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SOS 081 死闘

 主の居なくなった《洞穴》の内部は、近隣の野獣たちの新しい縄張りとなっていた。


 シルビアとソアラが最初に入った頃に比べて、多くの獣が襲い掛かってくる。

ただ、どれもこれも普通の獣たちであり、相手としては歯ごたえも何も無かった。


 普段の訓練として野生動物を狩っているわけではない

近衛兵達でさえ、さしててこずるわけでもなく返り討ちにしている。

 なお、敢えて殺さないのは、その場に捨て置くとさらに大型の獣が

おびき寄せられたり、条件によっては魔獣化してしまうことも否定は出来ないためだ。


 今回の探索では、獲物の収集は一切考慮されてはいない。


 狩ればそこそこの駄賃になる獣たちを仕方なく追っ払いながら、

シルビアは近くで奮闘している新国王をちらりと見た。


「ふんっ! はっ! とうっ! ははっ! どうだ!」


 相手は小さい狸の子供であり、まだ歯も生えそろってはいなかった。

けれど俊敏性だけはそこそこあり、実力的には下層の学生といい勝負の新国王は

その小狸と死闘を繰り広げていた。

 国内でも随一の価値を誇る《宝剣》である《ウルス》が無駄に空を切る。


 もはや何をどう補佐すればいいのか、逆に見当もつかず、

新国王の背後にいるリオンは困惑しながら応援をするしかなかった。


「え、あ、その、陛下。が、がんばってください」

「ははっ! 任せろっ! この程度の相手、恐るるに足りんわっ!」


「(えと、どうすれば? ヒナギクさん?)」

 珍しく冷静なサティが動揺する。

サティは手持ち無沙汰で右往左往している。


「(あー、気にしたら負けです。見ないことにしましょう)」

 ヒナギクは少し大きめの子狸相手に、チャンバラごっこを続けている。

というか、じゃれて遊んでいる。一見戦っているように見せる技量はスゴいが、

本当に無駄な技術だった。


「(で、でも嫌でも目に付きますよ?)」

 ソアラが同じく困っている。ソアラも今、戦う相手が居ないのだ。

ちらちらと新国王の様子を窺ってしまうのは仕方ないことだ。


「(大丈夫、万が一にも狸が勝ったら、新国王を気絶させれば済むことです)」

 超絶技巧のヒナギクが恐ろしいことをさらりと口にする。

近衛兵の眼の前でそれを出来るという自信が反対に怖いと思った。


「(とりあえず、私は魔獣の相手で手一杯ですので、

細かいことはみなさんに任せていいですか?)」

 シルビアは魔獣(ちいさなかめのこども)と睨みあいをしている。

相手は一歩も動かず、決着はまだ付きそうにない。


「(何が魔獣よ! 何が!)」

 ソアラがシルビアに言うが、シルビアは一向に動こうとしない。


「こいつはもしかしたら強いかもしれないですね。

動いたらやられるかもしれないですよ。

先に動いた方が負けるかもしれないですから、

これは精神の削り合いというやつです」


 もう何を言いたいのか分からないが、

とりあえずサティはヒナギクの、ソアラはシルビアの補佐をする体で

暇なことを誤魔化した。


「ふははっ! これで終わりだっ! 《奥義宝剣神舞》」


 大層な技名でただの上段切りを振り下ろす。

 普通に避けようとする子狸だが、蹴ろうとした地面がいきなり抉られ、

身体の態勢を崩してしまう。


「ギャン!」


 よろよろと振り下ろされた剣に小突かれ、

子狸が気絶をする。

 むしろ殺すほどの勢いもなかったことに、

その場の全員が唖然とした。


「ふ、ふう…………、危なかったな。私でなければ、

やられていたことだろう。みな、怪我はないか? リオン様、ご無事か?」

「え、あ、はい、そう、ですね。無事です」


 無事も何もないが、陛下は満足そうに笑う。

「そうか、良かった。無事で何よりだ」


「(……以外に良い奴ですね、バカだけど)」

 ヒナギクが狸とじゃれ合いながら思う。

「(……一応本気で戦ってたんですね、バカですけど)」

 サティが無駄な補助術式を展開させながらそう思う。

「(……知ってましたけど、バカなんですね)」

 シルビアが魔獣と睨みあいながらそう思った。


「あれ? 私だけ仲間外れにされた気がする?」

 ソアラがシルビアの手伝いに何をするか考えながらそう思った。



『あはははははははは! 笑うわー! バカ過ぎるでしょ! 実際!』

《洞穴》に笑い声がこだました。


「何奴!? そこだ! 《光明》」


 近衛隊長が反響する通路から、相手の位置を特定する。

 突如として明るくなった《洞穴》内に、奇妙な格好をした猿の仮面が現れた。


 腹を抱えて、笑っている。不意打ちなど考えてもいない様子だ。


『あーはいはい。どうもお待たせみんなのサイエンちゃんです。

とりあえず面倒なんで、さっさと行っちゃってもらいますね。

《術式展開032》』


 全員の足元に微細な紋様の蠢く術式方陣が展開される。


『いってら』


 次の瞬間、新国王陛下を除いたその場にいる全員が姿を消す。






 


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