近づく相手を意識する。
長身でがっしりとした体躯。
動揺は一切見せず、こちらの三人をしっかりと見据えている。
リオンは直感で今の自分では勝てないと判る。
言葉では説明が出来ないが、
術士としての高みに足を踏み入れている
そんな印象を強く受けたからだ。
「おいおい、見ない間に弄られまくってんじゃねえか?
やたら凄みが増してるぞ。
お嬢ちゃん、本気で行けよ? 手加減無用だ」
「はいっ!」
リオンは生まれて初めて、
背中を預ける頼もしさを実感する。




